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102:佐々木「神様への小さな挑戦さ」

2009/07/09 (Thu) 23:00
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:09:48.20 ID:IQHt5EzB0

何かがおかしい気がする。

早朝ハイキングと言っても過言ではない坂道を登っている途中、俺はそんな違和感を覚えていた。
それと何か大事なことが抜けているような……そんな奇妙な感覚。何だろうかこれは。

「キョンくーん、起っきろー!」と楽しそうに騒ぎながら俺の布団に乗って飛び跳ねる妹に、もう五年になるんだからもう少し大人になれないのかと思いつつ、ハンガーにかかった新しい制服に袖を通し、なんとなくいつもより念入りに鏡をチェックして外に出る。
そしてこのクソ長い坂を歩いている自分になんだか既見感を覚えていた。もちろんこの道を歩くのだって初めてなはずだ。

まぁ人生の中ではよくあることだ。あれ? この光景どこかで……なんて事はな。
今回もそれに過ぎないだろう。変な夢でも見たのかもしれん。

目的地に着くと俺はもうそんな違和感のことも忘れていた。
県立北高校、今日から俺がお世話になるであろう高校だ。結構年期の入ってそうな校舎が桜の花と一緒に俺を迎え入れてくれた。
2 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:11:06.09 ID:IQHt5EzB0

一年五組

それが俺の教室らしい。俺は誰と一緒のクラスなんだろうか、とか人並みの期待を新しいクラスに寄せながら扉を開いた。
久し振りに触れたこの学校特有の匂い。俺は一通りクラスを見渡してから黒板に視線を移し、自分の席を確認する。あそこか。
真ん中の三つ目というできれば避けたかった位置に俺はカバンを下ろす。まぁいい、すぐに席替えもあるだろ。
それからもう一度教室を見渡すと、前の方に座る国木田と目があった。一緒のクラスか。

「そうみたいだね、これからもよろしく」

「ああ」

それから少し国木田と春休みどう過ごしたかについてくだらない話をしていると、前の席にカバンが降ろされた。
誰か確認するために視線をそちらに移した俺は、少し驚いて目を見開いた。

「やあキョン。それと国木田くん。僕たちはどうやらまた一緒のクラスのようだね。
数ある高校の中から同じ場所へ進み、再び同じクラスで出会うというのは少々稀な事ではないだろうか。嬉しいね」

「……佐々木?」

くっくっ、という独特の笑い方に僕という一人称、短めの髪に整った顔立ち。
国木田と同じく、一緒の中学だった佐々木がそこにいた。

「どうしたんだいキョン? なんだか不思議そうな顔をしているけれど」

佐々木が軽く首をかしげる。確かに俺はそんな表情をしていたと思う。感じた違和感は、頭で考えるよりも先に口に出た。

「お前ってここの高校だったか?」




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:11:55.78 ID:IQHt5EzB0

俺の言葉に、佐々木と国木田は少し驚いたように顔を見合わせ

「何言ってんのキョン、少し前まで佐々木さんと一緒に勉強してたじゃん」

「まさか忘れてしまったのかい? それとも休みボケというのが少し残ってるんじゃないか。僕とキミは同じ高校を志望していたし、彼も言ったようにずっと一緒に勉強をしていたじゃないか。
くっくっ、おかしな事を言うね。完璧に目が覚めていないのかもしれない。顔を洗ってきたらすっきりするんじゃないかな。
そしてキミの様子から鑑みるに、春休みの間もおそらくキミは家でのんびりとしていたんだろう? いきなりの早起きはやはり体にこたえるからね」

言われてみればそんな気もする。俺は何故こんなことを言ったのか。佐々木の言葉通り休みボケが残ってるんだろうか。
そしてコイツはよくスラスラと言葉が出てくるもんだ。加えていつも物事を的確についてくる。

「すまん、冗談だよ」

俺がそう言ったのと同時に、扉が開いて担任らしき男が入ってきた。
岡部というらしく一通りハンドボールについて語った後、恒例の一言自己紹介が始まった。なかなか緊張するね。
ネタに走るやつもおらずつつがなくそれは終了し、大量のプリントもろもろを受け取ったところで今日の授業は終わった。




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:13:11.68 ID:IQHt5EzB0

「キョン」

そしてまたこの坂道を歩いている途中、後ろから声が聞こえた。この声は佐々木だ。
俺は立ち止まって後ろを振り向く。佐々木が俺の隣まで追いついたのを見て俺達はまた歩き出した。

「しかし長い坂道だ。これから毎日ここを歩かなければならないと思うと少々気落ちする。
それにあの校舎もなかなか勝手が悪そうだ。せめて冷房設備くらいはつけてもらいたいところだね」

「そうだな」

相槌を打ちながら俺は少し懐かしい気分に浸っていた。
中学三年の教室で初めて出会った時から、コイツのこの小難しい話し方は変わっていないらしい。
しかし何故かこの話し方は男子限定らしく、女子の間では普通に女として話しているようだ。こいつの考えていることはよく分からん。




6 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:14:17.92 ID:IQHt5EzB0

「どうしたんだいキョン? 僕の顔に何かついているのかな?」

そんな事を考えている間、どうやら俺はボーッと佐々木を見ていたらしい。佐々木が不思議そうな顔を俺に向けていた。
俺は慌てて視線を坂の上から見える軒並みに戻し

「ああいや、お前は変わってないなと思ってさ」

くっくっとまたあの独特な笑い声が耳に届く。

「それがどういう意味なのかは分からないが、キミと会わなかったこのほんの数週間で僕は変わったりはしないさ。
そう言うキミも変わっていないみたいだね、キョン。なんとなく安心するよ。
この短期間でキミが僕の全然知らないような人物になっていた、なんて事があったらやはり驚くからね。俗に言う高校デビューというやつだ。
ところでキョン、人というものは何か転機を迎えたときや環境が変わったとき、自分を変えたいと思う生き物なのではないだろうか。
例えば髪を切ったり、普段避けてきていた服を着てみたりなどとね。外見は変えようと思えばいくらでも変えられる。
だが人の内面と言うのはそう簡単に変化はしないものなんだ。
しかし、例えばこれまでの考えが一変されるような出来事、あるいは……」

佐々木の話に適当に相槌を入れながら、俺はぼんやりと正反対の佐々木を想像してみた。
女っぽい話し方で、勉強が苦手で、ドジっ子で慌てふためいているような佐々木……だめだ、考えられん。




8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:15:51.55 ID:IQHt5EzB0

「そういや、妹さんは元気かい?」

さて今日の晩飯は何だろうか、とかどうでもいい事を考え始めたあたりで再び佐々木の口が開いた。坂道もそろそろ終盤だ。

「ああ元気だぜ」

今朝もボディーブローをかましてくれたところだ。子供っぽさ全開だからな。素直で純粋なのはいいんだがお兄ちゃんはちょっと心配だ。
少しはミヨキチを見習らって頂きたいね。とてもあの妹と同じ歳とは思えない。あの成分はどこに行ったらもらえるんだ?

「可愛らしい妹さんじゃないか。また顔が見たいよ」

ならまたうちの家に来ればいい。妹も喜ぶしついでにお袋も喜ぶぜ。
勉強もできるししっかりしてるってお前のことを絶賛してたよ。またうちの馬鹿息子に勉強を教えてやってくれってな。

「是非そうさせてもらおう。それじゃあキョン、また明日」

「おう、じゃあな」

別れ道、俺は佐々木に軽く手を振り返してから、家に向かって歩き始めた。




9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:16:56.21 ID:IQHt5EzB0

入学後、待ってましたと言わんばかりにあったテストで佐々木と国木田は順調フライト。
俺と、一緒に弁当を食うような仲になった谷口は着陸に失敗した飛行機のような無残な結果にお互いの肩を叩きあった。
それに母親は鬼のような形相で激怒。来月、俺の財布はどうやらダイエットを始めるらしい。やれやれだ。

それからの日々は何が起こるわけでもなく、平穏に過ぎていった。
曲がり角で転校生にぶつかることも、授業中にテロリストが入ってくるなんてこともない。
俺はそれに満足感と小さじ三杯程度の退屈を混ぜたような毎日を過ごし、ああ世の中は平和だなぁなんて考えていた。




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:18:49.01 ID:IQHt5EzB0


「キョンよー、お前やっぱり佐々木と付き合ってんのか?」

太陽がアップを始めた、そろそろ半袖が恋しくなって来た頃。
谷口と国木田といういつものメンバーで弁当を食べている時に、そいつは箸を俺に向けながら呟くように言った。
誰がって? 決まっている、谷口だ。

「なんでそうなる」

俺はウィンナーを口に入れながら、谷口を軽く睨む。
まあそう見つめてくれるな。と抜かす谷口の頭を殴って、俺はちらっと女子二人と楽しそうに弁当を食べている佐々木を見てからまた視線を戻した。

「あ、それ僕も気になるな」

海苔入り卵焼きを頬張りながら、国木田が谷口に同調する。
おいおい、国木田までそんなことを言うのか。谷口菌でもうつっちまったか?




13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:20:15.51 ID:IQHt5EzB0

「だいたい何でそんな話になるのかが俺は理解できんのだが」

俺と佐々木の関係は、中学から特に変わってはいなかった。
別に特筆するような事はなく、席替え後、なぜかまた俺の前になった佐々木と授業の合間に話したり、たまに一緒に帰ったりする程度だ。
だいたい恋愛を精神病の一種だとかなんとか言うやつだぜ? アイツが誰かと付き合って手を繋いで帰ったりなんてことは俺には想像できないね。

「キョンは変な女がタイプなのか?」

「その変な女に告白して、見事撃沈したヤツはどこのどいつだ」

「あれ、そんなことあったっけなぁー?」

と露骨にとぼける谷口に

「だからやめとけばいいっていったのにさ。悪いけどあれは最初から絶対無理だなぁと思ってたよ」

丁寧に鮭の皮をとりながら国木田が言った。
その言葉に谷口のスイッチが入ったようで、まずは言い訳。そして北高、近辺の高校の女子リストを語り始めたところで俺は弁当箱を閉じた。ごちそうさん。




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:21:42.28 ID:IQHt5EzB0


夜、風呂上がりに牛乳を一気飲みしていたとき自宅の電話が鳴った。
髪から落ちてきた雫を首にかかったタオルで拭いてから俺は子機を取り、

「もしもし」

『もしもし佐々木ですが……キョンかい?』

「佐々木か」

電話をかけてきた人物に俺はかなり意表を突かれた。どうせセールスかお袋の長電話なんかと思ってたからな。
牛乳のパックを冷蔵庫にしまい、俺はリビングの椅子に座りなおす。

『そうだ、突然電話してすまないね。少し話したいことがあるんだ。要件自体はそんなに時間をとらせないと思うが……今時間はあるかな?』

俺は一瞬時計を見たが、どうせこれからしなければいけない事も特にない。

「大丈夫だ」

『良かったよ。それで早速要件なんだが……単刀直入に言おう。一緒に映画を見に行かないか?』




19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:23:53.34 ID:IQHt5EzB0

「映画?」

驚く俺に佐々木は映画名を告げた。CMでたまに見る暗号を解き明かしていく……とか確かそんな感じの、いかにも佐々木が好みそうな題材だ。
女友達はどうも誘いにくく、そこで他に一緒に行けるような人を考えていた時、俺が思いついたらしい。

『明日に見に行こうと考えているんだが……どうだい?
なにぶん急だからね。先約があったり気分が乗らないのなら断ってくれてかまわないよ』

どうせ明日は特に用はない。俺も佐々木も部活には入っていないし、何かあったとしてもどうせ谷口あたりから電話がかかってくるぐらいだ。

「いいぜ」

『嬉しいね、ありがとうキョン。断られると思ってビクビクしていたところだよ。キミの家の電話番号を調べるために学生名簿を探しに押入れをひっくり返した時間が報われた。
それじゃあ……明日の十時頃に駅前に来てくれるかい?』

十時ね。了解。




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:26:06.59 ID:IQHt5EzB0

それからしばらく佐々木と話していて、電話を切る頃には一時間少し経っていた。
アイツと話していると話題が尽きないからな。改めて佐々木の知識の深さに感心させられるね。

それから俺は妹が見ていたドラマのラストシーンだけ見て、まだ寝る時間ではないんだがかと言って課題を片付けるような気力もなく少し早目にベットに潜りこんだ。明日に備えて寝るとするか。




21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:28:06.77 ID:IQHt5EzB0

翌日、いつもより早く起きた俺は九時過ぎにはもう準備万端だった。
そんな俺を、妹がまるでクジラの潮吹きを見るような目で眺め、「キョンくんが早起きしてるー!」とはしゃいでいた。
我が妹はいつも元気である。

少し早いがもう出るか。どうせ家にいてもすることなんか無いしな。

「キョンくんどこいくのー?」

玄関まで着いてきた妹に、出かける。昼はいらんとだけ伝えて俺は家を出た。
映画と言ったらこいつはついてきかねんからな。佐々木はいいかもしれんが。

ゆっくり自転車を漕いで、駅の近くの銀行に不法駐輪させていただき、駅まで向かう。当たり前だが佐々木はまだいなかった。
俺はそこらへんの壁にもたれると、暇つぶしに辺りを見回した。休日なだけあって人も多い。


その時、――ああまただ。あの感覚が俺を襲った。

既視感。そして懐かしい、何かに心を締め付けられるような謎の感覚。何なんだこれは。




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:31:00.81 ID:IQHt5EzB0


「キョン?」

その声で、俺は一気に現実に引き戻された。目の前には佐々木が立っている。いつの間に来てたんだ? 全然気づかなかったぜ。

「どうしたんだい? なんだかすごく難しそうな顔をしていたよ。
実際僕がキミを見つけた時に遠くから声をかけても、キミはピクリとも動かなかった。もしかして体調が優れないのかな?」

何でもない、ちょっと考え事だ。

ワンピースにカーディガンという落ち着いた格好の佐々木は、俺の言葉にそうかい。と言って

「それにしても早いねキョン。僕も少々早く来すぎたと思っていたんだが……待たせてしまったかな?」

いいや。俺も今来たところだよ。

「それは良かった。ふむ、上映まではまだ時間がある。良かったらそこでお茶でもどうだろうか?」

佐々木は駅の向こうにある喫茶店を指差した。そうだな、行くか。




25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:31:48.62 ID:0NEoA14u0
佐々木は国木田を君付けで呼ばない




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:33:19.14 ID:IQHt5EzB0
>>25
そうなのか。原作では「彼」としか言ってなかったから分からなかったんだ
すまん




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:35:03.49 ID:IQHt5EzB0

「初めてだね、キミとこうして二人でどこかに出かけるのは」

早速来た店員にアイスコーヒー二つを頼み、佐々木が俺を見据えた。
俺はメニューを元の場所に戻しながら

「そう言えばそうだな」

塾を除いて、二人きりでどこかに出かけるというのは思い返せばこれが初めてだ。

「そう言えばキョン。先日のテストはどうだったんだい?」

そう言う佐々木は、笑みをこらえ切れないというような表情だった。聞いてくれるな、ちくしょう。忘れていたというのに。




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:38:22.84 ID:IQHt5EzB0

「お察しの通りだよ」

鬼の形相の母親にマシンガントークをくらい、だいたいあんたはいつも……とお決まりのパターンだ。何年も前の、もう忘れているような事を今更言われても困るんだがな。
だろうね。佐々木はそう呟いて手を口元に持っていき、いつものように笑った。

「しかし、キョンは意外なところで鋭さを見せるからね。勉強をしたらかなりのレベルになると僕は思うよ。
この場合はI think soではなくI'm sureと言えるだろうね」

そうか、佐々木に言われると何だかそんな気がしてくるよ。
谷口が「UFOを見た」などと言ったらさて眼科はどこにあったか、と考えるところだが佐々木が言うと少し信じてしまいそうになるからな。そうだな、佐々木効果とでも名付けさせていただこうか。
まあ佐々木がそんな事を言うとは思えんのだが。




29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:43:44.64 ID:IQHt5EzB0


それから俺達はコーヒーを飲んで、飲み終わる頃には結構な時間が過ぎており、やや急ぎ気味で映画館へと向かった。
チケットを渡し、半券を受け取って館内に入る。見た感じ、客の入りは四割ってとこか。

「ここに来るのは久しぶりだよ」

去年は受験生だったからね。と座席に座りながら佐々木が呟いた。
確かに、俺も最後に映画館で映画を見たのはいつかパッと思いだせん。しかしこのでかいスクリーンを見ると何だか落ち着かないな。

「そろそろ始まるようだ」

佐々木の小声の後、まず映画館での注意、その後予告が始まり、本編が始まる頃には手に持っているコーラが半分ほど無くなっていた。隣の客のポップコーンの甘ったるい匂いが鼻を刺激する。

内容はCMでやってた通りのミステリー。
俺は必至で字幕を追いかけ、そういや最近少し視力が落ちたなとか考えつつ、音量のでかさと迫力にビビりながらも結構映画を楽しんでいた。

途中横目で佐々木のほうを見ると、佐々木は整った顔を綻ばせ食い入るように画面を見ている。
楽しそうだな、と俺はふと思い、再び光る画面に視線を戻した。




32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:48:30.80 ID:IQHt5EzB0

………
……


「僕も途中まではああと思っていたんだが……まさか最後にこうくるとはね、思ってもみなかった」

「ああ、しかし結構難しかったな。俺はまだ完璧には理解できてないぜ」

見終わった時間は丁度お昼ごろだったので、俺達は近くのファーストフード店に移動。
俺は残った水っぽいコーラ(見てる間はほとんど飲まないから残るんだよな)を飲みながら、佐々木とさっきの映画について語っていた。

「僕も見落としがあるかも知れないからね。もう一度ぐらい見ておきたい。DVDでも借りようかな。
いつかテレビで放送するにしても随分後の話になるだろうし、その頃には内容も忘れてしまっているかもしれないからね」

「そうだな」

そういや最近テレビをあまり見なくなったな。
ガキの頃はお笑いとかを見てハシャいでいたが、歳を重ねるにつれバラエティーなどよりニュースのほうを見ることが多くなった。
小さい頃は思いもしなかったが意外と楽しいんだよなニュースって。これが大人になるってことなのか。
スーツに、コーヒーを飲みながら新聞、そしてニュースってのは俺が子供の時に描いていた社会人の図である。




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:53:57.34 ID:IQHt5EzB0

「将来キョンはどんな仕事に就くのだろうね」

「俺にはせいぜい課長止まりのサラリーマンが関の山だ。お前はきっと俺よりもいい会社でテキパキと仕事してるんだろうよ」

佐々木はストローでアイスコーヒーの中を回した。グラスに氷がぶつかってカランカランと音を立てる。

「……僕はキミが思っているほどできた人間ではないよ」

そう言った佐々木の表情が、なぜだか少し寂しげに見えた。
その表情に思わず言おうとした言葉を飲みこんでしまい、それは腹のどこを探っても見つからず、結局俺は何も言えなかった。

それからファミレスを出た俺達はすぐに解散した。
帰り道。俺はあの時の佐々木の表情について考えていたが、家に着いた頃にはそんな事も忘れ、早速飛びついてきた妹の算数ドリルを手伝うハメになった。


俺が佐々木のその表情の意味を知るのは、もう少し先の話になる。




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 17:59:25.88 ID:IQHt5EzB0

………
……


それから可も無く不可もなく平凡に時は流れ、季節は移り変わる。
野球部の掛声のような物や吹奏楽部の上手いとは言い切れない演奏が聞こえるさなか、俺は紙と埃の匂いが漂う文芸部室、いや、正確には元文芸部室にいた。

「これまた結構な量だな……」

「仕方あるまい。任務は遂行しなければならないのさ。やるしかないよ、キョン」

そして俺の隣にいる佐々木が少し楽しげにそう言う。
何故俺たちこんな所にいるのかというと、話を少し遡る必要がある。




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:03:29.86 ID:IQHt5EzB0

アップは終了したらしく、とうとう本気を見せはじめた太陽がジリジリと地球を照らす。ついでにジージーと蝉のオプション付きだ。暑い。
カバンを持ち、さて家に帰ってアイスでも食うかと考えた俺を岡部が引き止めた。
どうやらものすごく急いでいるようで、これを職員室にと俺の手にプリントをドサリと乗せると俺の返事も聞かずに廊下に飛び出して行った。
廊下は走るなじゃなかったのか。

さて、この大量のプリントをどうしようか。
谷口や国木田あたりに少し持たせようかと思って教室を見回すが、そいつらはもうすでにいなかった。
ちくしょう帰ったか、今日はツイていない。

「やれやれ」

仕方がない、運ぶか。くそっ、一枚落ちた。




42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:04:51.46 ID:IQHt5EzB0

何度か落としそうになりながらも、俺は着々と職員室へと足を進めていた。

……そういやもうすぐ夏休みだな。

とは言っても前半は家族で田舎帰り、後半は塾の夏季講習とやらに通わされることになりそうだが。
嫌だイヤだ、ああいやだ。夏休み、サマーバケーション。休みなんだからしっかりと遊ぶべきだと思うんだがな。
何が好きで大量の課題にプラスして勉強しなければならんのか。

「わっ!」

「ぬぉっ!」

そんな事を考えていると、ドンッと衝撃がして俺は情けない声を出しながら尻もちをついた。プリントが宙を舞う。どうやら誰かとぶつかってしまったようだ。




43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:07:56.75 ID:IQHt5EzB0

すいません、大丈夫ですか?
俺がそう言う前に、目の前に同じ様に尻もちをつく女の人が電光石火のごとく

「いやぁごめんねっ。よそ見してたらぶつかっちったよ。大丈夫かい少年っ?」

「あ、はい。こっちこそすいません」

「見事にプリント散らばっちゃったねぇ。いやー、ドラマみたいだっ! さて拾わないとね!」

長くて綺麗な翠色の髪が風に靡く。この人は知っている、確か二年の鶴屋さんだ。残念ながら下の名前は忘れてしまったが。
聞いてもいないのに谷口がこの学校の女子については一通り話してたからな。この人は谷口美的ランキングAAだっけな、確かに綺麗な人だ。
プリントを拾いながらチラっと上靴を見る。二年生の赤色。そして後ろには綺麗な字で鶴屋と書かれていた。ビンゴだ。

「……これで全部にょろ? いやぁプリント運びなんて偉いねぇ。感心だっ。それじゃね! 後少し頑張るっさ」

全部のプリントを集めて太ももでトントンと整え、にっこりと笑いながらそれを渡して鶴屋さんは走って行った。噂通り、元気な人だった。




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:13:14.06 ID:IQHt5EzB0

思わぬハプニングがあったが、やっとの事で職員室に辿り着いた俺は岡部の机に持ってきたプリントを置いた。
そしてそのまま出ようとした俺の目に、見覚えのある姿が映った。

「佐々木。どうかしたのか?」

「おや、キョンこそ。奇遇だね。職員室に用事でもあったのかい?」

パシリだよ、パシリ。

そう答えようとした時、新たな声が俺たちの間に入ってきた。俺の記憶を辿れば確かコイツは日本史の教師だ。俺のクラスではないが。
そして何故かこいつも岡部同様に急いでいるらしい。なんだなんだ、今日は北高大忙しの日か?

「部員不足で文芸部が廃部になってしまったんだ。それで本棚の整理をしなくちゃいけないんだが時間が無くてね。よければ君たちにお願いしたいんだが……」

どうやら今日は厄日らしい。見てはいないがおそらく星座占いは最下位だ。
断ろうと思ったが、どうもこの教師の幸の薄そうな困り顔を見ていると良心が痛む。それは佐々木も同じだったらしく、

「分かりました」

そう言って文芸部室……廃部になったから元か。のカギを受け取った。




48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:18:03.76 ID:IQHt5EzB0


そして現在に至るわけである。
所狭しと並べられた本を見て俺は溜息をついた。
この本はすべて図書室にいくらしく、俺達が何回か運ばなくてはいけないというわけだ。もう古いんだからいっそ捨てちまえばいいと思うんだが。
まあ佐々木がいてよかったぜ。こんなもの一人でせっせと運ぶなんて御免こうむりたい。

「文芸部室か……本棚以外何もないみたいだね。なんだか独特の雰囲気がある」

佐々木がそう言って見回し、俺もそれに倣う。少し小さな部室には本棚と、窓際にイスが一つ、寂しそうに置かれているだけだった。
俺はその窓の向こうに視線を移し……


――その時、またあの感覚が訪れた。それも今回は過去のより強烈で、少し立ちくらみがするほどだった。

なんなんだこれは。俺がここに入ったのは今が初めてだろう? ――本当に?
何かがつっかかってるんだ。通学路に駅前、部室。そしてまるで打ちあわせしたかのように訪れる既視感と、消失感。
俺は何かを忘れてしまっているのか? 大事な大事な何かを。

じゃあ、それはいったい何なんだ?




52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:22:53.83 ID:IQHt5EzB0

「……ョン、…キョン!」

佐々木の声で、俺は我に返った。ぼやけていた視界がはっきりと元に戻る。

「す、すまん。なんだ?」

「突然キミの反応がなくなったから吃驚したよ。考え事かい? 僕でよければいつでも相談に乗ろう。
しかし僕の存在を忘れないでくれたまえ」

「ああちょっとな。何でもない。すまなかった」

「かまわないよ」

佐々木はそれだけ言って、本棚から本を一冊づつ取り出し始めた。
その横顔がどうもあのファミレスの時のように寂しげで、俺はなんとなく言葉に詰まる。夕日に照らされる佐々木の姿は、まるで誰かが描いた一枚の絵のようだった。




53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:27:04.68 ID:IQHt5EzB0

二回ほど図書館と元文芸部室を行き来した後、突然呟くように佐々木が言った。

「キミは運命というものを信じるかい?」

俺の返事を待たずに、佐々木は言葉を続ける。

「宿命論というものを知っているだろうか。自分が自由意志と思い込んでいるものも実は全知である神が前からそうなるよう定めていた、という理論のことだ。運命論ともいうね。

もう一つ質問をしよう。――キョン、キミはこの世には全知全能たる神がいると思うかい?」

突然振られた話に、俺は固まってしまった。佐々木の透き通る二つの目が俺を見据える。
こういう話をする時、佐々木の目は決まっていつも輝いているんだが、今日はどうやら曇りらしい。




55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:31:10.81 ID:IQHt5EzB0

――全知全能たる絶対神。

果たしてそんな者は本当にいるんだろうか? 確かにこの世にはそいつを信仰してるやつは沢山いる。神頼みなんて言葉もあるぐらいだからな。
ただ俺が神に願ったことが叶えられた試しはない。まあ仮に神がいたとしても、何の功績もない平々凡々、ただの一般人の俺の願いを叶えてくれるほど暇ではないだろうが。

「分からん。天の上かどっかにいるのかも知れないし、いないかもしれん。……ただ、」

「ただ?」

佐々木が俺の言葉を繰り返す。

「神様とやらが決めた道を進むだけっていうのは嫌だね」

俺は何の取り柄もない人間だが、それでも意思はあるし、自分なりの考えだって少しはあるつもりだ。
自分で決めた事は、紛れもなく俺の意見だ。神様が決めた事なんかじゃない。高校選びだって、友人だって、俺はいつだって俺なりの判断で動いている。神様の決めたレールの上をただ走るだけなんてシャクだ。
俺だって、そんな意地もあるのさ。




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:35:58.52 ID:IQHt5EzB0

……柄にもないことを言っちまったと早くも後悔し始めた俺の耳に聞こえてきたのは、佐々木のいつもの笑い声だった。

「なるほど。キョン、実にキミらしい」

はて、この俺らしいとはどういう意味なんだろうか。

「言葉で説明するのは難しいね。キミは形容しがたい独特の雰囲気を持っているのさ。僕が君から感じるものを言語にするのは僕の少ないボキャブラリーの中では不可能と言えるだろう」

いや、お前は十分多いと思うんだが。俺からしたら佐々木のほうが独特の雰囲気を持っていると思うぜ。

「褒め言葉として受け取っておこう。
さて、僕たちに課せられた仕事もこれで終了だ。お疲れさま、キョン」

「ああお疲れさん。よし、帰るか」

「途中まで一緒してもいいかい?」

「おう」

鞄を持ってから受け取った鍵を鍵穴に差し込む。さらば元文芸部、次はもっと活気のある部活に使ってもらえるといいな。

「そう言えばこの前、阪中さんの家に上がらせてもらったんだが――」
と話し出す佐々木に適当に相槌を打ちながら、俺は部屋に背を向けて歩き出した。




58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 18:41:02.74 ID:IQHt5EzB0


蝉もこの暑さじゃ鳴く前にバテるんじゃないかと思える八月。
冷房の効いた部屋でアイスコーヒーを飲みながら、俺はぼんやりと昼ドラを見ていた。
隣ではこんがりと焼けた妹がテレビに釘付けになっていて、場面が移り変わる度にわーとかへーとか言葉を漏らしている。

今日から悪魔の夏季講習だ。
母親に今は一年だから、とか適当な御託を並べてみるも一蹴された。追加オプションでゲンコツ付きだ。泣けてくるね。
そう言えば「それに佐々木さんも行くんでしょ」と言われたのは何故だろう。佐々木の講習への参加と俺の関連性はなんだ? まぁ知り合いがいるのは嬉しいことだが。

「キョンくーん、おっいしっいアイスだよー」

いつの間にかドラマは終わったらしく、妹が自作の歌を歌いながらカルピスアイスを二本持ってきた。こういうところは気が利く。
それから妹はえいっと言いながら袋を握った。パンッとクラッカーを開けたような音がして袋が破ける。当たり前だがまだまだ子供だな、中学に入ったら少しは大人しくなるんだろうか。

「キョンくん、今日からおべんきょーしにいくんだよね?」

「ああ」

「へーえ、頑張ってねぇ」

ニコっとはにかむ妹の頭をなでて、俺は立ち上がった。
さてと、そろそろ準備でもするか。




76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:40:19.10 ID:IQHt5EzB0

「キョン、久し振り」

自転車を漕いで坂道を上がった俺を、佐々木が迎えてくれた。
数日間会ってはいないが特に変わっている所は見られない。

「そう言うキミの方は少し焼けたみたいだね。海にでも行ってきたのかい?」

「ああ、田舎で川遊びとかしてたからな」

たまに行く田舎はいいもんだね。老後はああいう所で過ごすのがいいかもしれん。

「それはいいね、羨ましい限りだ。それでは失礼するよ」

佐々木は早めに話題を切り上げ、自身の鞄を前カゴに乗せて後ろの荷台に座った。それから俺は自転車を漕ぎ出す。二人分の体重のかかるペダルは重い。
この感覚も中学生ぶりか、少し感慨深いね。

夏特有の爽やかな風が吹き、緑色の木々がさわさわと揺れる。
上を見上げると眩しい光が差してきた。思わず目を細め、引き込まれそうな青い空を眺める。今日はいい天気だな。




78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:44:21.65 ID:IQHt5EzB0

「お前の方はどっか行ったりしてたのか?」

「生憎だが僕はずっと家で勉強をしていた。夏の思い出なんてものは一つもないよ。
僕とて山や海に行ったりもしたかったんだがね。現実はそうもいかず、コツコツと課題を片付けていた。悲しいね」

課題か、そういやノータッチだった。
だいたい俺は昔から課題は最後まで貯める傾向にあり、夏休みの最後というのはおおかたその処理に大忙しとなる。

塾への道のりは、北高ほどではないが坂道が多く俺を苦しめた。
しばらく自転車を漕いでいると、日頃の運動不足のせいかだんだんと息が切れてくる。

「それはよくないね。頑張ってくれたまえ、キョン」

佐々木はくっくっと笑いながら俺の背中を二、三回つついた。




80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:48:46.70 ID:IQHt5EzB0

到着する頃には俺はまるでフルマラソンを終えたかのようにヘトヘトになっていて、加えてこの暑さがじわじわと俺の体力を奪っていった。

「お疲れ様だねキョン。すまないが帰りも頼もう」

「分かってるさ」

俺はそう言って塾の扉を開けた。うーん、冷房が最高だ。



――そんな日々が続く毎日。しかし、それに一切の不満はなかった。

「充実していた」と俺は胸を張って言えるだろう。

だからこそ、気付かなかった。

終止符はいつだって着々と駒を進めていたんだ。




81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:49:52.87 ID:gE5bIyab0
               _______
    :/ ̄| :  :  ./ /  #  ;,;  ヽ
  :. | ::|    /⌒  ;;#  ,;.;::⌒ : ::::\ :
    | ::|:  / -==、   '  ( ●) ..:::::|
  ,―    \   | ::::::⌒(__人__)⌒  :::::.::::| :  終止符倒してきた…
 | ___)  ::|: ! #;;:..  l/ニニ|    .::::::/
 | ___)  ::|  ヽ.;;;//;;.;`ー‐'ォ  ..;;#:::/
 | ___)  ::|   .>;;;;::..    ..;,.;-\
 ヽ__)_/ :  /            \   ハァハァ....





82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:54:27.30 ID:IQHt5EzB0

………
……


ある日の午前中。
俺は適当にテレビのチャンネルを回し、たまたま目についた高校野球をぼんやりと眺めていた。
妹は「学校のプールに行ってくるねっ!」と水着を片手に朝から出ていき、俺は一人しかいないこの部屋でだらだらと時間を潰していた。
こんなに暇なのに積もりに積もった課題をする気力だけは起こらないのはなぜだろうね。

今日は夏季講習も休みの日で、することはない。
暇だしもうひと眠りしてしまおうかとテレビを消してソファーに寝転んだのと同時に、携帯が震えた。
ディスプレイに映る名前を確認して、どうせ谷口かそこらだろうと予想していた俺は少し驚きつつも電話に出た。




83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 21:56:23.81 ID:IQHt5EzB0

「もしもし」

『もしもし。急にすまないね、佐々木だ』
わざわざ律儀に名乗るところがコイツらしい。

「分かってるよ。どうしたんだ?」

『キョン、僕の推測が正しければキミは今おそらく課題を片付ける気力も起きず、テレビを見るか何かをして暇を持て余しているはずだ。違うかい?』

俺は思わず辺りを見回した。こいつはいつから透視能力または超能力を獲得したんだ?

「おっしゃる通りだよ」

『やはりね。僕の観察眼もなかなかの物かも知れない』

くっくっと笑い声。
向こうからは車の通り過ぎる音とセミの大合唱が聞こえる。外にいるんだろうか?




85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:00:47.18 ID:IQHt5EzB0

「どこから覗いてるのかと思ったぜ。それで、何か要件があるんだろ?」
まさかそれを当てるためにかけてきたわけじゃないだろう。

『もちろんさ。キョン、実は僕はいまキミの家の前にいるんだ』

なんだって?
俺は子機を持ちながら急いで玄関のドアを開けた。携帯を耳に当てた佐々木が「おはよう、キョン」と笑う。
驚いて二の句が継げない俺に、

「突然ですまないね。ちょっとサプライズさ、目が覚めただろう?」

ああ、バッチリだよ。眠気もどっかに吹っ飛んだ。
よく見ると佐々木はいつも塾に持っていくカバンを持っていた。おそらく中にあるのは勉強道具だろう。




88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:07:18.27 ID:IQHt5EzB0

「いつからここに来たんだ?」

「ついてすぐ電話を掛けさせてもらったよ。
朝の散歩はいいものだね。気分も穏やかになるというものだ。加えて天気もいいし、この時間帯は風もある。絶好の散歩日和さ」

「とりあえず立ち話もなんだし、よかったらあがっていけよ。俺しかいないしな」

多分佐々木もそれが目的でここまで来たんだろう。俺も暇だったしちょうどいい。

「悪いね、それでは上がらせてもらおう」

玄関に上がった佐々木は履いていたサンダルを丁寧に揃え、興味深そうに辺りを見回していた。
悪いが面白いものはなんにもないぞ。




89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:08:06.29 ID:IQHt5EzB0

「それで、どうしたんだ急に」

俺はコップに麦茶を注ぎながら佐々木に聞いた。佐々木はそれを一口飲んでから、

「僕もキミと同じように暇を持て余していたのさ。それで急にキミの家に向かうことを思い立ってね。前にも向かわせてもらうと言っていただろう?
ああ、もしこれから用事があるのだとしたらお暇するが、おそらく今日一日キミは重要な用事はないと僕はみた。
よければ今日は僕に付き合ってもらえないかい?」

「ああ、いいぜ。何にもないけどな」

「かまわないよ。ありがとうキョン」

佐々木はそう言って再び辺りを見回し始めた。
悪いな、散らかってて。俺の言葉に佐々木は首を横に振ってから

「いいや、そんな事はない。それに突然お邪魔したのは僕の方だからね。
ご家族さんは不在か。前にもお会いしたしよければご挨拶でもと思ったんだが……」

最初に言った通り俺一人だ。
妹はまだ帰ってこないだろうし、またいる時にでも遊んでやってくれ。




91 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:13:13.04 ID:IQHt5EzB0

「ああ、あの可愛らしい妹さんにはまた会いたいからね」

佐々木はそう言って、お茶を飲み干し鞄の中を開ける。やはり入っているのは俺の目がおかしくない限り勉強道具に見えた。
嫌な予感がする。言える暇もなさそうだから最初に言っておこう、やれやれ。


それから俺達は俺の部屋に移動して、俺は佐々木監視のもと、もらって以来一度も開けていなかった課題のテキストをすることになった。
ああ面倒だ。これをして役に立つような時はくるんだろうか?

「僕たち学生の仕事は勉学に励むことだからね。どんな仕事でもおろそかにしてはいけないのさ、キョン」

そんな俺の考えを読みとったように、佐々木が言った。こいつにはかなわない、まず頭の出来というものが完璧に違うからな。
分からないところは佐々木に聞いた。佐々木はそれに解答集の解説のように正確なヒントを出してくれ、真白だったテキストに序々に答えが書かれていく。
やっぱり勉強は一人で寂しくコツコツやるよりも、誰かと一緒にやったほうが捗るんだな。


お昼は二人で近くのコンビニに買いに行った。俺は適当なおにぎりを二つ、佐々木はタマゴサンド。
それから戻ってまた勉強を始め、合間合間にたわいもない話をしているといつしか真っ青だった空は綺麗なオレンジ色へと変化していた。もうそんな時間か。
俺は少し空を見上げていると、佐々木がシャーペンの芯を出しながら口を開いた。

「前にキミは物語のような非現実的世界に少し憧れているといったね」

ああ言った。お前によるとエンターテイメント症候群ってやつか。




93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:20:46.26 ID:IQHt5EzB0

俺の言葉に佐々木はそうだ、といつもの慇懃な笑みを浮かべてから、

「あれからしばらく経ったが、キミの周りでそんな出来事は起こったかい?」

いいや、そんな事はない。
この世界は俺が生まれてから……いやそれ以前から何も起こっちゃいない。
隕石は地球なんかに目もくれず未だ宇宙をさ迷ってるところだろうし、同様に宇宙人がいたとしても今頃あっちでのんびりティータイムでもしてるだろう。
ああ、今朝お前の超能力には出会ったが。

「あれはただの推測さ。キョン、僕だって長い間キミと友好関係を築いているんだからキミが何をしてるかはくらいはそこそこ検討がつく」

「お前の観察眼はいいからな」

「僕はもし、親しい人物は誰かと問われるようなことがあったら真っ先にキミの名前が浮かぶよ、キョン」

俺は佐々木のキラキラと輝く二つの瞳を見た。その瞳が少し下にさがり、整った顔に柔和な笑みが広げられる。
確かに、俺もこの一年と四か月くらいの月日の中で誰と一番一緒にいたかと聞かれたら、家族を抜けば思い浮かぶのはコイツかもしれん。




95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:28:33.64 ID:IQHt5EzB0

そんな事を考えていると、玄関のドアが開く音がして「たっだいまぁー」と能天気な声が聞こえてきた。
声の主はそのままバタバタと階段を登ってきて勝手に俺の部屋を開けると、「あー!」とはしゃぎながら佐々木に飛びついた。

佐々木が妹の頭をなでる。こうしていると姉妹みたいだな。
そしてどうやら俺は蚊帳の外らしい。




96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:29:51.26 ID:IQHt5EzB0

………
……


「晩飯は食っていかないのか?」

玄関でサンダルを履く佐々木に俺は自転車の鍵をつかみながら言った。

「ああ。母親がもう作り始めている頃だろうし、何よりご家族の団欒を邪魔するような真似はしたくない。
それに僕は朝から随分と長い間キミの家に居させてもらっているしね。この辺でお暇させてもらおう」

「そうかい、それじゃ送るよ」

ドアに手をかけた時、アイスを手に持ちながら妹が玄関まで走ってきた。

「あれ、帰るのー? 食べていったらいいのに、カレー」

「うん、もう帰らなくちゃいけないから」

「そっかぁ、じゃあまた来てねっ!」

コイツはすっかり佐々木に懐いたらしい。
満面の笑顔で手を振る妹に佐々木は小さくお辞儀をして家を出た。




97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:31:08.04 ID:IQHt5EzB0

空は鮮やかなオレンジ色から、少しずつ色を落としはじめていた。どこかの家から肉じゃがらしき匂いがする。

こいつを乗せて走るのにももう慣れたな。
最初の方は悲鳴をあげていた太ももも、日が経つにつれ軽やかにペダルを漕ぐようになってきていた。
ふと右を向くと、我が母校の中学の制服を来た奴らがそこら辺を歩いているのが見える。それを見て、俺は中学の時佐々木が言った一言をなんとなく思い出していた。

「なぁ佐々木」

「どうしたんだい?」

「お前は確か恋愛感情なんてのは精神病の一種って言ってたよな?」

「懐かしい話だね。ああ、確かに言ったよ。その言葉自体はある人の受け売りだけれども」




99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:36:13.76 ID:IQHt5EzB0

その時俺たちは学校の机に座りながら話していて、佐々木は確か感情は人間の自律進化にとって邪魔なノイズでしかないとかどうとか言ってたように思う。
うむ、俺の記憶力もなかなかのもんだな。

「確かに。キミはその記憶力を勉学の方に活かせたらいいんだが」

佐々木はそう言って笑った。

「そういや誰から聞いたんだ? それ」

佐々木は残念ながらいつかは忘れてしまったけれど、と前置きしてから

「あの日僕はいつも通り塾から帰っていたんだ。
そうして信号を待っている時、隣の一組のカップルらしき人達が何やら凄い喧噪でね。感じを見るに、おそらく別れ話か何かだろうと推測する。
それで何となしにその話を聞かせてもらっていると、突然女性のほうが大声でこう言ったのさ。

『恋愛感情なんてね、一時の気の迷いよ! 精神病の一種なのっ!』

それからその人は去って行ったんだが……驚いたよ。それと同時に感心した。
僕はその日の講義の内容を忘れてしまっても、この言葉だけは忘れる事はないだろうと思ったね。
そしてそれはこれまでに聞いたどんな理論よりも僕に衝撃を与えてくれたものだ」




100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 22:39:54.92 ID:IQHt5EzB0

そりゃまたすごい強烈だな。

それから佐々木はその時の状況を細かに、それから人間の感情についての独自の考察と自律進化とは何かを俺に講釈してくれた。
いつも思うがこいつはよくこう機械みたいに次から次へと言葉が出てくるもんだね。毎度のことながら感心するよ。

「前にも話した通り、僕はいつだって理性的かつ論理的でいたいのさ、キョン。恋愛感情なんてものは僕には理解しかねる。
しかし……」

「ん?」

俺は自転車のブレーキをかけた。
突然だったので、後ろに座っていた佐々木が言葉を中断させて「わっ」と俺の服を掴む。




108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:05:20.57 ID:IQHt5EzB0

「どうしたんだい、突然?」

「すまん。あっちで何かやってるみたいだ」

所狭しと並ぶ屋台に浴衣で歩く人々、遠くから笛と太鼓の音がする。お祭りか。
俺はそこら付近に自転車を止めて、

「少し見て行っていいか?」

「よかろう。まだ時間は……キョン?」

俺は佐々木の言葉を最後まで聞く前に、引き寄せられるように中へと進みだしていた。
たこ焼きにカステラ、焼きとうもろこし。どれも美味そうな匂いが減った腹を刺激する。しかし、目的はそれではない。


――まただ。

――脳内を駆け回る、あの感覚。




111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:08:03.49 ID:IQHt5EzB0

間違いない、俺はここに来たことがある。じゃあそれはいつだ? 誰と? 
分かりかけているんだ。この既視感と消失感。映像の断片が頭に浮かぶ。盆踊り会場、金魚すくいにお面屋さん。


俺の隣にいるのは……




112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:12:38.00 ID:IQHt5EzB0


その瞬間俺は我に返った。そうだ、佐々木。
ああまたやってしまった。この前佐々木に忘れないでくれと言われたばっかりだというのに。

「すまん佐々――」

俺はゆっくりと振り返り、謝罪の言葉を出そうとして途中で固まった。

視界に入ってきたのは佐々木の、もしコイツが仮面を被っていたとしてもこれだけは本物だと胸を張って言えるような、悲しそうな顔。
三メートルほど離れた先の、揺れる二つの瞳が俺を見据えていた。

「佐々木……」

その表情は、俺が今まで考えていた事を吹き飛ばすには十分すぎた。
くそ、俺は馬鹿だ。大馬鹿者だ。一度に限らず二度までも、何をやっているんだ。
急に周りの喧噪が聞こえなくなり、俺は固まったまま。まるで辺りの時間が止まってしまったかのようだった。


「……キミは僕と一緒にいる時、たまにそんな表情をするね」

佐々木の口が小さく動く。
注意していないと聞きとれないような微かな声が、俺の耳に届いた。焦りにも似た感覚が俺の中を駆け抜ける。




115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:16:54.26 ID:IQHt5EzB0

俺は頭をフル回転させた。どうしよう、どうすりゃいい?
……そうだ。あの元文芸部室での時、佐々木はいつでも相談に乗ると言ってくれた。
ならいっその事すべてを佐々木に言ってみようか。博学なコイツの事だから何かそれらしい事を言ってくれるかもしれない。

「佐々木、お前に相談したい事があるんだ」

俺の言葉に佐々木は一旦ふせていた顔をあげ、再び俺を見上げた。
そこから俺達は近くのベンチに移動して、俺は少しずつ感じていた違和感について語り始めた。


入学式当日から何か違和感があったこと。

初めて来る場所にもなぜか既視感があり、同時に何かを失ってしまったような感覚になること。

そして、それが何か思い出せないこと。




117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:21:03.37 ID:IQHt5EzB0

全てを話し終わっても、佐々木の口が開くことはなかった。こいつとの間にこんなに長い沈黙があるのは初めてだ。
空はもう既に暗くなっていて、遠くから虫の鳴き声が聞こえる。
やはりさっきの事を怒っているんだろうか? それとも俺の話に何か思う点があったか。
降参だ、とにかく時間が欲しい。俺は佐々木に「ジュースでも買ってこようか」と言おうとしたその時――


「小さい頃から、ずっと思っていたんだ」

微かな声が耳に届いた。俯きながら、佐々木は言葉を選ぶようにして話しだす。

「勉学に勤しみ、大学に入り、そして良い企業に就職する。それが僕の義務であると」

目の前にいる一人の少女は、本当に佐々木なんだろうか?
そこに俺の知っている佐々木はいなかった。饒舌で、時には語りかけるように、そしていつも楽しそうに堂々と話すあいつは。
いや、もしかしたら今にも消え入るような声で話すこの少女こそが、本当の佐々木の姿なのかも知れない。




118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:24:51.67 ID:IQHt5EzB0

「小学校を卒業し、中学に入学してからもそれは変わらなかった。
だが時が経つにつれ僕は思い始めていた。これでいいのだろうか、と。
それでも僕には取り立てて大きな夢もないし、ただの平凡な人間でしかない。それに自分に見合った限界だって理解しているつもりだ。
だから怖かった。自分の描く道から逸れてしまう事が。

……僕は何に対しても一線を引いていたのかも知れない。そしてそこからはみ出してしまう事を恐れた」

夜風が少しだけ空いた二人の隙間を吹き抜ける。夏の夜の、独特の微香。

「僕は、ずっと一人だった」


佐々木はそう言って一旦口を噤んだ。そして伏せていた顔を上げいつもの口調で、

「すまない、つまらない話を聞かせた。忘れてくれたまえ。
さてもう既に日は暮れている。君のご家族も心配している頃だろう。
ここから先は一人で帰るとするよ、送ってくれてありがとうキョン。それじゃあ、また」

矢継ぎ早にそれだけ言って俺に微笑みかけると、後ろを向いて走り出した。
俺は何も言えず、佐々木の後ろ姿が見えなくなってからもしばらくの間呆然とそこに立ち尽くしていた。




119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:29:22.99 ID:IQHt5EzB0

………
……


「遅かったねぇ。もうご飯食べ終わっちゃったよ? キョンくんは~?」

「今日はいらん」

帰ってすぐ玄関に駆け付けた妹にそれだけ伝えると、俺は自分の部屋に行きベットに倒れこんだ。キョンくん? と不思議そうな妹の声がする。

思い出すのはあの映画の時。
『僕はキミが思っているほどできた人間ではないよ』そう言った、佐々木の寂しげな表情。

――僕には取り立てて大きな夢もないし、ただの平凡な人間でしかない。それに自分に見合った限界だって理解しているつもりだ。

――だから怖かった。自分の描く道から逸れてしまう事が。

もしかしたら、佐々木はずっとそうやって自分を型に嵌めて生きてきたんだろうか。これが自分だから、と言い聞かせて。




120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:32:28.70 ID:IQHt5EzB0

ふと横に向くと、少し前まで二人で勉強していた机がある。散らばった筆記用具に消しカス、そして二人分のコップ。
俺は自分の使っていたコップを軽く指ではじいた。コツン、と乾いた音がする。


――僕は、ずっと一人だった。

なぁ佐々木、寂しいだろ。そんな、一人なんて。

俺はもう一度寝転び、窓越しに夜空を仰いだ。小さな星が一つ二つと見える。それを目に焼きつけてから俺はそっと目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは、高校に入ってからの四か月余りの出来事。



そして、それが最後だった。




123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/24(水) 23:36:56.11 ID:IQHt5EzB0


夢を見た。

俺はいつも通りあの急勾配ハイキングの通学路を歩いていて、自分のクラスへと入り着席する。
外は桜が咲いていて、春らしく気を抜けばつい寝てしまいそうなぽかぽかとした陽気だ。
そんな事を考えていると急に後ろに座っていたヤツが立ち上がり、俺はつられて後ろを振り向く。えらい美人がそこにいた。
そいつは腕を組み、不機嫌オーラを散漫させながらよく通るハッキリとした声でこう言った。

「東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所にきなさい。以上」

なんともすごい夢を見ちまったもんだ。――夢? 違う、これは……


128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:00:08.11 ID:GYIPsQA40

その瞬間、俺は目覚めた。
辺りを見回す。……ここは北高だ。ただし俺の記憶が改ざんされていない限り俺の知っているそれではなかったが。
セピア色に統一された空間が、辺り一面を覆っている。ここはどこだ?

ゆっくりと起き上がると、自分が北高の制服を着ている事に気づく。
そういや前もあったなこんな事。確か『アイツ』と一緒に閉鎖空間に閉じ込められて――そうだ。閉鎖空間。ここはその空気に似ている。第六感がそう伝えていた。

そして同時に気づいた。

……ああこれだったのか。俺を悩ましていた違和感の正体は。

天上天下唯我独尊の我らが団長様、可憐という文字を擬人化したようなSOS団専属メイドさん、無口で、いつでも頼りになる宇宙製アンドロイドにニヤケスマイルが誰よりも似合っている副団長。
天変地異が起きようが何が起きようが忘れられそうになかったSOS団。その記憶だけが、俺の中からすっぽりと抜けていた。




129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:03:51.56 ID:GYIPsQA40

そんな事を考えていると突然俺の目の前に人が現れた。
ショートカットが風に揺れ、ツヤ消しブラックの瞳が俺を見据える。俺のよく知っている人物はいつも通りの無口さで、

「遅れてしまった事を謝罪する」

「……やっぱり来てくれたんだな、長門」

思えば会うのは四か月ぶりだ。久し振りにあったそいつは、ミリ単位の変化も見られない。
それでもいつもの無表情に、俺は内心ほっとしていた。

「それで、ここはどこなんだ? どうして俺はこんな所にいる?」

考えをまとめているのか、俺の問いに長門は五秒ほど間をとってから、

「ここは……」

いつもの平坦な声で話し始めた。




133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:08:37.27 ID:GYIPsQA40

ここはあの冬の日、長門が作ったような世界。本来の世界とは違う、いわばパラレルワールドのようなもの。仮想現実空間だ。

" そいつ "はおそらく無意識のうちにハルヒの力を使い、この世界を作り上げた。

そして俺だけが、この世界に取り込まれた。SOS団の記憶だけを消去した上で。

異変に気づいた長門は、早急に俺の居場所特定を始めた。それでも、いくら探しても見つけることはできなかった。

しかし、あるものがトリガーとなり、長門は特定に成功した。そのあるものって言うのが……


「この空間か」

「そう」

長門は小さく頷いた。




135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:15:10.28 ID:GYIPsQA40

俺はもう一度この空間を見回した。確かに感覚は閉鎖空間に近いが、決定的に違うところがある。
まずは色。最初に言った通りここはセピア調で統一されており、ハルヒの作る灰色のものとは違い、どこか落ち着いた空間だった。
そしてもう一つ。ここには神人がいない。青く光る、すべてを破壊しようとするあの巨人がこの空間には存在しなかった。

三百六十度じっくり観察してから、俺は再び思考する。

……思えば、あの違和感は俺に異変に気づくようにヒントを与えてくれていたのかもしれない。
毎日通ったあの通学路に、言わずと知れた駅前大集合。ループする夏休みに、一万何回と訪れたあのお祭り。そしてSOS団本拠地である文芸部室。

この世界は、SOS団が存在しない以外はある一人を除いて変わっている所は無かった。
北高は相変わらず辺鄙なところにあったし、岡部はハンドボール馬鹿で、アホの谷口や国木田は同じクラス、鶴屋さんは明るい上級生だった。

そう、そいつだけが俺の記憶と違っていたんだ。


「……いるんだろ? 佐々木」

俺の呼びかけにそいつは歩みを進め、俺たちから少し離れたところで立ち止まった。




138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:24:17.75 ID:GYIPsQA40

北高のセーラー服に身を包んだ小柄な少女は、いつもの慇懃な笑みを浮かべている。
その姿を見ながら、俺はふと思い出していた。忘れることができそうにないあの冬の三日間のことを。
ハルヒは神様でもなんでもない光陽園学院の一生徒で、古泉や朝比奈さんもどこにでもいるような一般人。そして長門も、大人しいただの文芸部員。
そこには情報統合思念体や『機関』や未来人が時間遡行でやってきた、なんて非現実的なことはなく、ましてや誰かによって世界が再構築される恐れがあるなんてこともない穏やかな世界だった。
この世界もそうだろう。ただ創造主が長門から佐々木に変わっただけで。

「佐々木」

静まったこの空間に俺の声が響く。


「お前のしわざだったんだな」


言った後で、小さな力が俺のプレザーを引っ張っていることに気づいた。長門だ。前に言った言葉を覚えてくれているのか、ベルトではなく袖を引っ張ってくれている。

「彼女は無意識のうちにこの空間を作り出している。
そのため彼女は自身がこの空間の創造主だという事は……」

「知っているよ」

長門の声を遮った佐々木の声。俺は驚いてその声の主を見た。長門も同じように佐々木を見ている。その表情に一グラムぐらいの驚きが混じっているように見えるのは、俺の訓練の賜物だろう。




139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:29:50.27 ID:GYIPsQA40

「……どういう事だ?」

「入学式の朝、僕はこの世界が現実のものでは無いこと、そしてそれは僕が作ったということを知った。
この感覚は理屈では説明ができまい。急に自分の頭の中にその情報が入ってきたんだからね」

思い出したのは、五月の始め。
古泉から実は超能力者なんです、とドッキリのような告白を受けた時のことだった。
まあ結果として、それはドッキリでも何でもなかった訳なんだが。

『分かってしまうのだから、仕方ありません』

微笑を混じえて古泉はそう言った。おそらく佐々木が感じたのもそんな感覚なんだろう。

「キミが何かに気づいて悩んでいるのも分かっていた。そしてこの世界を元に戻さなければならないということもね。
でも――」

そこで佐々木は一度口を噤んだ。
ああ、思えば俺が違和感に悩まされていた時、隣にはいつも佐々木がいたような気がする。旧文芸部室でのあの表情は、そういう意味だったのかもしれない。

「……楽しかったんだ」

ぽつり、と佐々木は言葉を零した。




141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:35:35.61 ID:GYIPsQA40

「夏休み、元の世界でのね。実は僕はキミを見かけたんだ」

元の世界と言うと……あのループした夏の最終シークエンスということだろうか。
佐々木は長門に少し視線を寄せて

「キョン達が五人で遊んでいるのをみた時、僕は急に自分が惨めに思えた。
夏休み、ショーケース映る、塾の鞄を片手に歩く自分の姿がね」

「佐々木……」

「僕は最低な人間さ。自分の欲望のために、キミまで巻き込んでしまった。そんな人間は僕が一番嫌っていたはずなのにね。
すまない、キョン」

佐々木が、申し訳なさそうに頭を下げる。……違う、違うんだ佐々木。

なぁ、俺だって楽しかったんだ。

ここが誰かが作った空間であろうと夢であろうと、俺は間違いなくこの四か月を楽しんでいた。そうだろ、俺?




142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:42:09.52 ID:GYIPsQA40

「佐々木」

佐々木は少し体を揺らし、遠慮がちに顔をあげる。

「お前確か海とか山に行きたいって言ってたよな。じゃあそれに行こう」

「……え?」

「いやまず戻ってからだとお花見になりそうだな。でも大丈夫だ。
鶴屋さんって言ってな、すごい金持ちのお嬢さんがいるんだ。気前のいい人だからその人に頼めば山の一つや二つ貸してくれるさ。
それからまたお前に勉強教えて欲しいんだ。成績がやばくてな、そろそろお袋に塾に放り込まれそうなんだ。でもお前に教えてもらえるなら安心だ」

だんだん自分が何を言ってるのか分からなくなってきたところで、俺はいったん言葉を区切った。

「したいことは、戻ってからでもいくらでもできるんだ。
何ならうちの活動内容が分けわからん団に入ってくれたらいい。年中無休だがそれなりに充実することは俺のお墨付きだ。だから……」

続きが出なかったのは、佐々木が首を横に振り、長門が再びブレザーの袖を掴んだからだった。




145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:50:12.96 ID:GYIPsQA40

「キョン、それはできない」

佐々木の言葉がずしんと俺に乗っかかる。出来ない? なんでだ?
俺の疑問に答えたのは長門のいつもの起伏のない声だった。

「この空間の崩壊と共に、あなたの記憶も消えてしまうから」

いつもより数段分かりやすい説明。その一言で俺は完全に言葉を失った。
記憶が消えてしまう? どういうことだ。おい、誰か俺にわかりやすく説明してくれ。今なら古泉の話だって真面目に聞いてやる。

「つまりこういうことさ。
この世界は夢の中だと思ってくれたまえ。起きた瞬間に夢の内容を忘れてしまうなんてよくある話だろう?」

そんな、でも、この世界は夢なんかじゃない。感覚だって、匂いだってそのまんまだったじゃないか。

「……佐々木は、どうなるんだ?」

力いっぱいだしたつもりの声は、風の囁きほどの音量しか出なかった。




146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:51:08.05 ID:eJmCQUb7O
佐々木…(´・ω・`)




148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 00:57:16.00 ID:GYIPsQA40

「僕もこの空間と共に消滅するよ。無論、現実世界の僕へは何の影響もない。目覚めて、またいつもどおりに生活するだけさ」

その言葉がとどめだった。

この空間が消滅すると同時に俺は記憶を失い、佐々木はその存在ごと消滅する。

――じゃあこの記憶は、俺たちの、四か月余りの思い出はどうなるんだ?


俺は強い憤りを感じていた。バレンダインデーのあの日、すべてを話してもらった後朝比奈さん(大)に感じたものと似ている。
もちろんそれは佐々木に向けているわけではない。やり場のない怒り、矛先はこの空間にしておこう。


「……でも、ありがとう。嬉しかったよ、キミがそう言ってくれて」

耳に届いたのは、まるで子守唄のような柔らかな優しい声だった。

「……当たり前だろ。親友なんだから」

そうだ。俺には何の力もないが、お前の話を聞くぐらいならできる。お前は一人なんかじゃないんだよ、佐々木。




150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:04:21.76 ID:GYIPsQA40

「そろそろ、時間」

ためらいがちに長門が呟いた。長門も長門で、できる限り待っていてくれているんだろう。
ありがとうな、長門。でも頼む、もう少しだけ待ってくれ。
もう一つだけ佐々木に伝えたいことがあるんだ。あの時、曖昧な返事をしちまったからな。


『キョン、キミはこの世には全知全能たる神がいると思うかい?』


「神様はいるんだ、佐々木」

夏休みを何万回と繰り返したり、秋に桜を満開にさせたり、挙句の果てに猫を喋らせちまったりするような困ったヤツなんだがな。
周りから見たら不機嫌でとっつきにくいやつかもしれないが、それでも誰よりも団員思いの俺たちの団長様だ。

「それから未来人もいる。少しおっちょこちょいなところもあるが、すごく可愛らしくて努力家な人でな」

あの方が淹れたお茶をお前にも飲ませてやりたいぐらいだよ。あれより美味いと思えるものは一体あるんだろうかね。

「超能力者だっているぞ。発揮できる場所は限られているが、自分に与えられた使命に愚痴も言わずに頑張っているやつなんだ。
少し話しが長いが……そうだな、お前とは一番話が合うんじゃないか。

それから驚け。目の前にいるコイツはなんと宇宙人だ。
時間を凍結しちまったり、とにかく何でもアリで、一番頼りになるやつなんだ」




151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:10:16.59 ID:GYIPsQA40

佐々木からしたら、何言ってんだコイツって感じだろう。
何しろ俺が目が点になった奇天烈とんでも話を四人続けて聞かされているんだからな。

宿命論だか運命論と言ったか、ハルヒがそうなるように定めてきたかなんてのは分からない。未来人で言う、規定事項のようなものがあるのかは俺は知らない。
だがな、俺は前も言ったとおり俺自身の判断で動いているんだ。
もしもだ、SOS団の誰かが欠ける代わりに俺にいい未来があると言われたって、俺はそれを選ぶなんてできやしない。
それは佐々木にだって一緒だ。

ガラにもないことばかり言って恥ずかしくなってきたが、どうせ消えちまうんだ。腹は括った。
もし目覚めて、この記憶が残っているなんてことがあったっていい。そしたら俺はベットで悶えた後お前に会いに行くさ。

「キョン、それなら僕も」

いつもと一寸の違いもない輝いた二つの瞳が俺を見据える。

「例えそれが神様の定めた事から外れていたとしても、僕はキミに会いに行く」

目が覚めて、世界は消えて、この言葉なんか忘れてしまうだろう。
それでももしかしたら、なんてことがあるかもしれないだろう? あの日、俺がハルヒと出会ったようにさ。


「神様への、小さな挑戦さ」




156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:18:12.34 ID:GYIPsQA40

「ああ、待ってるよ」

そう言ったのと同時に、空間の天井部分がぐにゃりと歪んだ。もう限界か。
長門がそれを見上げ、そして「目を閉じて」と微かな声で呟く。そして例の高速詠唱を唱え……その瞬間、俺はものすごい眩暈に襲われた。

「うわっ!」

確かに来るだろうなとは思っていたが、予想以上だ。十二月の時の経験を持っていてもこれはきつい。何しろ四か月分の重みがあるんだからな。
俺の左手に手が重ねられる。この手は佐々木か、それとも長門か。

「キョン! キョン!!」

頭の上から佐々木の声がする。必死で目を開けようとするが、この眩暈がそれを許さないらしい。
途切れ途切れに佐々木の声が聞こえる。普段ならとっくに気を失っている頃だろう。それでも俺は必死に耳を傾け、佐々木の声を汲み取った。



「会い……く…から…だから……また……一緒に……」


それを最後に、俺の意識はブラックアウトした。




157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:23:28.69 ID:GYIPsQA40


一つ、分からないことがあった。

長門の話によると、佐々木はハルヒの力を無意識に使いこの世界を創りあげたという。以前、自分がそうしたように。

それでも、ただの一般人がハルヒの力を、それも無意識のうちに使うことなんてできるのか?

そしてあの空間。俺たちを見つけるトリガーとなったあの空間は確かに閉鎖空間だったはずだ。でもあれはハルヒのではない。

それじゃあ一体誰があの空間を――?



『会いに行くから、だから、また一緒に――……』




159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:28:22.45 ID:GYIPsQA40



カチ。

鳴り響く目覚ましのアラームを俺は必至に手を伸ばして止めた。
うーんと伸びをする。どっかの骨がボキッと鳴った。俺は再び布団に飛び込みたい気持ちをなんとかして押さえながら一人で階下に降りた。
全く、気持ちよさそうに寝ているシャミセンが羨ましい。

そんな俺の今日の予定はというと、SOS団でフリーマーケットに行くというものだった。
相変わらず一人で提案し、一人で決定するというのがうちの団長流で、それに誰一人意見しないというのが俺を除く三人流らしい。少しは何か言えばいいものを。

っと、確かプラモデル持ってこいって言われてたんだっけ。
棚の中を探ると、……見つけた。雑誌の懸賞で当たって、結局放り投げたアニメロボのプラモデル一式。デカい箱が埃を被ってどんと出てきた。
はたしてこれが誰かの手に渡ることはあるんだろうかね。




160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:31:19.09 ID:GYIPsQA40

妹と朝飯を食い、食べ終わる頃には結構な時間になっていて俺は急いで自転車を飛ばした。
どうせ俺は最後で、ハルヒの「遅刻、罰金!」の声を聞くのは分かっている。
いっそのこと二時間ぐらい遅れていってやろうかと目論むものの、もしそんな事をしたらどうなるのかは目に見えてるし、何より朝比奈さんや長門を待たせるのははばかられる。ハルヒと古泉は別にかまわんが。

そんな事を考えながら駐輪場の空きを探していると、後ろから声がかかった。

「やぁ、キョン」

「うわ」

それは不意打ちに近かった。すぐさま振りかえると、そこには中学以来の同級生の姿があった。ショートカットのその少女は、柔和な笑みを浮かべている。
なんだ、佐々木か。俺の言葉にかつての同級生は

「なんだとは、とんだご挨拶だ。ずいぶん久しぶりなのに」

そう言って整った顔に皮肉めいた微笑を広げる。その顔を見て、俺は懐かしい気持ちに浸っていた。
塾に行く途中だという佐々木はどうやら俺と同じ方向に向かっているらしく、だったら一緒に行かないかという佐々木の提案で、俺達は歩き出した。




162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:36:11.99 ID:GYIPsQA40

「懐かしいね」

「何がだ?」

それはね、と佐々木は俺を手で指し

「キミとこうして歩いていることさ。先程にも言った通り、キミとこうして肩を並べて歩くのは実に一年ぶりだからね」

そういやそうだったな。
佐々木の言う通り、俺たちは約一年ぶりの再会を果たしたわけである。
市外の有名進学校に進路を進めたこいつは忙しいらしく、春休みの話しを聞いている限りどうやら勉強漬けの毎日を過ごしているようで

「勉強のために勉強している気分さ」

手に持っている鞄に少し疎ましい視線を投げかけ溜息を吐いた。




163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:41:12.67 ID:GYIPsQA40

「どうやらキミは充実した高校生活を送っているようだね」

どうだろうね。現に俺の財布は万年金欠を訴えてるぜ。
ついでに宇宙人未来人超能力者、挙句の果てには神様に囲まれたり、巨大カマドウマに襲われたり、雪山の山荘に閉じ込められたりと波乱万丈な一年だったがな。……とは言わないでおいた。

「羨ましいよ」

俺の言葉に佐々木はそれだけ言って、いつもの笑みを投げかけた。


そんなことを話している内に俺たちはいつの間にか集合場所へと着いていて、社長出勤した俺(といって集合時間を一分ほど過ぎたぐらいだが)と、隣にいる佐々木を四人はそれぞれ違った表情で迎え入れてくれた。
ハルヒはじっとりと、朝比奈さんはあわあわと、古泉はあくまで微笑み、長門はいつもの省エネ待機スリープモードだ。

四分の四拍子ぐらいの間そうしていると、ハルヒがすぅと息を吸う音が聞こえた。ああ、ありがたい団長様じきじきの説教だ。

「――遅れてきたぶんは罰金に加算するわ。
過ぎ去った時間は何物にも代えられないけれど、せめてあたしたちを朗らかな気分にするならちょっぴりだけど慰めになるからね」

つまり要約すると「遅刻したんだから罰金しなさい」という言葉を長々とハルヒは俺に捲し立て、一息ついてから

「それ、誰?」

と奇異の視線を俺の隣にいる佐々木に向けた。




165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:42:38.80 ID:GYIPsQA40

「ああ、こいつは俺の……」


言いかけたその刹那、二人の間をふわりとした春の風が吹き抜けた。

心地よい風に、俺はどことなく懐かしさを感じた。そしてどこか暖かい、何かを。



「親友」







168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:44:26.67 ID:l8jjUEBrO

こういうのをセカイ系っていうのかな?


とにかく面白かった




169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:45:12.10 ID:eJmCQUb7O
なんか…切ないな…



>>1乙




171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/06/25(木) 01:45:49.45 ID:GYIPsQA40
無事終わらせることができでよかった。
ところどころ原作の部分を混ぜてるから、楽しんでもらえたら幸い。
そして初心者に佐々木は難しいことが分かった。あと少しでもSOS団を入れたかったなぁ

支援&保守ありがとう!





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コメント

9:

力作だな
人物名「台詞」
人物名「台詞」
の形じゃない、小説形式なのも珍しいな
面白かった

2009/07/10 01:03 | CCC #- URL [ 編集 ]

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