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2018:ずっと一緒に

2012/08/11 (Sat) 10:00


見渡す限り緑の山が広がっている。
青い若葉をつけた木々が山の斜面を覆っていた。
山々から突き出た一際高い峰には、まだ冬の名残が白く残っている。

川は、森を貫いて南北に走っていた。
大きな川とその支流に鉄橋がかかり、その上を国道が走る。

鉄橋の上を走る道路は、トンネルへ繋がっていた。

反対側の出口からは、スノーシェッドが伸びている。
コンクリートと鉄骨でできた骨組みだった。
トンネルを抜け出た後、しばらく道路の上を覆って建てられている。
雪崩が起きても、強固な屋根が道路を走る自動車を守ってくれる。

その中を一台の車が走っていた。
ワゴンタイプで、運転席には一人の男が座っている。
横顔に鉄骨の影が映っては流れていく。

男はこの先にある小さな丘に向かっていた。
もう何度もそこを訪れていた。
何の変哲もない、どこにでもある丘のうちのひとつだ。

男は地元のドライブインに勤めている。
休みの日にドライブに行く振りをして、こうして森の中へ向かうのが楽しみだった。
ゆっくりを虐待することが生きがいのようなものだった。

骨組みの途切れたところで、男は車を停めた。
道は緩やかにカーブして、周囲を林に囲まれている。
ここから少し歩いたところに目的地はある。

車を下りて、草むらの中を歩いた。
少し前にも、こうしてここを訪れたことがあった。

あの時連れ帰ったみょんは、まだ家の中にいる。
大人しいもので、最近はついそこにいることを忘れそうになる。
帰ったら久しぶりにちょっかいをかけてみるかと男は思った。

草むらの真ん中で男は足を止めた。
この先にはゆっくりたちの群れがある。
再びそこを訪れようか、それとも今日はこのまま帰るか。

男はポケットに二つの飴が入っていることを思い出した。
確か赤と青の二種類があったはずだ。

他愛もない遊びだ。
どちらか一つを取り出して、赤なら訪れる、青なら帰る。
男の手はポケットの中で二つの飴をまさぐっている。

一ヶ月前ここに来た時も、こうして二つの飴を選んだ。
ただし、それを選んだのはあのみょんだ。
男がそうさせた。

男は飴を取り出した。
手の中のそれは、紫色をしていた。
少し笑って、考えるそぶりを見せた。

どうしようか?

男は逡巡を楽しむようにゆっくりと辺りを見回した。
この群れであったことを、思い出していく。
あれは、一ヶ月前のことだった。



1

一ヶ月前。
木々がようやく芽吹き始める頃。
日差しが暖かさを増して、朝夕に土から立ち上ってくる匂いが春を告げている。

この群れでは、大小三十匹程度のゆっくりが暮らしていた。
今はそれぞれが土の中から顔を出し始めた虫を狩りに出かけたり、すっきりに勤しんでいる。

れいむはまりさを待っていた。
巣穴の前でのーびのーびをして、木々の奥をさかんに覗いている。
待ち遠しくて仕方ない様子だった。

すぐに、れいむの見ている場所の茂みから小さな黒いものが姿を現した。
こちらへ跳ねてくる。
まりさだった。

まりさは上機嫌だった。
れいむも待ちきれずに駆け出した。
跳ねながら叫ぶれいむに、まりさもおさげを振って応える。

「まりさ、おそいよ! おなかぺこぺこになっちゃったよー!」
「れいむ、ごはんさんとってきたよ! いっしょにむーしゃむーしゃしようね!」

れいむは狩りができなかった。
まりさが狩りに行っている間、巣の中でおうたを唄っていた。
待ちきれなくなって様子を見に外に出たところに、まりさが帰ってきたのだった。

狩りはまずまずの成果だったようだ。
まりさが開けた帽子の中には木の実や虫がどっさり詰まっている。
土の上にこぼれ落ちたそれらを、れいむは見境なく食べ始めた。

「むーしゃむーしゃ! うめっ! これめっちゃうめっ!」
「れいむ、おうちについてからゆっくり食べようね」
「ゆゆ、そうだね! ふたりで食べたほうがおいしいもんね!」

二匹はいそいそと巣穴の中に潜り込んだ。
巣は土に穴を掘っただけの簡単なものだ。
二匹が入るとそれだけで一杯になってしまう。

「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」

笑顔でご飯を食べる二匹。
顔を突き合わせて、二匹の間に置いたご飯を少しずつ口に運んでいく。
その日が幸せなら、どんな場所でもゆっくりは幸せなのだった。

そんな二匹にも、悩みがあった。
おちびちゃんがいないのである。

「れいむ、もうからだはだいじょうぶ?」

二匹は数週間前に一度すっきりーをしていた。
れいむに生えた茎に実ゆがつき、おちびちゃんの誕生を二匹は待ち望んだ。
しかし、れいむの餡子をたっぷり吸って丸々と大きくなった四匹の実ゆは、
北の空っ風に吹かれて、運悪く茎から落ちてしまった。
地面に叩きつけられた四匹は、全て餡子を飛び散らせてゆっくりした。

目の前でそれを見たれいむは、ひどく悲しんだ。
待望のおちびちゃんが、不幸な事故で、生まれる前にゆっくりした挨拶もできずに飛び散ってしまったのである。
初めての子供を期待していただけに、そのショックも大きかった。
ご飯も喉を通らず、砂糖水の涙を滝のように流して泣いた。
まりさにも当たり散らした。

まりさは、たったひとりのつがいがそのように悲しんでいるのを見ていられなかった。
弱って動けないれいむに餌を運んだ。
その間すっきりもできないので、持て余したむらむらをひとりすっきりーで発散させたりもした。

その甲斐あってか、徐々にれいむは元気を取り戻し、失った餡子も回復してきている。
れいむ自身も、そろそろもう一度、まりさとすっきりしたいと考えていた。
当ゆんたちから見れば、いまだ授からぬおちびちゃん以外、何一つ不満のない生活だった。

二匹がご飯を食べていると、遠く丘の上のほうからゆっくりたちのわっという歓声が聞こえてきた。

「ゆゆ? なんだろう?」まりさが外をのぞく。

れいむも外を見た。
ちょうど自分の分を食べ終えて、まりさの隣に並ぶ。
狭い入口に二匹が並ぶと、お互いに変な形に潰れて窮屈そうだった。

「なにかあったのかな?」
「いってみようね!」

二匹は連れ立って丘の上に向かった。
まりさはれいむの体を心配したが、もう大丈夫とれいむが言うと、まりさも頷いた。
なだらかな斜面をぽよんぽよんと登っていく。


国道沿いの林の周りには草むらが広がっている。
そこから群れのある森が広がり、丘をぐるりと囲んでいる。
反対側は崖になっていた。

丘の上には、一本の大きなイチョウの木があった。
冬の間に芽を伸ばし、今は若葉が枝に開いている。

れいむたちは丘の上に着いた。
声はそこから聞こえてくる。
たくさんのゆっくりたちが集まって大騒ぎになっていた。

大きなイチョウの根元にまりさや、ちぇんや、ありすなどがいる。
他にも数え切れないほどのゆん数がいる。
群れの全員が集まっているのではないかというほどだった。

その中心に、れいむは見慣れないものがいるのに気付いた。
それは非常に背が高かった。
森の木々に比べれば低いが、集まったゆっくりたちよりはるかに大きい。

その顔は地上からはるか上にあり、ゆっくりたちを見つめている。
顔から下にはぼんやりと白く霧のようなものがかかっていて、
目を凝らしてもよく見えなかった。

れいむの知っている、どのゆっくりとも違った。
まりさやぱちゅりーたちのように、顔の横におさげがない。
おかざりやぼうしを着けているわけでもない。

長ぱちゅりーの話にたまに出てくる、「人間」と言うやつかもしれない。
それはとても恐ろしく凶暴で、ゆっくりたちのことをよく潰してまわっているそうだ。
なんだかゆっくりできないやつだな、と思った。

れいむはそれが本当に人間かどうか判断がつかなかった。
いまいち、ぴんと来ない。
森の獣が恐ろしいのは知っていても、人間など一度も見たことがない。

人間の手からは、あまあまが落ちてくる。
白い霧からにゅっと空中に突き出されたあまあまが地面に落ちると、いっせいにゆっくりたちが群がる。
そのたびに歓声が上がった。

れいむたちは、ゆっくりたちの輪に近づいた。
とても人間には近づけないくらい、混み合っている。

その混雑の中に長ぱちゅりーがいた。
ひどくあせっている様子だった。
喉が張り裂けそうな大声をあげて、何ごとかを訴えている。

「まって! みんな!」ぱちゅりーが叫ぶ。
「にんげんさんからもらったものを食べてはだめ!」

ゆっくりたちは聞く耳を持たない。
あまあまに殺到した一匹のゆっくりが押し合いになって転がり、ぱちゅりーにぶつかりそうになった。
帽子に傷のあるまりさが、さりげなくぱちゅりーを押して避けさせたのをれいむは見た。

まりさが長ぱちゅりーに声をかけた。

「おさ、どうしたの?」
「まりさ、あなたからもみんなに ちゅういしてちょうだい。
にんげんさんは、とってもきけんなのよ! すぐに にげなきゃだめよ!」
「ゆ? なんで?」

れいむは平気な顔をしている。

いきなり現れてあまあまをくれるなんて、いい奴に決まってるじゃないか。
長ぱちゅりーがなぜむきになるのかわからない。
今危険でないなら、これからも危険ではないだろう。
大抵のゆっくりも似たようなものだった。

「なんでかはわからないけど、とにかくきけんがあぶないのよ!」

出所のわからない衝動に突き動かされて、ぱちゅりーは叫んだ。
遠い親の親から受け継いだ、かすかな記憶が警告を発している。
「人間から離れろ」という警告だった。
しかし、それはすでに遅かった。

最初の犠牲者が出た。
ぐしゃりと湿った音がする。
人間の手から差し出されたクッキーに顔を近づけて受け取ろうとしていた一匹のまりさが、人間の翻した拳に潰された音だった。

全ゆんが静まり返った。
ぽかんと人間を見上げている。
れいむとまりさも、その場で人間と潰されたまりさを交互に見比べている。

人間は次の獲物を探した。
ゆっくりと動き出し、まりさの隣にいたつがいのありすを捕まえる。
ごく自然に手を伸ばし、ありすを持ち上げ、地面に叩きつけた。

「ゆびゃ!」

ありすは顔の前半分が潰れた状態でまだぴくぴくと痙攣していた。
カスタードが地面に染み出してじわじわと広がっていく。

それまで絶句していたゆっくりたちがやっと声を上げた。

「……ゆ、」

目が段々大きく見開いていき、顔が青ざめる。

「ゆぎゃぁぁぁぁ! ゆっくりできないにんげんさんだぁぁぁぁ!」

ゆっくりたちは我先に逃げ惑った。
前列にいたものは後列のゆっくりの頭を踏みつけ、後ろの方で見ていたゆっくりは数メートルも丘を転げ落ちて止まった。
潮が引くように、丘の上からゆっくりたちが離れていく。

大混乱の中で、れいむは立ちすくんでいた。
まりさが必死に逃げろと叫んでいるが、耳に入らない。
その目は、いましがた二匹のゆっくりを殺したばかりだというのに何の表情も浮かべていない、人間の顔を見ていた。

人間が一歩、れいむの方へ踏み出した。
喧騒が遠く聞こえる。
れいむの世界にいるのは、自分と人間だけになった。
他には誰もいない。

人間もこちらを見ている。
自分も、あのつがいのように殺されるのかと思うと、餡子がきゅっと縮まる気がした。
その時に見たその顔が、餡子脳に深く刻み込まれた。

取り残されたれいむとまりさに、人間が近づいていく。
まりさが必死にれいむに呼び掛ける。
れいむには水中にいるようにぼんやりとくぐもって聞こえた。

人間が、また一歩を踏み出す。
その手がれいむに伸びた。


一方丘の下に逃げ出したゆっくりたちは、上を下への大騒ぎだった。
長ぱちゅりーがしんがりで声をかけて、何とか全ゆんが安全なところまで後退した。

長ぱちゅりーは、すぐに丘の上へ戻った。
長として、れいむとまりさを見捨てるわけにはいかなかった。
ゆっくりたちの輪の中から抜け出して、今や人間とれいむとまりさしかいなくなった丘の上に登る。

風に乗って、途切れがちな声が聞こえてくる。
大きくなったり、小さくなったりするが、辛うじて会話の内容は聞き取れた。
ぱちゅりーは耳をすませた。

「……にんげんさん、こっちこないでねぇぇ!」

見ると、人間が二匹の方へ歩いて行くところだった。
れいむとまりさは、最初の位置から動いていない。
逃げようにも、れいむが動けなかった。

人間は手を伸ばした。
とっさに、まりさはれいむを後ろにかばうように、人間とれいむの間に入り込んだ。

「れいむをつぶさないでね! わるいにんげんさんはこっちこないでね!」
「まりさ?」

れいむの目の前にまりさが立ちはだかる。
まりさの後頭部を見て、はっと我を取り戻したれいむは辺りを見た。
もはや群れのみんなはどこにもおらず、人間の手がすぐそばに迫っていた。

まりさの悲鳴がした。

「ゆわぁぁぁ!」

人間はまずまりさを捕まえた。
道に空き缶が落ちていたから拾ったとでもいうように、無造作につかみ上げる。
まりさが暴れてもわめいても、人間の手はがっちりとまりさをつかんで離さない。

「はなしてね! つぶれりゅぅぅ!」
「にんげんさん! まりさをはなしてあげてね! まりさがつぶれちゃうよ!」

人間は聞く耳など持たなかった。
まりさを掴みながら、れいむにも手を伸ばそうとする。
まりさは、つい先ほど無残に潰されたつがいを思い出してぞっとした。

「やめてぇぇ! れいむをころさないでね! まりさはどうなってもいいから!
れいむをたすけてあげてねぇぇ!」

まりさは、つがい思いのゆっくりだった。
人間と言う圧倒的な恐怖を目の前にして、自分よりもれいむのほうを選んだ。
人間の手の中で涙をぼろぼろこぼしながら、そんなことを叫んだ。

そんなまりさを、人間は一瞥しただけだった。
再びれいむに手を伸ばすが、その動きをちょっと止めた。

小脇に抱えた紙袋の中を覗く。
それはほとんど空っぽだった。
そこに入っていたあまあまの大半はゆっくりたちの腹の中に収まっていた。
底のほうに小さな飴玉が二つ、忘れられたように転がっている。

人間は何かを思いついたように、飴とれいむを交互に見比べた。

人間がいつまで経っても何もしてこないので、れいむは縮こまっていた体を伸ばして上を向いた。
放心したような表情で、人間を見上げる。

「にんげんさん、たすけてくれるの?」

人間はそれには答えずに、袋から飴を二つとも取り出し、呆然としているれいむの前に投げた。
二つの飴は、透明なビニールの安っぽい包装に包まれた市販のものだった。
赤色と青色が一つずつある。

「お前ら、全部ぶっ潰すつもりだったが、少し残してやってもいい」
「ゆ? ほんと?」
「ああ。まりさのつがいを思う心に胸を打たれた。でも見逃して帰るのもしゃくだ。
だから、むれか、つがいかどっちか助けてやるよ」
「あ、ありがとう、にんげんさん!」

心にもないことを言う人間。
れいむはわずかな希望に目を輝かせている。

「ただし、残すのは一つだ。群れか、つがいか。お前に決めてもらう」
「ゆゆ? わかんないよ!」
「そこに飴があるだろ? 赤い飴を選べばこのまりさを返すよ。
その代わり、群れのやつらはだめだ。赤を選んだら潰す」
「なにいっでるのぉぉー!」

まりさが宙ぶらりんで叫ぶ。
人間が何をしようとしているのか全くわからなかった。

「青を選べば、群れのやつらは潰さないでやる。その代わり、このまりさは」

人間はいったん言葉を切ると手に持っていたまりさを殴る真似をした。

「ぐしゃりだ。俺はどちらでもいい。ただゆっくりを潰したいだけだ。さあ、どうする?」
「ゆ? ゆゆ?」

れいむは、今の言葉を半分も理解していたか怪しいものだった。
しきりに体を左右に傾けている。
首を傾げる動作に相当するようだ。

「ゆう……よくわからないけど、まりさをえらぶよ!」
「だめ゛ぇぇぇ!」

まりさは悲痛な叫び声を上げた。

「あおをえらんでねぇぇ! まりさのことはいいからっ! あかをえらんじゃだめぇぇ!」
「どぼじでぇぇぇ! まりざをたすけるんだよ! いっぱいーむーしゃむーしゃしようね!
すーりすーりもしようね! まりさがいないと、どっちもできないでしょぉぉ!」
「だめだよ……れいむ、むれのみんなが……」

れいむははっとして後ろを振り向いた。
遠くに、恐る恐る人間とれいむたちを眺めている群れのゆっくりたちが見える。
長ぱちゅりーが何か叫んでいるが、小さくて聞き取れない。

人間は、まりさを助けたら群れの皆を潰すといっているのだった。
まりさといっしょに助かっても、群れの皆は戻ってこない。
群れを助けても、まりさは死ぬ。

れいむはまりさが大切だった。
まりさのためなら、群れなんかどうなったっていいとさえ思う。

しかしまりさは群れを選べと言う。
自分ひとりのために、群れ全体を犠牲にすることは出来ないという判断だった。

どちらを選んだらいいか、れいむにはわからなかった。
まりさはじっとれいむを見た。
無言で、青を選べと伝えていた。

それはれいむにも伝わったようだった。

「ごめんねぇ……まりさ……ごめんねぇ……」

仕方なく、れいむは青いキャンディを選んだ。
その瞬間、まりさは少し微笑んだ。
全てを許容したような笑みだった。

「ふーん、絶対つがいを選ぶと思ったんだが、まあいいや。
それよりも、このまりさは気に入った。ここで潰すより、楽しめそうだ」

人間はまりさを手に持ったまま、踵を返した。

「まってねええ! まりさをかえしてねぇぇ!」
「れいむぅぅ!」

追いすがるれいむ。
人間の手の中に宙吊りになったまりさを見上げながら、大股で歩く人間と併走する。
まりさも、空中でれいむの方を必死に見ていた。

丘を降りた人間は、草むらを突っ切って国道に出た。
停めてあった車に乗り込む。
その頃には、れいむは引き離されて、はるか遠くにいた。

「これから家に帰って、虐待フルコースだ」
「ゆわぁぁぁ!」

乱暴に後部座席に放り込まれるまりさ。
エンジンをかけて、人間が出発する。
まりさの悲鳴は、エンジンの音に掻き消されて聞こえなかった。
一人と一匹を乗せた車は段々小さくなっていき、山の向こうへ消えた。

残されたれいむと群れのゆっくりたちは、呆然としていた。

長ぱちゅりーが追いついて、れいむの様子を見て驚いた。

れいむはまるで生気を失っていた。
体中から全ての力が抜けたようになって呆然とした表情でまりさと人間が消えた方角を見つめていた。
心なしか餡子もへたっているようだった。

「れいむ?」

れいむは答えなかった。

群れのゆっくりたちが集まってきて、大騒ぎになった。
長ぱちゅりーはそっとれいむに寄り添った。


一体何が起こったのか、誰も説明できるものはなかった。
人間は甘い顔で近づいてきて、ゆっくりたちを恐怖の底に叩きいれ、嵐のように去っていった。
まりさも連れ去られた。

誰もが納得できる理由を欲していた。
自分たちの身に起こった不幸を、説明できる現象が欲しかった。
天災なら諦めもつくが、人間の行為を自然のせいにすることはできなかった。

遠巻きに見ていたゆっくりたちは、不思議に思った。
近づくだけで潰されるような、危険な人間がどうしてれいむを潰さなかったのか。
つがいのまりさは連れ去られたというのに、れいむは無事だった。

当事者のれいむは、長の洞窟に篭もりきりだった。
まりさを失くしたショックでただ虚ろな目をするばかりだった。
不憫に思った長ぱちゅりーが、自らの洞窟に一時住まわせたのだた。

多くのゆっくりが説明を求めたが、長ぱちゅりーが会わせなかった。
根掘り葉掘り聞き出すのは、餡子脳に負担をかけることにもなる。

そのうち、こんな噂が立ち始めた。
れいむは、特別なゆっくりだったんだ。
だから、人間と対峙しても生き残ったんだ。

時が経つにつれて人間への具体的な恐怖は薄れ、代わりにそれが引き起こした結果が一人歩きし始めた。
まりさとありすのつがいが殺された。
れいむのつがいのまりさも連れ去られた。
れいむだけが生き残った。

れいむ本ゆんから話が聞けない以上、事件について語るときは憶測が多くなる。
元々精度の良くない餡子脳は、自分たちに都合のいいように事実を捻じ曲げて伝え始めた。

「にんげんさん、こわかったね……」
「あのれいむは、どうしてつぶされなかったの? わからないよー」
「きっと、にんげんより つよかったんだぜ!」
「ちがうわ、れいむはとかいはな ゆっくりだから にんげんがたすけてくれたんだわ!」
「どれもちがうよ! まりさとひきかえに、むれをまもったんだよ!」

どれもこれも尾ひれのついた、罪のない噂話に過ぎなかったが、最後だけは事実に近かった。

ゆっくりたちは襲撃という大きな痛手を乗り越えようとしていた。
自分たちに起こったことが、意味のないただの人間の気まぐれだとは信じたくなかった。
そこに意味をもたせることで、辛い事実にも耐えられるのだった。

れいむは祭り上げられた。
信じたいものを信じるゆっくりたちによって、れいむは英ゆんになった。

もちろんれいむは知る由もなかった。
暗い洞窟の奥で、日がな一日ぼーっとして過ごすだけだった。

長ぱちゅりーが餌を与えると、辛うじて食べた。
このまま回復するまで、放っておいたほうがよさそうだと長ぱちゅりーは判断した。
群れのゆっくりたちは、いつも通りの生活に戻り始めている。

長ぱちゅりーは一息ついて、洞窟の床に体を落ち着けた。
まだ芽吹いたばかりの草が、外の地面に広がっていた。
それが成長した時、この群れがどうなっているのか長ぱちゅりーは静かに思いを馳せた。


2

群れは平穏だった。
一週間が経ち、何ごともなかったかのように以前の生活に立ち戻っている。

れいむたちは長ぱちゅりーの洞窟で食事をとっていた。
そこは崖の下にある横穴で、奥は村の貯蔵庫も兼ねている。
長ならつまみ食いする心配はないと信頼されているためだった。

洞窟の少し奥まったところから、何かを咀嚼する音が響いている。

「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」
「うめっ! はふはふ! むーしゃむーしゃ!」

れいむは虫や木の実を食い散らかしていた。
手当たり次第に口に運んでは、乱暴に噛み砕く。
まだ小さなミミズや、ヤスデが細切れになって地面に落ちた。

「れいむ、もっとゆっくりたべなさい、むきゅ」
「ゆっ、なんだかわからないけど、たべたいんだよ! もっともっとたべたいよ!」
「みんながもってきてくれるごはんはそんなにおおくないんだから、だいじにたべなきゃだめよ」
「わかってるよ!」

あれかられいむは、元気を取り戻していた。
以前のような生活には戻れないが、少しずつ回復している。

まりさと住んでいた家は、辛い思い出があるのでもう住めなかった。
れいむは狩りができないので、そのまま長ぱちゅりーの家に居ついていた。

長ぱちゅりーは体が弱くあまり狩りに行かない。
しかし、ご飯に困ったことはない。
群れのゆっくりたちが、代わる代わる、その日余ったごはんを届けてくれるのだった。

ぱちゅりーが長になったときに出来た奇妙な習慣だった。
豊かなこの森では、小さな群れが暮らすには充分すぎるほどの餌がとれた。
いつからか、狩りに行って余ったごはんを長に「おすそわけ」するようになっていた。

長ぱちゅりーはたいていは群れのゆっくりたちが持ってきてくれるご飯を食べ、保存のきくものは巣の奥に貯蔵する。
万一の時にはここから食料を皆に配るのだった。
皆に余裕がないときは、自分でも狩りに行くことがある。

「みんなとってもゆっくりしてるわ。しあわせー、よ」
「しあわせー!」

二匹は虫を食べ終わると顔を見合わせた。

「これからどうする? ぱちぇはかりにいってくるわ」
「れいむはおるすばんしているよ!」


よろしくね、と言って長ぱちゅりーは去って行った。
長ぱちゅりーが洞窟を出ると、れいむは狭い洞窟の中にぽつんと一人取り残された。

「おるすばんさんはゆっくりしてるね! れいむもゆっくりするよ!」

日はまだ高い。
外の日差しが洞窟の入り口から斜めに入ってきて、地面をわずかに切り取っている。
れいむのあげた声は、洞窟の壁に反響して自分の耳に帰ってきた。

れいむは特にやることがなかった。
もみあげを意味もなくぴこぴこさせたり、のーびのーびしてリボンを洞窟の天井にくっつけたりするが、やがて飽きた。
半分うつろになった目でぼんやりと外を眺めていると、一匹のゆっくりが入口から顔をのぞかせた。

「おさはいるかみょん?」

凛とした声だった。
小ざっぱりとしたみょんが洞窟を覗き込んでいる。
リボンはぱりっとして傷一つなく、銀色の髪はさらさらとゆれ、一本一本が日光に反射してきらきらと輝いている。
逆光の中でもなお美しいその姿に、れいむは一瞬我を忘れていた。

「誰だみょん!」

みょんが叫んだ。
長の住処にいる怪しいゆっくりに一瞬驚いた顔を見せたが、
すぐにれいむを見据えて厳しい顔つきになった。
怪しい動きをすれば体当たりが飛んできそうな雰囲気だった。

れいむは慌ててリボンを揺らしてみょんによく見えるようにした。

「れいむだよ、れいむ! おさのおうちにいっしょにすんでるんだよ!」
「あ……れいむ、あのまりさのつがいの……」

みょんは表情を緩めると、悲しげな顔になった。

「ごめんだみょん。みょんはあのとき、みんなといっしょに 逃げてたみょん。
にんげんに立ち向かったれいむはすごいみょん」

れいむはぽかんとしていた。
実際は何が何やらわからず、その場に残っていただけだったのだが、
いつの間にか群れではそういう評判が広がっていた。

もともと餡子脳で都合のいいことしか覚えられないゆっくりたちだから、
れいむを人間の襲来でつがいを失った悲劇のヒロインと捉える向きもあった。
れいむはあの後一晩まりさのいた巣で過ごした後、長の洞窟に移ったため、
そんな噂があることは知らなかった。

美ゆっくりにほめられて悪い気はしないれいむは、つい調子を合わせた。

「そ……そうだよ! にんげんはつよかったけど、なんとかおいかえしたよ!」
「まりさのことは、ざんねんだったみょん」
「ゆ……」
「元気をだすみょん。ゆんごくのまりさも、れいむをたすけられてよかったとおもってるみょん」

れいむの顔は曇った。
やはり、まだまりさを失ったダメージが残っているようだった。
みょんは空気を変えようと続けた。

「これ、みょんはひとりものだから、いつもかりをするとご飯さんがあまるみょん。
おさに持ってこようとおもったけど、れいむからおさに渡してほしいみょん」
「ゆっくりわかったよ!」

みょんはリボンの隙間から木の実を取り出してれいむに渡した。
長ぱちゅりーから要求したことは一度もなかったが、こうして若い健康なゆっくりは、たいてい長のところにご飯を運んでくるのだった。

用事が済むとみょんは帰って行った。
去り際に、みょんの残したホワイトチョコの甘い香りが洞窟の中にふっと漂った。

れいむは、会ったばかりのみょんがなんだか気になっていた。
呆けたような顔でみょんの出て行った入口を眺める。
ぼんやりと呟いた。

「みょん……どこにすんでるんだろう? またあえるかな?」

長ぱちゅりーが帰ってくると、れいむはみょんが来たことを報告し、木の実を渡した。

「あのこ はいつも、ご飯をもってきてくれるのよ。
つがいもいないのに、よくやってくれてるわ。すごくゆっくりしたゆっくりよ」
「またくるかな、ぱちゅりー」
「たいようさんが しずんで、またのぼってくればあえるわよ」
「ゆわー……ゆゆ、なんでもないよ!」

れいむは慌ててもみあげで口を塞いだ。
ぱちゅりーにみょんのことが気になっていると知られるとなんだか恥ずかしい気がした。
ぱちゅりーはきょとんとしていた。

その次の日、長ぱちゅりーが出かけ、れいむが巣に残っていると、みょんがやってきた。

「おさはいるかみょん?」
「みょん、ゆっくりしていってね!」

れいむは木の実を受け取ると、みょんに聞いてみた。

「みょんはいつからご飯をとどけにきてるの?」
「みょんは このあいだ、はるさんがきたときに ひとりだちしたみょん。
さいしょは うまくむしさんを とれなかったけど、だんだんご飯がいっぱいとれるように なってきたから、
おさにわけて あげるんだみょん」
「みょんはすごくゆっくりしてるね!」

れいむが思わず叫ぶと、みょんは面映ゆいような表情で、

「おさはみんなのやくに立ってくれてるみょん。みょんたちもおんがえししなきゃいけないみょん」と言った。

れいむは、みょんのその言葉を健気だと思った。
自分のことはさておいて、一人で狩りをして群れの事も考えているみょんを素直に偉いと思った。

「れいむは、かりができないからみょんはすごいとおもうよ!」
「そんなことないみょん……」

みょんの白い皮がさらに白くなり、白いチョコが透けて見えた。照れているようだった。
それを隠すようにやや強い口調で、

「れいむはおさとすんでるみょん?」と訊いた。

れいむは少し顔を背けた。

「うん……おうちにいてもかなしいし、かりもできないから……
おさにはほんとに良くしてもらってるんだよ」
「そうかみょん、おさはやっぱりもりのけんじゃだみょん」

みょんは長のことを尊敬しているようだった。
れいむも頷いた。
長のところで暮らすことも始めは不安だったが、分け隔てなく接してくれる長ぱちゅりーは優しかった。
まりさの辛い思い出も、消えないけれど楽になっていくような気もした。

「じゃあ、もういくみょん」
「あ……」

とれいむが声を上げたが、すぐに「なんでもないよ!」と言ってごまかした。

みょんはにっこり笑って跳ねて行った。

れいむは「また明日も来るの?」と聞きたかったが、何となくうまくいえずに飲み込んでしまった。

れいむは、寂しかったのだった。
ぱちゅりーがでかけてしまってからは話し相手もおらず、日中は洞窟の中でじっとして過ごす。
ゆっくりしてはいるが物足りなかった。
そんな生活に現れたみょんが、まぶしく見えた。


次の日、外は大雨だった。
うっすらと雨に煙る木々が森の奥まで続いている。
その景色を見ていたれいむのあんよに、洞窟の入り口に降りかかった雨粒が入り込んできてぶつかった。

「ほら、そんなところにいるとぬれるわよ」

長ぱちゅりーが洞窟の奥から声をかける。
冷たく湿った空気がれいむの肌を撫でてひやりとした。
れいむは洞窟の奥に戻る。

「ぱちゅりー、きょうはおそとにでれないね」
「しょうがないわ、いちにちくらい何も食べなくてもしにゃしないもの、むきゅ」

長ぱちゅりーは目を閉じてじっとして、空腹を抑えている。
エネルギーをなるべく消費しないようにしていた。

そのすぐ後ろには、木の実や乾いた葉が山と積まれている。
れいむがそれに眼をつけた。

「ぱちゅりー、おなかすいたよ! そこのごはんさんたべようね!」
「だめよ、れいむ」
「どぼじで!?」
「これは、ご飯さんがとれなくてみんな おなかがすいたときのためにあるの。りかいできるかしら?」
「ゆぅ……でも、このままじゃおなかがすきすぎてしんじゃうよ!」

ぱちゅりーはため息をついた。

「そうね。あしたも雨さんがふっていたら、仕方がないからすこしだけ食べましょう。
でも、ほんとにすこしよ」
「ゆっくりわかったよ……」

れいむは空腹で目が回りそうになっていた。
そういう時は、だんだん気分が滅入ってくる。
れいむは物思いに沈んでいった。

まりさの最期の場面が、れいむの餡子脳に蘇ってきた。
人間に連れ去られて、大きなすぃーに乗せられるまりさ。
あの恐ろしい人間にさらわれたら、もう助かることはないだろう。
人間のすみかで苦痛を与えられているまりさを想像して、
れいむはゆっくりできない悲しい気持ちになった。

まりさがいた頃はいつもゆっくりしていた。
家の中で時間を過ごしていても苦にならなかった。
やがて授かるおちびちゃんや、自分の得意な子育てのことなどをあれこれと考えているうちに、時間は過ぎた。

そのうちまりさが帰ってくると、心底幸せな気持ちになった。
ご飯を食べて、すーりすーりで愛情を確かめ合い、眠りに就いた。

ここにまりさがいてくれたらと、真剣に思った。
何でもないゆっくりの普通の暮らしが貴重なものだったということを、れいむは今頃になって理解した。
今は、あの頃一人で待っていたときの何倍も辛い。

れいむは幸せな記憶に浸ったまま目を閉じて、倦怠感に身を委ねた。
それは心地よく感じられ、すぐに意識を失った。


太陽が昇った。
日差しが葉の間を抜けて森に差し込む頃、
まだぬかるむ地面を器用に水たまりをよけながらみょんが跳ねて来た。
疲労と空腹でうとうとしていたれいむは、温かい日差しそのままのみょんの声を聞いて目覚めた。

「おさ、だいじょうぶかみょん? れいむ、ゆっくりおはよう。」

みょんが洞窟の入り口に姿を見せる。
朝日に照らされたみょんの姿が、れいむには救いの神のように見えた。
餡子の中に温かいものが広がっていくのを感じる。

みょんの視線の先を振り返る。
洞窟の奥で漬物石のようにじっとしていたぱちゅりーが目を開けた。

「ゆっくりおはよう。わざわざわるいわね、みょん」

長ぱちゅりーも、何も食べずに過ごしたようだった。
口から出たのはか細い声だった。
背後の木の実は減っていない。

「おさはだいじょうぶかとおもって、雨さんがあがったらすぐにこっちにきたみょん。
とちゅうでご飯をとってきたみょん」

そう言うと、頭の上に載せていたものをどさりと地面に下ろした。
頭のないイモムシだった。
節がいくつもあって、丸々と太っている。

それを見たれいむが少し元気を取り戻して叫ぶ。

「ゆわぁ~、おっきいむしさんだね!」
「あなた、ご飯は?」
「いそいできたから、まだだみょん。これからみょんのぶんをとるみょん」
「むきゅ、ありがとうね」

長ぱちゅりーが申し訳無さそうに言う。

「これくらい、何でもないみょん。それよりおさがお腹をすかせてないかしんぱいだったみょん」
「そうね、ありがとう。いただくわ。れいむも食べましょう」
「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」

れいむはすでにイモムシを顔を上げずに夢中でかじっている。
みょんはれいむのそんな姿を見てくすりと笑った。

「じゃあ、これで」

みょんは帰ろうとした。
振り向いて自分の巣に帰ろうとしたあんよが、一歩目を踏み出す時によろめく。

れいむが顔を上げてみょんに近づいた。

「みょん、だいじょうぶ?」
「へいきだみょん……」

みょんの顔は蒼白になっている。
れいむたちと同じように昨日一日何も食べずに、その上長の洞窟まで急いで来たのだから当然だった。
返事をする口元もおぼつかない。

それを見た長ぱちゅりーは、後ろの山から木の実を少し取った。
みょんに渡す。

「むりしないで。これをたべなさい、むきゅ」
「これは、むれのみんなが こまったときの、ご飯だみょん?」
「そうよ。お腹が空いてうごけないときに たべるの。
今のあなたにぴったりじゃないかしら?」

みょんはうなずいた。
お礼を言って木の実を口に詰め込むと、味わって噛み締める。
口の中が乾いていて食べにくかったが、何とか飲み込んだ。

腹がくちくなると、急激に眠気が襲ってきた。
みょんは半目でうとうとしながらぱちゅりーにもう一度お礼を言った。

「とってもおいしいみょん……。おさ、ありがとうだみょん……」
「みょんははたらきものね。すこしくらい ゆっくりしてもばちはあたらないわよ、むきゅん」
「でも……」

みょんは何となく遠慮してしまった。

すると、今まで黙っていたれいむがいきなり「ゆっくりきいてね!」と叫んだ。
何ごとかと思ったみょんと長ぱちゅりーが振り向く。
れいむの開いた口から、歌声が聞こえてきた。

れいむは歌を唄った。
子守唄のような、ゆっくりしたテンポの歌だった。

ゆっくりたちは、少しの間聞き入った。
それは人間が聞いても平板な一本調子の音に過ぎない。
だが洞窟の中のゆっくりたちは心地よさそうな顔をしていた。

れいむもれいむなりに、みょんを心配していたのだった。
長ぱちゅりーがみょんを見ると、いつの間にか安らかな顔で眠っている。
ぱちゅりーはむきゅとひとつ息をついた。

自分も昨日から何も食べていないことを思い出す。

みょんの持ってきたイモムシを食べようと辺りを見回した。
洞窟の中のどこにも見当たらなかった。
歌い出す前に、れいむが全て食べてしまっていた。

「れいむ……やったわね……」
「ゆゆ? れいむのおうたをきいてゆっくりしてね!」

長ぱちゅりーは絶句した。
れいむのことを褒めればいいのか、呆れればいいのか、怒ればいいのか、わからなかった。
当のれいむは悪びれずに歌い続けている。

「むっきゅぅぅぅぅ!」

やりきれない叫びが歌声を掻き消して、洞窟の入口から森へと響いた。


3

それかられいむとみょんは長の巣で、前にも増して頻繁に話すようになった。
長ぱちゅりーは狩りに出かけることが多くなった。

今まで長ぱちゅりーが狩りに出かけるのは、餌が足りない場合に限られていた。
何らかの事情でご飯を届けに来るゆっくりが来れなかった場合に、普通のゆっくりのように狩りに出かけていた。
しかしれいむが居候するようになってからは、二匹分の口を養うために頻繁に狩りに出ている。

今日も長ぱちゅりーは狩りに出かけている。
長ぱちゅりーがいない間に、二匹は親密の度合いを深めていった。

「すーりすーり、しあわせー!」

二匹は、体を寄せ合ってほおをすりつけあう。
周りが目に入らないほど至福の表情をしている。

「ゆゆ~ん、きょうもきてくれたんだね!」
「れいむのかおがみたかったみょん」

二匹の間には、べたべたの餡子のような時間が流れていた。
体をぴったりくっつけて、どうでもいいようなことを喋っている。
お互いに目があうと、恥ずかしそうに視線をそらした。

みょんが思い出した風にリボンを揺らした。
そこから木の実が転がり出てくる。

「最近、おさへのご飯があとまわしになってるみょん。
おさにわたしておいてほしいみょん」

れいむは少し不機嫌になった。

「みょん、ご飯さんなんてとってるじかんがもったいないよ!ふたりはもっともっとあいしあいたいんだよ!
こんどからご飯さん持ってこなくていいから、ちょくせつきてね!」

みょんは困惑した。

「でも……おさには むれのみんなが おせわになってるから、ご飯をとどけるのは あたりまえのことだみょん」
「どぼじでそんなこというの!? れいむはみょんをあいしてるんだよ! 
ふたりのじかんが かりでなくなっちゃうのが いやなんだよ!
みょんはれいむのことあいしてないの!?」

面と向かって愛していると言われて少し照れるみょんだったが、何とかれいむをなだめようとした。

「れいむのことはもちろん だいじだみょん。でも、おさがこまってしまうみょん」
「れいむとおさとどっちがだいじなのぉ!」

れいむは子ゆっくりのように聞きわけがなかった。
ぴょこぴょこと地団駄のようなものを踏んで、もみあげを上下させながらその場で飛び跳ねる。
みょんは、れいむのこんな姿を見たのは初めてだった。

「も、もちろんれいむだみょん。だからなかないでほしいみょん」

顔を歪めてしゃくりあげるれいむに、みょんは優しく話し掛けた。

「みょんもれいむのことが好きだみょん。でも、かりをしなかったら、おさのところにくるこうじつがなくなっちゃうみょん?」

みょんはれいむが納得しそうな理由を言ってみた。
するとれいむは機嫌が良くなったようだった。
いきなり顔を上げて、ぱあと顔を輝かせる。

「そうだよねっ! ひめられた ふたりのかんっけいは いっそうはげしく もえあがるんだよ!」

よくわからなかったが、れいむが元気になったのでみょんはほっとした。

「じゃ、みょんは帰るみょん。そろそろおさも帰ってくるし」
「ぱちゅりーにみつかったらたいへんだよ! ゆっくりしていってほしいけどまたね!」


二匹はどんどん仲が良くなっていった。
結局みょんは狩りをやめる。
れいむがあまりに頼むので、しぶしぶ承知したのだった。

その代わり、みょんはれいむに狩りを教えることにした。
長ぱちゅりーがあさごはんを食べているうちに洞窟に来て、れいむを呼ぶ。
二人きりになれるのが嬉しいのでれいむは張り切って出かけていく。
れいむがこれから一人で生きていくのに困らないように教えるというみょんの発案だった。

(あらあら、すっかりなかよしさんね、あのふたり)

長ぱちゅりーも、今度はみょんが強く言うので、狩りに出かけるのをやめた。
体が弱い長のことを心配しているようだった。
自分が長の分もとってくるからと張り切っていた。

ぱちゅりーもそれを承知した。
れいむが自分のご飯は自分で取れるようになったので問題はなかった。
今までどおり、何とか暮らしていける。

長ぱちゅりーはみょんのことを信頼していたので、口出しはしなかった。
何より、洞窟の中で塞ぎがちだったれいむが、毎朝狩りに出かけて元気そうに帰ってくるのを見て安心していたのだった。

(みょんになら、むれをまかせられるかもしれないわね)

そんなことさえ、長ぱちゅりーは思い始めていた。

長ぱちゅりーはここ数日、狩りに出かけているときに、自分の体力の衰えをひしひしと感じていた。
美味しそうな木の実を見つけて持ち帰ろうとしても、その重みがずしりと頭にのしかかった。
かつては飛び回る蝶々くらいはおさげで捕らえられたものだったが、
今では葉の上の幼虫や地面をのろのろ這うイモムシくらいしか捕れなくなっていた。

引退の時期が近づいてきたと長ぱちゅりーは感じていた。

空がにわかに曇り始める。
灰色にぼやけた空から雨が降り出した。


しのつくような雨が、二匹を足止めしていた。
狩りに出かけたれいむとみょんは、長の洞窟には帰らずに、みょんの巣に来ていた。
途中で急に雨に降られて、近い場所にあったみょんの巣に駆け込んだのだった。

二匹は地面から張り出した木の根が作る屋根の下にちょこんと収まっていた。
土に埋まっていた根が雨によって土が削られ、露出している。
れいむは巣に入ったときから異様な雰囲気を漂わせていた。
みょんの方をちらちらと見てそわそわと落ち着きなくあんよを持ち上げては落としている。

「おさ、しんぱいしてるみょん。はやく、雨さん やんでほしいみょん」
「そんなことよりすーりすーりしようね!」
「ゆっ? でも」
「いいんだよ!」

れいむが隣にいるみょんに体を近づける。

「ゆふぅ、みょん、みょん」
「ゆゆゆ、れいむどうしたみょん? やめるみょん!」

れいむは我慢の限界だった。
実ゆが風で落ちてしまって以来ずっとすっきりしていない。
その後人間が来てすっきりをするまりさがいなくなってしまった。
それ以来、どたばたしていて忘れていたすっきりしたい気持ちが、急激に頭をもたげてきたのだった。

今にもれいむはみょんを襲おうとしていた。
れいむの目は血走ってみょんの白い皮を凝視している。
興奮で荒くなった息がみょんの顔にかかった。

「みょんのおはだすべすべだよ……もうがまんできないよ!」

れいむの表面からは、うっすらと甘い分泌物がにじみ始めていた。
みょんの白い肌になすりつけると、よりいっそう滑り始める。

れいむがみょんを一方的にすっきりさせる形になった。
みょんは体をよじって逃れようとするが、大きな動きができない。
半ば上から押さえつけるようにれいむがのしかかっていた。

「ゆっ、ゆっ、すっきりしようね!」
「れいむ、こんなのへんだみょん!」
「なにいってるのぉ! みょんはれいむのことあいしてないのぉぉ!?」

れいむは動きを止めて凄い形相で叫んだ。
一瞬みょんはびくりとして抵抗を止めた。

「そ、そうじゃないみょん、でも、こういうことは、もっとゆっくりしてから……」
「そんなことないよ! おそすぎたくらいだよ! ふたりのあいっじょうをたしかめるのになんにもわるいことなんてないよ!」
「み、みょん……!」

れいむは再び激しく動き始めた。
たぷんたぷんとあんこが打ちつけられて揺れる。
みょんは目を閉じてじっと耐えている。

森には雨音が静かに囁いている。
その中に、れいむのあげた頓狂な声が長く伸びた。

「すっきりー!」


雨は翌日になっても降り続いていた。
長の洞窟ではぱちゅりーが一匹で雨の止むのを待っていた。
二匹は帰ってこない。
みょんもれいむも姿を見せなかった。

長ぱちゅりーは少し心配だった。
みょんはしっかりしているが、れいむはお調子者だ。
ふたりっきりになって、もしかしたらすっきりしてしまったかもしれない。

つがいになるかどうかはわからなかった。
れいむには赤ゆがいない。
れいむがまりさとの間に子供を設ける前にまりさは人間に連れ去られてしまった。
風で実ゆが落ちていなければ、あるいはしんぐるまざーとしてのゆん生を歩んでいたかもしれなかった。

しかしれいむとみょんはすでに出会ってしまっていた。
若い二匹を止められるものは群れにいなかった。
長は再び外を見て、溜息をついた。


みょんの家はあまり上等な巣ではなかった。
柔らかい土は雨を素通りさせ、木の根を潤し、れいむの皮を濡らしていた。
れいむは悪態をついて湿った壁から離れた。
あまり長い間触れているとふやけてしまいそうだった。

隣ではみょんがじっと空を見あげている。
その頭には茎が生え、実ゆが何匹か寒々しい空気にさらされてかすかに揺れていた。

れいむはみょんのほうへ近づいた。

「れいむとみょんのおちびちゃんはとってもゆっくりしてるね!」

みょんの頭上の実ゆはまだ丸いお餅に目鼻がついただけの単純な作りで、
中心部にはうっすらと餡子が透けて見えていた。
その色は黒と白の二種類あり、四匹のうち三匹が黒だった。

「ゆっくりそだてようね!」
「みょん……」

みょんは目を合わさずに頷いた。
れいむに脅えているようにも見える。
先日の、半ば無理やりすっきりさせられた時の恐怖がまだ残っていた。
こうしている時のれいむは優しいのに、昨日のれいむはれいぱーのようにぎらぎらした目ですっきりしようとした。

みょんは何かの間違いだと思おうとした。
急にあんな風に豹変するなんて、れいむの優しい性格からは考えられない。

きっと、初めてのすっきりだったから少し興奮してしまったのだろう。
現にれいむは、何事もなかったかのようにふたりのおちびちゃんを祝福してくれているし、
雨が止んだら、動けないみょんとおちびちゃんのために狩りに行ってくれることになっている。

そうだ、ちょっと興奮してしまっただけなんだ。
みょんが赤ゆのころのかすかな記憶に、両親がささいなことで噛みつきあって大喧嘩したことがあった。
ふたりとも翌日にはけろりとして仲直りしていた。

多分、つがいにはよくあることなんだろう。
みょんは、自分に檄を飛ばした。
これくらいで自分がくよくよしているのを見たら長も呆れてしまう。
もっとしっかりしなくては。

隣では、れいむがまた歌を唄っていた。


雨が上がった。

長ぱちゅりーは張り切っていた。
れいむの暴走など知らずに、みょんの巣へ向かう。
みょんに長の心構えを色々と話して聞かせようとしているのだった。

長ぱちゅりーは、自分の後を継げるのはみょんしかいないと最近強く感じている。
当然みょんも承知してくれるものと思っていた。

長ぱちゅりーは、雨上がりの土の上を歩いている。
遠くからみょんが巣の中に居るのを見つけた。
近づくにつれ、巣の中にいるみょんの様子がおかしいことに気付く。

みょんは長ぱちゅりーに気がつくと、顔をそちらに向けて笑った。
その頭には大きな茎が生えていた。

長ぱちゅりーは仰天して跳びあがった拍子に水たまりにあんよを突っ込んでしまった。
巣の中から出てきたみょんが駆け寄ってきて、長を助け出す。

「しっかり、おさ」
「む、む、むきゅ……」

泥まみれになって水たまりから引っ張り出すと、みょんは長にたずねた。

「わざわざ来てくれてありがとうだみょん、きょうはどんなごようだみょん?」

ぱちゅりーは、泥を吐き出しながらしかめっ面で答える。

「ありがとう、むりしないで。おちびちゃんがおちちゃうわよ。
それより、れいむとすっきりーしたのね」

みょんははっとした顔になって、ゆっくりと恥じらいを含んだ微笑みを浮かべた。

「いいのよ、だれもすっきりするな なんて言うゆっくりはいないわ。
でも、あなたからすっきりしたいと言ったのかしら?」

みょんは首を横に振った。

「そう、やっぱりね。とにかく中に入りましょう」

巣の中は水たまりと大して変わらなかった。
乾いたところを見つけて長を座らせると、みょんも腰を落ち着けた。

「きょう来たのはね、あなたにそうっだんがあってきたのよ」
「そうっだん?」
「ゆゆ、ふたりともなにはなしてるの? ゆっくりきかせてね!」

れいむが口を挟んできた。
にっこり笑ってみょんと長ぱちゅりーの間に割り込んでくる。
基本的に寂しがり屋でのけ者にされるのが我慢ならない性質だったので、みょんたちの話に興味はないが聞いてみたのである。

「あなたにはかんけいのないおはなしよ」と長ぱちゅりーは一蹴した。
「どぼじでぇぇ!」
「ごめんだみょん、れいむ。ちょっとそこらへんでうろうろしてきてほしいみょん」
「ゆゆゆ! もうおうちかえる!」

れいむは出て行く素振りを見せた。
木の根の下から出て少し跳ねたところで振り向く。
そしてまた戻ってきた。

「ゆっ、れいむのおうちはこっちだったよ!」

二匹はぽかんとしていたが、みょんが「おさのじゃましないならいいみょん」と言ったので結局一緒に話をすることになった。
と言ってもれいむはそこに居るだけで、話すのは長ぱちゅりーとみょんだった。

長ぱちゅりーは気を取り直した。
少し間をおいて、

「ぱちぇもそろそろ、としをとってきたわ」と言った。
「まだまだ元気だみょん」
「ありがとう、でもね、かりもできないゆっくりが、みんなのおさになってはいけないわ」

みょんは長が何を言っているのかわからなかった。

「このあいだ、いもむしをとろうとしたら、にげられたわ。
べつのはっぱをたたいてしまたの。もうめがわるくなってきてるのね」
「み、みょん」

長ぱちゅりーはいきなりみょんを見据える。
その勢いにみょんは少したじろいだ。

「いい。おさは、じぶんのことより むれのみんなのことをかんがえられる
しっかりしたゆっくりでなくては つとまらないのよ。」
「みょん?」
「ぱちぇは、あなたがそうだとおもってるわ」

みょんは驚いた顔をさらにぽかんとさせた。

「あなたをつぎのおさににんっめいするわ。りっぱにやってちょうだい」
「ちょっとまつみょん!」

ばちゃばちゃと水しぶきを跳ね散らしながら長に近寄るみょん。
頭の茎が危なっかしく揺れる。

「みょんには むりだみょん。もっとおさに ぴったりなゆっくりが いるはずだみょん」
「いいえ、ぱちぇはもうきめたわ。みょんがいやだといっても おさになってもらうわ」
「み、みょん……」

長の命令は絶対だった。
みょんは一瞬言葉に詰まるが、ぐっと唇を引き結んだ。

「むれのみんなにきくみょん。だれがおさにぴったりなのか、
むれのみんなのことをかんがえるなら、そうするべきだみょん」

今度は長が言葉に詰まる番だった。
驚いたような顔でみょんを見る。

みょんも、不遜にならない程度に強い視線で長を見返した。
やがてぱちゅりーがふっと息を吐いて「まけたわ」と言った。

「あなたのいうとおり、むれのみんなをあつめて、おさになるゆっくりをきめましょう。
あなたがえらばれたら、かんねんするのよ?」
「みょん!」

みょんは爽やかに答えた。

れいむは退屈そうに聞いていた。
水たまりを叩いて波紋を眺めたり、蝶々を追ってあちこち動き回るので、
話している長ぱちゅりーにとっては鬱陶しいことこの上なかった。
話が終わったようだと察すると、みょんに話しかけてきた。

「みょんどうしたの? おさになにかいわれたの?」
「ううん。でも、おさになってくれってたのまれたみょん。
みょんはみんなにきいたほうがいいとおもうっていったら、おさがしょうちしてくれたみょん」
「ゆゆゆ? だれでもおさになっていいの?」
「えらばれればのはなしよ。むきゅ」

長ぱちゅりーが注釈を入れるが、れいむは聞いていなかった。
期待を顔に浮かべて叫ぶ。

「れいむもおさになるよ! おさになれば、もっといっぱいごはんがたべられるよ!」

(それに、みょんにもっとすきになってもらえるよ!)

「れいむがおさに?」

長ぱちゅりーは唖然とした。

「みょん、いいとおもうみょん!れいむはむれの英ゆんだみょん!
みんなさんせいしてくれるとおもうみょん!」

みょんが賛成する。
つがいのれいむが立派なゆっくりになることが嬉しかった。

「むきゅ、じゃあぱちぇはみんなにしらせてくるわ。おかのうえにあつまってちょうだい」

長ぱちゅりーは釈然としない表情で去って行った。
途中で帽子に傷のあるまりさと会うと、今の話を伝え、傷まりさは群れ中に伝えた。

そうして数時間後には、群れ中のゆっくりが丘の上のイチョウの木の下に集まっていた。
全ゆんがこの広場に集まるのは、人間が来た時以来だった。
三十匹前後のゆっくりが、木の根元にいる長ぱちゅりーたちを取り囲むように半円を作っている。

長ぱちゅりーの右側には、長に名乗りを上げたゆっくりたちが立っている。
みょんとれいむと、ちぇんが一匹だった。

長ぱちゅりーは、大きくはないがよく通る声で話し始めた。
ざわざわとお互いに喋っていたゆっくりたちが静かになる。

「そろそろぱちぇはおさをやめなくてはならないわ」

ざわめきが再び大きくなった。
少し待ってから長ぱちゅりーは続ける。

「あたらしいおさになるゆっくりをみんなにえらんでもらうわ。
ここにいる さんにんのなかから えらんでちょうだい」

そう言って長ぱちゅりーは隣にいるみょんのほうを見た。

「こうほは、このみょんと……」

視線が右に流れて行って、次のゆっくりを捉えた。

「れいむと」

れいむは、相変わらず期待に満ちた顔で待っている。

「ちぇんよ」

ちぇんは、話を聞いて立候補したまだ若いゆっくりだった。
緊張してがちがちになっている。

「むれのみんなは たくさんよりたくさんいるから、かぞえきれないわ。
だから、おさになってほしいゆっくりのなまえをよんだときに、一回だけこえをあげてちょうだい。
その声の大きいゆっくりが おさということにするわ」

今や広場はゆっくりたちの囁きでうるさいほどだった。
どのゆっくりも、小さな頭を必死にめぐらせて、群れの行く末を担う長を思い浮かべている。
長ぱちゅりーがざわめきの中に錨を投じるように言葉を発した。

「決まったかしら?では、ちぇんをえらぶというもの」

広場は少し静まり返った。
ちぇんはあまり人気がなかった。
ちらほらと「ゆっ」「ちぇぇぇぇん」などの声が聞こえてくる。

「では、みょんをえらぶもの」

先ほどより多くの声があがった。
何匹かのゆっくりは、みょんのしっかりした性格を知っていて、声をあげていた。
見た目が美ゆっくりだということも大きかった。
長ぱちゅりーは満足そうにうなずいている。

「では、れいむをえらぶというもの」

わっと広場中から歓声が上がった。
次々とゆっくりたちが飛び跳ね、れいむの名を叫んでいる。
群れの大半が声をあげていた。
今までで一番大きい音だった。

勝敗はあっさりと決した。
当のれいむはぽかんとしている。

苦々しげに長ぱちゅりーが言った。

「おさは、れいむにきまりよ」

ちぇんはがっくりとうなだれて「わからないよー」と呟いた。
自信があったのだろうが、長にはまだ早かったようだった。

ぱちゅりーも期待を裏切られてショックを隠し切れなかった。
落胆した表情だった。
みょんの方を見ると、こうなることが分かっていたように微笑んだ。

「ぜったい、あなたがえらばれるとおもったのに」

ぱちゅりーはあきれたのと悔しいのと半々の顔でみょんを恨めしげに見た。

「れいむはにんげんに たちむかった英ゆんだみょん。とうぜんだみょん」

みょんはあくまでれいむが長になることを疑っていなかったようだった。

もう長ではなくなったぱちゅりーはがっくり老け込んだようだった。
元から小さい体がさらに小さくなって、しぼんでしまいそうに見えた。

もはや結果は出たのに、未練がましく弱々しい声で言う。

「みょんがおさになってくれるとおもったからこそ、ぱちぇはおさをやめたのよ?」
「みょんは おさなんてがらじゃ ないですみょん」
「ぱちぇは、れいむが そうだともおもわないわ」

ぱちゅりーはぴしゃりと言う。
声だけが一瞬かつての張りを取り戻したようだった。

「だいじょうぶだみょん。れいむはやさしいゆっくりだみょん。
きっとむれのためになってくれるはずだみょん。みょんもそばでそれをおてつだいするみょん」
「そうね。そうだといいわね……がんばるのよ、むきゅ」

ぱちゅりーは諦めたのか、みょんの言葉を受け入れた。
みょんは満面の笑顔で頷く。

「みょん!」

歓声は鳴り止まず続いている。
れいむはいつの間にか引きずり下ろされて、胴上げのようにゆっくりたちの間を運ばれていた。
その笑顔は、振って湧いた歓喜と栄光に酔っているように、ぱちゅりーには思えた。


4

数日後。

長の洞窟の前で子ちぇんが遊んでいる。
ちょうちょを追いかけていて、洞窟の入り口に気付いた。
ひらひらと飛ぶちょうちょは、洞窟の中に入って行った。

恐る恐る中に入ろうとすると、後ろから声をかけられた。

「ゆゆ? ちぇんのおちびちゃん、なにやってるの?」
「わ、わきゃらにゃいよぉー!」

子ちぇんは後ろに立っていたれいむを見るなり一目散に逃げ出してしまった。
新しい長のことは、まだよく知られていないようだった。
子ちぇんは臆病なので、長を勝手に怖いゆっくりと思い込んでいた。

代替わりしたれいむはこの洞窟を受け継ぎ、ぱちゅりーは近くのもっと小さい巣に移った。
それからみょんとの新しい生活が始まった。

長の仕事は想像以上に退屈だった。
基本的に、何か事件が起きなければ長がリーダーシップを発揮する機会はない。
群れの全ゆんがめいめい狩りをこなし、その日を無事に暮らしている限り長はそれを見ているだけでよかった。

群れは何の変化もなかった。
日々成長していく、洞窟の周りの草木がわずかずつ背を伸ばしているだけだった。

いや、変化はあった。

みょんの頭に実った実ゆが着実に成長していた。
少し大きくなり、目も口もはっきりわかるようになってきた。
皮も厚くなりうっすらと薄桃色に色づいている。
小さな小さなリボンが三匹の頭についている。
残りの一匹はみょんに似て、黒い新芽のようなリボンが頭からちょこんと生えている。

みょんはその姿を見つめているだけで幸せだった。
無理矢理すっきりしたことによるわだかまりは残っていなかった。
れいむは、今はむしろ以前よりみょんに優しいほどだった。

呼吸に合わせて揺れる茎からすずらんの花のように連なって実ゆがぶら下がっている光景を見ると、溜息が漏れる。
れいむが狩りに出かけている間も寂しくなかった。

「ゆゆ、ごはんとってきたよ」

れいむは洞窟に入った。
疲れた様子でリボンと頭の間に木の実を乗せている。

「おそかったみょん? どうしたみょん」
「ゆっ、ちょっとすばしっこいむしさんがいたんだよ! くろうしてつかまえてきたんだよ!」

みょんに教わったとはいえ、れいむは何しろあまり狩りが得意ではなかった。
普段の倍以上かけて狩りをした割に、頭の上のご飯の量は多くなかった。
むしろやや少なめだった。
しかしみょんが動けないから、自分がとりに行くしかないのである。

長の生活は、思ったよりゆっくりしていない。
れいむはそんなことを思っている。
それは無計画にすっきりしたゆえの苦労だったが、れいむはそんなことをいちいち覚えていなかった。

「みょんがうごければ、いっしょにかりにいけるみょん。れいむ、ごめんだみょん」
「なにいってるのぉぉ! みょんは おちびちゃんをゆっくりそだててね!
むりしないでね! おちびちゃんが おちちゃったらたいへんだよ!」
「ゆゆ、わかったみょん」

みょんはれいむの優しさを見たような気がした。
おちびちゃんのこととなると、れいむは途端に大袈裟になる。
それがみょんはおかしくもあり、大切にしてくれていると思うと、嬉しくもあった。

その時、誰かが入口の前に来た。
洞窟の入口から入ってくる光が遮られる。
一匹のまりさが洞窟を訪れた。

「れいむ、いるのかぜ」

そのまりさは帽子に傷があった。
円錐形の帽子の中央あたりに長い穴が空いている。
穴の縁はほつれてぼろぼろになっていて、長い時間が経っていることを思わせた。

「ここのところ、ごはんさんが あんまりとれなかったから、れいむのところに いけなくてごめんだぜ。
ぱちゅりーは いんったいしちゃったけど、れいむにも がんばってほしいのぜ」
「ゆゆ~ん、ごはんさんはとってもゆっくりしてるね!」


れいむはよだれを垂らしながら、傷まりさの持ってきたご飯を眺めた。
みょんが後ろから傷まりさに挨拶する。

「まりさ、ありがとうだみょん。もうすぐおちびちゃんがうまれるから、とてもたすかるみょん」
「いいんだぜ。じゃあこれで」

傷まりさは去っていく。
見送るみょんの後ろで、傷まりさの持ってきたご飯を早速れいむが食べ散らかしている。
半分くらい食べたところで、急にれいむが顔を上げて叫んだ。

「ゆゆっ!」

れいむは何かを思いついたようだった。
ゆっくりの顔をした電球がれいむの頭の上で点灯してすぐに消える。

「これから、ごはんさんをもっといっぱいもってこさせるよ! そうすれば、れいむはかりにいかなくてすむよ!」

れいむは自分の思いつきに酔い知れている。
ご飯さんが手に入り、みょんに喜んでもらえる。
自分は狩りに行かずにすみ、可愛いおちびちゃんの顔をずっと眺めていられる。
どう見ても完璧な作戦だった。

「まって、れいむ」
「どぼじだのぉ!?」
「そんなことはやめるみょん」

みょんがれいむを諌めた。
いくらなんでも無茶な思い付きだった。

れいむは素晴らしいアイディアを邪魔されて不機嫌だった。

「ごはんさんがいっぱいもらえるんだよ! みょんはごはんさんほしくないの!?」
「ちがうみょん、ごはんならみょんがとってくるみょん、
みんながゆっくりできないことはやめるみょん」
「れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! それにみょんにはおちびちゃんがいるでしょ!
じっとしててね! れいむはみんなにゆっくりしたおふれをはなしてくるよ!」
「ゆっ、まって……」

れいむはヒートアップしたまま巣を飛び出した。

追おうとしたみょんは、入口まで来て断念した。
目の前に、実ゆがぶらさがっていたからだ。
走ったりすれば落ちてしまう。

みょんは言い知れない不安が餡子の奥から湧き上がってくるのを感じた。
既にれいむの後姿は見えない。
群れのみんながれいむのおふれをどう受け取るか、心配だった。

日が沈みかけていた。
地平線の近くは夕陽に照らされて橙色に染まり、上に昇っていくにつれ薄い青に変わる。
そしてその上には、深い夜の色が広がっている。

みょんはうつむいていた顔をはっと上げた。
傾いた陽が差し込む洞窟で、出歩くことも出来ないまま、一日千秋の思いでれいむの帰りを待っていた。
いつの間にか目の前に立っていた影に気付いたのだった。

影はれいむだった。
逆光の中で昼に見たときと変わらない満面の笑顔を浮かべている。
頭の上とリボンの間に山ほど木の実や虫を乗せていた。

「れいむがごはんさんとってきたよ! むれのみんなにいったら、そのばでわけてくれたよ!
あしたになったら、ほかのみんなもとどけてくれるよ!」

みょんは目の前が真っ暗になった。
これではみんなに飢え死にしろと言っているようなものだ。

「みょんたちにはおおすぎるみょん」
「そんなことないよ! もうすぐおちびちゃんがうまれるんだから、みょんは いっぱいたべなきゃだめだよ!
れいむとはんぶんこしようね!」

れいむはみょんの前にご飯を山盛りに置いた。
みょんがそれをじっと眺めていると、れいむはどんどんもう一つの山を食べ始める。

「ひさしぶりにそとにでたからおなかがすいたよ!」

みょんは確かに空腹だった。
こうしている間にも、実ゆが少しずつみょんの餡子を吸い取って自らのものにしている。
目の前のご飯は、とてつもなく必要だった。

みょんは何度もためらった。
しかし、空腹には勝てなかった。
一度食べ出したら止まらなかった。

ご飯の山に顔を突っ込んで、夢中になって食べる。
気がついたら食べ終わっていた。
あれほどあった山が半分以上なくなっている。

みょんはますます落ち込んだ。
れいむを諌めるつもりがれいむと同じことをしてしまった。
れいむをみると、全て食べ終わってのんきそうに寝ている。


翌日れいむは狩りに行かず洞窟でごろごろしていた。
黙っていても、狩りに行くよりはるかに多くのご飯を群れのゆっくりが持ってくるからだった。
ゆっくりたちは、新しい長の苛烈な命令に戸惑いながらも洞窟に顔を見せた。
洞窟の前は集まったゆっくりたちでいっぱいだった。

「ゆわぁ、ごはんさんがいっぱいだよ!」

れいむは積み上げられた餌の前で能天気に喜んでいる。
それは、群れのみんなの一日分のご飯なのだ。

みょんは、昨夜からずっと悩んでいた。
我慢できずに言った。

「ちょっと待つみょん、れいむ」

れいむはにこにこしたまま振り向いた。

「どうしたの、みょん」
「そのごはんさんをみんなにかえしてほしいみょん」
「どぼじでぞんなこというのぉぉお!?」
「じぶんたちのごはんはじぶんでとるみょん。おちびちゃんがうまれたら、みょんもてつだうみょん。
だから、かえすみょん」
「れいむはみょんのためにやってるんだよぉぉ! かえせなんていわないでねぇぇ!」
「れいむ、おねがいだからちょっとかんがえてほしいみょん……」

れいむはなぜかその言葉にかっと来た。
恐ろしい形相でみょんに詰め寄り、怒鳴り散らす。
大きな体が、みょんにすっきりを強要した時のように、今にも押し潰そうとしていた。

「れいむはちゃんとかんがえてるんだよ! それいじょういうとおこるよ!」

みょんは、れいむの巨体が目前に迫っても一歩も引き下がらずにれいむを見据えて言った。

「おこる? おこればいいみょん! おこって、みょんもおちびちゃんもいっしょにつぶせばいいみょん!
どうしたみょん? やらないみょん!?」

みょんは怒っていたのだった。
不甲斐ないれいむと、それを止められない自分に。
単なる挑発ではなく、そのときは本当にれいむを止めるためなら死んでもいいと思っていた。
もうこれ以上、れいむの情けない姿を見たくなかった。

れいむはさすがに勢いを失った。
理解できないものを見るようにみょんを見て呟いた。

「ど……どうしたの、みょん? いつもとちがうよぉ……」

みょんは無言でれいむを睨んでいる。
洞窟の外では群れのゆっくりたちが、固唾を飲んで長とそのつがいのやり取りを眺めていた。

「そ、そんなにおこらないでね! おちびちゃんもつぶれるなんていわないでね!
れいむはみょんにゆっくりしてほしいんだよ! ごはんさんはかえすから、きげんなおしてね!」
「ほんとかみょん?」

緊張で張りつめたみょんの顔に、わずかに喜びの色が広がった。
れいむはそれを見逃さなかった。

「ほんとだよ! ごはんさんはかえすよ! れいむがみょんのためにかりにいくよ! そしたらふたりでむーしゃむーしゃしようね!」

れいむは、喋っているうちに自分でもその気になってきたのか、体を揺らして喜んでいる。
みょんも、それを見て安心した。
分かってくれたと思った。やはり、誠心誠意伝えれば通じるんだ。そう思った。

後ろで見ていた群れのゆっくりたちはぽかんとしている。
れいむが彼らに帰っていいというと、訝りながらもめいめいの持ってきた分をまた持って、巣に帰っていった。

そのとき、自分の分の中から少しご飯を置いていくゆっくりもいた。
みょんに同情した何匹かが、れいむ
そうして残ったご飯を、二匹は仲良く分けて食べた。
充分な量だった。

「むーしゃむーしゃ! しあわせー!」

食べているうちに、みょんは涙が出てきた。
ほっとして気が緩んだのと、群れのみんなの優しさに心打たれたのだった。

れいむは相変わらずがっついている。
さっきのことなどなかったように、能天気な顔のままだった。

みょんは、れいむらしいなと思った。
あの雨の日、洞窟で共に一夜を過ごしてから、少しも変わっていなかった。
危なっかしいところもあるが、二人で力を合わせていけば大丈夫。

みょんは、そう信じていた。

二匹はお腹一杯になるまで食べて、そのまま眠りに落ちた。
久しぶりに、安らかな眠りだった。


さらに翌日、れいむは遅くに目を覚ました。
普通のゆっくりはとっくに狩りに行っている時間だった。
昨日みょんに怒られたので、しぶしぶ狩りに出かける。

日差しが木々の間から斜めに差し込んで、鳥がさえずっている。
鳴き声に混じって、うー、うーという声も聞こえた。
うーぱっくが森の上を飛んでいた。

れいむはそれを見上げていた。
狩りを始めたものの、いっこうに見つからない。
みょんに教わった、草の上、木の根元、草むらの中などのポイントを探したが何も見つけられなかった。

れいむは狩りが下手だった。
みょんのように動き回る虫を身軽に跳ねて捕まえることなどできるはずもない。
森は豊かでも、探す者が見つけれなければないのと一緒だった。

「ゆうう……」

れいむは八方ふさがりに陥った。
みょんにああ言った手前、手ぶらで帰ることなどできない。
そもそも、相変わらずみょんは動けないので、自分がとれないからといって誰も助けてくれないのだった。

そのとき、れいむは一匹のぱちゅりーを見つけた。
少し短いリボンのついた帽子をいっぱいに膨らませて、下草の中を歩いている。
すでに狩りを終えて巣に帰るところのようだった。

「ゆゆ、あんなにたくさんとってずるいよ! れいむはぜんぜんとれないのに!」

またしてもれいむは思いついた。
リボンぱちゅりーの帽子はそうとう大きく膨らんでいる。
あれだけあるんだから、少し分けてもらっても構わないはずだ。

最近のれいむはとっても冴えてるね!
そう思いながられいむはリボンぱちゅりーに近づいた。

「あら、おさ、むきゅ」
「ぱちゅりー、れいむはごはんさんとれないんだよ」
「むきゅ、たいへんね、すこしでよかったらわけてあげられるけど」
「それじゃだめだよ! みょんとおちびちゃんにいっぱいたべさせなきゃいけないんだよ!
いいからぜんぶちょうだいね!」

れいむはじれったくなって、リボンぱちゅりーからご飯を奪った。
帽子をひったくると、中身を地面にぶちまける。
虫や木の実が底のない袋から飛び出して辺りに散らばった。

「むっきょぉぉ! せっかくあつめたのに! やめてぇぇ!」
「おさのめいっれいだよ! これはぜんぶれいむのものだよ! ぱちゅりーはまたあつめてね!」
「そんな……」

れいむはみょんに言われたことを全く理解していなかった。
みんなから集められないなら、ひとりずつ貰えばいいという発想だった。

当然、みょんに言われたことを守っていると思っていた。
なぜならあの場で注意されたことはそれで済んだことであり、
リボンぱちゅりーから奪うのはご飯を確保するために仕方ないと考えているからだった。
全く自らを省みないれいむのゆえの行動だった。

それからのれいむは素早かった。
地面に落ちたご飯をかき集めると、さっさと頭の上に乗せてしまった。
呆然とするリボンぱちゅりーを残して、れいむは意気揚々と去って行った。

洞窟に帰ると、みょんが迎えてくれた。

「むーしゃむーしゃしようね!」
「れいむ、もうすぐおちびちゃんがうまれそうだみょん!」
「ゆゆっ!?」

みょんは興奮している。
さっきから、実ゆがかすかに動いている。
茎の揺れではなく、自力で身じろぎしているのだった。

実ゆは元気に育っていた。
母体の栄養を吸ってピンポン玉くらいの大きさになり、今では赤や黒のリボンがはっきりとわかる。
親たちのミニチュアのように、小さな体にもみあげも、髪も、おかざりも全てが揃っていた。

「ゆふぉおお……れいむたちのおちびちゃん、ゆっくりしてるよぉ……」

れいむはまるで自分の分身を見るかのような熱い視線を実ゆに向けた。
みょんもふたりのかわいいおちびちゃんが生まれてくるのを心待ちにしている。
二匹は寄り添って、しばらく茎にぶら下がった実ゆを眺めていた。

そしてついに生まれる時が来た。
一匹の実れいむがぱちりと目を開ける。
ぶるっと一度身震いをすると、辺りを見回した。

「きゃわいいれいみゅがゆっくちうまれりゅよ!」

その顔は自分がこれからゆっくりしたゆん生を歩むことを欠片も疑っておらず、
生まれたばかりの希望とわけもない自信に溢れている。
大きな目をいっぱいに見開いて、初めて見た外の世界を余すところなく目に焼き付けようとしていた。

「おちびちゃん、ゆっくりうまれてね!」

実れいむは今まさに生まれ落ちようとしていた。
小刻みに体を震わせて、頭につながっている茎から離れるための運動をする。

「おちびちゃん、がんばるみょん」

そうこうしているうちに、他の実ゆたちも目を覚ました。
残りの実れいむが二匹揃って「ゆっくち~!」と叫び、実みょんもそれに続く。

「みんなれいむのかわいいおちびちゃんだよ! れいむににたおちびちゃんはやっぱりかわいいよ!」

「はやくうまれちゃいよ!」
「きゃわいいれいみゅがゆ~らゆ~らしゅるよ!」
「ちーんぴょ!」

実ゆたちは思い思いに体を動かしている。
早く生まれようと体を左右に揺らしたり、茎から見える光景に驚いたり、せわしなかった。

残りの実ゆたちも生まれ始めた。
茎につながった部分がぷつりと切れて、次々に地面に落ちていく実ゆたち。
れいむは一瞬恐ろしいものを見るように体をすくませたが、三匹の赤れいむが無事に降り立ったのを見ると、
この上ない至福の表情になった。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくちちていっちぇにぇ!」

一匹だけその大合唱に参加していない赤ゆがいた。
実みょんはまだ茎にぶら下がったままだった。

「みょんににたかわいいおちびちゃんだね! はやくうまれていっしょにゆっくりしようね!」

実みょんはぷるぷる震えて体を揺らしているが、一向に落ちる気配がない。

「ちんぴょ!」
「どぼじだのぉぉぉ! おちびちゃんどぼじちゃったのぉぉ!」
「れいむ、おちつくみょん」

みょんが少し茎を揺らして誕生を促した。
小さく体を横にゆすると、茎の先に大きな動きとなって伝わる。
それでなかなか切れなかったつなぎ目が切れて、実みょんも地面に落ちた。

「ちーんぴょ!」
「ゆっくりしていってねぇぇ!」

同時にみょんの頭から茎がぽろりと外れて赤ゆたちの前に落ちた。

「ゆわーい!」
「きゃわいいれいみゅがむーしゃむーしゃするよ!」
「いっぱいたべてね! おちびちゃん!」

れいむは赤ゆにつきっきりになっている。
茎がなかなか食べられない赤みょんには、噛み砕いて口移しでご飯を与える。

「ぱちゅりーにおしえてくるみょん!」

みょんは巣を飛び出した。
おさとは、れいむが長になって以来会っていなかったから、挨拶がてら報告に行くつもりだった。
きっと、可愛いおちびちゃんの誕生を我が事のように喜んでくれるだろうと思い、みょんは先を急いだ。

その頃前長ぱちゅりーも、巣を出ていた。
リボンぱちゅりーがれいむにご飯を奪われたことを、前長のぱちゅりーに泣きついたのである。

前長ぱちゅりーは憤慨していた。
やはりれいむは、長になってはいけなかった。
最初からわかりきったことだったのだ。

みょんがそばにいても効果がないようだった。

月明かりの下、れいむの洞窟までの道を跳ねながら、前長ぱちゅりーは誰に言うでもなくつぶやいた。

「だから、いったじゃない……」

前長ぱちゅりーは草むらに差し掛かった。
れいむの洞窟はこの草むらを挟んで、前長ぱちゅりーが今住んでいる巣穴の向かいにあった。
草むらは広く、背の高い柔らかい草が地面を覆っている。
急いでいる前長ぱちゅりーは、草むらを突っ切った。

ほとんど同時に、みょんも草むらを突っ切っていた。
嬉しそうに前長の住む巣穴へ向かう。
二匹は、お互いの姿が見えない草むらを通って、ほんの十数メートル離れた場所を行き違いになった。

土から出たミミズがひからびていた。
みょんはそれを飛び越えて、前長の巣へ向かう。
月がそれを見下ろしていた。


れいむは、洞窟の中でぼんやりしていた。
赤ゆはお腹一杯になって、洞窟の奥でそろって小さな寝息を立てている。
暗い洞窟の中の、入口の近くだけがぽっかりと薄青い光で切り取られている。
その中でれいむはみょんの出て行った外を見ていた。

れいむはもう寂しさを感じていないことに気付いた。
今までひとりの時は、ゆっくりしていない寂しい感じに襲われていた。
だが今ではどういうわけかそれほど辛くはなかった。

それはおちびちゃんがそばにいるからなのか、みょんに出会えたからなのかはわからなかった。
人間が来たあの日の記憶は自分の餡子の中から確実に薄らいでいっているのを感じた。

外の風景に一つの点が見えた。
一瞬みょんかと思ったが、近づくにつれそれはぱちゅりーの帽子だということが分かった。
ぱちゅりーが、一体今頃何の用だろう?

前長ぱちゅりーは巣の外から、れいむに外に出るよう促した。
寝ている赤ゆを起こさないようにする配慮だった。

れいむはのそのそと這いだした。

「みょんはどうしたの?」

ぱちゅりーはまずそう言った。

「おさにほうっこくにいったよ」
「おかしいわね。だれにもあわなかったけど……」

いぶかしげな顔になるが、すぐにれいむを強い視線で見る。

「あなたにちゅうこくしにきたのよ」
「ちゅうこく?」
「どうもあなたは、おさを 好きかってにやれるものだと おもっているようね」
「ゆゆ? おさはえらいんだよ? みんなおさのいうことをきかなきゃいけないんだよ?」
「そうよ、でもそれは おさがおさのしごとを しているからよ。あなたはそれをしないで、好きかって ばかりしているでしょう」
「でも……ぱちゅりーだってごはんさんを もってこさせてたでしょぉ! れいむはぱちゅりーのやったとおりにやっただけだよ!」
「あれは、みんながしんせつでもってきてくれていたものよ。あなたがめいれいしてもってこさせるのが、いいわけないわ。
まして、ひとからごはんをうばうなんて!」

前長ぱちゅりーはリボンぱちゅりーの悲しそうな顔を思い出した。
溜息と同時に言う。

「あなたは、おさしっかくのようね」
「どぼじでぞんなごどいうのぉぉぉ! れいむは いっしょうけんめいやってるんだよぉぉ!
みょんにごはんだってたべさせなきゃいけないんだよ!」
「あなたが、自分で かりをすればいいのよ。それとも、そんなことさえ わすれちゃったのかしら?」
「そんなことないよ! むしさんがこっちきてくれないのが わるいんだよ!」
「じゃあ きのみでも何でも さがせばいいでしょう。
こんなこともわからないようじゃ、おさとして、むれのみんなを ゆっくりさせることなんて できないわね」
「れいむはりっぱなおさなんだよ! に、にんげんにたちむかった英ゆんなんだよ!
むれのみんなだって、そういってくれてるよ!」

ぱちゅりーはちょっと思い出したような表情になって、慎重に言った。

「そうかしら、それもあやしいものね。
ぱちぇは、みたわ。みんなの輪から、すこしだけちかくにいたから。
あのひ、あなたはにんげんにたちむかったわけじゃないわ。
れいむ、あなたはこわくて、うごけなかったんじゃ――」
「や……」

れいむはかつてないほど激昂した。
自分自身でも、なかったことにしていた、あの日の記憶。
周囲から英ゆんと呼ばれ、いつのまにか自分もそうだと思うようになっていった。
都合の悪いことを記憶の奥底に押し込めて、英ゆんを名乗っていた、
そのメッキが、ぱちゅりーによって乱暴にはがされてしまった。

「やめろぉぉぉ!」
「むぎょ!」

ぱちゅりーは吹っ飛んだ。
我を忘れたれいむの体当たりをまともに食らって地面に叩きつけられる。

れいむがその上に飛び乗った。

「やべろっ! やべろっ! それいじょういうなぁぁぁ!」

れいむは恐怖に突き動かされてぱちゅりーに襲いかかっていた。
その体が飛び跳ねるたびに、ぱちゅりーの口からクリームが飛び出し、体が平たくなっていく。

「むぎょ、れ、れいむ」
「れいむはっ、れいむはおくびょうなんかじゃないよ!英ゆんなんだよ!おさなんだよっ!
えらばれたゆっくりなんだよ! わからずやのぱぢゅでぃーはじねぇぇぇっ!」

れいむはひたすらぱちゅりーを踏み続けた。
やがてぱちゅりーの抵抗は弱々しくなり、声も途切れた。
それでもれいむはやめなかった。


どれくらいの時間が経っただろう。
れいむが辺りを見回すと、誰もいない森だった。
洞窟の入り口はすぐそこで、中では赤ゆたちが安らかに眠っている。

頭が冷えると、とたんに後悔が襲ってきた。

「ゆゆゆ、どうしよう、ぱちゅりーころしちゃったぁ」

ゆっくり殺しは大罪だった。
発覚すれば長の座を追われてもおかしくない。
前長の死体は足下に転がっている。

れいむはしばらくぼんやりしていた。
餡子脳の許容量を越えた事態に戸惑っている。
頭の中に、長、ぱちゅりー、英ゆん、ゆっくりごろし、といった単語がぐるぐると浮かんでは消え去り、駆け巡った。

その中にはみょんの顔もあった。
その表情が失望に歪むのがれいむは恐ろしかった。

ふと、口元に浮かんだクリームを舐めた。
その味に、れいむは夢中になった。
死ぬ前に苦しんだぱちゅりーのクリームはとても甘かった。
舌を伸ばして、反対側の頬についたクリームも舐め取る。

気付くとれいむはぱちゅりーの潰れた死体を貪っていた。
それほど嫌悪感はなかった。
おかざりがなければ、ゆっくりの体はあまあまのひとつにすぎない。
おかざりは体当たりした時に草むらの陰に転がっていた。

ゆっくりと、確実に、れいむはぱちゅりーの体を腹の中に収めていった。
柔らかいものは舐め取り、固いものは噛み砕いた。

死体は跡形も残らなかった。
飛び散ったクリームが草に付着している。
れいむはそこまで気にしなかった。

巣穴に帰ろうとしたとき、先ほどのぱちゅりーの言葉が耳の奥に蘇った。
その途端、先ほどの感情の奔流が再び襲ってくる。
れいむは髪を振り乱して暴れた。

(おさしっかくだわ)

「ちがう! ちがうよ!」
「どうかしたみょん?」

いきなり声を掛けられてれいむは10cmほど飛び上がった。

「みっ、みみみみょん、おかえり!」
「ゆん……なにかしてたみょん?」
「なんでもないよ!」

みょんもれいむに続いて巣の中に入る。

訪問は空振りだった。
ぱちゅりーの巣まで行っても誰もいなかったため、
みょんは道々ぱちゅりーを探しながら帰ってきていた。
それでもぱちゅりーは見つからなかった。

みょんはそちらに気を取られて、れいむの様子がおかしいのに気がつかなかった。
すぐそこに、今しがたぱちゅりーが吐き出したばかりのクリームがあった。
それには気付かずに、みょんが言う。

「おかしいみょん、おうちまでいってもおさがいなかったんだみょん」

れいむは餡子が口から飛び出しそうになった。

「……」
「あした、もういちどいってみるみょん」
「そ、そうだね!」

れいむは精一杯平静を装った。
応える声が震える。

「どうかしたかみょん?」
「なんでもないよ! おちびちゃんたちが起きちゃうから、もう ねようね!」
「それもそうだみょん」

疲れていたのか、みょんはすぐ眠りについた。
れいむは眠る態勢になっても、ぱちゅりーの言葉が耳について離れなかった。
うずくまったれいむの周りを、ぱちゅりーがぐるぐる回って繰り返す。

(おさしっかくだわ――しっかくだわ――しっかくだわ)

れいむは眠れずに苦しんだ。
顔をしかめて、唸り声を上げる。

だがぱちゅりーの幻影も、やがて頭の中から消える。
しばらくしてれいむは眠りに落ちた。


5

翌朝はうって変わっていい天気だった。
ぱちゅりーがいなくなったことは、まだみょんしか知らなかった。
洞窟では、赤ゆたちがもう起き出してじゃれまわっていた。

「ゆっゆっゆっ、ごはんしゃんはゆっくちちてるにぇ!」
「きゃわいいれいみゅがごはんしゃんたべるよ!」

赤れいむたちは食欲旺盛だった。
ご飯の山にすがりつき、全身で喰らいつくように木の実を口に運んでいく。

「ちーんぴょ! やめてみょん!」

赤みょんはご飯にありつけないでいた。
一匹だけ遅く生まれて体が小さいみょんを、姉れいむたちが邪魔するのだった。
れいむ種同士の連帯感で、赤みょんは仲間外れになっていた。

「ちびのいもうちょはたべにゃいでにぇ!」
「こっちくるにゃ!」
「このごはんしゃんはれーみゅたちのもにょだよ!」

赤れいむたちが小さな体で赤みょんを左右から挟むと、
押し出すようにしてご飯の前から弾き出してしまった。

「おちびちゃん、やめるみょん! ちゃんとなかよくわけるみょん」

赤みょんに寄り添ったみょんが叱責を飛ばす。

「まあまあ、みょん、おちびちゃんたちもわるぎはなかったんだよ!
あんまりおこらないであげてね!」
「み、みょん」

れいむがそう言うので、みょんは引き下がった。
赤れいむたちは、れいむの側に固まってプルプル震えている。

「わかったみょん。こんどはなかよくたべられるみょん?」
「ゆっくちわかっちゃよ!」
「おちびみょんのぶんは、みょんがとってくるみょん。けんかしちゃだめだみょん」

みょんは、巣を出て行った。
途端に姉れいむの一匹の表情が変わる。

「ゆぅぅ~おきゃーしゃんにおこられちゃよ!」
「おまえのしぇーだ!」
「ちーんぴょ!」

姉れいむたちが赤みょんへ苛立ちをぶつけた。
取り囲んで小突き回したり、おかざりを噛んだりする。

そんな光景をれいむは見て見ぬふりをしていた。
ときおり「あんまりけんかしちゃだめだよ!」と当り障りのないことを言うだけだった。

みょんが帰ってきたとき、赤みょんがすっかり怯えて洞窟の隅で震えていた。

「どうかしたみょん?」
「おきゃーしゃん、おきゃえり!」
「そのごはんしゃん、たべちぇもいい?」
「これは、ちびみょんのぶんだみょん。ちびれいむちゃんたちはさっきたべたみょん?」

赤みょんにご飯を与えながら、みょんがどこか違和感を感じていたが、その正体はついにわからなかった。



日が高くなるにつれ、群れのゆっくりたちは様子がおかしいことに気がついた。
前長のぱちゅりーの姿が見えないのである。
日中、あまり外に出ない前長ぱちゅりーは巣の中でじっとしていることが多かった。

傷まりさはいち早く、前長がいなくなったのを見つけた。
新しい巣に移り住んでからも、傷まりさだけは前長ぱちゅりーにご飯を届けていた。

傷まりさは長選出の時にれいむに票を入れなかった数少ないゆっくりだった。
案の定、前長ぱちゅりーのことを蔑ろにした上に、慣習を利用してご飯を集めさせたれいむが気にいらなかった。
今でも傷まりさは、長はぱちゅりーひとりだけだと思っている。
それで、狩りが十分に出来なくなった前長ぱちゅりーの代わりに、できるだけ多く狩りをするようにしているのだった。

前長ぱちゅりーの巣はがけの斜面にある大きな窪みだった。
斜面に埋まっていた岩が何かの拍子に崩れ落ちて土がえぐれている。
今にも崩れてきそうな危なっかしい巣だった。

傷まりさがご飯を届けに行った時、巣の中に長の姿はなかった。
辺りを探しても見つからず、焦った傷まりさは自らのつがいのありすに告げ、
そこから群れ全体に前長ぱちゅりーが失踪したと広まった。

傷まりさはれいむの洞窟にも赴いた。
洞窟の前に生えた草は着々と背を伸ばしている。
一本だけ延びた、周りより背の高い草を押しのけて、傷まりさは洞窟の前に立った。

みょんが入口にいた。
れいむは狩りに行っている。

「ゆっくりしていってね!」

傷まりさは前長がいなくなったことを告げた。

「ぱちゅりーが?」

みょんは腑に落ちたという顔をした。
やはりいなくなっていたのか。
みょんは傷まりさに、昨日の夜から前長ぱちゅりーの姿が見えないということを伝えた。

「ゆゆ、それはへんだぜ」
「いったい、どこへいったんだみょん?」

二匹は体を左右に傾けている。

「みんなにきいてみるのぜ!」

まりさは森へ戻ろうとする。
そこへぷんと甘い匂いが漂ってきた。

「こんなところにあまあまさんなのぜ?」

傷まりさは匂いの元を探し始めた。
下草をおさげでざん、ざんと払っていく。

みょんもその匂いに気づいた。
風の具合で、不自然に甘い匂いが漂ってくるのを感じる。

「ほんとだみょん」

洞窟の入口から少し離れたところの岩陰で、傷まりさは打ち捨てられて汚れた前長ぱちゅりーの帽子を見つけた。

「ぱちゅりーのぼうしだぜ……」

その周りにはクリームが飛び散っていた。
虫が黒くたかっている。
後からついてきたみょんはその光景を見て少し怯んだ。

「おさ……のおぼうし……」

ぱちゅりーを探しに行った時、ぱちゅりーは巣穴に居なかった。
そのとき、ぱちゅりーはもうここまで来ていたのだろうか。
なんのために?
今、ぱちゅりーはどこにいるのだろうか?

みょんが考えていると、傷まりさは前長ぱちゅりーの帽子を拾い上げた。

「むれのみんなにしらせてくるんだぜ」

傷まりさは消沈した様子で跳ねていく。
周りに飛び散ったクリームの量から考えて、前長ぱちゅりーが無事だと信じるのは難しかった。
一縷の望みをかけて、群れのみんなに知らせることしかできなかった。

みょんはそれを見送った。

みょんは、前長ぱちゅりーが消えたことにれいむが関わっている気がした。
何の根拠もない思い付きだったが、なぜかみょんには奇妙な実感を伴って感じられた。
その直感が当たっていなければいいとみょんは思った。


まりさが帰ってきたのはその翌日のことだった。
群れの外れにある今はもう誰も住んでいない巣穴を、一匹のありすが通りかかったのは本当に偶然だった。

狩場から帰る途中、木の実をかちゅーしゃに乗せて巣に戻るありすは、
かつてれいむとまりさのつがいが住んでいた薄暗い巣穴の中に、ぼうっと佇む影を見かけたのだった。
後ろ姿に、ぼんやりとした面影がある。

「まりさ……まりさなの……?」

ありすが声をかけると、まりさは振り向いた。

きゃっと声をあげる。

満身創痍の格好だった。
まりさの顔は、溶けかけのマシュマロのように溶け崩れ、
片方の目は、垂れ下がってきた皮にふさがれて完全に閉じている。
よく見ると全身がぼろぼろで、おさげも長さが半分になっていた。

「どうしたの、まりさ……! いきてたのね……ああ、でも、なんてひどい」

まりさは無言だった。

「にんげんにやられたのね? どうしよう……ぺーろぺーろしましょうか」

まりさは体を横に振ると、ほとんど聞き取れないようなかすかな声で呟いた。

「……れいむは?」

その目は呆然と誰もいない巣穴の中を見ている。

「ああ、そうね。あのね。れいむはここにはすんでないのよ。おさのいえにうつって……」
「おさ!?」

その声だけが異様に大きかったので、ありすはびっくりした。

「そうよ。れいむはあたらしいおさになって……みょんといっしょになったわ」

しばらく誰も喋らなかった。
やがて、まりさの片方の目からぼろぼろと涙が溢れて、体を伝って地面に落ちた。

「まりさ」

ありすは声をかけることも出来ず、しばらく二匹で立ち尽くしていた。


まりさが帰ってきたという報せは、すぐに知れ渡った。
人間に連れ去られ、死んだと思われていたまりさが
ひょっこりとありすに連れられて現れたという報せは、群れを喜びに溢れさせた。

あわて者のちぇんが群れ中を駆け回り、まりさが帰ってきたことを話して回った。
ちぇんはれいむの洞窟に駆け込むと、まくしたてた。

「たたたいっへんだよー! まりさがかえってきたんだよー!」

昼にもかかわらず眠っていたれいむが洞窟の奥からのっそりと起き上がってきて、その言葉を聞いて理解するのにたっぷり十数秒かかった。

「まりさが?」
「そうだよー! なにねぼけてるの! れいむのつがいのまりさだよ!」

ちぇんはじっとしているのがもどかしくてたまらないというようにその場で何度も飛び跳ねている。
れいむの返事も聞かずに再び跳ねだした。

「ほかのみんなにもしらせなきゃなんだよー! わかってねー!」

れいむは頭を巡らせていた。
ちぇんの後ろ姿をぼんやり眺めながら、餡子脳に様々な感情が荒れ狂う。

本当にまりさなのか。
なぜ今頃帰ってきたのか。
人間に殺されたのではなかったか。

何より、れいむはみょんとすでに幸せな暮らしを始めてしまったのである。
まりさのことを、辛い思い出と共にようやく忘れかけていた頃にまりさは帰ってきた。
今れいむはみょんと幸せに暮らしている。少なくともれいむはそう思っている。

れいむはまりさが以前ほど大事に思えなくなっていた。
現れて欲しい時に現れず、みょんとの暮らしを壊そうとするまりさは、
すでにれいむの中で邪魔者に成り下がっていた。

ちぇんが見えなくなると、洞窟からみょんが出てきた。

みょんは複雑な気分だった。
れいむのつがいで、人間に連れ去られて死んだと思われていたまりさが、生きていた。
みょんはまりさと話したことはなかったが、小さい群れだから、見かけたことは何度かある。
今思えばれいむと仲良さそうにしていた。

れいむとつがいになったとき、まりさはもういないのだから、という気持ちがあったことは事実だ。
まりさを失って悲しんでいるれいむの姿はとても寂しそうに見えた。
最初は同情だったかもしれない。
だが何度も逢ってれいむと一緒に過ごすうちに、れいむ自身に惹かれていった。
だが今のれいむはあの頃とは違いすぎた。

みょんは揺れていた。
れいむの優しさは、誰に向けられたものなのだろう?
全てまやかしだったのだろうか。
自己中心的で自らを省みないれいむが、本当の姿なのだろうか。

確かめたいと思った。まりさに会えば、なにかわかるのではないか。
そんな思いでれいむに呼びかけた。

「れいむ、いってみるみょん。おちびちゃんは、しばらくおいていくみょん。
おかーさんたちが いないあいだ、なかよくおるすばんできるみょん?」

みょんはそう言って、洞窟の中へ振り返った。
赤ゆたちは巣の中を転げまわって遊んでいる。

「ゆっ、へーきだよ!」
「いっちぇきてにぇ!」

れいむも、すぐに済むだろうと思って出かけることにした。

「いこたちだね! いってくるよ!」

れいむとみょんは連れ立って、まりさがいる丘の上に向かった。
丘の上には群れのゆっくりたちが集まっていた。
長の選出のときほどではないが、大勢のゆっくりがいる。
前長ぱちゅりーの姿は見えない。

ゆっくりの輪に囲まれた中心にまりさはいた。
れいむが来ると、その輪が割れてまりさの姿が見えた。
ぼろぼろの姿だった。

れいむは、一目見るなりこう言った。

「どうして帰ってきたの!?」

まりさは面食らった。
かつてのつがいへかける言葉とは思えなかった。
信じられないという表情で固まっている。
周りのゆっくりたちも同じ気持ちだった。

「れいむはもうみょんとくらしてるんだよ! まりさはおよびじゃないよ!
ふたりのしあわせーなせいかつをじゃましないでね!」

みょんは驚きながらもそれをじっと見ていた。

「れいむ……どうして」

まりさが呆然とつぶやく。

「そうよ!」

周りのゆっくりたちからも声が上がる。
叫んだのはリボンぱちゅりーだった。

「まりさは、にんげんにひどいことをされて、それでもれいむにあいたくて、いっしょうけんめいここまでかえってきたのよ! なのにどうしてそんなこというの!」
「う、うるさいよ!」
「あなたはまりさの かっこうが見えないの? ありすがまりさをみつけたとき、あなたはなにをしていたのよ!
おさだというのに、いちばんあとにきて、まりさはずっと あなたにあいたがってたのに!」
「ゆうう! やめてね! ゆっくりできないことをれいむにいわないでね!」

れいむの餡子脳は激しい糾弾に耐えられなかった。
激しくれいむを責め立てるリボンぱちゅりーの姿が、長だったぱちゅりーの姿と重なる。

れいむは思っている。
ぱちゅりーたちは、自分たちの頭のいいのを鼻にかけている。
れいむにはわからないことを延々と喋り続けるいやなやつだ!

実際にはそんなことはないが、れいむの意識はそういう風に凝り固まってしまっていた。
どんな忠告も、れいむには届かなかった。
ゆっくりできない言葉として聞く耳を持たなかった。

強いストレスに晒されたれいむの餡子脳に、昨夜の光景がフラッシュバックした。
ゆっくりできないことをたくさん言う前長ぱちゅりー。
反論できないれいむ。

爆発したれいむはぱちゅりーに襲いかかる。
目の前が真っ白になり、何も考えられない。

気がつくと、ぱちゅりーは自分の下にいた。
体はペチャンコになっている。
もう助からない――。

れいむは前長ぱちゅりーを殺したことを認めたくなかった。
葛藤とプライドの間で、れいむの餡子脳は苦しんだ。
れいむはわずかな間、意識を手放した。

意識の手綱から逃れたれいむの体が、勝手に昨夜の出来事を再現する。
前長ぱちゅりーを潰した時と同じように、大きな体で飛び上がった。

時間が非常にゆっくりと流れていくようだった。

みょんたちの見ている前で、れいむはリボンぱちゅりーの方へ飛びかかった。
リボンぱちゅりーは恐怖に顔を歪めるが、とっさに動けない。
見上げる顔にれいむの影が差した。

誰よりも早く動いたのはまりさだった。
横から飛び出してきたまりさが、リボンぱちゅりーを咄嗟に突き飛ばした。
リボンぱちゅりーは吹っ飛ばされて、地面に転がった。

まりさはリボンぱちゅりーと入れ替わる。
さっきまでリボンぱちゅりーのいた位置に、まりさがいた。
バランスを崩したまりさは、へたりこんだ。
すぐには動けそうにない。

そこへれいむの体が空から降ってくる。
まりさが最後に見たのは、襲いかかるれいむのあんよだった。

時間が動き出した。

「じねぇぇぇ! わからずやのぱちゅりーはゆっくりしんでねぇぇ!」

リボンぱちゅりーはゆっくりと目を開けた。
れいむがまりさの上に乗って飛び跳ねている。
誰かの悲鳴が上がった。

れいむはただ夢中で飛び跳ねている。
もはや目の前のゆっくりが誰だかも、自分が何をしているのかも、
興奮と目の前の幻覚のせいでわからなくなっていた。

血相を変えたありすや傷まりさが、れいむを引き剥がした。
もみあげを後ろから一本ずつ捕まえて引っ張る。
れいむが動こうとすると、もみあげの付け根に激痛が走った。

れいむのあんよの下から出てきたまりさは、すでに息絶えていた。

「れいむ、なんてことを……」
「ゆわああああ!」

錯乱して暴れるれいむの姿を、群れのゆっくりたちは見ていた。
小さなざわめきが広がる。

本当にこれが、人間に立ち向かったあの英ゆんれいむだろうか。
ゆっくりたちが、薄々感じながらも、押し込めていた不安が、段々大きくなり始めていた。
あまつさえ、目の前でまりさを殺したのだ。
れいむが長であることに疑問を抱く者もいた。

れいむは暴れながら叫ぶ。
拘束から逃れようとするが、もみあげを動かせば動かすほど、根元がちぎれそうなくらいに痛んだ。

「ぱちゅりーはれいむをばかにしたよ!」
「なにいってるんだぜ!」
「れいむのことをおさしっかくっていったんだよ! れいむはおさなのに! おさなのに!」
「おちつきなさい!」

れいむはやっと我を取り戻した。
荒い息をついて辺りを見回す。
体中が風邪をひいて高熱を出したときのようにぶるぶる震えていた。

「れいむ!」

みょんが急いで跳ねてくる。

「みょん、みょん! どうしたの! なんでれいむはうごけないのぉぉ!」
「おちついて、れいむ、おちついて……」

みょんが寄り添うと、れいむの震えは止まった。
目が泳ぎ、忙しなく周りを見回す。
自分が何故拘束されているのか分かっていないようだった。

「れいむ、どうして、こんなことを」
「ゆ?」

れいむは改めて、今自分がしたことを見た。
潰れているまりさの死体と、周りのゆっくりたちの表情を見る。

「まりさがつぶれてるよぉぉ!」
「れいむがやったんだみょん」

みょんは静かに言った。

「れ、れいむはわるくないよ! ま、まりさがきゅうにとびだしてきたから!」
「ゆっくりごろし!」

ありすが叫んだ。

「れいむじゃないよ! れいむはわるくないよ!
まりさが、れいむとみょんのじゃまをするからだよ!
あんなたやつは、しんでとうぜんなんだよ! まえのおさみたいに……」
「れいむ、今なんていったんだぜ!」

すぐに口をつぐんだが、傷まりさがそれを聞いていた。
れいむは、自分が何を口走ったかに気がついて、慄然とした。

「こたえるんだぜ! れいむ!」

傷まりさは噛みつきそうな表情でれいむを真正面から睨みつけた。
れいむは目をそらしたが、目は左右に泳ぎ、体中に甘い汗をかいている。
傷まりさの刺すような視線から逃れられなかった。

そのやり取りを聞いていた群れのゆっくりたちも、れいむの言ったことの意味がわかりかけてきた。

前長ぱちゅりーは、行方不明になっていたはずだった。
なぜれいむは前長ぱちゅりーが死んでいると知っているのだろう?

みょんの悪い予感は当たってしまった。
前長ぱちゅりーが死んでいるのを知っているのは、れいむが殺したからに他ならなかった。

れいむはすっかりおとなしくなって、傷まりさたちに囲まれている。
みょんはそこへ近づいた。
震える声で、訊ねる。

「れいむ……ほんとうのことをこたえてほしいみょん」

れいむを強い視線で見つめた。
真剣な視線で訊ねる。

「まえのおさのぱちゅりーを、ころしたみょん?」
「れいむは、わ、わるくないよ! ぱちゅりーが、ゆっくりできないことをたくさんいってきたから……」

それが答えだった。

みょんはかつてない絶望感に襲われた。
頭の奥がすっと冷えて、今まで立っていた足元が急に崩れていくような感覚だった。
吐き気までした。

誰よりも前長ぱちゅりーを慕っていた傷まりさは、激昂した。
感情のままにれいむに飛びかかった。
体当たりがれいむにぶつかる。

「なんで、ころしたんだぜ!」
「なにするの!?」

れいむはややよろめいて、二、三歩飛びすさった。
さきほどまでの勢いはなかった。
完全に気圧されていた。

もはや、誰の目にも明らかだった。
れいむは前長ぱちゅりーを殺し、今も、つがいだったまりさを殺した。
身の毛もよだつ所業だった。

しかもれいむには自覚がなかった。
もはや全て自分以外の責任にすることで、自己を保っている状態だった。

小石が飛んできて、れいむのそばに落ちた。

「ゆっくりごろし!」

誰かが叫ぶと、その声はあっという間に大量の怒号となってれいむを襲った。

「ゆっくりごろし!」
「おまえなんか、おさじゃない!」
「れいむはおさだよ! なにいってるのぉぉぉ!」

れいむは反駁した。
だが、ゆっくりたちの叫びの前に、簡単にかき消されてしまった。
周囲を囲むゆっくりたちは、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だった。

れいむはすぐさま逃げ出すことを決心した。
今まで、長として言うことを聞かせてきたゆっくりたちが、自分の前に大勢立ちふさがっている。
圧倒的な数の差に、すぐに心細くなった。

「みょん、にげようね!」

れいむは体を翻して、みょんと跳んだ。
みょんを押すようにして、自らも丘の上から斜面にダイブする。
みょんは咄嗟に反応できなかった。

柔らかい草の地面に転がって、二匹は斜面を転がり落ちていった。

「おうんだぜ!」
「ゆおおー!」

傷まりさが号令をかけた。
ゆっくりたちは、熱気のこもった返事を返す。
れいむを憎むことで生まれた強固な団結だった。

傷まりさを先頭に、ゆっくりたちは丘を降りていった。


二匹は無事に下まで辿り着いた。
丘の上から転がってきた二匹は、地面が水平になるところで止まる。
草にまみれながら、何度かバウンドして勢いを失った。

「ゆぺ!」

れいむが起き上がって、辺りを見回した。
群れのゆっくりたちは、丘の上にいる。
しばらく時間を稼いだようだ。

みょんは魂が抜けたようにぼーっとしていた。
じっとうつむいて何も喋らない。
れいむの呼びかけにも反応しなかった。

「みょん、だいじょうぶ? ここまできたらもうあんしんだよ!」

追っ手の声が聞こえた。
れいむは逃げおおせたと思っていたが、群れのゆっくりたちも当然すぐに後を追ってくる。
傷まりさを先頭に、隊列が丘を降りてくるのが見えた。

「ゆぎゃぁぁ! もうきたよ! いそごうね!」

みょんは様子がおかしかった。
うつむいて、何も言わない。
返事がないので、れいむは肯定と受け取った。

れいむはみょんを引っ張るようにして跳ね出した。
茂みの中へ逃げ込んで姿を隠す。
追手は別の道を跳ねて行った。



6

時間は少し戻って、洞窟の中では赤ゆたちが餌を奪い合っていた。
赤れいむたちが、みょんの残していったご飯をお互いに独り占めしようと、
柔らかい体で体当たりをしたり、小さな歯で引っ張り合いをしている。

「こにょ!」
「れーみゅのだよ!」
「れーみゅにちょうだいにぇ!」

赤みょんは隅のほうで泣いていた。
取り合いとなると、みょんはいつも弾き出されてご飯にありつけないのだった。

興奮した一匹の姉れいむが、もう一匹を強く突き飛ばした。
玉突きのように押された姉れいむが、さらに赤みょんにぶつかって押し飛ばした。

赤みょんは洞窟の隅へ追いやられた。
その拍子に、木の実の山にぶつかる。
積まれた木の実の一つが、衝撃で揺れてみょんの目の前に落ちてきた。

それは、みょんが赤ゆたちに何があっても食べてはいけないと念を押していたものだった。
今では蓄えを継ぎ足す者もなく、ひっそりと乾いていくのを待つだけだった。

赤みょんは喉を鳴らした。
今なら姉れいむたちはこちらを見ていない。
この木の実を自分が独り占めできる。

姉れいむたちに教えたら、自分だけ押しのけられて、食べられなくなってしまう。
それは嫌だった。
今すぐ食べてしまいたかった。

舌を伸ばしかけたその時、赤みょんの餡子脳に母親の顔が浮かんだ。
優しくて、この世の誰よりも自分を守ってくれる母親。
もしこれを食べれば、みょんは悲しむだろう。

正直に話せば、お腹がすいて仕方がなかったと慰めてくれるかもしれない。
だが、心の奥では、約束を破った子供に深く失望するだろう。

実際にはみょんは、むしろ充分に言い聞かせなかった自分を責めるはずだった。
しかし幼い赤みょんにとっては、母親が世界の全てであり、
その言いつけに背くことは考えられなかった。

赤みょんは、舌を引っ込めた。

「ゆっ、ちびみょんがごはんをひとりじめしてるよ!」

姉れいむの一匹が、赤みょんに気づいて大きな声をあげた。

「よこしちぇにぇ!」

姉れいむたちは、みょんの言いつけなど覚えていなかった。

赤みょんを無視して木の実の山に殺到する。
群れのゆっくりたちが長い間かけて集め、前長ぱちゅりーが守ってきた貯蔵庫は
赤れいむたちの限度を知らない食欲の前にあっけなく崩れ去った。

赤れいむたちは一心不乱に食べ散らかしている。
三方から木の実の山に取り付いてトンネルができそうな勢いで食べ続けた。
赤みょんは洞窟の隅でそれをじっと見ていた。

やがて赤れいむたちは満腹になった。
これ以上ないというくらい膨らんだ腹が顔の下にぶらさがっている。
ひょうたん形になった赤れいむたちは、自分の力では動けないくらい太っていた。

「おにゃかいっぱいになったら、うんうんしたくなっちぇきちゃよ!」
「れーみゅたちの、すーぱーうんうんたいみゅはじまるよ!」

三匹は揃ってうんうんをした。
ぷんと甘い匂いが洞窟に充満した。
匂いは洞窟の隅にも漂ってきて、赤みょんは吐きそうになった。

ゆっくりのうんうんは、ただの古い餡子だった。
うんうんを臭く感じるのはゆっくりだけで、それ以外の動物にとってはゆっくり自身と何ら変わりがない。

一匹の蟻が洞窟に入ってくる。
甘い匂いにつられて、迷い込んできたようだった。
赤れいむたちは、動けない間の暇つぶしに揉み上げや下で蟻を追い回して遊んだ。

「ゆっ! にげないでにぇ!」
「ゆっくちれいみゅに ちゅぶされちぇにぇ!」

蟻はあちこち逃げ回りながら、うろうろと歩く。
赤れいむたちのうんうんを見つけると、その周りを何度か回って、洞窟から出た。

「にげちゃったよ! やっぱり ありさんはよわいね!」
「れーみゅたちは かんっだいっだから、かえしてあげりゅよ! かんちゃちてにぇ!」

数分後、獲物のありかを報告した斥候蟻が、巣の中の働きアリたちを引き連れて戻ってきた。
一列に並んだ蟻たちは、甘いにおいを発するれいむのうんうんに目をつける。
赤れいむたちは、食べ過ぎた木の実のせいで身動きが取れなかった。

「ゆ、ゆわぁぁぁ! いっぱいきちゃよぉ!?」
「ありしゃんこないでにぇ!」

蟻たちは、地面に転がっている大きな獲物を嗅ぎつけた。
甘いうんうんと同じ匂いが、その薄い皮の奥にたっぷり詰まっている。

「やめちぇにぇ! れーみゅにのぼってこにゃいでにぇ!」
「ゆわぁぁ! いちゃいよ! おきゃーしゃん!」

赤れいむたちはゆっくりと解体されていった。
巣の外にはすでに長い行列ができている。
Vの字の行列が折り返す場所に、赤れいむたちはいた。
行きには何も持っていなかった蟻たちは、帰りにはあんこのかけらを手に入れていた。

蟻たちは大きなあごで獲物をちぎり取る。

「やめぢぇにぇ! ぢぎらないぢぇにぇ!」

体中を這い上り、口から侵入し、内部を食い破る。

「いぢゃいい! おとーしゃん! おきゃーしゃん!」

一匹の赤れいむの目玉がぽろりと落ちて、空洞の眼窩の中から蟻が這い出てきた。

「れーみゅのふろーれすなおめめがぁぁぁ!」

赤れいむたちは身動きが取れず、仰向けになったまま、
体を這い回る蟻の感触に脅え、力強いあごで皮と餡子をごっそりもっていかれる痛みに泣き叫んだ。

「ゆぴゃぁぁぁ! ゆぢぃぃぃ!」
「ゆ゛っ、ゆ゛っ、ゆ゛っ……」
「もっと……ゆっくち」

動かなくなった赤れいむたちに群がる蟻の数が、更に増えた。
全身を黒い蟻が覆い、表面を動き回っている。
リボンが取れて、地面に落ちた。
蟻たちはお飾りには興味を示さなかった。

全ての蟻が去った後、洞窟の中には赤みょんと姉れいむたちのリボンだけが残されていた。
赤みょんは危険を感じて、木の実の山の上に避難していた。
蟻たちは、三匹の丸々太った餡子の塊を手に入れて、赤みょんまでは襲おうとしなかった。
赤みょんは、木の実の山の上でただ泣いていた。


「おちびちゃん、どこにいるの? これからでかけるよ! すぐにおかあさんのおくちのなかにはいってね!」

れいむは丘の上から降りた後、すぐに洞窟へ向かった。
おちびちゃんを連れて群れを出るつもりだった。
洞窟の外から、赤ゆたちに呼び掛ける。

洞窟の中は誰もいなかった。
れいむが洞窟の中を覗き込むと小さなリボンが三つ、餡子のかけらの中に落ちていた。

「ゆゆ? おちびちゃん?」

れいむの呼びかけに答えたのは小さな声だった。

「ち……」
「おちびちゃん? どこにいるの? おおきなこえでへんじをしてね!」

れいむは洞窟へ入った。
そこで赤れいむたちのリボンを見つける。
可愛いおちびちゃんたちの姿は見えなかった。

「ゆ、おちびちゃん?」

れいむはまたしても放心していた。
周りには餡子の欠片が散らばっている。
それが、おちびちゃんたちのなれの果てだと気づいて硬直すること約10秒。

その間に、赤みょんは隠れ場所から降りてきた。

「おとーしゃ……」
「おまえかああああ!!」
「ゆぴぇ!?」

固まっていたれいむが赤みょんを見て鬼の形相に変わる。
すさまじい剣幕で赤みょんに詰め寄った。

「れいむのかわいいおちびちゃんたちをどこへやったの!?」
「ち、ちんぴょ」
「だしてね! だしてね! いますぐかえしてね!」

今にも赤みょんを潰しかねない勢いのれいむを、みょんが止めた。
赤みょんに覆い被さるようにれいむの前に立ちはだかる。
それはまりさが人間かられいむを守ろうとした姿勢と似ていた。

「もうやめるみょん、れいむ。
おちびちゃんは きっとどうぶつさんにやられちゃったみょん。
めをはなしたみょんが わるいんだみょん」
「どおじでぇぇぇ! おちびちゃんいるんでしょおぉぉ! でてきてねぇぇぇ!」

答える声はなかった。
赤みょんの泣き声だけが洞窟に響いている。

「ゆっ……ふぅぅ……おちびちゃぁん……」

れいむはうつむいて、ぼとぼとと涙をこぼした。
やっと出来た、念願のおちびちゃんが、少し目を離した隙に、あっさりといなくなってしまった。
まさしく、まりさとのおちびちゃんの時とそっくりだった。

あの時と同じ悲しみを、再びれいむは味わった。
たとえようのない悲しみだった。
あとからあとから涙が出てくる。

そんなれいむを、みょんは冷静に見つめていた。

「ちびみょんがいきていてくれたみょん」
「でもそのおちびちゃんは、れいむに――」

似てないよ、と言おうとしたとき、外からがさっと音がした。
葉の擦れあうかすかな音だった。
見ると、ちぇんが凄い勢いで洞窟の側の茂みから遠ざかっていく。

「れいむたちがいたよー! こっちだよー! わかってねー!」

れいむは慌てた。
悲しいけれど、自分の命より大切なものはない。

「にげようね! もうすぐあいつらがくるよ!」
「……」

みょんは、少し迷う素振りを見せた。
一瞬その顔がよそよそしく凍りついた。
しかし、すぐに平静な顔に戻る。

れいむたちは急いで出発した。


6

夜は森を執拗に押し包んでいる。
れいむたちは広い草むらに出た。
そこは国道沿いの林のほかは何もなかった。

追手の姿は見えない。
日は完全に沈んで、月が出ている。
夜になって、捜索を諦めてくれればいいとれいむは思った。

三匹は背の高い草むらの中を進んでいる。
追手の目から身を隠すことができるが、お互いの姿も見えにくい。
草をかき分ける音と、跳ねる二匹の息遣いだけが聞こえた。

れいむは少し足を止めた。
国道が見えて安心したわけではないが、何度か休憩をはさんで、夕方から歩きづめだったので疲れていた。
苦しそうに体を上下させている。

「もうやだ……どうしてれいむがこんなめに……」

れいむは弱音を漏らした。
歯をむき出して目いっぱい悔しい表情で叫ぶ。

「どいつもこいつも、わからずやばっかりだよ! あんなむれはこっちから出ていってやったんだよ!
わかってるよね、みょん?」

みょんは何も答えない。
うつむいて、じっと地面を見ているだけだった。

れいむはさすがに違和感を感じた。
静かすぎるみょんを振り返って、様子を確かめる。

「みょん? だいじょうぶ?」

その時、れいむたちの周囲を強い光が照らした。
二条の光が、林の間を抜けて三匹のいる草むらに届いている。
れいむは一瞬昼間になったかと思った。

光は自動車のヘッドライトだった。
エンジンのかかったまま国道の片側に寄せられたワゴンから発せられている。
闇を貫いて、れいむたちの周囲を白く切り取っていた。

れいむは車のエンジン音に気がつかなかった。
ここまで来るのに夢中だった。
だから、その車から出てきたのが何かも、初めはわからなかった。

れいむはその姿に見覚えがあった。
ぼんやりとした体。その上に乗った、おかざりのない顔。
ゆっくりから見ればアンバランスなその姿は、まぎれもなく「人間」だった。

その顔は、群れを襲ったあの人間に他ならなかった。

れいむの目に焼きついた、襲撃の光景がよみがえる。
あまあまをくれた人間は、れいむからもっと大きなものを奪っていった。
今ではそれはゴミ同然になってしまっていたが、
あの時れいむの運命を変えたのは間違いなくこの人間だった。

「ゆ……」

自分でも知らないうちに、れいむは小さく声をあげていた。
もみあげを震わせ、唇をかむ。

全ては、この人間の一言から始まった。
人間が戯れに突きつけた選択で、れいむたちの運命は狂ったのだった。

気がつくとれいむは人間に向かって突進していた。

「ゆわぁぁぁぁぁぁ!」

人間は何も言わず、足を少しだけ前に上げた。
れいむはその爪先に吸い込まれるようにぶつかり、次の瞬間には地面に転がっていた。
あまりにスムーズだったので、自分から蹴られに行ったようにも見えた。

「ゆぶ!」

顔の中心をへこませながら、起き上がるれいむ。
そのまま人間を見上げた。
その目は自分を理不尽な目に遭わせた人間への憎しみに染まっていた。

人間もれいむを見下ろした。

れいむは人間に対して命をかけて戦う意思などはじめからなかった。
憎しみや怒りはすぐに消えて、はるかに大きな恐怖が襲ってきた。
すぐに視線をそらした。

そしてれいむは我に返った。
複数のゆっくりの声が遠くに聞こえる。
追っ手はまだ諦めていなかった。

捕まれば、終わりだ。
おさげに持った木の枝で殴られ、突き刺され、ぱちゅりーと同じ死体になるまで踏み潰されることは餡子脳にも容易に想像できた。

前を見る。
ヘッドライトの逆光に照らされた人間のシルエットが立ちふさがっている。
人間は、必要ならいつでもその無慈悲な手を伸ばすだろう。

逃げ場はなかった。
どちらへ行っても、待っているのは死のみだった。
逃げ道をふさがれた恐怖に、れいむの心はゼリーのようにぐらぐらと揺れた。

あの時と同じだった。
れいむは人間と相対し、その周りを群れのゆっくりたちが取り囲んでいる。
違うのは夜だということ、そして隣に居るつがいだった。

れいむの脳裏に、人間の言葉が蘇った。

(群れかつがいか、どちらか選ばせてやろう)

いちかばちかだった。
人間は今にも手を伸ばして、れいむを掴もうとしている。
れいむは咄嗟に叫んだ。

「もういちど! にんげんさん!」

人間の手がぴたりと止まった。
れいむの顔を見下ろす。
れいむは、媚びるような態度で必死に喋り始める。

「もういちどだけえらばせてね! むれか、つがいか、赤と青のあめさんをちょうだいね!」

人間はじっとれいむを見ている。
それで、どうすると言いたげだった。

「そしたら、れいむはこんどこそみょんをえらぶよ!
あんなむれの やつらは、にんげんさんにつぶされちゃえばいいんだよ!」

周りで聞いていたゆっくりたちはどよめいた。
人間がれいむに味方すれば、ゆっくりたちは到底敵わない。
あの日の再来だった。

「ばーか! いまごろ こうっかいしても おそいんだよ! にんげんさんはつよいんだよ!
にげても むだだよ! れいむを おいだしたり するから こうなるんだよ!」

取りつかれたようにれいむは喋り続けた。
目は血走り、口角泡が飛んでいる。
なりふり構っていられない状況だった。

「……」

それをじっと見ていた人間は、少し考えて、ポケットからあるものを取り出した。
赤色と青色の二つの飴玉だった。
こうなることがわかっていたかのように、二つを地面に置いた。

れいむは狂喜した。
人間が、自らの主張を受け入れた。
れいむの言うことを聞いて、再び選択のチャンスをくれた!

「やったぁぁ! みろぉぉ! れいむはただしかったんだよぉぉ!
むれのやつらをぶっころしたら、みょんとふたりでくらそうね! ずっといっしょにゆっくりしようねぇぇ!」

人間はやっと口を開く。

「ああ、そうだな。でも、お前にばっかり選ばせるのも不公平だな。お前のつがいにも聞いてみようか」
「ゆっ?」

その場にいる全員の視線がみょんに集中した。
うつむいていたみょんが、ふうっと幽霊のように顔を上げた。
その顔に表情は浮かんでいない。

小さく「みょんが……?」とつぶやく。

れいむはぽかんとした。

「どぼじでぇぇぇ!?」
「みょんが選ぶか、全員潰れるかだ。黙ってろ」

みょんは黙ったまま人間の方を見る。
赤と青。
その足元には、依然として二つの飴玉がある。
みょんの目に、妙に鮮やかな色彩を伴って迫ってきた。

「みょん! ゆっくりしないでえらんでね! まようひつようなんてないよ! あかをえらんでね!」

れいむは絶対の自信を持っていた。
みょんとれいむはべすとかっぷるなんだよ!
あんな群れなんか捨てて、れいむと一緒に暮らしてくれるよね!

みょんはれいむから目を逸らしていた。
手近の枝を口にくわえる。
ゆっくりと枝が持ち上がっていき、飴玉のほうを向く。
枝は青い飴のほうを向いている。

みょんが選んだのは、群れだった。

「やっ……やべろぉぉぉ!」

れいむは顔を真っ青にして、虚ろな目をしたみょんに飛びかかった。
みょんにぶつかる寸前、その体ががくんと空中で停まった。
人間の大きな手がれいむのリボンをつかんでいた。

「ゆぎぃぃぃ!」

手の中で体をめちゃくちゃに動かして、何とか逃げ出そうと暴れる。
リボンが外れて、れいむの体は地面に落ちた。

「ゆぺ!」

顔面から叩きつけられる。
すぐに起き上がって、みょんに訴えかける。

「どぼじでぇぇぇ! あかをえらんでねっていったでしょぉぉぉ!」
「……」

みょんは黙っている。
人間は揶揄するような口調で言う。

「せっかく、みょんとつがいになって、おさにまでなったのに残念だったな」
「どぼじでしってるのぉぉ!」

人間が現れたのはこれで二度目のはずだった。
群れの事を知っているはずがなかった。

人間は答えない。
代わりに、うーぱっくが男の顔のそばに飛んできた。

「よくやったな」
「うー☆」

男があまあまを投げると、嬉しそうに口でキャッチした。
そのまま森の中へ飛び去っていく。

「こいつに見張らせていたから、何があったかは知ってる。いろいろ好き勝手やってたんだな」
「ゆ……そんな……」
「余計なおせっかいだとは思うが、群れの奴らの代わりに、俺がお前を潰していいか?」
「やめでぇぇ! だれかたすげろぉぉ!」

れいむは人間の手の中で暴れた。
それを、群れのゆっくりたちは冷ややかに見ていた。

「よく見ろ」

人間は無理矢理れいむに前を向かせる。

そこに並んだゆっくりたちの顔、顔、顔。
どれ一つとしてれいむに同情したり、悲しんだりしているものはなかった。
あるのは憎しみだけだった。

「どぼじでそんなかおするのぉぉぉ! れいむはおさだよぉぉ! ちゃんとうやまってねぇぇ!」
「お前、まだ良く分かってないのか」

人間は鉛筆をれいむのあんよに押し当てた。
薄い皮を突き破って、ゆっくりと先端が穴に潜っていく。

「……れいむはわるくないよ!」

人間がぐいっと鉛筆を押し込むと、三分の一以上が中に潜った。
餡を抉られる痛みに、れいむが体をよじる。

「わからないなら、教えてやろうか。まずみょんと無理矢理すっきりしたらしいな」
「ゆがぁぁぁ!」

人間は少し離れたところに次の鉛筆を刺した。

「無能のくせに長に立候補したんだっけな」
「ゆぎょぉぉぉぉ!」

二本の鉛筆からさらに離れた場所にもう一本が刺さった。

「自分で狩りに行かず、群れの奴らに餌を集めさせた」
「ゆぎゃぁぁぁぁ! やめでぇぇぇ!」

鉛筆が、今度はまむまむに突き入れられた。
れいむは全身を痙攣させて、敏感な粘膜餡が傷つく痛みに耐える。

「他のやつの餌を横取りした」
「ゆぎゃあ! いだいいい!」

すでにれいむの体からは、ハリネズミのように何本も鉛筆が突き出ている。
底面に正方形を書いて、その四隅に一本ずつ斜めに鉛筆が刺さっていた。
正面から見ると鉛筆がハの字形に突き出ているように見える。
れいむは半分白目を向き、浅い呼吸をしている。

「……ゆひぃ……ひ……ゆぐぅ」
「挙句の果てに、長のゆっくりを殺した」

人間は最後の一本を頭に刺した。

「ゆっぎゃあああああ! もぉやべでぇぇぇ! れいむがわるがっだでずぅぅぅ!」
「本気で言ってないだろ? 次、せっかく帰してやったまりさを殺した」

目を背けていたみょんがぴくりと眉を動かした。
人間はさらに適当なところに鉛筆を刺していった。
れいむは痛みをこらえながら反論する。

「れいむはっ! れいむはわるくないよっ! まりざなんでっ! まりさなんてじらないっ!」
「つがいだったのにか?」
「あんなやつ、つがいでもなんでもないよっ! かってにどっかいっでっ!
れいむのじゃまをしてっ! ころしたほうがよがったんだよ!」

「お前のつがいのみょんも、きっとそう思ってるよ」
「ゆっ?」

れいむは激痛の中で、みょんの姿を見つけた。
すがるような視線で、目を背けたみょんを見る。
一縷の望みをかけて、叫んだ。

「みょん、れいむのことすきだよね!? だからついてきてくれたんだよね!?」
「ちがうみょん。ひとりではおちびちゃんは そだてられないから……。
でも、ちびみょん いがいは、ずっとゆっくりしちゃったから、もういいんだみょん」

みょんは淡々と答える。
れいむは一瞬痛みを忘れて呆けた。

「ゆ……え? ゆ……」
「はっはっは。もうお前はいらないってさ」
「みょんは れいむのこと すきじゃないのぉぉぉ!
れいむは、れいむはこんなにみょんのことをあいじでるのにぃぃぃ!」

みょんは冷ややかに言った。

「れいむがあいしてるのは、じぶんだけだみょん」

後はもう、何も言わなかった。
頭の上の赤みょんと一緒に、じっと動かずにいる。

れいむは、みょんがここまでついてきたのだから、当然みょんも自分と同じ考えだと思っていた。
だからみょんにすんなり選択を促した。

みょんはれいむに嫌気がさしていた。
確かにれいむに半ば無理やりついてこさせられた。
だがそれはあの場に残るよりは一緒に逃げたほうがまだ助かる可能性はあるというだけの判断だった。

れいむがまりさを踏み潰した時に、みょんはふと思った。

れいむはみょんを好きだと言う。
でもれいむは、一度も自分の方を向いていなかった。
都合のいいゆっくりとして、そばに置いていただけだ。

れいむのことを信じたかった。
口先だけじゃなくて、何か行動で示してほしかった。

みょんはれいむを支えてきた。
でも、支えあうはずのれいむは、みょんによりかかっているだけだった。

みょんはもう疲れたのだった。
これ以上、れいむについていく気力はなかった。

心の底にはまだれいむを思う気持ちが残っていた。
だがそれは、風前のろうそくのように弱々しく消えかかっていた。
もはや、再びれいむと気持ちを通じ合うことはないと思えた。

れいむの絶叫が響く。

「どぼじでぇぇぇぇ!」

人間はそのままれいむを地面に置いた。
すると、鉛筆が三脚のようにれいむを空中に支えて安定した。
火星探査船やお盆に飾るナスのように、珍妙なバランスの物体が出来上がった。

「おろしてねぇぇぇ! うごけないとゆっくりできないい!」

れいむはもみあげをぴこぴこさせるが、あんよが地面に接していないのでどうやっても動けない。
次に人間は缶に入ったオイルを取り出して、少しれいむの頭に垂らした。
冷たい感触にれいむは声をあげる。ついでにオイルが口に入った。

「ゆひゃぁ! つめたい! にがいいい!」

ライターを取り出して、火をつけた。
火はれいむの肌の上を舐めて、皮と餡を焦がしていく。

「あづぅぅぅぃぃぃ! ゆがああああぁぁ! けじで! とめでぇぇぇ!」

もみあげで頭を叩いて消そうとするが、逆にもみあげに火が燃え移った。
あっという間にれいむの全身は火に包まれて、燃え盛る。

口の中からも炎が上がる。
声にならない悲鳴が炎の中から途切れ途切れに聞こえてきた。
ぱくぱくと酸欠の金魚のように口を開け閉めする姿だけが見える。

みょんは、赤みょんを口の中に入れる。
自身も目を逸らした。
人間からすれば、ただ饅頭が焼けているだけだったが、ゆっくりには凄惨過ぎる光景だった。

鉛筆の一本が焦げて折れ、地面に落ちてもれいむは燃え続けていた。
皮が焦げてめくれていき、中の餡が剥き出しになる。
それすらも強い熱によって水分が飛び、炭化していく。

れいむがいた場所には、何だか黒い塊が転がっていた。
しゅうしゅうと白い煙があがり、ぷんと焼けた餡の匂いが立ち上る。
表面は固く乾いてひび割れ、中から薄く煙が昇っている。

人間は、その塊を爪先で突き崩した。
表面は焦げているものの、内部の餡はまだ残っていた。
中枢餡も無事だ。

その小さな固く締まった餡の塊を慎重に焼け跡から取り出すと、水筒の中にしまう。
中にはオレンジジュースが入っていた。

「お前にもついてきてもらうぞ」

人間が手を伸ばした。
みょんが人間に捕まる。

掴まれた拍子に、口の中から赤みょんが飛び出た。
地面に落ちてぽとりと柔らかくバウンドする。

「ゆぴゃぁぁ!」
「おちびちゃぁぁん!」

人間は赤ゆには興味を示さなかった。
ザックを再び背負うと、来た時と同じように大股でさっさと歩いていく。

赤みょんは必死でに追いかけた。
小さな体で精一杯跳ねて追いすがるが、とても追いつけない。
どんどん引き離されていった。

「おちびちゃぁん!」
「おかーしゃぁぁ! おきゃーしゃ! まっちぇぇ!  ゆぺ!」

地面の窪みにはまって、つんのめる赤みょん。
その間に、人間はどんどん草むらを歩いていってしまう。

人間の後ろ姿が、みょんの声と共に小さくなっていった。
途切れ途切れに聞こえる声が、赤みょんが聞いた最後の母親の声だった。

「……おちび……げんき……」
「まっちぇにぇぇぇぇ! おきゃーしゃぁぁぁん!」

人間は車に乗り込んだ。
まりさを連れ去った時と同じように、家で虐待するためのゆっくりを手に入れて家路につく。
つけっぱなしのエンジンが再び唸りを上げて、車は走り出した。
二度と戻ってこなかった。

「おきゃーしゃん」

ぽかりと口をあけて赤みょんは車が走り去った方向を見ていた。
とてつもなく不安だった。孤独と絶望が一気に赤みょんに襲い掛かった。

意地悪な姉れいむたちはありさんに食べられてしまった。
おとーしゃんは、にんげんさんにいっぱい痛いことをされて、おかーしゃんの口の中にまで悲鳴が聞こえてきた。
おきゃーしゃんはにんげんさんに連れて行かれちゃった。

これからどうやって生きていけばいいのだろう。
まだ狩りの仕方も教わっていないのに、赤みょんはひとりぼっちになってしまった。
知らず涙が溢れてくる。

「ゆぇ……」

声をあげた赤みょんに近づくゆっくりがいた。
傷まりさだった。

「れいむのおちびちゃん」
「みょん?」

赤みょんは振り返った。
視界が黒く蔭り、そのまま二度と晴れることはなかった。
傷まりさが、赤みょんに襲い掛かり、上からその小さな体を踏み潰した。

「ゆっくりしね! ぱちゅりーがしんで、なんでお前がいきてるんだぜぇぇ!
おまえもしねっ! れいむのおちびちゃんも、れいむとどうっざいだよ!」

怒りの矛先を失った傷まりさは、限度を知らなかった。
息を荒くして、何度も飛び跳ねる。
周りのゆっくりは誰も止めなかった。

ようやく落ち着きを取り戻した傷まりさは、背を向けて群れのほうへ帰っていった。
群れのゆっくりたちも、それで気が済んだのか引き上げていった。

赤みょんは草の上で小さな白いチョコの染みになっていた。
朝露に溶けて流れてしまうほど、小さな染みだった。

うーぱっくのうーという鳴き声が、林に響いた。
それを聞くものはいなかった。


7

れいむは暗闇の中で目を覚ました。
体が熱っぽくて、だるい。
自分の体ではないみたいだ。

目を開けても視界が明るくならないので、夜なのだと思った。
辺りからはがさごそという音や、人間の話し声が聞こえてくる。
それらの音は妙にくぐもっていた。

れいむは記憶を辿った。
逃げている途中に人間が現れて、れいむは選択を要求した。
人間はそれに応えた。だが、選択をしたのは自分ではなかった気がする……。

そこまで考えて、れいむは自分の身に起こったことを全て思い出した。
群れを追い出されたこと。
れいむ似のおちびちゃんがすべて死んでしまったこと。
みょんに信じられないことを言われたこと。
そして、その後の人間に与えられた、苦痛の数々を。

思わず悲鳴を上げようとした。
だが、いくら声をあげようとしても、全く音が出ない。
いや、自分では叫んでいるつもりなのだが、口が開かない。
目も見えているのに暗いわけではなく、最初から開いていなかった。

どういうことだろう。
自分は人間に火をつけられた後、死んでしまったのだろうか。
死んで、ゆっくりが死後に行くというゆん国に召されたのだろうか。

それにしては様子がおかしい。
真っ暗で何にもない。それに、人間の声が聞こえる。
ゆん国はゆっくりだけの至上のゆっくりプレイスだ。
人間がいていいわけはない。

では、ここはどこなんだ?
そこまで考えて、れいむは最悪の想像をした。
まさか、火をつけられた自分は、中枢餡以外全て焼けてしまい、
目も口も開けなくなったままずっと放置されているのでは?

中枢餡だけではものの2、3分しか生きられないが、そのときのれいむにはそんな考えはなかった。
ただ周りの様子がわからない恐怖と、ずっと目も見えず口も利けないまま過ごさなくてはならないという不安に押し潰されそうになっていた。

暗闇の中でれいむは、みょんを呼んだ。
まりさがいなくなって寂しい思いをしていた時、現れてくれたのはみょんだった。
単に長のところにご飯を持ってきただけだったが、それだけでれいむは救われた気がした。

だからみょんが好きだった。
誰よりも、まりさよりも、群れ全部と引き換えにできるほど。
でも、もう遅い。

自分はおそらく死んだのだろう。
みょんも人間に殺されたのだろうか。
燃え盛る火炎の中から見たみょんは、自分から目をそらしていた。

もっとみょんの気持ちを考えてあげればよかった。
自分がゆっくりするだけじゃなくて、みょんといっしょにゆっくりすればよかった。
ひとりじゃゆっくりできないよ。

みょんはずっとひとりだったの?
れいむがそばにいても、ひとりだったの?
ごめんね。
ごめんね。

いくら謝っても、みょんとはもう会えない。
その事実が、重くのしかかってくる。

もう一度みょんに会いたい。
会えなくても、せめてみょんだけは人間の魔の手を逃れて無事でいて欲しい。

れいむは声にならない声で叫んだ。

「みょん!」

それは、誰よりも自分の好きなれいむが、初めて自分以外の誰かのことを想った瞬間だった。

(れいむ)

れいむの頭の中に、声が聞こえた。

「だれ!?」

(れいむ、こわくないみょん)

声はみょんのものだった。
慈愛に満ちた声が暗闇に響き渡った。
それだけで、辺りが明るくなった気がした。

「みょん、どこにいるの!? ごめんね!! れいむはいっぱいひどいことしたよ!
まりさもころしたよ! ぱちゅりーもころしたよ! むれのみんなに めいわくをかけたよ!
でもしんじてほしいよ! れいむはみょんがすきなんだよ! あいしてるんだよ!」

(れいむ、わかってるみょん。れいむのきもち、ぜんぶつたわってくるみょん)

みょんの声は、相変わらず優しかった。
全てを受け入れたように、落ち着いた響きだった。

「みょん! こっちきてね! れいむといっしょにすーりすーりしようね!むーしゃむーしゃしようね!
こんどはちゃんと、れいむがじぶんでごはんとってくるよ!」

(れいむ、それはできないみょん)

みょんの声音が蔭る。
れいむは叫んだ。

「どぼじでそんなこというのぉぉ!? まだおこってるのぉ?」

(そうじゃないみょん。れいむはもうみょんと いっしょにいるみょん)

「だから、どこなのぉぉ! でてきてねぇぇ!!」

(れいむ、れいむはみょんの からだのなかにいるんだみょん)

「ゆっ?」

れいむは辺りを見回した。
相変わらず真っ暗だった。
れいむはあせりと困惑を顔に浮かべて、無理やり笑う。

「へ、へんなこといわないでね、みょん……おこってるの?」
(そうじゃないみょん。にんげんさんは、みょんにえらばせてくれたんだみょん。
"ちゅうすうあん"だけになったれいむと、ずっと一緒にいるか。ふたりでゆんごくにいくか。
みょんはずっと一緒にいるほうをえらんだんだみょん)
「にんげんさん!? にんげんにつかまったの?」
(にんげんさんは、みょんのあたまにれいむの "ちゅうすうあん"をうめこんだんだみょん)
「なにをいってるのぉぉぉ!」

(わからないなら、みせてあげるみょん)

みょんがそう言うと、れいむの目が見えるようになった。
視界が一気に明るくなり、外の光景が目に入ってくる。
そこにはオレンジ色の世界が広がっていた。
ゆらゆらと揺れる前髪が目に貼りつく。

(れいむ、れいむもおんなじ けしきをみているみょん?)

みょんは目を開いて、辺りを見回した。
人間のおうちの中のようだった。
視界の端で、人間が寝転んでテレビを見ている。
人間の声だと思ったものは、テレビから流れてくる音声だった。

どうやら、大きな水槽の中にみょんはいるようだった。
水槽の中には、オレンジジュースがたっぷり入っている。
その底の方でみょんはじっとしている。
頭の後ろの方が継ぎ足したように少し膨らんでいた。

水槽に沈んでいるのはみょん一匹だけだった。
みょんが目を動かすと、れいむの視界も一緒に動く。

人間がこちらに気付いて、水槽のガラスを指で叩く。
ゆらゆらと歪んだ姿がれいむの視界に大写しになった。
みょんは開けた目をすぐに閉じた。

辺りが再び暗くなる。

れいむはおぼろげに、何が起こったのか理解した。
たった今見た光景は、みょんの見たものだった。
それを、れいむも見た。

「ゆ……え……? ゆ、ゆふ、じょうだんだよね?」
(れいむ、これでずっと一緒だみょん)

みょんの口調には一片の冗談も含まれていなかった。
れいむは絶叫した。

「ゆぎぃぃぃぃぃぃぃぃ! やじゃぁぁぁぁぁ!」
(にんげんさんは、ずっとこのままだって いってたみょん)
「やべでぇぇぇぇぇぇぇ!  だじでぇぇぇぇぇ!」

(れいむ、みょんは うれしいんだみょん。
さっきのことば、れいむのきもちは、うそじゃないってわかったから。
これなら、れいむの考えてることは ぜんぶみょんにつたわってくるみょん。
もうれいむのことばに なやまされなくていいんだみょん。
たまには、むれのことも おもいだしたりして……)

みょんは思い出に浸るように少し体を傾けた。
もうれいむに振り回されることはない。
楽しい記憶ばかりを、ずっと思い出していた。

叫び続けるれいむの意識の中に、みょんの記憶が流れ込んできた。
無理矢理すっきりさせられたときの、痛みと悔しさ。
雨上がりにご飯を運んできた時の、空腹と疲労。
巣の中でひとり、れいむを待っていたときの寂しさと辛さ。
そして、れいむに裏切られた時の絶望と苦しみ。

それらが全て、れいむの頭の中で混ざって弾ける。

みょんが幸せな記憶に浸っている間、れいむはずっと苦しみ続ける。
辛い記憶ばかりが、なぜかれいむに吸い寄せられるようだった。
壊れたシーソーのように、もうれいむが浮かびあがることはない。

「ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! だずげでぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

れいむの上げた悲鳴は誰にも届くことなく闇の中へ消えていった。

部屋には、変わった様子はない。
全てはれいむが目を覚ましてから、ほんの数分間のことだった。

水槽の中で目を閉じたみょんの口元が、わずかに微笑んだ。

ゆっくりいじめSS・イラスト ※残虐描写注意!コメント(7)トラックバック(0)|

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コメント

1101:

れいむクズ過ぎ、
こんな奴は
生きながら死の苦しみを味わうのが
お似合いだ、
それにしても
「みょん」と「赤みょん」は
クズのせいで救われないな
…可哀想に。

2012/08/11 12:10 | ゆ虐バレッタ #- URL [ 編集 ]
2432:

やっぱりれいむ種は屑じゃないか(呆れ)

2012/11/12 17:32 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
2438:

くそにんげんがぜんぶわるいんでしょぉぉぉぉぉ
ばかなのじぬのぉぉぉぉぉぉお

2012/11/12 21:51 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
2440:

れいむ種は全ゆん「足りない」んじゃねえか?
そう思いたくなるくらいゲス率がハンパねえ・・・

2012/11/12 22:43 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
2443:

そうかなあ?ゲスなんて所詮人間にとっての価値観だよ
生物なら他の個体を徹底的に利用し、自分の命を繁栄させてしかるべきだ

2012/11/13 01:55 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
2445:

>>2443
でもれいむって群れからせいっさいされること多くない?
てことはゆっくり視点からしてもゲスなんじゃないの?
まあゆ虐という世界自体人間が創造した妄想だからどうとでも言えるけどさ

2012/11/13 02:30 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9829:

赤みょんは救われてもよかったんじゃないか…みょんはれいむの狂行を止められなかった責任があるが赤みょんはただただ不憫な良識ゆっくりだ。

2013/08/08 02:04 | 穏健派鬼威山 #- URL [ 編集 ]

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