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2021:ありふれた野良のお話

2012/08/12 (Sun) 07:00
早朝、まだ薄暗いマンション裏。
背丈の高い雑草を押し分け、一匹のまりさが這い出てきた。
そのまま声を出さずに、静かに、目立たぬようにと跳ねていく。
まりさの目的は狩、目的地はそう、ゴミ捨て場だ。


「まりさもきたね、おはよう」

「れいむ、ちぇん」

「……おはよーなんだねー」



途中、知り合いのちぇんとれいむに会った。
ゆっくりらしからぬテンション、しかし野良としては正しい。
同じ狩場を利用するために自然と顔を会わす機会は多くなる。
しかし、まりさはれいむとちぇんの詳しい家族構成を知らないし、知りたいとも思わない。
それは目の前の二匹も同じだろう。


「…………」


そのまま無言で目的地まで移動する。
のん気に世間話をするような暇は無い。ここは既に人間の生活領域。
早朝とはいえ活動を始めている人間もいるだろう。
三匹ともそれを理解しているからこそ一度も笑みを見せず、ただただ急ぎ跳ねる。


「……ついた」

「ゆっ」


そしてマンションの表にあるゴミ捨て場についた。
現在の時刻は朝の5時、ゴミの回収車はいつも9時頃にやって来る。
回収ギリギリの時間になるとゴミ捨て場には溢れるほどの量のゴミ袋が溜まっている。
――――“浅い”野良の目には宝の山に見えるだろう。
たくさんの食料が詰まった袋がたくさんのたくさんある、最高の狩場だと。


「ゆ……これはまりさにはもてないよ」


だがこの三匹にとっては違う。
ゴミ袋を見つける。
歓喜の声を上げながら中身を吟味することもせずに、穴を開ける。
そして食べ物があったらその場で食い漁る。
論外だ。話にならない。
そんなことをすればほぼ確実にそれがゆん生最後の食事になるだろう。
当然だ、自分達ゆっくりは人間のゴミを漁っているのだから。


「ゆっ!!これは……」


今はまだ早朝、ゆえに捨てられているゴミはそれほど多くは無い。
一つ一つをいろんな角度から覗き、中身を調べるスペースがある。
そうやって落ち着いて観察すれば、ゴミ袋はそれぞれ大きさが違う事に気づけるのだ。
マンションにはもちろん様々な人が住んでいる。
家族で暮らしていればゴミは人数分それなりに出るし、
一人暮らしの人間が捨てるゴミ袋は比較的小さくなるだろう。
まりさ達が狙っているのはその小さい、
さらに正確に言うのならまりさたちが持ち運べる大きさのゴミ袋を探しているのだ。
もちろん中身にはできるだけ生ゴミが多く入っているものがいい。


「…………ゆ?……ゆん」


ふと周りを見ればちぇんがいなくなっていた。
めぼしい物を見つけて先に持って帰ったのだろう。
正しい行動だ、ここは長居すればするほど危険な場所。
だからこそその場で開くようなことはせず、おうちに袋ごと持ち帰っているのだから。


「ん、これなら――――ゆっ!!!」


カシャカシャと袋がすれる音、そして朝の静寂の中で響く足音。
マンションの住人が降りてきたのだ。その手にゴミ袋を持って。
非常にマズイ事態だ。今現在ゴミ捨て場の中にいる二匹。
今から逃げ出したとしても、確実に人間の目にとまってしまう。
そうすれば逃げ切れたとしても、“あみさん”が増やされ、もうこの狩場が使えなくなってしまうかもしれない。
そうなったら最後、全ては終わりだ。
生きていくうえで、ここの生ゴミは欠かすことは出来ない。


「ゆっ……!」


そこで二匹は隠れることを選択した。
このゴミ捨て場はブロックで四角く囲われていて、上をネットで覆う形になっている。
まりさとれいむは手前の壁にへばりつき、必死で息を殺し、身を縮める。
それでも上から覗き込めば即座に気づかれるだろう。


「…………」


しかしその人間はネットを持ち上げ、中にゴミ袋を放り投げるとそのまま行ってしまった。
わざわざゴミ捨て場を覗くようなことをする人間は少ない。
ホッと息を吐き、まりさとれいむは行動を再開する。
お互い協力しているわけではないが、こういった非常事態には言葉もなく即座に対応する。
――――理由は単純で、それが出来ない固体はみんなすぐ死ぬから。
この程度の危機は二匹も何度も経験している。
とはいえもちろん好きでやっている訳ではない。
まりさだって、いや全ての野良がゴミ捨て場なんかよりも、
もっと安全で清潔でそして十分な量の食料を確保できる狩場を望んでいる。
と同時にまりさやれいむは理解しているのだ。
そんなもの、何処にも在りはしないということを。


「ゆっ、これで……もうこれでいいよ」


まりさが袋の縛り目をくわえ、器用に背負う。
ゴミ袋の下敷きになった帽子が潰れるが全く気にしない。
自慢のお帽子と胸を張って言えたのは一体どれほど前の事だろうか。


「ゆ、っしょ、じゃぁれいむはさきにかえるよ!きをつけてねまりさ!」


れいむの方も決めたらしい。
まりさのようにゴミ袋を背負い、チラリとコチラに目線を送った後、帰り道を跳ねていく。
もう一度まりさは背負ったゴミ袋の感触を確かめる。
大丈夫だ、柔らかい。
理由は分からないが、ゴミ捨て場にごはんさんが入っているゴミ袋が捨てられる日は限られている。
日にちや曜日の感覚が極めて曖昧なゆっくり、それでもまりさは学んだ。
少なくとも、この生ゴミさんが入っているゴミ袋が捨てられた次の日のゴミ捨て場には、生ゴミさんは無いと言う事。
さらに言えばその次の日にも生ゴミさんが捨てられることは無い。
そしてその次の日にはあったり無かったり。


「ゆっしょ、ゆっしょ」


確実に言えるのは、今日持って帰るこの袋の中身で最低でも三日はもたせなければならない事。
十分な量の食料がこの中に入っていなかったら?
そうなれば、苦い苦い草を食べることになるか――――いやこれ以上あまり想像したくない、とまりさは頭を軽く振る。
とにかく、このゴミ袋は一家の数日分のごはんさんなのだ。
中身がどんなに少なくても、たとえ腐っていようとも、もう一度引き返して選び直す事は出来ない。
時間が遅くなれば遅くなるほど危険度は増す、死んでしまってはもともこもない。
また見つかればゴミ捨て場の網はもっとしっかりとしたものに変えられてしまうかもしれない。
そうしてら、他の二匹にも迷惑がかかってしまう。


「ゆ、よかった。ゆっくりおうちについたよ…………」


マンションの裏手の駐輪場を抜けた先、隣の雑居ビルとの隙間を通っていく。
このマンションの一階の通路はわずかに地面より高い位置に作られている。
そのため地面と通路の間に隙間があるのだ。
その地面と床の狭い狭いスペースにまりさのおうちはあった。
ゆっくりであるまりさですら、屈まないと入れない。
帽子がおうちの屋根に押し付けられザリザリと音をたてるが、今更気にしたりはしない。


「くっ!ゆぅ、っしょ!ゆぅぅぅ」


ただこの圧迫感には何時までたっても慣れることはない。
このおうちでは“のーびのーび”どころか、通常の姿勢でいることが出来ないのだ。
人間で言うと常に中腰でいなければならない状態なので、楽な姿勢をとるには寝転がるしかない。
苦労して前に進んでいくと、家族らしき姿が見えてきた。


「ゆっしょ」


ゴミ袋が引っかかる、破かないように慎重に進まなければならない。
何せ暗いのだ。
こんな隙間に外の明かりが入ってくるはずもなく、うっすらと前方が見える程度。
それも暗闇に目が慣れてからの話で、外から帰ってきた直後は全く何も見えない。


「ゆ……?まりさ……?まりさだよね……?」

「おとーしゃん……?」


番であるれいむとおちび達の不安げな声が聞こえる。
向こうからもまりさの姿はおぼろげな黒いシルエットにしか見えないらしい。
万が一、猫やネズミといった外敵や、ゲスゆっくりだとしたら。
そんな不安は常に付きまとう、それが杞憂だなんて言えるほど街はゆっくりに優しくないのだ。


「ゆっ、まりさなのぜ……」


安心させるために声を掛けてやる。


「おかえりまりさ!ごはんさんは、その、だいじょうぶだった?」

「たべれる?まりしゃむしゃむーしゃできるのじぇ……?」

「れいみゅも!れいみゅもだべちゃいよぉ!」


まりさの目にもやっとれいむとおちび三匹の姿が見えた。
皆まりさへのねぎらいの言葉もそこそこに、背負うゴミ袋の中身の事で頭がいっぱいになったようだ。


「しっかりもってきたのぜ」

「そ、そっか!よかったよ……」

「ゆわーい!」


それも無理はないと、まりさはそっとゴミ袋を降ろす。
何せ昨日はほとんど食べるものがなく、今日この生ゴミが手にはいらなければ、
いよいよ外に出て雑草なり、虫なりを探さなければならない所だったのだ。
親の不安が子にも伝わり、おちび達も昨晩は元気が無かった。
とはいってもこのおうちでは仕方が無い事か、とまりさはため息をはく。


「これは、たべれる。これは……むりなのぜ」

「おちょ!しゃ!はやきゅ!はやきゅ!れいみゅ――――」

「うるさいのぜ!……さわぐやつにはいちばんまずいまずいさんをたべさせるのぜ」

「……ご、ごめんなしゃぃ!……ゆっぐ」


ここは人間のおうちの真下。ここは死神の足元。
どのくらいの声量だと上に人がいた時に聞こえてしまうのか、まりさにはわからない。
だからこそ、大声はもちろん小声ですら極力話すことを良しとしない。
――――それは、生まれた時からおちびにも何度も何度も言い聞かせてきた。


「て、てつだうよ。まりさ……」

「ゆ、だいじょうぶなのぜ。それにとげとげさんもあるからあぶないのぜ。
 ほらおちびはこれをたべていいのぜ」

「ゆ!?ゆわーい!」

「あ、ありがとうおちょうしゃん!」

「お、おちびちゃん!しーだよ!しー!」


マンションの床下を利用しているだけのおうちの地面は、
もちろんコンクリートで舗装されているため硬く、そして陽の光が当たらないため冷たい。
そこで今日のようにゴミ袋から出てきた食べられないテイッシュなどのゴミを敷くのだが。
これがまたひどい悪臭を放つのだ。
それも刺激臭だったり腐臭だったりと様々で、とてもゆっくりできるものではない。


「むーしょ、むーしゃ………ゆっ」

「もーぐ。もーぐ……くちゃ……くちゃ…」

「むじゃむじゃ、ごくん……ゆ……」


静かな食事が始まった。
薄暗いおうちの中で咀嚼する音だけがやけに響く。
ありがちな“しあわせー!”という言葉が出てくることは無い。
父親であるまりさが、騒ぎすぎないよう目を張っているし、そもそもおいしくない。


「ゆ……」

「ゆ、あ、なくなっちゃたのじぇ……」


それでも食べればお腹は満たされていくし、満足いかなければさらに欲しくなる。
そこらの雑草と比べれば苦味も少なく、そして何よりとっても柔らかくて食べやすい生ゴミ。
おずおずと、分けられた食料を食べつくした子供達がまりさに頼む。


「おとーしゃん、あにょね、えっと、れいみゅもうちょっとたべちゃいにゃ……」

「っ!ま、まりしゃももっとたべちゃいのじぇ!」

「じゅるいよ!もっと――――」

「だめなのぜ」


簡素だが反論を許さない声色で断る。
もともとおちびのわがままを許すほうではないが、食料に関しては絶対におちびの要求は呑まない。
三匹は一瞬何かを言いかけた後、グッっと下唇を噛みしめ、母親のほうへとすごすごと引き返していった。
まりさだってその姿に心が揺れないわけではないが、一度許してしまえば最後、三日後には食料など残ってはいないだろう。


「おきゃーしゃんぅ、まりしゃおにゃかしゅいたのじぇぇ……」

「ゆぇぇぇ……ゆえぇぇぇぇ……」

「ゆ、ゆ、がまんしようねおちびちゃん。す、すーりすーりだよー」


母親にすりよる子供達の後姿を見ながら、まりさは後悔に似た回想に耽っていた。
まりさは生まれも育ちも野良である。
そんなまりさだからこそ、一時のゆっくりを求めておちびを作る事には抵抗があった。
なぜなら、自身の両親がまりさをここまで育てるのにどれだけ苦労したかその目で見てきたから。
“おひっこし”をたくさん経験した、むしろ一つのおうちに長く留まれた事が無かった。
最初はたくさんいた姉妹も、大きくなるまでには姉しか残っていなかった。
そしてまりさも半ば追い出されるように独り立ちさせられた。
最後に見た両親の顔は、数年間寝てないかのように疲れきっており、目も濁っていた。


「ほーら、おちびちゃん。しずかにゆっくりすーりすーりしようねー」


妻のれいむは、取り立てて特徴があるわけではないが、少なくとも馬鹿ではない。
人間との力関係は理解しているし、食料の調達が難しいということは知っている。
そんな彼女が、子を作ることに難色を示すまりさに対し何度も何度も頭を下げた。
どんな生活でも文句は言わない、食事だって食べれるものならなんだっていい。
――――――だからおちびちゃんをつくらせてくれと。
まりさもそこそこ自制がきくとはいえ、しょせんはゆっくり。
“おちび”という言葉には耐え難い甘美な誘惑の響きを感じてしまう。


「しゅり……しゅり」

「ゆっ、ゆ、ゆ」


日ごろから何度も脅している効果があってか、極力声を抑えてすりすりをするおちび達。
まりさはあの時、れいむに向かってハッキリと断言した。
必ず何匹かのおちびは死ぬ、もしかしたら全滅するかもしれない――――それでもいいのか?と。


「……ゆ」

「しゅり、しゅり」


死ぬなんて決まっていない、れいむだって頑張るから、だからおちびちゃんが欲しい。
目に涙を浮かべ、れいむはそう答えた。
もう何も言わずにまりさはそれに応え、そしておちびが生まれた。
植物性妊娠にして三匹。
一般的には少ない数字だが、もともとたくさんのおちびをまりさは望んでいなかった。
しかしいくら少ないとはいえ、赤ゆっくり卒業間際までこうして無事に三匹共育てられたのは、まったく運が良かったとしか言えない。
危険を伴いながらもコンスタントに生ゴミが取れる狩場、そして今のところ安全なおうちのおかげだ。


「ゆ、どうしたの?おちびちゃん」


れいむが子供達の様子に、何かを気づいたらしい。
この暗いおうちの中でたいしたものだと、まりさは素直に感心する。
もじもじと身体を揺らしながら、子供たちが答えた。


「ゆ、あにょ、れいみゅおみじゅしゃんのみちゃい……」

「ああ……」


ちらっとれいむがまりさの方を向く。
子供達はまりさに強請って怒られるのが怖かったのだろう。
若干の寂しさを感じるが、親の言うことに従わない子はすぐに死んでしまう、だからこれで正しい。


「まりさ……」

「わかったのぜ」


本来なら、生ゴミに含まれる微量の水分で事足りるのだ。
そもそも水はゆっくりの最大の天敵の一つ。過剰に取りすぎれば逆に毒となるだろう。
――――――そのはずだったのだが、最近は異常に暑い。
日の当たらないこのおうちにいても、風通しが悪いせいでじめじめと不快感だけが募る。
とにかく暑すぎるのだ。体の餡子が、皮が、渇いていくのが自覚できてしまうほどに。
だから喉が渇く。


「くるのぜ、おちびたち」

「ゆ!あ、ありがとおとーしゃん!」

「うるさいのぜ」

「……ゆぅ」


おうちの奥にある、数本の空き缶。
子供達には絶対に触るなと言い聞かせているその中には、雨水が溜まっていた。
それを一本おさげで慎重に掴み、持ち上げる。
直接飲ませてやるといった器用なマネはまりさには不可能だ。
ちょっと多く流し込んだだけで、赤ゆっくりなど死んでしまうのだから。


「ほら、ちょっとはなれるのぜ」

「ゆ、ゆん」

「ま、まりしゃゆっくりしずかにさがるのじぇ、ゆーしょ……」


空き缶を傾け、中の水を地面に少量零す。
コンクリートの地面が唯一役に立つ瞬間だ、水は染み込まず平たく広がる。


「ほら、なくならないうちにのむのぜ。ただし、しずかにごくごくしないとおこるのぜ」

「ゆぅ!……ごーきゅ、ごーく」

「……ぺーろぺーろ」


一心不乱に地面を舐めるおちび達。
一滴でも多く口にしようと必死の形相で舌を伸ばしている。
まりさが見ていなかったら、姉妹を突き飛ばしているかもしれない。


「ふう……ごくん」


その様子を尻目にまりさは缶に直接口をつけ水を飲む。
数日放置した水だ、おいしいわけがないが、それでも喉は潤う。
そんなまりさをピチャピチャと地面を舐め回していたおちびの一匹が、
羨ましそうに見ているが、何かを求めてくることは無い。


「ふん」


父親の絶対的優位を日々教えこまねば、赤ゆっくりというものはすぐに増長する。
それを愚かだとは思わない。仕方が無いのだ。
赤ゆっくりとはそういうものなのだから。


「ゆふぅ…………」

「ゆん…………」

「ゆ……」


一応は肉体的には十分な食事を取り、水分補給も終えたおちび達。
後は存分にゆっくりするだけ、なのだが。


「……………」


こんなおうちで何が出来るというのだろうか。
おうたなど少しでも口ずさめば、父まりさのおさげがゆっくりしないで飛んでくる。
お前は人間をここに呼ぶ気なのか?
そう言われてしまってはどんな言い訳も口に出来ない。


「ゆ……ん」


何よりもゆっくり出来ないのが、この暗さ。
少しでも離れてしまえばもう、シルエットしか見えない。
そんな状態で手軽にできる遊びなどはなく、こーろこーろ等運動しようにも床は硬い、痛いのだ。
結局、その場に小石のように座り込むだけ。
じゃれ合おうにも相手が良く見えないのでは、盛り上がらないし、遊びが成立しない。
さらに赤ゆっくりなら屋根に頭が当たることはないとはいえ、圧迫感は感じる。
両親のお飾りが屋根に当たってひしゃげているのが分かり、それがなんとなく落ち着かない。


「…………」


そんな状態で家族の会話が弾むはずもなく、おうちの中はとてもとても静かだった。
おうちの入口から見える光り輝く外はとっても魅力的だが、『死にたいのならいけばいいのぜ』
親にそんなことを言われてそれでも外に出ようと思えるほど、この赤ゆっくり達は強くなかった。
自分の強さを過信しない事は長生きする上で必要不可欠である。
その点で言えばまりさによる教育はとてもうまくいっているようだった。
彼女たちの幸福感を考慮しなければ。


「あちゅい」

「そうだにぇ……」


分かりきった事をつぶやいても、家族からは碌な反応は帰ってこない。
その無気力な瞳は何も映さず、ただ暗闇を眺め続ける。
そうして無意味に無作為に夜まで過ごすのだ。
余計な行動派はいたずらに危険を呼び込むだけ、だからただただ静かに。
まるで世界から隠れるようにして一日を過ごすのだ。

















次の日、まりさは朝食をとってからおうちの外へと出てきた。
太陽が早くもその存在を主張している。
こうして途中雨が降る心配の無い日は貴重なのだ。
雲ひとつ無い青空を見て、まりさは今日は少しだけ遠出することを決めた。
公園の様子を見に行こうと。
とはいえ、晴れていても雨が降るときは降る、結局はやはり運次第なのだが。


「ゆ、ゆっ」


ポンポンと建物のあいだあいだを跳ねていく。
残りの食料に少し不安があった。なので多少味が悪くても非常食になるものを手に入れたい。


「ゆゆっゆ、ゆっゆっゆっゆ!」


極力人目を避けているとはいえ、姿を消せるわけではない。
歩いている人間と目が合うことさえあるが、まりさは慌てない。
まりさは知っているのだ。
人間が自分のテリトリー以外では冷徹なほどにゆっくりに対して無関心であることを。
ゴミ捨て場のゴミを漁っていたり、家の敷地に入り込んだゆっくりは見つかれば即座に殺されるだろう。
ただ路地裏や大通りのすみをこそこそと移動するゆっくりには、不思議なくらい人間は何もしないのだ。
それを、まりさは経験から学んだ。


「ゆっしゅ、ゆっしょ」


そして実際それは正しい。
まず野良は汚いという強烈な印象、それが都会の人間に深く根付いている。
汚さを表現する比喩対象にゴキブリではなく野良を用いることのほうが多いことからも、それが良くわかる。
そんなものをわざわざ靴や服を汚してまで踏み潰したいとは思わない。
虐待が目的の人間ですら最近ではわざわざ専用店から買うことのほうが多いのだから。
小学校でも野良ゆっくりの汚さについて子供達に注意を呼びかけている。
その甲斐あってか、大抵の人間は騒いだり、通行の邪魔をしない限りは野良を無視する。
潰したら潰したで、後々の処理が面倒なのも大きな理由か。
最も舌打ちくらいはするかもしれないが。


「ゆへぇ、ゆへ……やっとついたよ」


目的地である公園に着いた。
まりさが知る中でも一番広くて、最も草さんが多く生えている公園。
あんよが受ける柔らかな感触は、おうちの周りの地面さんには無いものだ。
だからこそ、この公園にはたくさんのゆっくりが住んでいた。
そのはずだったのだが――――


「あれ……?みんなどこにいるの?」


しばらく跳ねているが他のゆっくりの姿を見つけることが出来ない。
こんなに晴れていい天気なのだ。
いつもならそこら中でお散歩をしているゆっくり達の姿が見えるはずなのに。
目に入るのは人間と、アイツらだけだ。


「ゆ、ゆぅ」


人間、にんげんさん、くそにんげん、おにーさん、おねーさん。
呼び方は様々だが、まりさは人間にそんなに種類がいるとは思っていない。
ゆっくりを一回で殺すか、たくさんで殺すか、違いがあるとすればそれくらいだ。
そう人間、この公園は人間とゆっくりの距離が近すぎるのだ。
ゆっくりが笑いながらお話をしている横で、ボールさんを投げあう人間達がいる。
そんな異常、少なくともまりさにとっては異常すぎる光景を何度も見てきた。


「みんな、みんな……どこ?どこにいるの……?」


まりさだって、この公園への移住を考えたのは一度や二度ではない。
生ゴミよりも食料としてのランクは下がるとはいえ、安全に手に入る豊富な雑草。
そしてたくさんの他のゆっくり達に、何故か人間から手出しされることがないという環境。
魅力的過ぎる場所だった、まさにゆっくりプレイスと言っていい。


「ゆっ、ゆうー、ゆっ」


それでも、まりさは怖かった。
人間が恐ろしくてたまらなかった。
ここのゆっくり達のように、無警戒に人間の前でゆっくりするなんて絶対出来なかった。


「ゆはっ!ゆっは、ゆんっ!」


――――――それでもここへ足を運んでしまう。
ゆっくり達がゆっくりしているのを見ると安心出来るから。
ここはゆっくりプレイス。
人間達もここのゆっくりにはひどいことをしない。
まりさ達ももしもの時はここに逃げてくれば助かる。
そんな場所だと信じたかった、願っていた。


「みんな、なんでっ!なんでいないの!どこ!どこなの!」


それなのに今日は他のゆっくり達を見つけることが出来ない。
もうずいぶん跳ね回ったが一匹も会うことが出来ない。
そして望んでもいないのに嗅ぎ取ってしまうのだ。
嫌な嫌な臭いを、何度も経験した事がある。
そうこれは姉妹の遺体や、人間に潰されたゆっくりから発せられる――――


「ちがうぅ、ちがうぅぅ!!」


不安が、ドクンドクンと膨れていく。
そんなはずは無い、だってここはゆっくりプレイス。
ゆっくりがゆっくり出来ないはずは無いのだ。
今だってほら、何人もの人間がまりさとすれ違うが何もしてこない。
でも、それなのに、なんで、なんで他のゆっくりがいないのだろう。


「ゆっ、けんじゃ、けんじゃなら……!」


“まちのけんじゃ”そう名乗るぱちゅりーがこの公園に住んでいる。
とっても物知りで、驚くべきことに人間の文字というものを読めるらしい。
みんなから頼られ、まりさも何度か尋ねたことがあった。
もしかしたら、今はけんじゃのもとで、集会をしているのかもしれない。
だから今みんないないんだ、きっとそうに決まっている――――


「けんじゃ!?けんじゃ!まりさだよっ!!まりさがきたよっ!!」


けんじゃの立派なおうちの前で叫ぶ。
人間の目を気にしている余裕は無かった。
ともかく、安心したかった。
今日はみんなおうちでお昼寝してるとか、今はかくれんぼの真っ最中なんて理由でもいい。
みんなは無事だと、ここは今日もゆっくりしていると、その言葉を早く聞きたい!


「むきゅ、めずらしいわね。ああ、あなたは――――」

「け、けんじゃぁぁぁ!!よかったよぉぉ!!いたんだねぇぇ!!」

「――――そとのまりさね」


まりさを見た瞬間何かを納得したように頷くけんじゃに、ずーりずーりと近寄る。


「み、みんなはなにしてるの!なんでおさんぽしてないの!?きょういいてんきだよ!
 すっごくぽーかぽーかしてるよ!それなのにおうちにいるなんておかしいよ!
 だっていまこんな――――」

「“いっせいくじょ”よ」

「に、あった、か、い……の……に…………あ、あああああ……ゆあああああ……」


一斉駆除。
その言葉を知らぬゆっくりは一匹もいないと断言してもいい。
餡子の記憶に深く刻まれるほどの恐怖、それほどの数のゆっくりを駆除してきたのだろう。
街に住む野良にとって、これほど恐ろしいものはない。
何せ助かる方法が無いのだ。逃げても、どれだけ謝っても無駄。
善良、ゲス、まりさ、れいむ、全ての違いが全く考慮されずに殺される。


「このこうえんさんにゆっくりがふえすぎたせいだって、“まどうしょ”にかいてあったわ」

「だって、だってここはゆっくりぷれいすで……」

「みんなつれてかれたわ。こわいにんげんさんのすぃーにのせられて」

「ゆあああああああああああああああああああああああ!!!」


分かっていた、知っていた。
人間は恐ろしい、暴力的で、ゆっくりの事なんてなんとも思っていない。
知っていたはずだった。
それでもこの公園にいたゆっくりはみんな、幸せそうで。
人間だってみんな楽しそうにしていた、ゆっくりには関わらなかった。


「ひっぐぅぅ、ひっぐぅぅぅぅぅ!!」

「ほんのちょっとまえのことよ」


実際は違ったのだ。
公園の利用者達のほとんどは野良達を疎ましくは思っていた。
とはいえ、都会としては珍しいほど自然を残す公園。
飼いゆっくりを連れた人間も多くいるその目の前で、野良を潰す行為に誰しもが多少の抵抗はあった。
そしてまた、公園のゆっくりは街の路地裏に住むゆっくりよりは、汚れが薄く、生き物のように振舞っていた。
さらに特に人間に対して絡もうとしなかったため、他人の目があるなかで処分しようとする人物は現れなかった。
それだけの事なのだ。
仮に誰かが公園内の野良を潰して回ったとしても咎められる事はなかっただろう。
多くの人が他人とは違う行動取ることに多少の抵抗がある。
それだけ、それだけの理由なのだ。公園のゆっくりがゆっくり出来ていたのは。
そんな薄氷の上に、ゆっくり達は続々と集まった。
ならば結果は当然だろう。
もといたゆっくりも、後から後から集まってきたゆっくりも自重で氷を割り、皆沈んで行った。


「みんな、みんなしんじゃったの……?」

「そうね、たすかったゆっくりはすこしだけいるわよ。たくさんしんじゃったけど。
 あとそうね――――」


いったんぱちゅりーが言葉を切る。
助かったゆっくりがいる。その言葉は少しだけまりさをゆっくりさせてくれる、はずだった。


「――――――おちびちゃんたちはつれていかれなかったみたいね」

「ゆ、え?」

「かわいそうにみんなないていたわ。それもちょっとまえまでだけどね」

「おちびちゃんって、そんな!だって、みんな、おやはつれてかれて……」

「だからもうみんななきやんだのよ」


親を失った赤ゆっくりが生きていけるはずが無い。
それはまりさが良く知っている。絶対に生き残れない。
今も感じる、微かな、それでいて酷く餡子を刺激する死臭の正体がやっと分かった。


「たすけてあげれ……ない、よね」

「そうね、まりさだったらなんびきかひきとってあげたかしら?」

「ゆはは、むりだよ……」


余裕なんてものを今までのゆん生で持てた事は一度も無い。
自分の家族すら満足にゆっくりさせてあげられないのに、他のおちびちゃんの面倒なんてみれるわけがない。
そうだった、これが人間に関わる上でのリスクだ。
赤ゆっくりにだって容赦はない。
人間がした事にゆっくりが立ち向かう事なんか出来やしない。
まりさは姉妹が減っていく毎にそれを強く思い知った。


「ありがとう、まりさはもうかえるよ……」

「あら、そう?いまならすてきなおうちをたくさんしょうかいできるわよ?」

「ゆははは……」


ぱちゅりーの皮肉が虚しくまりさの耳を素通りする。
顔を見ればわかる。
ぱちゅりーだって、出来ることなら一斉駆除の犠牲者を減らしたかったはずなのだ。
でもみんな信じなかったのだろう。
彼等側の気持ちになって考えれば無理もないか、とまりさは思う。
人間に邪魔されない、最高のゆっくりプレイスだったこの公園。
それをいきなり、たとえけんじゃの言葉だとしても、人間に殺されるから何処かへ引っ越せ。
なんて言われたって誰も納得しないだろう。
安定した食料、広くて雨も防げるおうち、そして何より人間を恐れなくてもいいという環境。


「ゆん、ゆっふ、ゆっく」


最後の一つは野良ゆっくりが一番望むものであり、そして最も手に入れ難いものである。
結局この公園についていえばそれは幻だった。
けんじゃの警告、もしかしたらみんなだっておかしいとは思っていたのかもしれない。
人間のこちらを見るゆっくりしていない目、それはこの公園でも同じだった。
ただそれでも縋りたかったのだろう、ここがゆっくりプレイスだと。
他に逃げろと言われても、何処へ行けばいいのか。
そんなアテなんてあるはずないのだから。


「ゆっく、ひっくぅ、いっく」


先ほどまでは成体のゆっくりを探していたために気づかなかった。
だが今はそこらじゅうにポツポツとある、アリや羽虫が集っているものの正体を知ってしまっている。
数えるのも嫌になるほどたくさん、それがある。
これらが全部、笑って、泣いて、いずれは立派なゆっくりになるおちびちゃんだったなんて。
とても信じられない。


「ひっく、うっく。くぞぅ、くっそぅ……」


ごしごしとおさげで溢れてくる涙をぬぐいながら、まりさは跳ねる。
他のゆっくりを探しているとは言ったが、野良以外ならばたくさんいるのだ。
そこらで人間と一緒に笑っている。
そう、飼いゆっくりならばたくさん。


「…………」


アレは違う、あいつ等は違う。違うのだ。
大人なのにあんなに肌が綺麗で、帽子も傷一つ染み一つ無くて、髪の毛も輝いている。
有り得ない、普通に生活していたらあの状態からでも三日で全部ボロボロになる。
それを成体になっても維持しているなんて、あるわけ無いじゃないか、不可能だ。
姿はとってもまりさと似ているのに。


「ゆ、っふ、ゆっしょ、ゆっと」


ちぇんが前に言っていた。
飼いゆっくりはあまあまや立派なおうちを人間から提供されているが、
人間のルールを破ったりすれば、すぐ捨てられるか殺されるような哀れな存在だと。
唇をかみ締めながら吐き捨てていた。
まりさもその時は反論せず、素直に頷いた。
ちぇん自身、それが負け惜しみであることに気づいているようだったから。


「ん、っしょ、このくささんならたべれるかな」


野良ゆっくりなんて、人間のルールを破るどころか、見つかっただけで殺されることがある。
飼いゆっくりが食べるようなあまあまを一生に一度すら食べることが出来ない。
人間に媚びることがなんだというのか、こうやって隠れ、怯え、こそこそと生活することが、
媚びることよりもプライドを傷つけないとでもいうのだろうか。
―――――やめよう、とまりさは身体を振る。
とっくの昔に諦めた事だ。いや諦めたと自分に言い聞かせてきた事だ。
姿形は似ていても、彼等と自分はやっぱり違うのだ。同じではない。
そうでなきゃ、納得なんてとても出来ないから。


「ふぅ、あっつ!……ちっ、さいきんおかしいよたいようさん」


公園を出て、アスファルトの地面を踏んだ途端、あんよに軽い痛みが走った。
別段泣き出すような痛みではなかったが、予想外だったために必要以上に驚いてしまった。
熱い、いくら太陽が出ているとはいえ異常な熱さだ。
あまり長時間あんよを止めることは出来ない。
なるべく日陰を選んで跳ねていくまりさ、幸いここを抜ければ後は日陰の路地裏を通るだけでおうちに着く。


「ふ、ゆっ、ふぅ、ふぅ」


公園の事は――――家族には話さないことにした。
いたずらに落ち込ませるだけだ、暗い話なんてまりさが用意しなくても有り余っている。
だから明るい話題、今とれた柔らかい葉っぱと薄い花びらを食べさせてあげよう。
家の入口が見えた。
まりさよりも背の高い草は、人間に踏まれた様子も無い。


「ゆっしょ、くっ、あとほんのすこしだけやねさんがたかければ……」


身を屈めながらまりさがぼやく、寄り添う家族のシルエットが見えてきた。
まりさは家族の前でのみ“だぜ”口調を使うようにしている。
父親の威厳というのは大事だ、行き過ぎてもろくなことにならないが。


「ゆ、かえったのぜ」

「あ!ま、まりさ!おかえり!」

「お、おかえりなさい!おとーしゃん!」

「おとーしゃん!お、おかえりなのじぇっ!」

「…………?」


妙だ、家族達の対応がおかしい、というよりも不自然すぎる。
何だが必死に注意を引き付けたがっているような、そしておちび達がやけに元気だ。
――――ああ、そういうことか。


「…………」

「ゆ!?どうしたのまりさ!ごはんさんならたまにはれいむがよういするよ!だ、だから」


ゴミ袋に近づく、までもなく気づいた。中身が減っている。
無くなったわけではないが、明らかに激減している。


「たべたのぜ?」

「ゆっ!!そ、それは、ゆっと」

「た、たべちぇにゃいよぉ!れ、れいみゅごはんしゃんなんてぴぃっ!!」


パシン!と音がして言い訳を並べていたれいみゅが転がる。
それを見て必死でれいむがまりさに割り込んで来た。


「まってね!れ、れいむがわるいんだよ!れいむがおちびちゃんにたべていいよって!」

「まりさは、ぜったいにさわるなっていったはずなのぜ?」

「そ、それは、その、で、でも!おちびちゃんがかわいそうだったからぁ!!」

「ひっぐ、ひっぎゅ!ゆっぐぅすうぅ!」


油断していた。
れいむもおちびもまりさの言うことには必ず従っていたため、
別段ゴミ袋を隠すなりそういった予防策を取らないでいた。
れいみゅをおさげで叩いたが、それほどまりさは怒っているわけではない。
赤ゆっくりとはもともと我慢が出来る存在ではない。
近くにご飯がある状態で自制がきかないのは仕方が無い。
もっともそれを止めることがれいむの役目だったはずなのだが。


「ごめんなさい!ごめんなさいまりさぁ!!」

「うるさいのぜ」

「ひぃがぁぁ!!」

「ゆひぃぃぃ!!」


バシンと強めにれいむに体当たりをする、悲鳴を上げて転がる母親をみて怯えるおちび達。


「どんなりゆうがあっても、まりさのめいれいをむしするのはゆるさないのぜ。
 ――――――わすれたのぜ?」

「ひっ、ぐぅ、ごめんなさぃぃ!!わすれてないですぅぅぅ!!」

「じゃあどうしてたべたのぜ、もしかしてりこんしたいのぜ?まりさはそれでもかまわないのぜ」

「ちがいますぅぅぅ!!ごめんなさいぃぃぃ!!れいむだけじゃいきていけませんぅ!!!」


れいむがペコペコと頭を地につけまりさに謝罪し続ける。
おちび達は声もなく、ただただ震えている。
これで、おちび達はさらにまりさを恐れるだろう。
しばらくは言いつけを破ろうなんて考えもしないだろう。


「――――きょうのよるとあしたのあさのごはんさんはなしなのぜ」

「ゆぅぅっ!?そ、そんなぁ!!」

「いやならじぶんでさがしてくればいいのぜ、まりさはとめはしないのぜ」

「うぐぅぅぅ、がまんしますぅ……」


ここで甘い顔なんて絶対に出来ない。
れいむは馬鹿でもゲスでもないが、どうしても子供を優先してしまう性質だ。
これはもう、れいむ種の本能としかいいようがない。
かといって無制限にこれを許してもたちまち一家全滅だ。
れいむが子供達を甘やかしてしまうのは仕方が無い。
だからまりさが厳しく仕置きするのも仕方が無いのだ。
まりさはそうやって自分を納得させている。


「ほ、ほらおちびちゃんたちもおとーさんに、ごめんさいしよーね」

「ゆ、あ、ご、ごめんなしゃいぃ……」

「ご、めんにゃしゃいなのじぇ……」

「ふん、こんかいはゆるすのぜ。ただつぎはないのぜ」


カタカタ震えながら謝ってくるおちびに、もう一度釘を刺しまりさは背を向ける。
おちびたちはれいむに身体を押し付けてゆんゆんと泣き出した。


「…………ごめんなのぜ」


ボソッと、自分ですら聞こえないほど小さくまりさが謝った。
もし、もっと自分が一回一回満腹になるくらいの量のごはんさんを取ってこれたら。
もしもっと明るくて、人間に見つかる心配も無い、ふかふかなおうちを見つけられていれば。
この子達はもっと笑えただろう、ゆっくり出来ただろう。
おちびが生まれる前から、ゆっくりさせることは出来ないと諦めた自分ではなくて、
結果はどうあれおちびの要求は何でも叶えようとする両親の下に生まれていれば、
短い間だけでもそれなりの幸せとゆっくりを享受できただろう。


「ひっく、ひっくぅ!ゆっぐぅ!」

「おちびちゃん!すーりすーりだよ!すーりすーり!ゆっくりおやすみしようねー」

「ゆえぇぇ、ゆあぁぁぁぁ」


寄り添いあう家族から更に一歩まりさは遠ざかる。
その目から涙がこぼれ始めていたから。
ご飯くらいお腹いっぱい食べたいよね。
晴れた日くらいお外で元気に遊びたいよね。
こんなにも人間が冷たいから――――せめてお父さんには優しくして欲しいよね。


「ぐぐ、ごめんぅ……おちびごめんぅ……」


こんな思いをするならやっぱり子供を持つべきでなかったなんて考える自分が憎い。
自分にはこれが精一杯なのだ、全員で生きるためにこんな育て方しか思いつかなかった。


「ゆっぐ……!」


乱暴に頭を振って涙を払い、まりさは再び決意を固める。
ならばせめて、ゆっくり出来なくとも大人になるまでしっかり育ててあげる事を。
おちびが生まれた日に決めたように、この子達が一人で生きていけるようにしてあげようと。
例え恨まれてもいい。
この子達が子供を産んで、自分の父親はゲスだったと、笑って話せるように。
それまで、決して諦めない、と。









「かりにいってくるのぜ」

「う、うん!きおつけてねまりさ!がんばって」

「おちびのことたのむのぜ!」


薄明るい外をみながら、まりさが這っていく。
朝食は帰ってきてから、というよりはこれからその朝食を取りにいくのだ。


「おちびちゃん!おとーさんにいってらっしゃいしようね!ほら!ゆっくりおきてね!」

「……べつにいいのぜ」

「ゆぅ……でも……。ゆん?どうしたのおちびちゃん?おなかいたいの?ぽんぽんが?
 じゃあ、ごはんさんのまえにげんきにうんうんしようね!ゆっ?おちびちゃん?」


騒がしくおちびに語りかけるれいむを、少々疎ましく思いながらまりさがおうちを出て行く。
外に出て狩場に向かうと、知った顔が見えてきた。


「ゆ、れいむ、ちぇん」

「やっぱりまりさもれいむもきたんだねーわかるよー」

「まりさ、ちぇんおはよう!」


今日も生ゴミが狩場にある日だ。
当然のようにれいむとちぇんもいた。
対して仲良くも無いが、この二匹を見ると少しホッとする。


「まりさ、おかおがつらそうだよ、だいじょうぶ?」

「ゆっ、へいきだよ。ちょっとまぁおうちのじじょうってやつだよ」

「ちぇんにはどうでもいいんだねー、さきにいくよー」


そんなにもひどい顔をしていただろうか、れいむに心配されてしまった。
ちぇんが跳ねていく。
もともとあんよが早いちぇん、どんどん小さくなっていく。
勿論呆けている暇は無い、まりさとれいむも狩場へ向かう。


「ゆっ?ちぇんどうしたんだろう」

「ゆ」


先行していたちぇんが狩場の前であんよを止めている。
怪訝に思いながら近づくと、まりさ達にもその理由が分かった。


「ゆゆぅぅぅ!!すごいよぉぉぉぉ!!!ごはんさんがたっ!くっ!さんあるよぉぉぉぉ!!」

「しゅごーい!!これじぇーんぶごはんしゃん!?しゅごいよおぉぉぉ!!!」


大声、周辺に自分をアピールするかのような音量で騒ぐれいむとれいみゅの母子。
“浅い”野良だ。おそらく野良生活を三日も経験していないだろう。
狩場のまん前で人間を挑発するかのように騒がれてはたまらない。
急いでちぇんが静止に入ったのを見て、まりさとれいむも続く。


「しずかにしろよー!ここはにんげんさんの――――」

「なんなのぉぉぉぉ!!おまえはぁぁぁぁ!!これはれいむがさきにみつけたんだよぉぉぉっ!!
 だからこれはしんぐるまざーのれいむのものなんだよおぉぉぉぉっ!!
 ほしいなられいむのうしろにならんでねぇぇぇ!!!」

「れいみゅたちがまんじょくしたら、あげるかりゃそりぇまでまっちぇにぇ?
 じゅんばんってわかりゅ?りかいできりゅ?」

「ちっ!」


ぷくーと威嚇しながらますます大きな声で怒鳴るれいむ。
ちぇんが舌打ちするのが見て分かる。
まりさも理解した。
こいつらはゲスではなく無知による馬鹿だ。
場合によってはゲスよりも性質が悪い。
おそらくこっちが説明してやっても無駄だろう。
――――――それにそんな暇はないのだ。


「もういいよー!だまってしんでねー!」

「なんなの!?なんでれいむのほうに――――ゆべぇっ!!げぇっ!!
 いだっ――――むっ!っぐ!っ!」

「ゆっ!っぐり!しん!でね!」


ちぇんが膨れ続けるれいむに全力のタックルを顔面に浴びせる。
吹き飛んだ馬鹿れいむをれいむが追いかけ、悲鳴を上げる前にその上にのしかかって追撃する。


「ゆひぃぃぃぃ!?おかーしゃぁぁぁぁ!やめてやめてやめ――――ちゅべっ!」


余ったおちびは一瞬躊躇した後まりさが踏み潰す。
ぐちゃぁっと、あんよから赤ゆっくりの命を奪った感触が伝わってくる。
軽い嘔吐感に襲われるが、仕方なかった、仕方がないんだと繰り返す。
――――実際他に手段なんて考え付かなかった。
あれほどの大声を出し続けていたら、すぐにでも不快に思った人間が出てくるかもしれない。
仮に、人がこなかったとしてもこの家族は確実にこの場で食事を始めただろう。
袋を破り、中身を散らばし、歓喜の叫びを響かせながら。
それを咎める時間も余裕も無い。
他の場所で勝手に自滅して死ぬのならいい。
だがこの狩場だけはダメだ。
ここは彼等の命綱で、ゴミ袋が取れなくなるような対策を人間にやられたら、飢え死にするしかない。


「あがぁぁぁっ!!れ、いぶのおぢぃ!びぃぢゃんがぁっぁっ!あがっ!あががあがが!」

「くぅ、しんで!しんでよぉぉ!!」


れいむが泣きながられいむを押し潰す。
野良になって浅い物が他ゆんの狩場を荒らして、制裁されるのは珍しくもなんともない。
れいむだってその現場を見たことがある。しかし、見るのと実際に制裁を行うのとではまったく違う。
他の命を奪うという行為が、こんなに、こんなにもゆっくり出来ないなんて。


「いだぃ!やべっ、やべっでっ!おぢびぃ!おちびぢゃ!」


ただそれ以上にれいむは怖いのだ。
人間に殺されることが、狩場が封鎖されてしまうことが。
ここで躊躇したら死ぬ、そんな恐怖に支配され、れいむは瀕死の同族の上で跳ね続ける。


「どくんだねー!ちぇんがとどめをさすよー!」


一方ちぇんにれいむほどの良心の呵責は無い。
他ゆんを助ける義理など無いし、まして自身を危険に晒すような馬鹿やゲスは死んで当然だと考える。
だからこそ、今まで生きてこれたのだと自覚している。


「ゆん!」

「ゆぼっ!!!!…………」


助走をつけたちぇんの一跳ねをうけて、ついにれいむが潰れた。
破れた身体から餡子が染み出てくる。
やっと静かになり、ホッと息をつくが、
ゆっくりしている暇は無い、人間が出てくるうちに死体を片付けなければ。


「まりさ、れいむ!てつだえよー!このばかのした――――」

「朝から最悪」


振り向き、まりさとれいむに死体の処理の指示を出そうとして、ちぇんの全てがそこで終わった。
スーツ姿の男がちらりと腕時計で時刻を確認し、ちぇんだったものから革靴を引き抜く。


「うっわ、靴が……はぁ……」

「あ……あぁ……!」


人間が近づいてくる。
ドクンドクンと餡子が激しく脈打ち、まりさのあんよはガクガクと震える。
マズイ、どうしよう、怖い、ちぇん、人間。
混乱しきっているまりさの頭では、生き延びるための言い訳を考えることが出来ない。
もっともこの状況でどんな言い訳ができるというのだろうか。
ゴミ捨て場の前、潰れたゆっくりの死体。
人間からすれば、ゴミ捨て場を荒らす権利をめぐり、無駄な潰し合いが起こっていたようにしか見えず、
ゲスか善良かなんて意味をなさない。
ゴミ袋を破ったりしないで綺麗に持って帰るなどと、れいむとまりさがどんなに主張しても、
それで人間が納得することは無いだろう。
まりさに向かってくる人間の足が、一際高く上がる。


「ひぃぃぃっ!!」


まりさが悲鳴をあげ、無駄だと分かりきっている逃亡を図った時だった。


「あ?」


人間の足が止まる。
ドンと、れいむが人間のもう片方の足に体当たりしたのだ。
もちろん人間に痛みを与えるほどの衝撃はない。
ただそれでも注意を引くことは出来た。


「ゆぷぷっ!!どう!?くそにんげんはしんじゃったかな!?れいむさいきょうでごめんね!」

「…………」

「こないでぇぇっ!!まりざのほうにこないでぇぇぇ!!!!」


まりさには当然あんよを止めて振り返るような余裕は無い。
それでもれいむが注意を引き付けてくれていることは耳から伝わってくる。
その理由を考える機能は、今は全て恐怖によって支配されている。


「ゆ!?なかなかしぶといね!でもれいむのつよさがこれでわか――――」


まりさはメチャクチャに跳ねていた。
今にも、れいむの苦痛の叫びが聞こえてきそうで恐ろしかった。
必死で建物同士の間に身体をねじ込んで身を隠す。


「ひぃぃぃぃ!!ひぃぃぃぃぃぃ!!」


あまりの恐怖に自分が失禁していることも気づかずに、まりさはプルプルと震えていた。
人間の声もれいむの悲鳴も聞こえない、聞きたくないと目を伏せ、縮こまっていた。









まりさにとっては長く、ひたすらに長く感じる時間が過ぎた。
やっと落ち着きを取り戻したまりさが、ゆっくりと顔を上げる。
あの時は考えていなかったが、万が一追いかけられていたことを考えれば、おうちに逃げ込まなくて良かった。


「ゆっ、ゆぅ」


辺りをキョロキョロと伺いながらまりさが隙間から這い出てくる。
おうちの方角に一度はあんよを向けるが、振り返る。
――――れいむはどうしてまりさを助けてくれたのだろうか。
あの状況で人間に向かって行くのが、どういう意味であるかわからなかったはずがない。
たくさん狩で行動をともにしたれいむが馬鹿じゃないことはまりさが良く知っている。
だからやっぱり、まりさを助けるための行動だったとしか思えないのだ。


「ゆぅ、まりさは……」


迷いながらも、結局またゴミ捨て場まで戻ってきてしまった。
食料だってまだ確保していないのだ。
大分時間がたってしまったために、もう残ってはいないかもしれないが。


「ゆん……」


キョロキョロとその場を見渡す。
当たり前だが既にあの人間はいない。
ゴミ袋は――――既になくなっていた。


「あっ!」


れいむの潰れた残骸、そしてちぇんの死体がまだ放置されていた。
通勤前の人間にそこまでキッチリと片付ける時間的余裕はなかったのだろう。
それは人間の都合で、それならば最初から放っておいて欲しいというのは野良の都合だ。


「ちぇん……」


せめて埋葬してあげようと、ちぇんの死体をずーりずーりと引きずる。
むせ返るような死臭にも、なんとか耐えられる。
慣れてしまったのだろうか、それはそれで悲しいなと、まりさはぼんやりと考えていた。
そしてなんとかゴミ捨て場の裏にまで運び――――――れいむを見つけた。


「れ、れいむぅ!!!」

「……ゆ、あ?……ま、り、ざ!ゆほっ!げほっ!」


お飾りは比較的無事だったために、すぐにれいむだと分かった。
しかし、体は酷い有様だった。
ハッキリと靴の裏のあとがつくほど踏まれたあんよ、ピンポン玉くらいのへこみが体のあちこちにある。
よっぽど無造作に蹴られたのだろう。


「ひっぐ、まりざ、ぶじでよがっっだ、げっほ!」


潰した後片付けるのは面倒だ。
だが放っておいてゴミ捨て場が荒らされるのは忍びない。
だからとりあえず自力で動けないほど痛めつけて、ゴミ捨て場近くに放置する。
そうしておけば誰か、マンションの管理人辺りが片付けておいてくれるかもしれない。
そんな無責任な考えが、れいむを生かしていた。


「れいむぅ!どうしてっ!!なんでまりざをっ!!」


れいむのあまりの姿に、治療という考えすら浮かばず、まりさは疑問をぶつけていた。


「れ、れ……いむはね、ほんとは、おちびちゃんも、れいむのまりさも、みんな……みんなしんじゃってるんだよ」

「そうだったんだ……」


初めて聞いたれいむの家族の事情。
れいむがずっと一人だったなんて、まったく知らなかった。


「まいにち、ひとりだったんだよ……。むーしゃ、むーじゃするどきも、おやすみするのも」

「れいむ……」

「でも…………ここで、まりざとぢぇんにあって、いっしょにかりするときだけは、ひどりじゃながったよ」

「ゆ……」


まさか、そんな理由で命をかけて助けてくれたというのだろうか。


「れいむはまりさとちぇんしか、ともだちがいないから……あうのがたのじみだったよ……」

「そ、それでたすけてくれたの?で、でもまりさとれいむはそんなにおはなししてないし……」


一緒に行動していたとはいっても、せいぜい三日に一回、狩の間だけの話。
それに協力らしい協力をしたわけでもない、まりさからすれば友達というには希薄な関係だった。
もちろん命を投げ出すほどの関係ではなかったはずだ。


「おか、しいよね……。
 でももうまりさとちぇんしか、れいむのことをよんでくれるゆっくりはいないんだよっ……!
 もう、ひとりのおうちはいやだから、れいむはほんとにまりさとちぇんにあえるかりがだいすきだったんだよ……!」

「れいむ……その……」


なんて言葉をかければいいのだろうか。
お礼を言えばよいのか、それとも慰めるべきなのかまりさは悩んでいた。
まさかれいむがここまで自分達の事を大切に思っていてくれたなんて。
するとれいむは瀕死の身体を起こし、今までよりはっきりと心の内を吐き出した。


「…………ほんどはねっ、ほんとはっ!れいむだってっ!!れいむだっておちびちゃんとっ!
 おちびちゃんどゆっぐりじたかったっ!!ずーりずーりじでっ!!!ぺーろぺーろじたがったっ!!」

「…………れいむ」

「おちびちゃんとごはんざんだべてっ!!!おちびちゃんのうんうんをかたずけてっ!!
 おかーさんありがとうっていわれてっ!!いっしょにぽーかぽーがじだがったっ!!!」


れいむが一言叫ぶたびに、唾液に混じって餡子が飛び散る。
それでもまりさに止めることは出来ない。これがれいむの最期だと、分かってしまっているから。


「なんでっ!なんでれいむだけっ!!れいむだけこんなめにあうのぉぉっ!!
 れいむだってぇぇぶぼえっ!!がっほっ!げっほっ!!
 れいむだっておちびちゃんのためにがんばりたかったよぉぉぉぉっ!!!
 ずるいよぉぉっ!!れいむだっっげっへっ!!ゆぼぉぉぉっ!!げっほっ!」

「ぐっず、ゆっぐ、ゆっずんっ!!」


血反吐を吐き出すようなれいむの慟哭に、まりさも涙を流していた。
れいむの願いはまりさの、いや野良で暮らすゆっくり全ての願いだ、恨みだ。


「れいむは!れいむはぁ!!!―――――――――――もっど、ゆっぐりじだがった……」

「ゆ、ゆがぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっっ!!」


動かなくなったれいむの前で、まりさは泣き続けた。
セミの泣き声を跳ね返すように、れいむの体の上に涙を落とし続けた。












ふらふらとまりさが帰宅した。
知り合いが二匹も人間に殺され、食料も手に入らなかった。
とりあえず今日の分のごはんさんだけでも確保しに行かなければならないが、
とてもそんな精神力は残っていない。
とりあえず、家で何も考えずに休みたかった。


「ただいまなのぜ……」

「おぞいよぉぉぉぉぉぉっ!!!まりざぁぁぁぁぁ!!どごいっでだのぉぉぉぉ!!!」

「なんなのぜ……」


ウンザリした顔でまりさが返す。
普段だったら黙れと、怒鳴っているところだが生憎そんな元気は無い。
だから、この時点ではまだ気づけなかった。


「おちびちゃんがぁぁぁぁっっ!!おなかいたいっていってないてるのぉぉぉっ!!
 れいむじゃどうしようもなくてぇぇぇっ!!たすけてあげてよぉぉぉぉっ!!!!」

「はぁ……?おなかがいたいって――――――」

「いじゃぃぃぃぃぃ!!!ふっぐぅぅぅぅ!!おなぎゃぁぁぁぁああ!!」

「――――――どうしたのぜ?どこかにぶつけたのぜ?」

「ちがうよぉぉぉぉっ!!おきてからずっとないてたのぉぉぉっ!!」


明らかに異常なおちびの叫びに、まりさもやっと緊張を取り戻す。
この痛がりかたはおかしい、普通ではない。
ケガをしたわけでもないらしい。それなのに朝から泣いている――――――


「っ!くるのぜっ!!!」

「いじゃいじゃいよぼぉおおぉおおぉっ!!いぎいぃぃぃぃぃ!!おじゃかがぁぁぁっ!!すとまちゃちぇぇぇぇ!!!」

「ゆっ!?まりさ!?」


痛みに泣き叫ぶおちびのおさげをくわえ、外へと向かう。
中は暗くて、おちびの皮の様子までは見えない。
違っていてくれ、自分の予想は外れていてくれと願いながら、ずりずりと移動する。


「ゆっ!…………ゆはは、っははは、やっぱり、ね」

「いじゃいぃぃぃ!!いじゃいじゃいじゃいじゃいぃぃぃぃ!!」


――――果たして太陽に照らされたおちびの皮には緑色のソレがびっしりとこびり付いていた。


「まりさ……どうしたのいきなりおちび―――――っ!!!なんでぇぇぇぇ!?
 どうしておちびちゃんのからだにかびさんがはえてるのぉおおおおおおおお!!!」

「ゆぎぃぃぃぃ!!いぎぃぃぃぃぃ!!いがぁぁぁっっ!!!」


カビ、特にゆっくりに生えたものは“ゆカビ”なんて名前で呼ばれたりする。
発生初期では本ゆんに痛みはないが、体半分を覆う頃になると内部まで侵食が進み、激しい苦痛が襲う。


「かび、ははは、かびさんかぁ……。それはゆだんしちゃったなぁ……」

「ぎぎぎいぎぃぃぃ!!いぎぃぃぃぃぃ!!!」

「ひぐぅぅぅ!!かびさんはどっかいってぇぇぇ!!おちびちゃんをいじめないでよぉぉぉっ!!」


人間からはうまく隠れたはずだった。
確かに日の当たらない床下のスペースは格好の隠れ家だった。
だが日光が当たらないがゆえの湿度は、ゆカビの繁殖を助け、
暗くておちびの皮まで見えないがために手遅れになるまで気づかなかった。
ゆっくりを殺す天敵は人間だけではない、それをまりさは失念していたのだ。


「くっそぉおおおおおおお!ゆっぐあああああああああああ!!」

「あぎぎぎぎぃぃ!ぎぎぎぎぎぐいぃぃ!!」

「ひっぐ、おちびちゃん、おちびぢゃんぅぅぅ!!」


ぶくぶくと黒い泡を吹き始めたおちび。
カビが生えたゆっくりはもう助からない、そんな事れいむだって知っている。
知っているからこそ、声を抑えることが出来ない。


「ゆぶぶべぇぇぇげげぇぇぇ、あべべべべ」

「ゆっぐっぐぐうぅぅぅ!れいむ!」

「ゆっ!まりざっ!おちびぢゃんを――――」

「このおちびはもうだめなのぜっ!」


「――っ!!!ゆっあああああああああああああ!!」


れいむがもみあげで目を覆いながら泣き崩れた。
そんな事をしてもおちびが助かるわけじゃないというのに。


「だから、まりさはいまからこのおちびをすててくるのぜ。
 そこでかわいそうだから、らくにころしてやるのぜ………」

「ゆぇ……?な、なんで?かわいそうだよぉぉぉっ!!
 せめてえいえんにゆっくりしちゃうまですーりすーりしてあげたいよぉぉぉっ!!」

「かびはうつるのぜっ!!!!!」


今までで一番強く、大きくまりさが怒鳴った。
目に涙をたたえたまま。


「ほかのおちびにまでかびをはやすつもりなのぜ!?れいむっ!!こたえるのぜっ!!!」

「ぐぅぅ!!ひっぐ、ゆああああ、ゆああああああああああああああ!!!!」


れいむの泣き声は、カビの生えた子供の泣き叫ぶ声を打ち消すほどだった。
大切なおちびちゃん、一緒にいた時間は狩であちこちに出かけていたまりさよりもずっと長い。
その子が苦しんでいるのに助けてあげることも出来ず、あまつさえ捨てなければならないという。
そんな事を承諾するなんて母親として絶対に出来ない。
出来ないが――――拒否すれば他のおちびちゃんまで死んでしまう。
れいむに出来るのはただ答えを返さずに泣くことだけだった。


「ゆっしょ……それじゃあまりさは、このおちびをゆっくりさせにいってくるのぜ。
 そのあいだにれいむは、ほかのおちびにもかびさんがはえてないかたしかめるのぜ」

「ゆっぐぅ、ひっぐぅ、わがっだっ、よっ!」


おちびをぶら下げながら、まりさは人目につかない道を進んでいく。
なるべくおうちから離れたかった。
こんな、こんなにもゆっくり出来ないことをしようとしているのだから。


「やるのぜ……」

「いぎいぃぃぃ、いだだいぃぃぃ!!」

「いまらくにしてやるのぜ」


棒をくわえ、おちびの方へと向き直る。
踏み潰せば一撃でおちびを死なせてやることができるが、
それでは自分にカビが伝染してしまうかもしれない。
だから棒、思いっきり突き立てれば中枢餡を貫き楽に殺してあげれるかもしれない。


「…………ゆっ」


分かっている、こんな棒じゃ一回で殺すなんて到底無理だ。
最低でもたくさん突き刺すことになるだろう。
でももう、苦しみつづける我が子を見ているのは限界だった。


「いだがぃあいぃぃ!!おがーじゃぁぁぁ!!いだいぃょぼぼぼぉぉぉ!」


泣きすぎて目の周りが溶け掛かっているわが子の中心へ、狙いを定める。
口が震える、さっきだって赤ゆっくりを制裁したというのに。
はじめから覚悟していたことだ、れいむにも言った。
全部のおちびが死ぬ可能性だって十分に在ると。。
そして、今まりさは自分が覚悟していたつもりだっただけだという事を思い知っていた。


「いだぃぃ!おどーざん!いだいぃぃぃぃ!!だずげでぇぇぇえ!!」


その目は果たして見えていたのかどうか。
おちびの歪みきった瞳がまりさを捉え、そのおくちは確かにまりさに助けを求めた。
何も出来ず、これから命を奪おうとするまりさに。


「――――っ!ゆあああああああああああ!!ああああああああああ!!」

「ちゅぼっ!びっ!!あぐっ!!っ!!っ!!……!……」

「ごめんねぇぇぇぇっ!!ごめんねぇおちびぃいいいいい!!!」


刺した、狂ってしまったかのようにわが子を何度も何度も。
突き刺しては引き抜き、また力任せに突き刺す。
グボン、グションと路地裏に音が跳ね回る。


「ゆはー、ゆはぁぁー」


我に返ったまりさの前には、グシャグシャになった餡子の塊があるだけだった。
一体何回目で死んだかすら分からない、くわえたままの棒も餡子に塗れていた。


「ゆっ、ゆ、ゆゆ、っゆあああああああああああ!!!」


飢えで死んでしまう子がでるとは思っていた。
人間や猫に襲われて死んでしまう子がでると思っていた。
雨に打たれて溶けてしまう子がでるかもしれないと思っていた。
――――でも自分の手でおちびを殺すことになるなんて思っていなかった!


「ゆがあああああああ!!あああああああああああ!!」


あまりにも、あまりにも酷すぎるではないか。
まりさは子供を飢えさせないように努力した、人間に見つからないように頑張った。
頑張って頑張って、その結果がこれだというのなら。
――――まりさは一体なんのために頑張ってきたのか。


「あああああああああああああああ!!ああああああああああ!!」


ガンガンと頭を壁に打ち付ける。
この怒りと憎しみと後悔が入り混じった感情の爆発で、全てを壊すために。
まりさは暴れる。
その姿は生まれたばかりの赤ゆっくりが、母親にゆっくりを強請る姿によく似ていた。





興奮が収まると、次にやってくるのはいっそこのまま死にたくなるような虚無感だ。
だがまりさにはまだ、れいむと幼いおちびが二匹いる。
ここで死ぬわけにはいかないのだ。
それなのに考えれば考えるほど無気力感は増していく。
帰ったらまず手に入らなかった生ゴミの代わりを探さなければならないが、あの量を探すとなると並大抵の苦労ではすまない。
その前に家に帰ったら、おちびのカビのチェックをしなければいけないか。
もしカビが生えていたら?
それもまだ痛みが、自覚症状が出ていないような状態だったとしたら。
自分はそのおちびを殺せるのか?


「……やだ」


嫌だ、そんなことはもうしたくない。
生ゴミがもうとれない以上は、どこかにお引越ししなければいけない。
公園にでもいくか?
一斉駆除があった場所に?あんなにも人間や飼いゆっくりがたくさんいる場所に?


「やぁだぁ、もうしらない!まりさしらないよぉぉぉ!!」


考えたくないのに、後から後からゆっくりできない未来を想像してしまう。
必死で明るい事を考えようとしても見当たらない。
ゴミ捨て場以上のゆっくりした狩場が見つかるとか、いきなりゆっくりした群れに入れてもらえて助けてもらえるとか。
そんなのは妄想だ、現実味がなさすぎて、簡単に不安に押し潰されてしまう。


「ゆっぐりしたいぃ!ゆっぐりしたいよぉぉぉぉぉぉ!!」


これから益々暑くなっていく。
太陽は目下の雲を追い払い、快晴という名の釜がゆっくりをじわじわと煮こむだろう。
セミは鳴く、土を出てからの短い命を燃やしつくし、子孫へと命を受け渡すために。
彼等は地上での短い生活を嘆きはしないだろう。
だからこそあんなにも力強く鳴き、精一杯生きた証を残そうとしている。
それが出来ないゆっくりは“泣く”しかないのだ。
夏の街には、鳴き声と泣き声が混ざり合う。

ゆっくりいじめSS・イラスト ※残虐描写注意!コメント(13)トラックバック(0)|

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コメント

1107:

なまじ(野良ゆにしては)優秀だから不幸だな。

2012/08/12 10:48 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
1108:

このまりさには
経験と理解力がある賢い
しっかりしたゆっくりだね
でもその賢さ故に
厳しい現実だけじゃなく
最悪の結果である未来まで
見通してしまう、
賢いゆっくりは
長生きはするかもしれんが
色々と鬱だろうな、

…野良の厳しさがわかる
良作でした(^ ^)!

2012/08/12 11:20 | ゆ虐バレッタ #- URL [ 編集 ]
1112:

ゆっくり達の心理描写がとても丁寧だし、
まりさの苦悩や嘆きの文面が秀逸で一気に読んでしまいました。
とても好きな作品です。

2012/08/12 23:05 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
1116:

この話に出てくるゆっくり達を「人間」に置き換えても物語が成り立つ。
それだけこの作品の出来が良いと言えるが、何とも悲しい気分になる。

2012/08/13 17:25 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
1248:

まあ虫にたかられてここまで生き延びることなく即日エンドだよね

2012/08/28 18:21 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
1545:

ゆっくりの悲劇は身体的能力と精神的能力のアンバランスがもたらしてんだろうなぁ
いやそれは人も同じか

とか愚考を始めてしまうくらいの良作!

2012/09/20 07:41 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
1618:

現実に『ゆっくり』が存在したとしたらどうなるかをよく表している作品だと思います。
今、人間が存在する場所の大半は、固いアスファルト、自然物が殆ど存在しない、等と
人間以外が生きていくには無理がありすぎますよね。
それが、犬や猫なら餌をあげる人や、拾って飼ってくれる人もいるでしょう。
昆虫とかならば、小さい故に狭い所でも公園などの多少の自然があれば生きていくには十分。
ですが、中途半端な大きさと繁殖能力による数の多さを持つゆっくりは人間にとって邪魔な存在ですし、
身体の構造上、アスファルトでは夏は熱過ぎるし、冬は寒過ぎます。
その上、土地も全て人間が管理している以上、ゆっくりが住まえる様な木がある所も、穴を掘る軟らかい土も殆どありません。
ゆっくりが存在したらいいのに、と思う人は沢山いるでしょう。
(虐待したいとか、愛でてみたいと理由はともかく)
ですが私は存在させる技術があっても存在させて欲しくないです。
何故なら、この作品の様に、増え過ぎた結果、人間はゆっくりを捨て、繁殖し、ゆっくりも人間も不幸な目に遭うからです。

長文失礼致しました。

2012/09/23 20:38 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
6787:

面白かったです

2013/05/11 00:35 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9290:

もっと評価されるべき

2013/07/24 07:38 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9532:

似非評論家の様な常套句しか出ない自分の表現力の無さがアレだが

感情描写が良く面白い、そしてもっと評価されるべき良作!

2013/07/30 22:18 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9537:

まりさとれいむとちぇんとぱちゅりーがすげー頭良いな
特にれいむなんてまりさを人間から逃す上で最善の方法をとっさに実行できてるし

2013/07/30 23:09 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9597:

ぱちゅりーが頭良い作品はいいな
もりのけんじゃ()みたいなのばっかり見てたからなんか嬉しい

2013/08/02 00:58 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
9861:

やはりゆ虐は対象がゲスや傲岸不遜じゃなきゃ辛いな…コメントにもう書かれているがゆっくりと人間を重ねてしまう。
猫のような運動能力ないしはカラスのような飛行能力があればこんな辛い思いもしなくてすむのにな。
あるいは途中でてきた後先考えないバカのようならまだ精神的な苦痛も考えずに一生を終えられたろうに…。

2013/08/08 11:03 | 穏健派鬼威山 #- URL [ 編集 ]

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