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3419:激辛れいむと珈琲ありす

2014/06/11 (Wed) 18:00
本日の激務を終え、片道一時間程の郊外に構えた4LDKの我が城へ帰り着けたのは午前三時。
これで明日は朝九時出社だと言うのだから、ブラックにも程がある。

「ただいまー」

サラリーマン夢の一戸建てではあるが、ここに住んでいるのは俺一人。
田舎暮らしが性に合うらしく両親はこちらに出向こうともしないし、俺は独り身なので妻も子供も居やしない。
だが俺の帰宅の挨拶に、誰もいない筈の家の中から応えが来る。

「おにーさん、ゆっくりおかえりなさい!」

家の奥からぽいんぽいんと跳ね寄って来たのは、半年程前から俺のペットになったゆっくりれいむだ。

「きょうもおしごとごくろーさま!ごはんはどーするの?」
「あぁ、帰りにコンビニ寄ってきたから……」
「またそんな『じゃんくふーど』ばっかりだとからだこわすよ!きをつけてね!」
「……俺のオカンかお前は。風呂は沸いてる?」
「ぬるくなってるから、おいだきしたほうがいいよ!すいっち、いれてくるね!」
「頼んだ。……ああ、忘れてた。頼まれてたお土産買って来といたからな」

オール電化の恩恵で、ゆっくりでも操作できる風呂場に向かった背中に放った俺の言葉に、目を輝かせて振り返るれいむ。

「ゆっ!ありがとうおにーさん!ゆわ~い!」

一層軽快な足取りで跳ねて行くれいむを見送りながら、俺はビニール袋から買ってきた弁当とビール、そしてお土産の小壜を取り出す。
ビールで喉を潤し、揚げ物中心のカロリー過多な弁当をもそもそ喰っていると、追い炊きのスイッチを入れたれいむが戻って来た。
目をキラキラさせて俺の言葉を待つ様はご褒美をねだる子供そのもので、思わず苦笑いしながら俺は小壜を掲げてれいむに見せる。

「ほら、これだろ?今開けてやるから待ってろ」
「ゆっくりしないでさっさとあけてね!……ゆっ!?」

無意識のうちに口走ったのだろう、言い切ってからはっとした顔になるれいむ。
先程までの輝いた顔が嘘であるかのように意気消沈してしまう。

「……れいむ……お前な……」
「ゆぅ……ごめんね…………かってにおしゃべりしちゃうんだよ………」

嘘ではない。ゆっくりの本能なのか、こいつらは思ったことをそのまま口に出してしまうのだ。
調べた所、本来気心の知れた仲間同士で生活するこいつらは気遣いと言うものを知らないらしい。
おまけにとても物覚えが悪く、持って回った言い方が通じないため本音や直球で会話するのだそうだ。
人間で言う空気の読めない発言や、自分勝手な発言が多いのはその所為だ。
逆に空気が読めるゆっくりは本音を隠すのが上手いゲス候補なんだとか。

しかし、このれいむは普通のゆっくりとは違う。
こいつはとある事情で俺に頼らなければ生きていけない。それが解ったとき、

『お゛に゛い゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!ごべん゛な゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!』

と、こいつはボロボロ泣きながら何度も俺に頭を下げ、餌を貰う代わりに家の雑用をすると言い出したのだ。
雑用とは言ってもゆっくりの出来る事はたかが知れているが、この家でなら大概の事はスイッチを入れるだけで済むので、れいむでも結構使えるだろう。
そんな出来の悪い小間使いを雇う程度の気持ちで飼い始めたれいむだが、存外役立っていた。
基本午前様の俺を出迎え、風呂やら郵便物の受け取りやら、こいつが出来る範囲の事を一生懸命やり遂げようとしてくれる。
何より一人暮らしの身には、たとえゆっくりでも同居人が居ることが何よりも安らぐのだ。
世間一般で言われるゆっくりの評価が当て嵌まらない程出来の良いれいむは、最早俺にとって家族同然の存在だ。
しかし、そんなれいむでさえゆっくりの本能には逆らえないのか、たまにこんなゆっくり出来ない事を口走ってしまう。
そしてその都度、こうやって落ち込むのだ。

「まあ仕様がないさ。ゆっくりの宿命みたいなもんだろうよ、気にすんな」

俺の慰めに、れいむは力無い笑いを浮かべる。

「……でも、れいむはふつうのゆっくりじゃないよ。れいむはもうほかのこたちといっしょにゆっくりできないのに、こんなところだけゆっくりのままなんて……」

泣き出しそうなれいむを、俺は小壜の蓋を開けながら励ます。

「何、時間はまだまだあるさ。大体、生まれて半年経ってない子供が悟った事言うなよ。それに……」一旦言葉を切り、部屋の奥に目を向けながら続ける。
「仲間ならもうすぐ増えるさ。あいつ、どうやら成功みたいだしな。」

それを聞いたれいむの目が再び輝きを取り戻す。

「ほんとう!?あのこ、れいむとおなじになるの!?」
「お前と同じって訳にはいかないが、少なくとも普通のゆっくりとは違うわな。ほら、開いたぞ。丁度良いし、これで乾杯するか!」
「ゆわ~い!ありがとうおにーさん!」

俺はビールの缶を、れいむは口に銜えた小壜を合わせて乾杯する。

「「かんぱ~い!!」」

ビールを喉に流し込む。晩酌代わりの一本だが、今の俺には高級シャンパン並みの美味さに思えてくる。
俺は『タバスコ』の小壜をラッパ飲みする『真っ赤な髪』のれいむを見ながら、あの日の事を振り返っていた。



『激辛れいむと珈琲ありす 前編』



その日、俺はいつものように激務を終えて疲れた体を引きずり、午前様の帰宅を果たした所だった。

「ゆっ!ここはまりさたちのゆっくりぷれいすだよ!!じじいははやくでていってね!!」
「れいむはあかちゃんがいるんだよ!!じじいはあまあまをもってきてね!!あとしんでね!!」

だが、誰もいない筈の家の中で待っていたものは、割れた窓ガラスとぐちゃぐちゃに掻き回された室内、そして頭に茎を生やした汚い饅頭共だった。

「きこえないの!?ばかなじじいはさっさときえて「お前が消えろ」ゆ゛べじっ゛!!」
「ばり゛ざぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?!?!?」

只でさえ疲れていた上に饅頭の相手などしていられない。黒い帽子を被った饅頭に思いっきり足を振り下ろし、素早く生ゴミになってもらう。

「生ゴミは静かで良いな。んじゃ、ゴミの始末はよろしく。あ、こいつらそれまで人質な」
「でい゛ぶの゛あ゛がじゃ゛ん゛がえ゛ぜぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」

赤いリボンを付けた掃除機が騒音を撒き散らすが、俺は掃除機がさっさと仕事を終えるよう、掃除機に生えていた雑草をもぎ取って人質にする。
尚も抵抗する掃除機だったが、俺が雑草に付いてた実を潰そうとすると大人しく仕事を始めた。
その姿を見ている内にふと思い付き、俺は茎を刺している花瓶代わりのグラスにあるものを混入する。
俺がそんな事をしている事に気付かないまま仕事を終えた掃除機が、また「あ゛がじゃ゛ん゛がえ゛じで!!」と喚き出したので適当に痛めつけてからガムテープで拘束。
身動きの取れない掃除機の目の前に、俺は茎を刺したグラスを置いてやった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!でい゛ぶの゛!!でい゛ぶの゛あ゛がじゃ゛ん゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

掃除機の顔色が真っ青になる。その目線の先に居たのは、グラスに注がれたタバスコの所為で黒ずんだ実。十個近く実っていたプチトマトサイズのそれが、一個を残して全滅していた。
辛いもの、渋いもの、苦いものはゆっくりにとって劇物だ。一個残っただけでも奇跡だろう。

「良かったな、一個は無事だぞ」
「よ゛ぐも゛あ゛がじゃ゛ん゛を゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛!!じね゛ぇ゛!!じじい゛ばじね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛!!」

再び騒音を立て始めた掃除機を隔離するため、玄関に置いてあった魚の居ない水槽をひっくり返して被せ、俺は眠りに付いた。
翌朝、会社に出かける前に茎の様子を伺うと、もう目鼻が判別出来るくらいに育っていた。おそらく今晩辺りに生まれるんだろう。

「でい゛ぶの゛ばでぃ゛ざを゛がえ゛ぜえ゛え゛え゛!!でい゛ぶの゛あがじゃ゛ん゛を゛がえ゛ぜえ゛え゛え゛!!」

一晩中喚き散らしていたらしい掃除機の水槽にグラスを入れておく。ガムテープで固定された掃除機は動けないからグラスを割られる心配は無いだろう。

「赤ちゃんと仲良く語らってな。それじゃ、行ってきますっと」
「ぐぞじじい゛ばじね゛ぇ゛え゛え゛え゛!!じね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」

何か言ってるが、相手している時間がなかったので軽く無視して出社する。
何時ものように激務をこなし、何時ものようにコンビニに立ち寄り、何時ものように午前様で帰宅。
そして俺の帰宅を待っていたかのように、飲まず喰わずで喚きっ放しだった為か瀕死の掃除機の目前で、茎に付いていた実が震えてぽとりと落ちる。

「……で、でいぶの………あか……ちゃ……………ん……………?」
「……何だこれ?」

目を丸くする俺と掃除機を余所に、落ちた実は二、三回伸びをするように体を震わせて、勢い良く目を開ける。

「ゆっ、ゆっくちしちぇいっちぇね!!」

ご挨拶と言う奴なのだろう、舌足らずな甲高い声で定番の台詞を吐いたそいつは掃除機と同じれいむ種のように見えた。
だが、掃除機は黒髪なのに対してこいつは見事な赤毛をしていた。それも染毛剤による赤毛でなく、アニメとかに出てきそうな不自然な、それでいて自然な紅。
親と同じ色のリボンが隠れて見えなくなるような、完全な赤毛であった。

「…………ゆ?」

呆然としていた俺と掃除機の様子に小首を傾げる赤れいむ。ご挨拶の返事が返ってこないので不思議がっているらしい。

「ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
「……解った、ゆっくりしてけ」

もう一度繰り出されたご挨拶に、俺は思わず返事してしまった。
途端に、赤れいむが目を輝かせて俺に跳ね寄って来た。

「ゆっ!おちょーしゃん!」
「……ゆ゛っ゛!?」
「……何?」

間違いない。今、こいつは掃除機じゃなく俺を見て『おとうさん』と呼んだ。おいおい……。
まさか刷り込みって奴か?生まれた直後に見たものを親だと思うってあれ。
ゆっくりの場合は最初の挨拶に返事を返した奴が親だって事か?危ない習性だな、それ。

「……俺はお前の親じゃないぞ?お前の親はこっち」
「お、おちびちゃん………、れいむがおちびちゃんのおかーさんだよ……?そっちのじじいじゃないよ………?」

爺って、まだそんな事言ってるのかこいつは。ムカついたので掃除機を叩き潰してやろうと振り上げた拳は、続く赤れいむの言葉に行き場を無くした。

「ゆっ!ちぎゃうよ!おきゃーしゃんはりぇいみゅに『ちねぇ!!』にゃんていわにゃいよ!!」
「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛!?!?!?」

そうか!こいつは茎に付いている時に聞こえた言葉を覚えているんだ。
そして本当の親がずっと垂れ流していた呪詛を聞いていたんだろう。
そりゃあ、子守唄の代わりに恨み言を聞かせる親なんざ親だと思いたくないわな。

「ち、ちがうよ!れいむはおちびちゃんにいってたんじゃないよ!!こっちのじじいにいってたんだよ!!」
「そりぇにおきゃーしゃんはしょんなゆっくちできにゃいことをいわにゃいよ!!!」
「ゆ゛ぎゅ゛う゛う゛う゛う゛う゛っ゛!!」
「まあ、そりゃそうだな。普通なら『じじい』なんて呼ばれてゆっくりできる訳無いって解るもんな。偉いぞ、ちび」
「おちょーしゃんにほみぇりゃれたよ!!ゆわ~い!!」
「じじいはだまっててね!!おちびちゃんはれいむのおちびちゃんなんだよ!!」
「あ、そうだ。ちび、お前ご飯まだだったろ?今喰わせてやるよ。この茎で良いんだよな?」
「でい゛ぶの゛ばな゛じを゛ぎげぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」

喚き散らす掃除機を無視して俺は赤れいむの餌を準備する。とは言っても生まれたての赤ゆが喰うものは決まっている。
先程まで自分が実っていた茎。こいつが赤ゆの初めての餌になるらしい。胎生型とかだと自分の餡子を喰わせてやったりするようだが、植物型はこれが定番だ。
でも待てよ?タバスコに浸かっていた茎だぞ?赤ゆが喰っても大丈夫なのか?
不安になった俺はとりあえず掃除機に毒味をさせる事にした。

「そんなに言うなら、お前がやるか?確か茎を噛み砕いて柔らかくしてやるんだよな?」
「とうぜんだよ!!れいむのおちびちゃんなんだから、れいむがごはんをあげるにきまってるでしょお!?」
「五月蝿いぞ。喚くんじゃねえ」

こいつらは飾りが無くなったり欠けたりしただけで育児放棄するらしいのに、こんな明らかに異相の子供を見捨てないなんて見上げたもんだ。
そこだけは認めてやっても良いかもな。
そんな事を思いながら、俺はグラスから引き上げた茎を掃除機の口の中に押し込んでやった。

「むーしゃ、むーしゃ………ゆ゛げぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」

咀嚼を始めた直後、掃除機が大量の餡子と一緒に茎を吐き出した。

「ゆわぁああああああ!?」
「うわ!汚ねえ!!吐き戻しやがった!!」

やはりあの茎はタバスコを吸い上げていたようだ。咀嚼した途端に口内に入って来た劇物に体が過剰反応を引き起こしたんだろう。

「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛………」

掃除機が痙攣を起こし始めている。これはもう駄目だな。

「ちび、お前の親が死に掛けながら砕いてやった飯だ。きちんと喰ってやれ」
「ゆぅ……ほんちょうにおきゃーしゃんにゃの……?」
「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛………」
「ああ、本当だ。お前の為に死に掛けてるのが何よりの証拠だろ?だから俺はお前の親じゃない。呼ぶんなら『お兄さん』にしとけ」

大体俺はまだ二十代だ。お父さんと呼ばれる年じゃねえ。
俺の言葉にようやく納得したのか、赤れいむは痙攣を繰り返す掃除機の傍に寄り、ガムテープの隙間から見える素肌に頬擦りを始めた。
確か、『すーりすーり』だったか?手足の無いこいつらのコミュニケーション方法だった筈だ。

「おきゃーしゃん……ありがちょう…………りぇいみゅ、がんびゃってゆっくちしゅりゅよ……」

頑張ってゆっくりするって、矛盾してないかそれ?
内心浮かんだ疑問を口に出さず飲み込んでいる間に、赤れいむは噛み砕かれた茎に近付く。
茎に齧り付こうとした所で、痙攣する掃除機が「ま゛……ま゛っ゛で………お゛ぢびじゃ゛ん゛……」とそれを止めた。

「……おきゃーしゃん……?」
「………その……くきさんは………からいからいだよ……………おかーさんの……あんこさんを…………たべてね………」

ああ、そう言えばそうだった。こいつ、茎を齧ってこうなったんだっけ。
しかし増々見上げた根性だ。自分の子供が知らずに毒を食べようとするのを止める為に、残った力を振り絞ったか。
その上自分の餡子を食べさせようとするなんて、いや人間でも中々いないんじゃないのか、こういう親。
結構良い親子になれたかも知れないな、尤もこいつを許すつもりは毛頭無いが。

「わきゃったよ……あんきょさん、ゆっくちりぇいみゅにたべられちぇね……、むーちゃむー……ゆげぇえええええっ!!!」
「おちびちゃぁあああ゛あ゛あ゛ん゛!?!?!?……ゆ゛ふ゛っ゛!!!!!!」
「わ!何だ何だ、何事だ!?」

餡子を口に含んだ途端、今度は赤れいむが餡子を吐き出した。
それを見た掃除機は余りのショックで今度こそ昇天したらしい。
そりゃそうだ。身を挺してまで助けようとした我が子が死に掛けたんだからな、しかも自分の餡子で。そりゃショック死位するわな。
しかし……何なんだこりゃ?
赤れいむは幸い致死量まで吐いた訳じゃないらしいが、吐いたものが問題だ。
赤い。何か見事に赤い。親の餡子と比べるまでもなく別物だ。
どうやら赤れいむの中に詰まっているのは餡子じゃないらしい。と、いうよりあの赤さはどこかで見覚えが……?

「!そうか、おいちび!そっちの餡子は喰うな!!餡子を避けて茎だけ喰え!!」
「……ゆ、ゆぅ………?」
「お前は親と違って辛いものしか喰えないんだよ!甘いものがお前にとって毒なんだ!!」

他のちびは耐えられずに死んじまったが、こいつは自分の中身を変える事で生き延びた。
その代償に、他のゆっくりと同じものが喰えなくなったんだ!

「ゆ……むーちゃむーちゃ……ち、ちあわせぇ~!」

やっぱりそうだ、茎だけならこいつは吐かずに喰える。
まさか、俺は気付かないうちにゆっくりの品種改良に成功してしまったっていうのか?
なんてこった、面白いじゃないか!



ゆん生初の食事を終えた赤れいむに、俺は事情を説明してやる。

流行病に罹ったれいむとまりさが、己の身も顧みず人里へ助けを求めに来た事。
その病は生まれる前の子ゆっくりにある治療を施す以外、助かる見込みが全く無い事。
その治療法でさえ助かる可能性はごく僅かである上、副作用で普通のゆっくりでは無くなってしまう事。
しかも治療の為には、ゆっくりでは到底払い切れない高額の費用がかかる事。
それを聞いた親まりさが自分の身と引き換えに、子供達の治療を要求した事。
その熱意に打たれ治療を施すも、赤れいむ以外の姉妹は治療に耐え切れず死んでしまった事。
全てを見届けるため、病気が進行して危篤状態だった親れいむが無理を押して赤れいむの誕生に立ち会った事。
そして、赤れいむにご飯をあげようとして毒性を持った茎を食べ、餡子を吐き出して死んでしまった事。

俺はある事ない事取り混ぜて、赤れいむに説明した。
一時間以上掛けた洗脳にとりあえず赤れいむは理解を示し、次いで自身の現状を問うて来た。
親を殺した猛毒の茎を食べて、自分は大丈夫なのかと。

「おそらく、これがお前の副作用なんだろう。普通のゆっくりなら甘いものが最大の栄養源だからな。それが逆転したんだ」
「………りぇいみゅ、ちぬの?きゃらいきゃらいしゃんは、どくなんでちょ?」
「いや、多分お前の体質自体が変わってるんだよ。要するに、お前には辛いものが毒にならない代わりに、甘いものが毒になるんだ」
「……ゆぅ………」
「まあ、この治療法で助かっただけでも御の字だろうさ。お前の姉妹は十匹近く居たんだぞ?それがお前残して全滅だ」
「……おにぇーちゃん……」

話が姉妹の事になった途端、赤れいむが涙ぐむ。天涯孤独になった事を今更実感したんだろう。

「生き残れた事を幸運に思えよ。でないと、親も姉妹も何の為に死んだのか解らないだろ?」
「……にゃんで?」
「お前を助ける為に命を張ったに決まってんだろが。そのお前がいつまでもグジグジ泣いててどうするよ。
頑張ってゆっくりするんだろ?だったら泣いてる暇なんか無いだろうに」
「…………ゆん!わきゃったよ!りぇいみゅ、がんびゃってゆっくちしゅりゅよ!」

泣いた烏がもう笑いやがった。と、思ったらよく見ると泣くのを我慢して無理に笑っているらしい。

(結構根性あるなこいつ)

そう思った俺は暫くこいつの面倒を見る事を決めたのだ。



回想と食事を終え、烏の行水を決めた俺はゴミを捨てるついでに奥の様子を伺いに行く。
納戸の扉に平仮名で『ちりょうしつ』、その上に漢字で『実験室』と書かれたここに、れいむは殆ど近付かない。
扉を開けた途端に漂ってくる甘い香りが怖いらしい。れいむを怖がらせないよう、俺は素早く中に入って扉を閉める。
そこにあったのはわざわざ持ち込んだスチール棚に並んだガラス瓶やグラスの山。その中に満たされているのは様々な液体。
タバスコ、ラー油は言うに及ばず、古今東西の調味料や酒類、お茶の類いに至るまでがここに集められている。
そしてそれらの液体に浸かっているのは、貴重な休日に野山を駆け巡って収集して来た赤ゆっくりの茎だ。
ここは『新種のゆっくりを作り出す実験』をしているのだ。
勿論れいむには本当の事は教えていない。『これは治療だ』と言い張っている。

こうして実験するのももう何十回になるのか、未だ成功したのはれいむ一匹だけ。
茎が生えてから大体一週間くらいで生まれるらしいが、そこまでたどり着かずに黒ずんでしまう。
黒ずんだ赤ゆが放つ甘い匂いでむせ返りながら、俺はあるマグカップの前に立つ。
他の茎と同様に黒ずんだ赤ゆが鈴生りに実る中、一匹の赤ゆだけが寝息を立てている。
赤いカチューシャからしてありすらしいが、おそらく誰もそうだと思わないのではないか?
何故なら、ありすの特徴的な金髪が濃い茶色に染まり切っていたからだ。
俺は持って来たポットの中の液体をマグカップに注ぐ。
芳醇な香りが一瞬赤ゆ共の死臭を押しのけるが、すぐに混じって判別が付かなくなる。

マグの中で湯気を立てているのは、砂糖やミルクの一切入っていないコーヒーだ。
今の所、このありすが品種改良の成功例第二作となるのだろう。
この茎は出来立てホヤホヤのレイパー被害者から採取して来たもので、今日で五日目になる。
そろそろこの部屋から出しておいた方が良いかも知れない。
俺は黒ずんだ実ゆを毟り取りながら、マグカップをリビングへ運んだ。

「れいむ、そろそろ生まれそうだからリビングに出すぞ」
「ゆっ!あかちゃん、ぶじにうまれてきてね!」

フローリングの床に直接マグカップを置く。頼りなく茎にぶら下がるありすを、れいむが心配そうに見守っている。

「……おうたは禁止な。やるんだったら俺が居ない時にしてくれ。近所迷惑にならないように閉め切っておくから」
「ゆん!れいむ、うるさくしないよ!」

念のために釘を刺し、俺は短い睡眠を取るため自室に向かった。
振り返ると、れいむがマグカップの前に陣取る姿が見える。どうやら一晩中付いているつもりらしい。

(……随分とご執心だな。あれが噂に聞く『ぼせい(笑)』ってやつかね?)

そんな事を思いつつ、俺は眠りに付いた……。






れいむは空調に合わせて揺れる実ゆを見守りながら、これまでのゆん生を振り返っていた。

れいむの一番古い記憶は、絶え間なく聞こえてくる『しね……しね……』と言う呪詛である。
生まれ落ちる寸前の一番ゆっくりするべき時期に聞かされたそれは、れいむの中に呪いとなってこびり付いた。

(りぇいみゅはいりゃないこにゃの?おきゃーしゃんはりぇいみゅがきりゃいなの?)

ゆっくりのにんっしんっとは即ち中枢餡の発生である。そして中枢餡の原料は、親となるゆっくりの餡子そのものだ。
すっきりー!と呼ばれる行為で分泌される精子餡を受けた餡子が変異したそれが、胎生ならまむまむと呼ばれる器官に、
植物性なら茎を通して実ゆと呼ばれる外殻の中に移動した時点で、ゆっくりはその生態の大部分を形作る。
即ち、にんっしんっした時点で聴覚・嗅覚・触覚を肌で感知する統合感覚、『ゆっくりしたい』と願う本能、そして基本的な知識と自我は既に出来上がっているのだ。
ゆっくりが生まれる前の赤ゆにやたら話しかけたり、おうたを聞かせたりするのはそれを本能で理解しており、赤ゆをゆっくりさせようとするからなのだが……
このれいむは親の励ましやゆっくり出来るおうたの代わりに、最もゆっくり出来ない呪詛を聞かされ続けたのだ。

れいむは怯えた。まだ見ぬ親に、れいむをゆっくりさせない呪詛に。

(おきゃーしゃん、りぇいみゅいいこにしゅるよ!わがみゃみゃもいわにゃいよ!おきゃーしゃんのいうとおりにしゅるよ!
だきゃら、だきゃらりぇいみゅをきらわにゃいで、りぇいみゅをころしゃにゃいで………!!)

恐怖に怯えながらも無事生まれ落ちたれいむが最初に見たものは、全身を茶色い帯でぐるぐる巻きにされたゆっくりと、大きな胴付きゆっくりだった。

「ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
「……解った、ゆっくりしてけ」

産声代わりのご挨拶にお返事が無かった事を不審に思ったれいむが再度ご挨拶をした時、お返事を返してくれたのは胴付きの方であった。
お返事を返してくれた方が親に違いない。そう感じたれいむは胴付きの方へ駆け寄って呼び掛けた。

「ゆっ!おちょーしゃん!」
「……ゆ゛っ゛!?」
「……何?」

その言葉に激しく反応したのはぐるぐる巻きにされたゆっくりだった。

「……俺はお前の親じゃないぞ?お前の親はこっち」
「お、おちびちゃん………、れいむがおちびちゃんのおかーさんだよ……?そっちのじじいじゃないよ………?」

『おとーさん』が親である事を否定する脇から、恐る恐るといった様子でぐるぐる巻きのゆっくりが話しかけてくる。
しかし、れいむはその声に聞き覚えがあった。
それが生まれ落ちる寸前まで聞こえて来た呪詛と同じ声だと気付いたれいむは即座に否定した。

「ゆっ!ちぎゃうよ!おきゃーしゃんはりぇいみゅに『ちねぇ!!』にゃんていわにゃいよ!!」
「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛!?!?!?」

れいむの言葉に仰天して顔色を失ったぐるぐる巻きのゆっくりだが、すぐに言い訳を始める。

「ち、ちがうよ!れいむはおちびちゃんにいってたんじゃないよ!!こっちのじじいにいってたんだよ!!」

だが、その言葉はれいむの怒りを逆撫でしてしまった。

(おちょーしゃんをじじぃってよんだにぇ!!もうゆるしゃにゃいよ!!)

ゆっくりは舌足らずながら、生まれた直後から言葉を使ってコミュニケーションをとる事が出来る。
それは即ち『会話に必要な経験を既に会得している』事を意味している。
人間や動物でさえ『学習』しなければ会得できない『経験』を、ゆっくり達は餡子を繋げる事でクリアしているのだ。
生まれたての餡子脳に蓄えられた僅かな語彙の中から、『じじい』と言う言葉が蔑称である事を理解していたれいむは、
更なる怒りを込めて目の前の汚物に言い放つ。

「そりぇにおきゃーしゃんはしょんなゆっくちできにゃいことをいわにゃいよ!!!」
「ゆ゛ぎゅ゛う゛う゛う゛う゛う゛っ゛!!」
「まあ、そりゃそうだな。普通なら『じじい』なんて呼ばれてゆっくりできる訳無いって解るもんな。偉いぞ、ちび」

悶絶する汚物と裏腹に、正しいご挨拶が出来た事を褒めてくれる『おとーさん』。
生まれる前から死に怯え、親との対面に恐怖すら抱いていたれいむにとってそれは何物にも勝る福音だった。

だが、そんなしあわせー!な時間は長くは続かなかった。
生まれて初めての食事、その一連の騒ぎの中で自分があの汚物の娘である事を突付けられてしまったのだ。
『おとーさん』の冷たく突き放したような言葉、自分を犠牲にしてまでれいむをゆっくりさせようとしてくれた親らしきゆっくり。
それらが全てあのぐるぐる巻きのゆっくりが母親である事を証明している事を受け入れたれいむは、茶色い帯の隙間に覗く母の頬にすーりすーりする。

「おきゃーしゃん……ありがちょう…………りぇいみゅ、がんびゃってゆっくちしゅりゅよ……」

そして母の忠告に従い美味しそうな匂いがする茎を避け、何故かゆっくり出来ない雰囲気を醸し出す餡子をむーしゃむーしゃした時、悲劇は加速した。

「あんきょさん、ゆっくちりぇいみゅにたべられちぇね……、むーちゃむー……ゆげぇえええええっ!!!」

口内に走る激痛、同時にこみ上げてくる吐き気と悪寒に、れいむは自分の餡子を吐き出してしまったのだ。
もし『おにーさん』の的確なアドバイスが無ければ、れいむのゆん生はそこで終わっていただろう。

一命を取り留めたれいむは、『おにーさん』から事情を聞かされた。

にんっしんっしたゆっくりが罹るというと言う流行病に感染した両親が、せめて子供達だけはと自分の身と引き換えに治療を依頼したと言う事、
治療が成功したのはれいむ只一人であり、それを見届けた母が錯乱してあんな奇行に走った事。そして……

「………りぇいみゅ、ちぬの?きゃらいきゃらいしゃんは、どくなんでちょ?」

れいむの中身が、母の命を奪った毒物で出来ている事を。
『おにーさん』によれば、それでれいむが死んだりする事は無いが、通常のゆっくりにとってのご馳走である甘味が猛毒になる為、普通のご飯は食べられなくなったらしい。

「まあ、この治療法で助かっただけでも御の字だろうさ。お前の姉妹は十匹近く居たんだぞ?それがお前残して全滅だ」

この病に感染した大人のゆっくりはまず助からないそうだ。
生まれる前の赤ちゃんだけは助けられるらしいが、万に一つの確率でしかない。実質、不治の病で死の病なのだという。

れいむは心の中で両親と姉妹に何度も謝罪した。
そんな事も知らず、れいむは母を罵倒した。心の中で汚物扱いさえしてしまった。命を懸けて自分の誕生を見守ってくれていたのに。
父はゆっくりの身では購い切れない治療費の為に自ら加工所へ向かったそうだ。そこまでして助けてくれた事に、れいむの胸が熱くなる。
十人近く居た姉妹は治療に堪え切れず永遠にゆっくりしたという。見た事も無い姉妹が自分の代わりに犠牲になったようで、れいむの心に罪悪感となってのしかかってくる。
だが、涙を流して死んでしまった家族達に詫び続けるれいむを、『おにーさん』は一喝した。

「お前がいつまでもグジグジ泣いててどうするよ。頑張ってゆっくりするんだろ?だったら泣いてる暇なんか無いだろうに」
「…………ゆん!わきゃったよ!りぇいみゅ、がんびゃってゆっくちしゅりゅよ!」

『おにーさん』の励ましを受け、れいむはそのゆん生の第一歩を踏み出した。



しかし、れいむのゆん生はいきなりの挫折を迎えた。
自分を治してくれた『おにーさん』の厚意によって当面の住居と食事を確保したは良いが、その『おにーさん』が全然ゆっくりしてくれない。
毎日、朝早くに慌ただしく出かけて行ったっきり深夜になるまで帰ってこないのである。
如何にれいむの聞き分けが良くてもまだ生まれたての赤ゆだ。
本来なら付きっきりで面倒を見なければいけないのだが、そんな事おかまい無しで『おにーさん』は出かけてしまう。
留守の間はここに居ろ、と入れられた水槽の中で一人寂しく遊びながら、れいむは不満を募らせていた。

(りぇいみゅいいこにしてりゅよ……わがみゃみゃもいわにゃいよ……おにーしゃんのいうとおりにしてりゅよ……。
……にゃんで、おにーしゃんはりぇいみゅとあちょんでくりぇにゃいの……?)

我侭の一つも言わず、ゆっくりの常識からすれば有り得ない『赤ゆだけのお留守番』を続けるだけの日々。
日を追う毎にれいむの不満は膨れ上がっていく。そしてその不満はとうとう爆発した。

「……おにーしゃぁああああん!ゆんやぁああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

突然泣き出したれいむに吃驚した『おにーさん』。慌ててれいむを宥めながら話を聞く。

「……ぐすっ……おにーしゃん……なんで、りぇいみゅをおいちぇいくにょ……?りぇいみゅのこと……きらいなにょ………?」
りぇいみゅをおいちぇ、どきょにいきゅの……?いっちょにゆっくち、しちぇくりぇにゃいにょ………?」
「あん?何処にって……会社だよ。仕事をしに行ってるんだよ」

さも当たり前のように返された言葉に、れいむは顔を上げて質問を重ねる。

「……おしぎょちょ……?」
「あー………、お前らで言う狩りみたいなもんだ。もっと難しくてややこしいがな」
「にゃんで、しょんにゃこちょしゅりゅにょ……?」
「そりゃ俺が人間だからだよ。人間は仕事をしなきゃ食って行けないんだ」

その答えに、れいむは頭だけで器用に首を傾げた。

「……にんげんしゃん?」



『おにーさん』が詳しく調べた所、どうやられいむの餡子脳に焼き付いたゆっくりの常識は相当曖昧になっているらしい。
今まで人間とゆっくりの区別がついていなかったのかよ、と『おにーさん』は呆れたが、どうやら原因は彼にあるようだった。

「実験もとい治療の副作用だな。こんな結果が出るとは俺も思ってなかったが」

治療の為に母親の頭から切り離されたため、本来生まれ落ちるまでに受け取る筈だった記憶や経験が一部受け継がれていないのが原因らしい。

「ゆぅううううん!じゃあおにーしゃんはにんげんしゃんなんだにぇ!」
「ああ、そうだ。んで、お前はゆっくりって訳だ」

たっぷり時間を掛けた説明により、れいむにもようやく『おにーさん』達が『人間さん』と呼ばれる種族で、ゆっくりとは違う生き物らしいことが理解出来た。
そして『人間さん』は毎日お仕事をしなければいけないと言う事も。お仕事って何をするの?と尋ねるれいむに、『おにーさん』は苦笑しながらこう応えた。

「そうだな、お前にも解るように言うなら『他人をゆっくりさせる』事だ」

その答にれいむは仰天した。他人をゆっくりさせる!?その為に、『おにーさん』は毎日ゆっくり出来ないのに!?
その疑問を素直にぶつけて来たれいむに対し、『おにーさん』はこう返したのだ。

「いいか、れいむ。俺は野菜を作れないし、服だって作れない。家なんて尚更だ。でも、野菜を作る農家の人や服を作る職人さん、家を建てる大工さんが出来ない事を俺は出来る。
だから俺が出来ることで誰かをゆっくりさせてあげて、同じように俺の出来ない事でゆっくりさせて貰うんだ。それが、仕事をする、働くって事なんだよ」

そう言ってお仕事に向かう『おにーさん』の背中を呆然と見送りながら、れいむの中にある思いが芽生えていた。
そうだ、いつまでも泣いてばかりは居られない。父や母、そして姉妹が分けてくれたゆっくりのおかげで生き残った自分には、やらなければならない使命がある。
人間さんが他人の為にゆっくりしないで頑張るように、れいむもまた皆をゆっくりさせねばならない。自分が貰ったゆっくりを、皆に返さないといけないのだ。
命と引き換えにしたゆっくりを、十人分以上も貰ったのだ。これから先の生涯全てを掛けても、はたして果たせるかどうか解らない。

(……しょりぇでも!りぇいみゅはやりとぎぇてみしぇりゅりょ!!おきゃーしゃん、おちょーしゃん、おにぇーちゃん、りぇいみゅをゆっくちみちぇちぇにぇ!!)

れいむは知らなかったが、それは『ゆっくりがえし』と呼ばれる行為だった。
ゆっくりさせて貰った分、相手をゆっくりさせるという最も原始的なゆっくりの価値観であり、現在を生きるゆっくり達から失われてしまった美徳である。
図らずもれいむは両親から受け継ぐ筈だった記憶の代わりに、祖先の価値観を復活させた『先祖返り』を起こしていたのだ。



とはいえ、ゆっくりはゆっくり。どんなに壮大な目標を掲げようが、生物界で最弱を誇る饅頭に出来る事などたかが知れている。
『おにーさん』のお仕事を手伝おうにも何がなんだかさっぱり解らなかったし、ご飯を集めてこようにも何処に何があるのかすら知らなくてはどうにもならない。
れいむの意気込みは早々に頓挫した。

「お゛に゛い゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!ごべん゛な゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

しかし自分が何も出来ない無能であると知ったれいむが号泣しながら『おにーさん』へ謝った時、彼はこう言ってくれたのだ。

「お前、まだ赤ゆだって事忘れてないか?何も出来ないなら、出来る事を覚えりゃ良いんだよ。
第一、子供の仕事は勉強だぞ?お前はまだ何も勉強してないだろうが。俺が教えてやるから、勉強してみろ」

『おにーさん』が教えてくれたのは、お家の中に沢山ある『ぴこぴこさん』の使い方だった。
『ぴこぴこさん』は大抵黒い小窓とセットになっており、使う度に小窓に何かが表示される。
『おにーさん』が言うには小窓に浮かんでいるのは文字と言う物で、『ぴこぴこさん』が何をしてくれるのかを教えてくれるらしい。
だが、文字はとても種類が多く、れいむがどうにか読めるようになったのはアラビア数字が精々。
最終的には二桁まで数える事が出来るようになったものの、平仮名や片仮名は幾つか読める程度以上にはならなかった。
それでも、れいむの赤ゆ言葉が抜ける頃には殆どの『ぴこぴこさん』を扱えるようになっていた。

「これでぴこぴこさんはつかえるようになったよ!」
「ぴこぴこじゃなくてリモコンだっての。……まあ、これだけ使えるなら留守番くらいは出来るか」

手狭になった水槽から出されたれいむに与えられた仕事は『おるすばん』である。
流石に来客の応対などは不可能なので、主にやるのは『おにーさん』の帰宅に合わせて風呂の追い炊きやエアコンのスイッチを入れる程度だが。
『おにーさん』からは『家の中を汚したり物を壊したりしなければ何をしてても良い』と言われていたが、れいむはなるべくリビングから出ようとはしなかった。

(おにーさんのたいせつなおうちは、れいむがまもるよ!!)

そんな使命感に駆られ、れいむはリビングのサッシから毎日お外を見張っていたのだ。
決してリビングで日向ぼっこをしていたり、専業主婦よろしく昼ドラに見入っていた訳ではない、と思う。多分。



れいむが留守番を任されるようになってから一ヶ月余り経った頃、事件が起きた。

「ゆっ!ここをれいむたちのゆっくりプレイスにするよ!」
「「「「「ゆ~♪」」」」」

遅刻寸前だった『おにーさん』がうっかり閉め忘れた玄関から、野良らしきれいむの一家が侵入して来たのだ。

「ここはおにーさんとれいむのゆっくりプレイスだよ!!かってにはいってきちゃだめだよ!!」
「ゆん?おかーさん、あそこにへんなれいむがいるよ?」
「ゆ?……ゆっくりできないれいむはゆっくりしねぇ!!」

全く無遠慮に、我が物顔で上がり込んでくる一家を押しとどめようと姿を現したれいむに向かい、全力で体当たりしてくる親れいむ。
生まれて二ヶ月しか経ってないれいむが抵抗できる筈も無く、呆気なく吹き飛ばされてリビングの中央まで吹き飛ばされた。

「ゆぎぃ……いじゃいよう………」
「おちびちゃん!あんなへんなかみのけさんのれいむにちかづいちゃだめだよ!かみのけさんがあんなふうになるよ!」
「かみのけさんがあんないろになるのはゆっくりできないよ!」
「へんなかみのけのれいむはゆっくりしないでしんでね!」

れいむの髪は真っ赤に染まっている。勿論天然だが、明らかな異相を持つれいむをこの一家は『ゆっくりできない』と認定した。
しかしれいむは殺されなかった。病気か何かだと思われたからだ。
痛みに悶えて動けないれいむを尻目に、一家はリビングの様子に目を奪われていた。

カーペットが敷かれたリビングはとても広く、今まで暮らして来たお家とは雲泥の違い。
日当りの良さそうな窓際に置かれたムートンの座布団はふかふかで、実に座り心地が良さそうだ。
お城の形に積み上げられた積み木はカラフルで様々な形が用意されており、いくら遊んでも飽きないだろう。
車輪の付いた滑り台の階段は緩やかで、子ゆっくりでも簡単に登れるようになっている。
犬用の給水器に蓄えられたあまあまジュースは一家全員でも飲み切れまい。
その側に置かれた餌皿には、見た事も無いゆっくり出来そうなご飯が山盛りにされていた。

まさに一家が思い描いた理想の『ゆっくりプレイス』がそこにあった。
余りの感動にしばし無言になっていた一家だったが、一番小さな子れいむが鳴らした腹の音で我に帰る。

「ゆっ!みんな、あそこのごはんさんをいっぱいむーしゃむーしゃしようね!!」
「ほんとう!?あんなにいっぱいむーしゃむーしゃしていいの?ゆわ~い!」
「あんなごはんさんはみたことないよ!おいしそうだね!」

親れいむの言葉に一番大きな子まりさが喜び、恐らく次女であろうれいむがその味を想像して涎を垂らす。
そして一回り小さな子まりさ二匹と子れいむが餌皿に向かって駆け出した。

「まりしゃがいちばんさいしょだじぇ!」「まりしゃがさきだじぇ!!」
「おにぇーしゃんずるい!れいみゅもむーちゃむーちゃしたいよ!」

その姿に苦笑しながら、親れいむも食事をするべく餌皿に向かう。
その足を止めたのは、背後から聞こえて来たか細い声だった。

「……だめだよ……それは、れいむのごはんさんだから………たべちゃ、だめなんだよ………」
「なにいってるの!れいむはしんぐるまざーなんだよ!かわいそうなんだよ!
そんなれいむからごはんをうばおうとするれいむはゆっくりしないでしんでね!!」

痛みで涙目になりながらも、赤髪のれいむは餌皿に向かう一家を制止する。
が、親れいむには只の強がりにしか見えなかった。
潰してしまいたいのを我慢しながら、親れいむは餌皿に目を向ける。
視線の先では一着を取ったらしい子まりさが、大きく開けたお口でご飯に齧り付く所であった。

「ゆっくちいただきます!むーちゃむー……ゆげぇえええええ゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!」
「ま、まりさぁああああ!?!?!?」「おにぇーしゃぁああん!?」「ゆわぁあああ!?まりさのいもうとがぁあああ!!」

だが、そんな微笑ましい光景が即座に地獄に変わる。
餌に齧り付いた子まりさが突然、明らかに致命傷な量の餡子を吐き出したのだ。
仰天した親れいむが駆け寄るが、子まりさは既に「ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛……」と虫の息。もう助からないのは一目瞭然だった。
それでも一縷の望みを懸け、親れいむは給水器のジュースを勢い良く吸い込んだ。

「……ゆ゛っ゛!?!?!?」

最初に感じたのは違和感。舌先が痺れるような、ちっともあまあまじゃない感覚。
一瞬遅れて襲って来たのは、全身を打ち抜く途轍も無い衝撃であった。

「ぶべぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!!!!な゛に゛ごれ゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!!!!」

口に含んでいたジュースを思いっきり吹き出す親れいむ。その飛沫は、子れいむの周りに集まっていた子供達に直撃した。
真っ赤なそれが無防備な子供達に降り掛かる。次の瞬間、子供達は魂消るような絶叫をあげて苦しみ出した。

「ゆぎゃああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!い゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛ぃ゛っ゛!!!!」
「おべべがぁ!!りぇいみゅのきれいなおべべがぁああ゛あ゛あ゛!!!」
「いだい!いだいぃい!!とって!これとってぇええ゛え゛え゛!!」
「おぎゃあぢゃぁあああん!!いだいよぉおおお!!はやぐべーろべーろぢでぇええ゛え゛え゛!!」

阿鼻叫喚に陥る一家。山盛りになった『激辛スナック菓子』と『タバスコの希釈液』という劇物がもたらした悲劇であった。

「ゆ……だからいったのに………」

赤髪れいむがぽつりと漏らす。耳聡くそれを聞きつけた親れいむが鬼の形相で詰め寄った。

「おばえの、おばえのしわざだね!!ゆるさないよ!!」
「れいむのせいじゃないよ……、れいむはとめようとしたんだよ……。
それより、このままじゃおちびちゃんたちがしんじゃうよ、きっちんにいけばおみずがあるから、それであらえば……」
「ゆっ!だったらゆっくりしないでさっさとおみずさんをもってきてね!!」
「きっちんのながしだいは、れいむたちじゃとどかないよ……、はしごさんをもっていかないと………」

痛む体を引き摺って、赤髪れいむはキャスター付きの滑り台へ向かった。
実はこの滑り台、赤髪れいむの手が届かない所をカバーする為に用意された足場なのだ。
ゆっくり用の遊具の中で、足場代わりになりそうなものがこれしか無かった為である。
車輪が付いているので、赤髪れいむでも一生懸命押せば動かす事が出来た。

「ゆんしょ、ゆんしょ……」

とはいえ、それは万全の体調だった場合の話。
倍程も違う親れいむに突き飛ばされた赤髪れいむに、そんな力は出せなかった。

「なにやってるの!ぜんぜんうごいてないよ!このぐず!!れいむはぐずはきらいだよ!!」

そして赤髪れいむの怪我の元凶である親れいむは手伝おうともしないで、必死に踏ん張るれいむに罵声を浴びせるだけだった。
そうこうしている合間にも、子供達の苦痛の声は続いている。そしてとうとう、一番小さなれいむが痙攣を起こし始め、

「……もっちょ………ゆっくち……しちゃかっ………」

その言葉を最後に、遂に動かなくなってしまった。

「ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!お゛ぢびぢゃ゛ん゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

番だったまりさが残した大切な忘れ形見の、あまりにもゆっくり出来ない最後に母れいむは絶叫する。
何故、どうしてこうなった?母れいむの脳裏で渦巻く疑問。
まりさが死んでご飯が獲れなくなり、周りの草花を喰い尽くして虫さえ寄ってこなくなったお家の代わりを探しているうちに見つけた大きなお家。
随分慌てた様子で人間さんが出て行くのが見えた。恐らくこのお家がゆっくり出来なくなったので他のお家を探しに行ったのだろう。
だったらこの空き家は自分達が貰おうとお家宣言した途端、突然現れた変なれいむに邪魔をされた上に大切なおちびちゃん達を殺されてしまった。
そうだ、全てこの気持ち悪いれいむの所為に違いない!
あまりにも身勝手な、真実とは程遠い捏造された記憶から導き出された結論に突き動かされ、親れいむは赤髪れいむに躍りかかった。

「げずな゛れ゛い゛む゛ばゆ゛っ゛ぐり゛じな゛い゛でじね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」
「ゆっ!?」

醜く歪んだ凶相を振りかざして勢い良く跳ね上がって踏み潰そうとする親れいむの姿に圧され、赤髪れいむは咄嗟に転がって避ける。
目標を見失った親れいむは、そのまま先程まで赤髪れいむが動かそうとしていた滑り台に激突した。
赤髪れいむより大きな質量を叩き付けられた滑り台が、与えられた運動エネルギーのままに勢い良く走り出す。
その車輪の先にいたのは、未だにタバスコに苦しみもがく子供達であった。

「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ごろ゛ごろ゛ざん゛ごっ゛ち゛ごに゛ゃ゛い゛で゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」

慌てて横へ転がり、逃げ出す子れいむ。
そして逃げ遅れた子まりさ達が気付いた時には、滑り台は目前に迫っていた。
そして、

「ゆべっ!!」

まだ小さな子まりさを引き潰し、その皮と餡子を車輪に巻き込み、

「ゆがっ!!」

大きい子まりさを跳ね飛ばして、ようやく滑り台は止まった。

「ゆ~おそらを……づみ゛ぎざん゛どい゛て゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!ゆ゛びゃ゛っ゛!!!!!」

跳ね飛ばされた子まりさを受け止めたものは、お城の形に積み上げられていた積み木だった。
ガラガラと崩れ落ちる積み木に埋もれるまりさを一先ず置き、親れいむは車輪に車輪に巻き込まれたまりさの元へ向かう。
何故なら、それだけの大惨事にも拘らず、まりさはまだ生きていたから。

「おぎゃあじゃああああん………いぢゃいよぅ…………たぢゅけでぇええ…………」

とはいえ、最早助からないのは明白だった。
生まれて間もない赤ゆの柔らかい肌が仇となり、体の大部分を車輪に巻き込まれてしまった為に動く事すら敵わない状態。
溢れた餡子が車輪に押し戻され、塞がれていたのも不運であった。
自力で這い出す事も出来ず、傷口を車輪で塞がれているので失餡死すら出来ず、まりさに出来たのは母に助けを求める事だけだった。

「おぢびじゃあああああん!!いまたすけるからねぇえええ!!」
「ゆっ!だめだよ!いまうごかしちゃったら……!!」

赤髪れいむの制止すら聞かず、親れいむはまりさの上に鎮座している滑り台を退かそうと動かした。動かしてしまった。

「ゆ゛ぐぁ゛w゛ぜd゛r゛f゛t゛g゛y゛ぶじごl゛p゛!!!!!!!!!」

声にならない叫び声をあげ、まりさがぷくーっ!したかと思った次の瞬間、餡子を散らして爆ぜた。
何が起こったのか理解できずに硬直した親れいむに、返り餡が浴びせられる。
ほかほかの、まだ温かい餡子が親れいむの金縛りを解いた。

「お………おちびちゃぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛ん゛ん゛っ゛!!!!!!!!!」

先程までの絶叫を超える、とんでもない声量の絶叫に窓ガラスがビリビリと震える。
親れいむが滑り台を動かした事で体内の餡子が押し出され、まりさの体が内圧に堪えられずに破裂したのだ。
赤髪れいむの制止を聞いていれば、あるいは助かる可能性があったのかも知れない。
よりによって親れいむは自分でその可能性を摘み取ってしまったのだ。

しかし親れいむはそれを認めなかった。
餡子をフルに回転させ、自分の子供を殺した犯人を捜す。
瞬き程の時間を掛け、親れいむは赤髪れいむが犯人であると確定した。

「こぉおおおのぉおお!どげすがぁあああああ!!!」
「ゆ゛っ゛!?」

鬼の形相で睨みつけてくる親れいむに、赤髪れいむの全身がすくみ上がる。

「おちびちゃん!このげすをころすよ!てつだってね!………おちびちゃん?」

自分の呼び掛けに返答が無い事を不審に思った親れいむが、積み木のあった場所に目を向ける。
そこにあったのは、全身を積み木に貫かれたまりさの姿だった。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!」

最早何度目かも解らない親れいむの絶叫が響き渡る。
積み木は前日に赤髪れいむと『おにーさん』によってお城の形に積み上げられていた。そこにまりさが突っ込んだのだ。
屋根に使われていた三角錐、城壁に使われていた立方体に直方体、塔に使われていた円柱や角柱。
怪我をしないよう角を丸く削った配慮も意味を成さず、方体に削られ、円柱に打たれ、とどめに中枢餡を三角錐に貫かれたまりさは悲鳴を上げる間も無く即死したのだ。
一先ず置かれた時にはもう死んでいたのは幸いだったのだろう、親れいむに見捨てられる瞬間を目撃しなくて済んだのだから。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!でい゛ぶの゛お゛ぢびぢゃ゛ん゛だぢがじん゛じゃ゛っ゛だぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!…………ゆっ!?」

相次ぐ愛娘の死に狂乱していた親れいむがふと気付く。
親れいむのおちびちゃんはまりさ、れいむ、まりさ、まりさ、れいむ、の順番である。
その内死亡が確認できたのはまりさ、まりさ、まりさ、れいむ、だ。

(……そうだよ!れいむにはまだれいむににたおちびちゃんがいるよ!)

そう、次女に当たるれいむはまだ無事な筈だ。先刻、滑り台がぶつかる寸前に逃げ出したのを親れいむは目撃している。
だが、先程の呼び掛けに返事を返してくれなかったので忘れていたのだ。
まさかタバスコにやられてしまったのか?不安になった親れいむが視線を巡らすと、親れいむから若干の距離を置き、子れいむがこちらの様子を伺っているのが目に入る。

「おちびちゃあああん!!ぶじだっ「こっちくるなぁああああ!!」ゆ゛っ゛!?!?」

我が子の無事を喜び駆け寄ろうとした途端に拒絶され、親れいむの足が止まる。
よく見れば子れいむは警戒心を露にしており、親れいむの事を仇を見る目で睨みつけていた。

「ど……どうしたの、おちびちゃん?れいむはおかーさんなんだよ……?どうしてそんなめでみるの……?」

恐る恐る問いかける親れいむに、子れいむは憎悪の篭った昏い瞳を向けて吐き捨てる。

「ゆっくりごろしのゆっくりできないおやは、ゆっくりしないでしね!!」
「どぼじでぞん゛な゛ごどい゛う゛の゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!?!?」

愛娘から浴びせられた罵声に目を剥いて驚愕する親れいむ。
しかし、子れいむは親の言葉を一蹴した。

「どうしてって、よくいえるね!れいむのいもうとたちをころしたのはおまえじゃないかぁあああ!!」

そう、自分の所行をまるで理解していない親れいむの凶行を、子れいむは全て目撃していたのだ。
毒を食べる様命令して妹まりさを殺し、自分達に痛くなる液体をぶち撒けて妹れいむを死なせ、滑り台で姉まりさを跳ね飛ばした上に妹まりさを轢き、とどめまで刺した。
いや、それ以前にこの地獄のような場所に子れいむ達を連れて来たのは他でもない、この親れいむである。
既に子れいむには目の前のゆっくりが親であるという認識は無い。姉妹を殺し、自分をも苦しめた仇敵にしか見えなかった。

一方、親れいむは娘の拒絶に困惑していた。
一体何を言っているのか?親れいむが子供達を殺しただなんて、とんでもない言い掛りだ。
第一、子供達を殺したのはあの気持ち悪いれいむであり、一緒に制裁しようとして無事な娘を呼んだのに。
そこまで思考が及んだ時、親れいむの脳裏に閃くものがあった。

(……ゆ?もしかして、おちびちゃんはあのげすのなかまなの?)

それは証拠も何も無い思い付きだが、親れいむはその仮定をあっさり肯定してしまう。
途端に親れいむの視界から娘が消えた。その代わり、ゆっくり出来ないゲスれいむが目の前に居る。
体の奥底から湧き上がる憎悪に身を任せ、親れいむは先刻まで愛娘と信じていた子れいむに踊り掛かった。

「ゆっくりできないげすはしねぇええええええ!!」

突然跳ね上がった親れいむを、子れいむは滑り台の時と同じく転がって避けようとする。

「ごーろごーろするよ!!……い゛じゃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!」

子れいむが転がった途端、余りにも堪え難い痛みが全身を貫く。皮のあちこちにタバスコが染み込み、火傷と同じケロイド状態になっていたのだ。
何かが触れる度に悶えて転げ回れば転げ回る程、被害は拡大していく。
痛みに霞む子れいむの視界に、上空から親れいむのあんよが急速に近付いて来る様が映し出される。

「ごっ゛ぢぐる゛な゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

激痛で満足に動けない体では避ける事も出来ず、子れいむは親れいむの踏み付けを喰らうしか無かった。

「ゆ゛びぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!い゛じゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛!!!!!!」

一回り大きな親れいむの体が子れいむを押し潰す。だが、子れいむは生きていた。
中途半端に避けた所為で、体の大部分を潰されても中枢餡は無事だったからだ。
どうあっても助からないのは目に見えていたのだが。

「ゆっくり!!できない!!くずは!!ゆっくり!!しないで!!しねぇ!!!」
「ゆ゛ぎっ゛!!い゛だい゛っ゛!!や゛べで!!ぢん゛ぢゃ゛う゛!!でい゛ぶ!!じん゛じゃ゛う゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」

親れいむが子れいむの上で飛び跳ね始める。子れいむにとどめを刺すつもりなのだ。

「や゛べで!!お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ん゛や゛べでぇ゛え゛え゛え゛!!」
「うるさいよ!!おやにしねっていうげすは!!れいむのおちびちゃんじゃないよ!!」

微妙に中枢餡を外して執拗に繰り返される踏み付けに、子れいむが先程までの遣り取りを棚に上げて助命を懇願するが、母れいむは耳を貸さない。
子れいむは必死で逃げ出そうとするが、動き出すよりも先に母れいむの攻撃が当たる為に動く事もままならない。しかしその時、双方にとって不測の事態が起きた。

「ゆわあっ!?」
「ゆ゛っ゛!?」

子れいむの執念が通じたのか、親れいむが足を踏み外して無様に転げ落ちたのだ。その隙に子れいむは這いずるように逃げ出す。

「ゆ゛びぃ゛……ゆ゛ぐぅ゛………」

子れいむの体は半分が潰され、餡子が半分程も流れ出した状態であった。
こうなっては最早手の施しようは無い。むしろ一息に潰してしまった方が余程慈悲深いだろう。
それでも、子れいむは母から逃げるように這いずり始める。
激痛に顔を歪め、一歩ごとに餡子を漏らしながら、それでも尚見せる生への執着を、

「どこへいくの!?にがさないよ!!」

粉微塵に粉砕するべく、親れいむは猛然と子れいむに襲い掛かった。
満身創痍の子れいむと殆ど無傷の親れいむ。普通に見ればもう結果は見えているも同然であったが、それでも子れいむは歩みを止めない。
いよいよ母の兇手が届こうかという正にその時、子れいむはギリギリで目的の場所に辿り着いた。

「ゆ゛わ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!」
「ゆぎゃああああぁああ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!?!?!?」

親れいむが再び転げ回る。しかし今度のは自爆ではない。

「ゆ゛ぎぃ゛い゛い゛い゛い゛!!でい゛ぶの゛あ゛ん゛よ゛がぁ゛あ゛あ゛!!でい゛ぶの゛びぎゃ゛ぐがぁ゛あ゛あ゛あ゛!!」

親れいむが勢いよく踏みつけたのは、子れいむが最後の力を振り絞って引き寄せた積み木だった。
そう、子れいむは姉まりさの命を奪った積み木を目指していたのである。

「ゆ゛っ゛ゆ゛っ゛……ざまあみろ、おねーちゃんといもうとのかたきだ……ゆぶぅっ………」

壮絶な笑顔を貼付け、子れいむはみっともなく転げ回る母を一頻り嘲笑うとそのまま力尽きた。
瀕死の体に鞭打ってまで求めたのが本当に敵討ちだったのだろうか?最早それは誰にも解らない。
ただ一つ確かなのは、子れいむ達姉妹が全滅した事で親れいむがしんぐるまざーからただのゆっくりに戻った、という事だけであった。



赤髪れいむは目の前で置きた出来事が信じられなかった。
母と娘が互いを罵り合い、そして殺し合った光景が。

「なんで……どうして……、おかあさんなんだよ………おちびちゃんなんだよ………かぞくなんだよ………」

見知らぬ自分の為に加工所へ行った父、知らずにとはいえ自分の為に毒を食べた母。
無償の愛を受けて生まれた赤髪れいむにとって、子を殺す親の存在なぞ理解の範疇に無い。
まして『ゆっくりがえし』を目標に立てている身からすれば、親を殺す子は居てはいけないもの。
混乱の極地に陥り、ただ震えているしか出来なかった赤髪れいむの漏らしたつぶやきを、親れいむは激痛の極地に居ながらも聞き逃さなかった。

「お゛ばえ゛ぇ゛……お゛ばえ゛の゛ぜい゛だぁ゛あ゛あ゛……でい゛ぶの゛お゛ぢびぢゃ゛ん゛が……み゛ん゛な゛じん゛じゃ゛っ゛だじゃ゛な゛い゛がぁ゛あ゛あ゛あ゛…………!!」
「ゆ゛う゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛!?!?」

とんでもない言い掛りだが、赤髪れいむにはそれを否定することも抗議する事も出来なかった。
角の丸められた積み木にあんよの大部分を引き裂かれ、先程の子れいむを彷彿とさせる大怪我を負いながら。
鬼の如き形相で睨みつけ、地獄の底から響くような声で呪詛を叩き付けてくる親れいむの姿に、一切の思考が麻痺してしまったのだから。

「ぞごぉ゛お゛お゛お゛う゛ごぐな゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……………お゛ばえ゛だげばゆ゛る゛ざな゛い゛よ゛ぉ゛お゛お゛お゛…………」
「ゆんやぁああああああぁああああああっ!!こないでぇえええええぇえええええええ!!」

幽鬼のようにずり、ずりと這い寄ってくる親れいむ。その余りの迫力に赤ゆのようにしーしーを漏らしながら、赤髪れいむは涙を流して怯えるだけ。
金縛りになった赤髪れいむの目前に立ち、親れいむは鬼の形相のまま彼女に迫った。

「じぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛ね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!」
「ゆぎゃぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!……ゆ゛げぇ゛っ゛!!」

恐怖が限界に達したのか、赤髪れいむが餡子を吐く。血よりも尚真っ赤な色をした餡子が返り血のように親れいむに降り掛かる。

「ゆ゛ぎべぎゃ゛お゛ごお゛お゛お゛う゛う゛ぅ゛う゛う゛う゛!?!?!?!?」

次の瞬間、名状し難き悲鳴を上げて悶絶したのは、親れいむの方であった。
全身を苛む痛みを一瞬で吹き飛ばす激痛に転げ回り、先程赤髪れいむが漏らしたしーしー溜まりに親れいむが突っ込む。

「ゆ゛じゃ゛ぎゃ゛ぎごげぐぐぐぎぼぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!!」

破けたあんよから覗く親れいむの餡子を、赤髪れいむのしーしーが強烈な痛みで灼いていく。
灼熱する痛みに脳裏を真っ白にして悶え苦しむ親れいむに度肝を抜かれ、赤髪れいむは立ちすくむのみ。

「どぼじで…………でい゛ぶが…………ごん゛な゛べに゛……………、も゛っ゛ど………ゆ゛っ゛ぐり゛………じだがっ゛………………」

たっぷり苦しみ抜いた後、末期の言葉でさえ自分の罪を認めないまま、親れいむも先立った子供達の後を追う。おそらくあの世でも殺し合うのだろうが。
後に残された赤髪れいむはそのまま『おにーさん』が返って来るまで呆然としていたのだった。






『ゆっくりは、ゆっくり出来ないと判断したものを排除しようとします。
ゆっくり出来ないものには個体差がありますが、大きく分類すると『自分の命を脅かすもの』と『自分を不快にさせるもの』に分かれます。
前者は言うまでもありませんが、後者は矯正が必要な場合が多々ありますので、注意が必要です。
ゆっくりは異相の同属を認めません。自分と同じようで違うものを見せられて不安になってしまうからです。
お飾りを無くしたゆっくりが排除されるのも同様で、自分がお飾りを無くした様に感じられて不安になる為です。
ですので、同属への攻撃癖を矯正する場合は不安を取り除く方向で教育しましょう。
また、ゆっくりは自分の罪を受け入れる事をしません。悪い事をした、と認めてしまうとゆっくり出来ないからです。
その為往々にして『自分は悪くない、全部あいつが悪い』と責任転嫁してしまう事がよくあります。
まずは自分がやった事を認めさせる事から始めましょう。
この際にお仕置きは控えましょう。苦痛から逃げる為に口先を合わせて来る事がありますが、心の中では事実を認めていません。
一方的に責め立てるのでは無く、こんなことをしたらゆっくり出来なくなる、と認識を変えさせる事を第一にしましょう。
悪い事をしたら、誰が、どのようにゆっくり出来なくなるのかを理解できるまで説明してあげてください。
根気のいる作業ですが、この基本の躾が出来ないとゆっくりはゲスになり易くなってしまいます。
何事も基本が肝心、ゆっくり躾けていきましょう』

~新ゆっくりバッジ認定協会監修『ゆっくりの躾け方 バッジ取得マニュアル』より抜粋~






長い回想から目覚めたとき、れいむは自分に掛けられたタオルケットに気が付いた。
どうやら回想しながら眠ってしまったらしい。時計に目をやれば朝の八時、『おにーさん』はもうとっくに出掛けてしまってる時間だ。
起き抜けで霞む目を瞬かせると、頬が何やらごわついているのを感じる。

(ゆっ、れいむ、ないたままねちゃったんだ……。
れいむがなきながらねてるのをみて、おこさないようにしてくれたんだね……。ありがとう、おにーさん……)

涙に暮れる様を見られて尚落ち着ける程、れいむの肝は太くない。その事を慮ってくれたのだろうとれいむは察していた。

あの野良れいむ親子の襲撃において、親れいむを悶絶死させたれいむの体液を調べた『おにーさん』は、残酷な事実をれいむに告げたのだ。

「れいむ、お前……多分、子供が作れない体質になったんだ」

『おにーさん』に因れば、れいむの中身は豆板醤と呼ばれるものに近いらしい。餡子と同じく豆を原料にしているからだろうか。
ただ、一般に出回っている豆板醤の辛さを大きく上回っており、殆ど唐辛子ペーストと呼んで良い程なのだと言う。
それ故れいむから排出される全ての体液が辛味を帯びているのだ。親れいむが死んだのはその所為だ。
問題はそれが『全ての体液』に含まれている事にある。しーしーやうんうんだけじゃなく、汗や涙に唾液、そしておそらく精子餡にも。
すーりすーりやぺーろぺーろ等、ゆっくりのスキンシップには体を触れさせるものが多い。それは即ち汗や唾液に触れる機会が多いということ。
ゆっくりにとっての劇薬で構成されている今のれいむには、それらが一切出来ない。
それだけではない。子供をにんっしんっするならパートナーとのすっきりーっ!が必要だ。すっきりーっ!で放出される体液は精子餡だけではない。
まむまむから分泌される潤滑液や快感に伴う発汗、ぺーろぺーろ等の前戯で交わす唾液等、互いの体液が満遍なく混じり合うのがすっきりーっ!である。
そんな行為をれいむが出来る訳が無い。更にいえば、れいむの中身に触れた精子餡は例外無く死滅するであろう事も解っている。
つまり、れいむは子供を生む事も生ませる事も出来ないのだ。
あのれいむ親子のように、いや自分を生んでくれた両親のように自分のおちびちゃんとゆっくりする事が出来ない。それはどんな拷問よりも尚深い苦しみだった。
この体質を治せないのかと尋ねても、『おにーさん』は「それは出来ない」と即否定した。

「お前の体質は実験、もとい病気の治療に因るものだ。こればかりはどうしようも無いな」

身も蓋もない断定に、れいむの絶望は深くなるばかり。
今でこそこうして昔話にも出来るが、当時は自殺しなかったのが不思議な位の荒れようだった。
……いや、本当は今でも引き摺っている。
れいむが『おにーさん』のお家から一歩も外に出ないのは、あの野良の親子のように迫害されるのを怖れるだけではない。
もし、お外で優しいゆっくりと電撃的な出会いを果たしても、すっきりーっ!はおろかすーりすーりすら出来ない身ではどうしようもないのだから。
『おにーさん』をゆっくりさせようと頑張るのも、もしかしたら番を迎える事すら出来ない事の代償なのかも知れなかった。

時折、あの親子の事を思い出す事がある。
想像を絶する殺し合いを始めるまで、あの親子はとても仲良さそうにしていた。れいむには到底望めない家族の団欒があった。
その度にれいむは涙する。恐怖からではなく、羨望で。
『おにーさん』もその事は知っている。だから今日も涙に濡れて眠るれいむを起こさないでくれたのだろう。れいむは『おにーさん』の温情に感謝する。

リビングに置かれた茎の上で、空調に揺れるありす。
このありすはれいむとは違う体質になる可能性が高いらしい。その為ぺーろぺーろもすーりすーりも禁止されている。
この子はどんな子になるんだろう。れいむの様に生きてるだけでゆっくりを殺しうる危険なゆっくりになるのだろうか。
それとも、他のゆっくりとも一緒にゆっくり出来るゆっくりになるのだろうか?

「ゆ~♪ゆんゆんゆ~♪ゆっくりうまれてね~♪」

TVの児童番組で覚えた下手糞な子守唄を歌って聞かせながら、れいむは思う。

(おちびちゃん、ゆっくりしたこにうまれてね。れいむがゆっくりできないぶん、みんなをゆっくりさせてあげてね!)

父母と姉妹から貰ったゆっくりを、この子にも与えよう。そしてその分この子が誰かをゆっくりさせてくれるなら、れいむは最高にゆっくり出来る。
ありすが身震いを始める。生まれる前兆だ。
さあ、まずはどんなおはなしをしようか。
そんな事を思いながら、れいむはありすの誕生をゆっくり見守っていた。







4LDKの一軒家、そこのリビングルームの一番日当りの良い窓際に敷かれたムートンの座布団に陣取りながら、
赤ゆ言葉の抜け切らないありすが、誰に聞かせるでも無く不平不満を吐いている。

「ありしゅみちゃいなときゃいはに、るしゅばんなんちぇさせにゃいでよね!……ごーくごーく、ゆっ?」

愚痴っているうちに喉が渇いたのであろう、傍らのマグカップに突き立てられたストローを銜えて啜り出すが、すぐに眉を曇らせる。

「……んもぅ!とっちぇおきのいっぱいがなくなっちゃったじゃにゃいの!」

なにやら機嫌を急降下させ、床に置かれた背の低いポットにマグカップを押し出す。
そしてポットの上に飛び乗ろうとした所で、餡相を変えた成体のれいむが走り寄って来た。

「なにやってるのおちびちゃああああん!?あぶないでしょおおおおおお!?」
「……ありしゅはもうりっぱにゃときゃいはよ!ぽっとさんのつきゃいきゃたぐらいわきゃるわ!!」

抗議するありすに、その『髪』と同じ位顔を『真っ赤』にしたれいむは語気を強くして諭し始める。

「おちびちゃんはぽっとさんにせがとどかないでしょおお!?まんがいちのじこがおきたら、おちびちゃんがしんじゃうんだよ!?
そんなことになったら、おちびちゃんのおかあさんたちにもうしわけがたたないよ!!せめてぽっとさんにせがとどくまでまとうね!!」
「……ちらにゃいわよしょんにゃこと!!それより、ありしゅをこどもあつきゃいしにゃいでよね!!」
「どおしてそんなこというのぉおおおお!!おちびちゃんはまだおちびちゃんなんだよ!!りかいしてね!!」

ありすの反抗を受けて涙目になりながら、それでも根気よく言い聞かせるれいむ。
一方のありすは子供扱いに不満げな様子で、れいむのお説教を聞き流している。

実はこの二人、訳あって一緒に過ごしているものの、親子でも姉妹でもない赤の他人。
れいむは子供を作れない体質なので、幼いありすの事を自分の子供のように思っていたのだが、
当のありすは事ある毎にお節介を焼くれいむの事を余り快く思っていなかった。
……とはいえ、同じ『おうち』に住むもの同士で波風立てるのは良くない事位は幼いありすでも理解できるので、表に出す事は無いのだが。

「……わきゃったわ。でも、おきゃわりぐらいはちょうだいにぇ」
「ゆん、わかってくれてうれしいよ!じゃあ、れいむにまかせてね」

結局、ありすが折れる形で決着が付くのだ。いつもの事である。
れいむが舌で器用にポットを使いこなし、マグカップに湯気のたつ琥珀色の液体が満たされる。
それを見ながらありすは思う。

自分で言うのもなんだが、ありすは『とかいは』な美ゆっくりだ。
色鮮やかなカチューシャがアクセントをつける、一見黒と見間違う程濃い茶髪はサラサラで、ありすの美貌に良く映える。
全身からほのかに立ち上る芳醇な香りも、とても『とかいは』で結構気に入っていた。
愚痴ったもののこのお家自体は悪くない。テレビの児童番組を見るのも面白いし、積み木や滑り台で遊ぶのも楽しい。
口煩い同居人も「うざい」とは思うものの、それほど嫌ってはいなかった。
ならば何故、不満なのか?それは……

(どうちてきょきょにはちゅっきりー!できるまりちゃがいにゃいのよ!!)

……このありすが、生まれついてのレイパーである所為だった。



『激辛れいむと珈琲ありす 後編』



ありすの一番古い記憶は生まれ落ちる直前、聞こえて来る子守唄に対するこんな感想だった。

(ゆっくちできりゅおうたにぇ!ありしゅがときゃいはにあいしてあげりゅわ!)

ゆっくりは中枢餡が作られる時に混ざり合う母親の餡子と父親の精子餡、どちらの割合が多いかによって種属や特性が決まる。
ありすはレイパーの子として生を受けた。個体差はあるが、レイパーの精子餡は通常よりも多く放出されるので生まれて来る子供もレイパー寄りになってしまう。

(ありしゅのときゃいはなあいをうけとっちぇね!きっちょちあわしぇー!になりぇりゅわ!)

せめて茎が繋がっていれば親が抱くレイパーへの嫌悪感で中和できたかも知れないが、このありすはレイプ直後に生えた茎を回収されたので母親の餡子を殆ど受け継いでいない。
それ故にレイパー思考が全く矯正されないまま、ありすは生まれ落ちたのだった。

「ゆっきゅりちていっちぇね!!!」
「ゆっくりしていってね、おちびちゃん!!!」

産声代わりのご挨拶に、即座に返って来るお返事。
その声が子守唄の主であった事に気付いたありすが目を向けたその先に居たのは、目にも鮮やかな紅い髪のれいむであった。

「ゆ~!すごくゆっくりしたおちびちゃんだね!!」
「……ゆ?」

ありすの親はまりさだった。
流石にその事を知っている訳ではないが、何となく感じる違和感がれいむを母親と認識させなかった。

「……おにぇーちゃん、だりぇ?ありしゅのぴゃぴゃとみゃみゃはどきょ?」
「ゆっくりしていってね、れいむはれいむだよ!ここはれいむとおにーさんのゆっくりぷれいすなんだよ。
おちびちゃんはおびょうきだったんだよ、おちびちゃんのおかあさんからなおしてほしいっておねがいされて、おにーさんがなおしてくれたんだよ」

何がなんだか解らなかったが、とにかく目の前のれいむが親ではない事だけをありすは理解した。
途端にありすの餡子に走る劣情。体の底から突き上げてくる衝動が、ありすの幼いぺにぺにを勃起させる。

(はじめちぇはまりしゃがよきゃったけりぇど、まあいいわ!ありしゅがときゃいはにあいちてあげりゅ!!んほぉおおおおおお!!!)

レイパー特有の都合のいい状況認識に従い、紅い髪のれいむとすっきりーっ!するべく近付こうとするありす。

「だめだよ!それいじょうちかづかないでね!!」
「ゆっ!?」

その目論見は、れいむが張り上げた大声によって制止された。
突然の事に目を白黒させるありすに、れいむが自分達の身の上を神妙に語り始めた。

にんっしんっしたゆっくりが罹ると言う流行病、感染したが最後決して助からない死の病に蝕まれたれいむやありすの両親。
その病気の影響は孕んだ子供にも及び、その致死率は九十八パーセントだという。
残りの二パーセント、数少ない治療成功例こそがれいむであり、ありすなのだ。

「れいむのおねーちゃんたちも、みんなおびょうきのせいでしんじゃったんだよ……
おちびちゃんのおかーさんたちも、おちびちゃんのおびょうきをなおしてもらうために『かこうじょ』にいっちゃったんだよ……」

この家の主である『おにーさん』により治療が施されたれいむ達は一命を取り留めた。
しかしその代わりに途方も無いハンデを負う事になってしまったらしい。

「れいむのあんこさんは、からいんだよ。ほかのゆっくりを、ころしちゃうくらいに」
「ゆ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?!?!?!?」

それは『ゆっくりできないゆっくりになる』という恐ろしいハンディキャップだった。
外観も、中身も、標準的なゆっくりから掛け離れたれいむは、もう一生他のゆっくり達と交わる事は出来ない。

「だからごめんね、おちびちゃん。れいむはすーりすーりもぺーろぺーろもできないし、してもらえないんだよ」
「ゆぅ……」

ありすはれいむとは違う体質へ変化したらしいが、どんなゆっくりなのかは『おにーさん』の診断が下るまでは解らない。
れいむと相反する体質だった場合、すーりすーりで双方に深刻な被害が及ぶ可能性だってある。うかつに近寄らせるわけにはいかない。
唾液が付かない様、慎重にマグカップから引き抜かれた茎を麺棒ですり潰しつつ、れいむはありすに念を押す。

「……おにーさんがかえってくるのはよなかになるから、そのときにおちびちゃんをしらべてもらうよ。それまで、れいむにはちかづかないでね」
「……ゆっきゅりわかっちゃわ」

仄かに香ばしい芳香を放つ茎をむーしゃむーしゃしながら、ありすはれいむの説明にとりあえずの了解を示した。
元来ありす種は非常に聡明な種属だ。独自の価値観である『とかいは』に拘る悪癖こそあるものの、知性はぱちゅりーに次ぐ。
すっきりーっ!したら自分が死ぬと言われてなお、行為を強行したりしない程度の自制は出来るのだ。

とはいえ、一度発情したのなら何が何でもすっきりーっ!しなければゆっくりできないのがレイパーだ。
ゆん生初の食事を終えたありすが、今度はまだ見ぬ『はにー』を探しにそのままお外へ出ようとするのを、再びれいむが止める。

「……どこいくの?おちびちゃん?」
「おしょとにいきゅのよ!ありしゅはときゃいはだきゃら、しょくごのおしゃんぽにいきゅの!」

馬鹿正直に『レイプしに行きます』等と宣言する訳にいかず、ありすはそう誤摩化す。それを聞いたれいむの餡相が変わった。

「だめ!ぜったいにだめだよ!!おそとにいっちゃだめだからね!!!ぷくぅううううううっ!!!!」
「ゆびぃいいいいいい!?!?!?」

生まれて初めて目の当たりにする『ぷくーっ!』、余りの迫力にありすの情欲が霧散する。
恐怖に震えるありすの姿に我を取り戻したれいむが慌ててフォローを入れなければ、ありすのゆん生はここで終わっていたかも知れない。

「……ごめんねおちびちゃん。でも、おちびちゃんだけでおそとにいっちゃだめなんだよ。
おそとはとってもゆっくりできないから、れいむとおにーさんがいっしょでないとあぶないんだよ。ゆっくりりかいしてね」
「ゆっく………うぇっ……ゆっくちりきゃいしちゃわ………」

具体的に何が危険で、どうゆっくり出来ないのかをぼかしたれいむの説得を、ありすがしゃくり上げつつ受け入れる。
そんなありすを、れいむは複雑な思いを込めた目で見ていた。
れいむが敢えて詳しく説明しなかった事、即ち『自分達は通常のゆっくりにとって異物であり、排除の対象である』事実を受け入れるにはありすは幼すぎる。
だが異物に対するゆっくりの拒絶反応は想像を絶する。のこのこと出歩いて野良ゆっくりにでも出会ったが最後、異相のありすは殺されてしまうだろう。
いや、ゆっくり殺しは大罪だから生かさず殺さずの生き地獄に堕とされるかも知れない。何れにせよ、ゆっくり出来ないのは間違いない。
しかし、幼いありすにそれを伝えるのは危険だった。一生ゆっくり出来ない事を知れば、その場でショック死する可能性もある。
知ればゆっくり出来ないが、知らなくてもゆっくり出来ない。どちらを取っても地獄の二律背反。
……れいむが選んだのは『事実を知らせずにお家から出させない』という問題の先送りであった。

(ゆぅ……せめて、おちびちゃんがあかちゃんじゃなくなるまで、おうちでかくまうよ……)

かつて異相のれいむを排斥しようとしたあの親子、あれが標準的なゆっくりならありすは格好の標的に違いない。
れいむの心にトラウマを残したあの出来事が、今度はありすの身に降り掛かるのだけは容認できなかった。
生まれて初めてのぷくーっ!を使ってまでありすを止めたのはその為だ。

「ごめんね、おちびちゃん……せめて、れいむのおうたでゆっくりしてね。
ゆ~♪ゆんゆんゆ~♪ゆっくりしていってね~♪」

先程、無邪気にすーりすーりを求めて来たありすに応えられなかった分も込めて、れいむは歌い出す。
最初は乗り気じゃなさそうなありすだったが、お歌が進むに連れて段々体を揺らすようになり、最後には一緒に歌い出した。

「ゆ~♪ゆ~♪ゆんゆんゆ~♪ゆっくりしていってね~♪」「しちぇいっちぇにぇ~♪」

れいむは涙を堪えながら、万感の思いを込めて歌い上げる。夢にまで見た家族の団欒が、そこにあったのだから。



『おにーさん』の帰宅はいつも通り午前様であった。早速れいむはありすの誕生を報告する。

「ゆっくりおかえりなさい!あかちゃん、うまれたよ!」
「おぉ、ようやく生まれたか。どれ、見せてみろ」

その言葉を受け、初めて見る人間の姿に尻込みしてれいむの後ろに隠れていたありすが押し出される。

「ゆ……ゆっくちしちぇいっちぇね!」
「おう、ゆっくりしていけ、ちび。……早速で悪いが、お前の中身を調べさせてもらうぞ」
「ゆ゛!?」

いきなりの宣告に目を白黒させているありすを尻目に、『おにーさん』は仕舞っておいた昆虫採集セットの注射器を取り出した。
きらりと鋭い針が反射した光を浴びて、硬直していたありすの思考が再起動を果たす。と同時に、ありすは暴れ出した。

「いやぁああああ゛あ゛あ゛!!ありしゅちにたくにゃいぃいい゛い゛い゛い゛!!」
「だいじょうぶだよおちびちゃん!!ちょっといたいだけだよ!!」
「い゛じゃ゛い゛の゛も゛い゛や゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!」
「五月蝿い!おいれいむ、そっち押さえとけ!!今のうちに済ます!!」

れいむの説得に更なる恐慌に陥って逃げ出そうとするありすを押さえつけ、『おにーさん』は注射器をありすに突き立てる。
一層泣き喚くありすを「だいじょうぶだよ!すぐおわるよ!」とあやしながら、れいむも押さえつける力を緩めない。
注射器に極少量黒い何かが吸い上げられ、即座に針が抜かれる。
傷口に小麦粉を溶いたものを塗り付け、包帯代わりのタオルを巻いた頃にはありすはぐったりとしていた。

「おにーさん、おちびちゃんが……」
「大丈夫だろ。ありゃあ泣き疲れただけだ。……多分」

憔悴したありすを気遣うれいむに見えないよう、注射器の中身を一嘗めする『おにーさん』。
黒く見えるが実際には濃い焦茶色をした透明感のあるそれは、全く甘みを含まない苦味を舌に伝えてくる。

(これは、コーヒークリーム?……いや、ゼリーか?)

ぷるぷるした食感から判断するに、かなり粘度の高いゼリーの様なものらしい。温かいゼリーなぞ聞いた事も無いが。
しかも全くの無糖。まあ、それは想定の範囲内であるので今更なのだが。

「ふむ……おい、れいむ。ちびは茎を喰えたのか?」
「たべたよ!おにーさんにいわれたとおり、めんぼうさんでやわらかくしてあげたよ!」

そう言って取っておいた茎を見せるれいむ。その端を切り取って鼻に近づけると、広がるコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
再びれいむに見えないように口に含む。想像していた通り、ブラックコーヒーの味だった。

「……よし、大体解った。やっぱり、れいむとは違う体質みたいだな」
「……やっぱり、れいむとはすーりすーりできないの?」

恐る恐ると言った風情で問いかけて来るれいむに、『おにーさん』は苦笑いで答えた。

「……まあな、でもそれはお前も危険になるみたいだ。お前、苦いものが喰えなかったよな?」
「……にがにがさんはゆっくりできないよ………」
「ちびの中身はどうやら苦いらしい。多分、苦いものしか喰えないんじゃないかな」
「ゆ!?」

ゆっくりにとっての劇物は辛味だけではない。渋味や苦味、酸味など刺激物全般が毒になる。
れいむが辛味で構成されているように、ありすの中身は苦味で構成されているらしい。
それは即ち、ありすもまた生きているだけでゆっくりを殺しうる危険生物であるという事に他ならない。

「ま、そう言う訳だ。お互い気を付けろよ」
「ゆっくりわかったよ……」

その日、れいむは眠れなかった。
並べて敷かれたムートンの座布団で、タオルケットに包まって眠るありすの寝顔を眺めながら、これからの事に思いを馳せる。
ゆっくり出来ないゆん生が確定した事を伝える事の難しさ、それでも理解させねばならない事実。問題は山積みだ。

(……それでも、おちびちゃんにはゆっくりしてほしいよ)

それが困難な道程である事を承知であっても、れいむはそう願わずにはいられない。
覚悟は決めた。両親や姉妹から貰ったゆっくりを少しでも返す為に、ありすの為に頑張ろう。
そう決意はしても、やはりこれからの事を考えれば憂鬱になってしまう。
弱気になる度に己を奮い立たせる事を繰り返す。そうしてれいむとありすの初めての夜は更けていった。



翌日から、れいむはありすに『この家でのルール』を教え始めた。
このお家は『おにーさん』のもので、自分達は居候である事。お家の中のものは基本自由に使っていいが、汚したり壊したりしない事。
れいむのご飯とお水は決して口にしない事。一人でお外に行ってはいけない事。
『ぴこぴこさん』の使い方と、文字や数字の読み方。新聞や郵便物の受け取りなど、れいむの教育は多岐に渡った。
幼いありすには理解し切れないものも多かったが、れいむは根気よく教え続ける。
だからといってありがちな教育ママのように子供を束縛する事も無く、ありすはかなり自由に振る舞う事が出来た。
外出だけは決して許さなかったものの、概ね理想の母親像と言って良かったかも知れない。たった一つ、レイパーの矯正だけがされていない事を除けば。

(ゆふぅ………たみゃるわ……はやくちゅっきりしちゃいわ……)

れいむはありすがレイパーである事を知らない。いや、レイパーの存在自体を知らない。
生まれてすぐ外界から隔離されたれいむにはレイパーの事を知る機会が無かった為だ。
一方のありすも、内心はともかく表面ではレイパーの欠片も見せなかったので、れいむはおろか『おにーさん』さえありすがレイパーである事に気付けなかった。
だからといってレイパー気質が矯正された訳ではない。むしろ悪化していた。

(みんなまっていちぇねぇええ!!ありしゅがときゃいはなあいをあげりゅわぁああああ!!)

自分程の『とかいは』なら、どんなゆっくりでも惚れずにはいられないだろう。そんな自信がありすにはある。
そして自分が『とかいは』に愛する事で、全てのゆっくりが幸せになれる。ありすはそう確信していた。

(ありしゅがおとなになっちゃら、おしょとにでらりぇりゅわ!しょりぇまでがまんしちぇちぇにぇ!!)

とにかく、早く大人になる事だ。大人になりさえすれば、お外に出られるのだから。
自分と同じ芳香を放つお気に入りの飲み物を啜りながら、ありすはひたすら大人になる日を待ち続けた。






『レイパーを発症した、あるいは兆候が見られる場合は即座に去勢してください。
レイバーはあらゆる事柄を自分の都合に合わせて解釈します。その為、教育での矯正は事実上不可能です。
去勢を行う事で発情による狂乱状態から回復させ、去勢されたのは自分が悪いのだと思考誘導する事で矯正しましょう。
去勢でも狂乱から回復しない、あるいは去勢の事実を受け入れずに罵倒してくる個体は完全なレイパー体質です。処分してください。
また、レイプによって生まれた子供は高確率でレイパーを発症する事が確認されていますので、注意が必要です。
ただし、レイパーの子供の中にはレイパーを否定し、通常のすっきりーっ!すら受け入れない潔癖性の事例も報告されています。
詳細は巻末の『特殊事例一覧:レイパー』の項目を参照してください。去勢の手順は次項にて詳しく解説しておりますので、そちらをご覧下さい。
レイパーの発症は突然に起こりますので、飼い主とゆっくり双方がパニックに陥り易くなります。
正確な知識と情報を持って、冷静な対処を心がけましょう』

~新ゆっくりバッジ認定協会監修『ゆっくりの躾け方 バッジ取得マニュアル』より抜粋~






ありすが生まれてから一月が経った。
すっかり赤ゆ言葉も抜けて子ゆっくりへ成長したありすだが、相変わらずお外へは出してもらえずにいた。
『おにーさん』は毎日出掛けてしまうし、れいむでは話にならない。
ありすのフラストレーションは限界に近づいていた。

「ねぇ、おちびちゃんはそんなにおそとにいきたいの?」

ある日、そんなれいむの問い掛けにありすは即座に同意した。
それを見たれいむは暫く逡巡していたが、やがて何かを吹っ切った表情でありすに告げる。

「……わかったよ。こんどのにちようび、おにーさんにおねがいしておそとにつれてってもらうね」

それはありすが最も心待ちにしていた言葉であった。
これでようやくすっきりーっ!出来る、沢山のゆっくりに『とかいは』な愛を与えられると狂喜乱舞する内心を押さえ、れいむに感謝の言葉を返す。

「ゆわぁい!ありがとう、おねーちゃん!」
「ただし!れいむとおにーさんのみえないところにいっちゃだめだよ!」
「ゆっくりりかいしたわ!」

何と言われようが、お外に出てしまえばこちらのもの。
ありすはお外に出してもらえる日を一日千秋の思いで待ち続けた。






「おにーさん、おねがいがあるんだよ……」

いつもの如く午前様帰宅を果たした俺に、やたら神妙な様子でれいむが相談を持ちかける。
何でも、ありすが外出したいと言っているらしい。今までは何とか押さえていたが、もう押さえ切れないようだ。

「ん?でも、外に出さないってのはお前が言い出した事だろ?」
「わかってるよ。でも、おはなしするより、ほんとうにけいけんするほうがりかいできるよ」

要するに、実際に自分達が他のゆっくりにどう思われているのかを体験させようという事だ。
こいつらしくない、ずいぶんな荒療治だが効果は充分だろう。

「……あぶないのはわかってるけど、このままじゃありすのためによくないよ。だったら……」
「……まあ、いいけどな。今度の日曜日で良いのか?」

疲れていた事もあってさっさと話を打ち切るべく俺はれいむの頼みを了承する。
俺の言葉にれいむが済まなさそうにしていた。正直、いたたまれない。

「……ごめんね、おにーさん」
「謝る事じゃないだろ。ほら、もういいか?そろそろ寝ないと明日が辛いんだが」
「ゆん、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」

変な影を背負って寝床に向かうれいむの後ろ姿を見送り、俺は布団に潜り込む。
明日も忙しいんだ。さっさと寝よう……






『……日、日曜日。朝のニュースです。本日未明、○○町付近にてドスを含む大規模なゆっくりの群れが全滅しているのが発見されました。
ゆっくり加工所の調べによれば、被害にあったゆっくりは皆茎を生やして黒ずんでおり……」

テレビから流れるニュースを聞き流しながら、ありすは身支度に余念がなかった。
自慢の焦茶色の髪はさらさらで、『おにーさん』のブラシもよく通る。カチューシャに付けられた小さなバッジも、ありすの美貌を引き立てた。
何度も鏡を見ながらおかしな所は無いかチェックする。たっぷり30分程も掛け、準備完了。

「じゅんびできたわ、おにーさん!」
「おう、じゃあ行くぞ。ほら、ここに入れ」

この日の為に『おにーさん』が注文していたキャリーに入る。れいむのキャリーは赤、ありすはクリーム色。
「流石に黒や焦茶色は無かったんでな」とは『おにーさん』の弁。だがありすにはどうでも良かった。
肝心なのは『お外に出れる』その一点に尽きる。たとえそれが近所の公園止まりだとしても、ありすには充分だった。

「ゆ~♪おそらをとんでるみたい~♪」
「おちびちゃん、しずかにしようね!」

キャリーで運ばれる浮遊感にはしゃぎ、れいむに嗜められる事約十分。目的の公園に一行はたどり着いた。

「ほら、着いたぞ」

キャリーの扉がゆっくりと開けられる。差し込んでくる日の光に眩んだ目が徐々に回復するにつれ、ありすの瞳は輝きを増した。

吹き抜ける風は空調の風なぞ比べ物にならない程爽やかで、とても心地よい。
島のような植生を覆う芝生はふかふかで、カーペットとはまた違う柔らかさがあるだろう。
あちこちに設置された遊具はどれも見た事が無い。お家の滑り台や積み木しか知らないありすには一寸したカルチャーショックだ。
そして公園にたむろする沢山の人間と、沢山のゆっくりの姿。
見ればれいむも言葉を無くして見入っている。れいむも外出は初めてだと言うから、当然かもしれない。

「ここは飼いゆっくりの散歩コースなんだ。休日にはこうやって飼い主に連れられたゆっくりが集まってくる。
お前達の公園デビューには丁度良いだろう?」
「ありがとう、おにーさん!!れいむ、うれしいよ!!!」

そう言いながら中々出てこない二人を引っ張り出し、芝生に引いたレジャーシートの上に乗せる『おにーさん」。
さらっと髪を撫でるそよ風で我に返ったれいむが大声で述べる感謝の言葉につられ、ありすもまた感謝を口にする。

「おにーさん、ゆっくりありがとう!」
「別に良いって、そんな事。それより、他の飼い主さんに挨拶しに行くから一寸待ってろ。一人でどこかに行くんじゃないぞ?」
「ゆっくりりかいしたわ!」

ありすの返事を聞き、『おにーさん』が少し離れて固まっていた人間さんの一団に向かう。
途切れ途切れに「……ええ、生まれつきで……」「そう、かわいそうに……」等とありす達について話し合っているのが聞こえてくる。
だが、ありすにとって『おにーさん』の監視の目が離れた好機である。れいむも生まれて初めての光景に目を奪われており、ありすの行動には気付いていない。
なおも「……朝のニュースで……」「……レイパーの大群が……」と話し込む『おにーさん』達の目を盗み、ありすは初めてのお外を満喫するべく飛び出した。



「ゆふふ……まっててね、みんな!もうすぐ、ありすのあいをみんなにあげるわ!!」

芝生をぽいんぽいんと飛び跳ねながら、ありすは獲物を物色する。そしてすぐに、ありすはある成体のまりさに目をつけた。
皺一つなくピンと立ったお帽子に、理想的な下膨れのライン。中々の美まりさであった。
一ヶ月溜めに溜めまくった情欲が滾る。ありすはそれを押さえ、ゆっくりと近付いて行く。ご挨拶をする為だ。
『ごあいさつのできないゆっくりは、とかいはじゃない』という謎の信念がありすにはある。
それはれいむが教えた礼儀の概念をありす流に解釈したものだ。レイパーにさえ礼儀をわきまえさせるれいむの教育は、かなり実を結んでいたと言えるだろう。

「まりさ、ゆっくりしていってね!」
「ゆっ!?ゆっくりしていっ……………ゆっくりしねぇ!!!」

衝撃、激痛、回る視界。ありすは一瞬、何が起こったのか解らなかった。
『ご挨拶をしたまりさに突き飛ばされた』ことを理解した頃、ありすの体はようやく転がるのを止めた。

「い……いたいぃいいいい!!なんてことするのよ、このいなかものぉおお!!」
「うるさいよ!!ゆっくりできないありすはゆっくりしないでしんでね!!」
「ゆ゛っ゛!?!?」

起き上がると同時に放った怒声は、それを上回る罵声に遮られた。
目の前のまりさがぷくーっ!しながら叩き付けて来た『死ね』という言葉に、ありすの思考が凍り付く。

「ありすのかみのけはきんいろなんだよ!そんなくろかみさんじゃないよ!へんなかみのけのありすはゆっくりできないんだよ!!」
「う……うるさぁああああいい!!ありすのとかいはなかみのけさんをばかにするなぁあああああ!!」
「それにありすからはへんなにおいがするよ!そんなにおいのするゆっくりなんていないよ!!やっぱりありすはゆっくりできないよ!!」
「だ、だまれぇええええええ!!」
「ゆびぃっ!?!?!?」

まりさが並べた悪口雑言の数々に、ありすの我慢がはち切れる。激昂したありすが体当たりを仕掛けるものの、二周りは大きなまりさには大したダメージにはならない。
それでもまりさにとっては充分な衝撃だったのだろう。堰を切ったように泣き出した。

「なにするのぉおおお!!ゆんやぁああああああ!!」
「とかいはなありすをばかにしたからよ!!それにさいしょにぶつかってきたのはまりさのほうでしょ!?」
「しらないよぉおおおおお!!おねぇええさぁああああんん!!ありすがいじめるぅうううう!!」

号泣しながら何処かへ跳ねて行くまりさ。一瞬だけその後ろ姿に軽蔑を込めた視線を送り、ありすは次の獲物を物色し始めた。

「あんなげすに、ありすのとかいはなあいはもったいないわ!もっととかいはなびゆっくりをさがしましょう!!」



「あれだよ!あのへんなありすだよ!」
「ゆ!?」

その後、公園内を右往左往したもののありすに近付くゆっくりは居なかった。
ありすの方から近付いても怯えるように逃げ出すので、結局ありすはすっきりーっ!どころか最初のまりさ以降ご挨拶すら出来ずにいた。
所在無さげに佇むありすの元に、人間さんを連れた最初のまりさが現れたのはそんな時だった。

「うちのまりさを虐めたのは貴女ね?なんて悪いありすなの!」
「ゆっ!?ちがうわよ、まりさのほうがありすをいじめたのよ!?」
「嘘おっしゃい!うちのまりさがそんな事する筈ないでしょう!?」
「そーだよ!まりさをいじめたのはありすだよ!!」

ありすは訳が解らなかった。確かに突き飛ばしたのはありすだが、最初にご挨拶しようとしたありすを突き飛ばしたのはまりさの方だ。
なのに何で自分が悪い事になるのか?悪い事をしたら怒られるのは当然だが、ならば怒られるのはまりさの方だろうに。

「ありすはわるくないわ!ありすをばかにしたまりさがわるいんじゃないの!!」

ありすは人間さんとまりさに抗議する。自分は何も悪くない、悪いのは自分を虐めたまりさの方だと。
しかし、それは典型的なゲス思考と同じだった。見る見るうちに人間さんの眉間に皺が寄る。

「まあ!自分が悪いのを他人の所為にするなんて、なんてゲスなのかしら!!所詮銅バッジね!!
もうすぐ金バッジになる家のまりさとは大違いだわ!!それにそんな髪の色に染めるだなんて、飼い主の程度が知れるわ!!」
「それになんかへんなにおいもするし、きっとゆっくりできないおうちのこなんだよ!!」
「ゆ゛っ゛!?!?」

再びありすの思考が凍り付く。
ありすが『とかいは』だと信じていた黒に見まがう焦茶色の髪に、仄かに漂う芳醇な香り。それを根底から否定されたのだ。
いや、それ以前にこいつらは何と言った?
「飼い主の程度が知れる」?「ゆっくりできないおうちのこ」?
死病に罹ったありす達を治してくれた『おにーさん』が、あの4LDKのゆっくりできるお家が、ゆっくり出来ないだと?
脳裏を真っ白に染め上げる怒りが、ありすの言葉を奪い取る。何かを言い返したくても、余りの激怒に言葉にならない。

「なんなの、そのめは?ばかなの?しぬの?」
「もういいでしょ、まりさ。銅バッジなんかに構ってると金バッジが貰えなくなるわよ?」
「ゆっ!?それはいやだよ。まりさ、きんばっじさんになるんだよ!?」

ありすが無言なのを良い事に、好き放題貶してくるまりさと人間さんを睨みつける事しか出来ない。
と、ありすの耳に幽かに聞こえてくる呼び声。

「おちびちゃぁああああん!?どこなのぉおおおおお!?おへんじしてぇえええええ!?」
「おーい、ちびー!?どこいったー!?」

間違いない。れいむと『おにーさん』の声だ。逸れてしまった自分を捜しに来てくれたのだ。
怒りの涙が一転、うれし泣きに変わる。言いつけを守らず、勝手に出歩いた自分をあんなに心配してくれる二人に対して。

「ありすはここよぉおおおお!!ここにいるわぁあああ!!!」

気付けばありすは大声を張り上げていた。唐突に叫び出したありすに目前の一人と一匹が驚愕する。

「おお、ここに居たか。全く、勝手に出歩くなって言っただろ?」
「ぶじだったんだね、おちびちゃん!しんぱいしたんだよ!?」
「ごめんなさい……ありすがわるかったわ」

時間にすればほんの一時間程。だが、あからさまな拒絶を浴びた事で、ありすは自分達がどういう風に見られてるのかを理解した。
『ゆっくりできないゆっくり』。れいむや『おにーさん』が懸命に隠そうとしていたのはその事だったのだ。
お外に出ればどうなるのか、その事を知っていたからこそありすを匿うように外出を禁じていたにも拘らず、ありすはそれを理解しなかった。
公園へのお散歩とて苦渋の決断だったに違いない。だからあんなに『勝手に出歩いてはいけない』と繰り返していたのだ。

「ごめんなさい……ごめ……うわぁあああああん!!!」

ありすは泣いた。自分の不甲斐無さに、二人の思いやりに。
この瞬間、初めてありす達は『家族』になれたのだった。

「ちょっと、貴方がこのありすの飼い主!?」

そんなありすの感動に水を差す人物が居た。先程のまりさとその飼い主である。

「え?ええ、一応」
「だったらちゃんと躾けておきなさいよ!!うちのまりさを虐めたのよ、このありす!!」
「……へ?」
「まったくとんだげすだよ、ありすは!あんなげすをかってるじじぃもやっぱりげすなんだね!!」
「……ゆ!?」
「何とぼけてるのよ、謝りなさい!」
「げすはせいっさいっするよ!それからあまあまをもってきてね、たくさんでいいよ!」

突然謝罪と賠償を要求された二人が目を白黒させる。
余りに厚かましい一人と一匹の要求に、再びありすの怒りに火が着く。
怒りに任せ、怒声を張り上げようとするが、その直前その何倍もの怒りが込められた怒声が上がった。

「いいかげんにしてね!!おちびちゃんはげすなんかじゃないよ!!!」
「ゅっ!?」

怒声の主はれいむであった。髪と同じ位顔を真っ赤に染め、はち切れんばかりに膨れ上がったぷくーっ!で威嚇している。
そして『おにーさん』も、まりさの飼い主を諭すように語り始めた。

「先程、あちらの方が飼ってるちぇんが教えてくれたんですがね、変わった髪のありすを虐めていたまりさが反撃喰らって逃げ出したって。
第一、家のありすはそんな事しませんよ。れいむの教育もいいし、何より今日初めて外出するのを楽しみにしていたんですから」
「何でそんな事解るのよ!!そもそも、ゆっくりの髪の毛を染めるような飼い主の癖に!!」

それを聞いたありすが再び意気消沈する。『染めた』と決め付けるからには、やはり自分達の髪はゆっくり出来ないものなのか、と。
だが、それに異議を挟んだのはれいむだった。

「れいむもありすも、このかみのけさんはうまれつきだよ!!おびょうきのせいでこうなったんだから、しかたないんだよ!!」
「何言ってるのよ、そんな病気がある筈な「ありますよ」……え?」

れいむの異議に反論する飼い主の台詞を遮るように『おにーさん』が弁護する。

「こいつらは正真正銘、生まれつきこの色です。何でしたら記録をお見せしましょうか?」
「ぐっ………!!」
「なにいってるの!!そんなゆっくりできないゆっくりはいないよ!!えりーとのまりさがいうんだから、まちがいないよ!!」

言葉に詰まる飼い主、その足下に控えるまりさが大声で『おにーさん』の言葉を否定する。

「エリート?……お前が?」
「そうだよ!まりさはもうすぐきんばっじさんになるんだよ!!」
「そうよ、うちのまりさとそんな銅バッジを一緒にしないでちょうだい!価値が違うのよ、価値が!!」

再び盛り返す一匹と一人。しかし『おにーさん』は冷静にその台詞の内容を訂正する。

「こいつらが銅なのは、今日ここに来る為に飼いゆっくり登録をしたばかりだからです。
エリートかどうかはともかく、そんなもので価値を判断する方がおかしくないですか?」
「まりさはにけたのたしざんができるんだよ!!そんなくずとはちがうんだよ!!」
「……れいむはさんけたのかけざんができるよ。ありすもにけたまでならできるんだよ」
「ゆぐっ……!!」

今度はまりさが言葉に詰まる。
テレビの教育番組のおかげで、れいむ達は一般的なゆっくりより計算能力に長けていたのだ。知性の面で勝てる筈が無い。

「ぐっ……と、とにかく、今後まりさに近付かないでちょうだい!いくわよ、まりさ!!」
「ゆっ!?なんで?まだあまあまもらってないよ!?」

苦々しげに捨て台詞を残し踵を返す飼い主と、未だ被害者面を決めるまりさ。
その足を止めたのは、公園の端から聞こえて来た悲鳴だった。

「や゛べでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!も゛う゛ずっ゛ぎり゛じだぐな゛い゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」
「でい゛ぶの゛ばーじん゛がぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばり゛ざごべん゛ね゛ぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!だじゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「お゛ぢびぢゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!お゛ぢびぢゃ゛ん゛がじん゛じゃ゛う゛ぅ゛う゛う゛!!」

雑多なゆっくりの悲痛な叫び声。段々近付いてくるそれに怯えたのか、まりさが飼い主の懐に飛び込もうとする。
だが一瞬早く、飛び出して来た影に押さえつけられてしまった。

「ゆふ~、ゆふ~、とってもとかいはなまりさだわぁああああ!!」
「ゆわぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!れいぱーだぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

そう、まりさを取り押さえたのは目をギラギラと光らせ、ぺにぺにをギンギンに勃たせたレイパーありすだった。

「いやぁああ゛あ゛あ゛あ゛!!だぢゅ゛げでぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「ひっ!?まりさ!?こいつ、まりさを放しなさい!!放せぇええええ!!!!」
「んほぉおおおお!!つんでれねぇえええええ!!」

必死に抵抗するまりさ、レイパーを引きはがそうとする飼い主、一向に気にせず続けようとするレイパー。
目の前で起こっている事に着いて行けず、呆然となるありす。それを傍観する『おにーさん』。
止めるものは誰もいなかった。

「や゛ぢゃ゛ぁ゛あ゛あ゛!!い゛や゛ぢゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「嫌ぁああああ!!まりさぁああああ!!誰か助けてぇええええ!!」
「いくわよぉおおおお!!んほぉお「やめてね!」ゆべっ!?!?!?」

だが、レイパーがいざ行為に及ぼうとするのを止めるものが居た。
レイパーに体当たりする紅い影。れいむが飛び込んだのである。

「やめてね!まりさいやがってるよ!!」
「なにするのぉおお!!ありすのとかいはなあいをじゃましないでねぇえええ!!」
「ゆ゛っ゛!?」

ありすの体に走る衝撃。今、こいつは『とかいは』と言ったのか?こんな醜い行為を『とかいは』と呼んだのか?
確かにありすも『とかいは』な愛を皆に配ろうとしていた。だが、自分が配ろうとしていたのは断じてこんな醜い行為ではない!
そうこうしている内にもれいむとレイパーの口論は白熱していく。

「いやがってるあいてをむりやりすっきりーっ!するのはわるいことなんだよ!!わかってね!!」
「ゆふぅううううっ!ありすのあいじょうがわからないなんて、なんていなかものなのかしら!!」
「すっきりーっ!はすきなゆっくりどうしがするものなんだよ!ありすだけすきでもだめだよ!!」
「……よくみたら、あかいかみがとってもとかいはなれいむね!ありすがあいしてあげるわ!!んほぉおおおおぶびゃっ!!」

突然標的をれいむに替えて襲い掛かるレイパー。咄嗟の事に反応できなかったれいむに魔手が届く寸前、上から降って来た足がレイパーを踏み潰した。

「ゆっ!?ありがとうおにーさん!!」
「大丈夫か、れいむ?さっさと逃げるぞ、あいつらも逃げたようだしな」

『おにーさん』の台詞に目をやれば、助けられたにも拘らず礼も言わずに逃げていく後ろ姿がある。
だが、そんなものよりもっと恐ろしいものを見てしまったありすは震え上がった。

公園のあちこちで繰り広げられる地獄絵図。
まりさが、れいむが、ありすが、ちぇんが、みょんが。
先程までとてもゆっくりしていたゆっくり達が、無数のレイパーありすに組み敷かれて泣き叫びながら黒ずんでいく姿が、それを救おうとする飼い主達の悲嘆が、公園中に満ちていた。

「お……おにーさん……なんなの、これ……?」
「俺も見るのは初めてだがな、レイパーって奴だ!近くに来ているってのは聞いていたが、こんなに早くここまで来るとは思わなかったぞ!」

そう言って二人のキャリーを開ける『おにーさん』。素早くキャリーに潜り込むありすだが、れいむは阿鼻叫喚の公園を見たまま微動だにしない。

「おい、れいむ!早く入れ、さっさと逃げるぞ!」「れいむおねーちゃん、はやく!」

急かす二人にゆっくりと振り向くれいむ。その表情を見たありすは思わず息を呑む。
れいむは微笑んでいた。とてもゆっくりとしたお顔で、儚ささえ感じさせる程に穏やかに微笑んでいたのだ。

「……おにーさんとおちびちゃんはさきにかえっていてね。れいむはあのこたちをたすけるよ」
「馬鹿言うな!お前で何とかなる訳無いだろう!?」
「……れいむのあんこさんは、とってもからいんだよ。ゆっくりを、ころしちゃうくらいに」
「!、死ぬ気かお前!!いくらお前の体がゆっくりにとっての猛毒で出来てるったって、それは中身の話だろうが!!」
「れいむのこだねさんだってからいよ。ぺーろぺーろやすーりすーりだってあぶないんだよ。なんとかなるよ」
「何言ってるんだ!!大体、あいつらは今日初めて会ったんだろう!?縁も所縁も無いゆっくりの為に何でお前がそんな事をしなきゃならないんだ!?」
「……それをいうなら、おにーさんやおちびちゃんとだってあんこさんはつながってないんだよ」
「なっ!?」「ゆっ!?」

れいむの言葉に動きが止まる二人。だが、続くれいむの言葉に更なる驚愕を受ける。

「……でも、おにーさんもおちびちゃんもれいむのかぞくなんだよ。あんこさんのつながりなんかなくても、かぞくになれるんだよ。
あそこでくるしんでるこたちとはたしかにしょたいめんだけど、もしかしたらおちびちゃんやおにーさんとかぞくになってくれるかもしれないんだよ。
……だから、たすけるんだよ。れいむのおとーさんとおかーさんのように、おねーちゃんたちがれいむのためにぎせいになったように」

絶句する『おにーさん」とありす。そんな二人に向かい、器用に頭を下げてみせるれいむ。

「ゆっくりさせてあげられなくてごめんなさい、おにーさん。このごおんは、ぜったいわすれないよ。
おちびちゃん、みじかいあいだだったけれど、ほんとうにれいむのおちびちゃんみたいで、うれしかったよ。
……ばいばい」

そう言い残し、猛然と公園内に突進していくれいむ。『おにーさん』が引き止めようとする手が届くよりも早く、その姿は公園に消えていった。

「くっ、馬鹿野郎が!!おいちび!!お前はここで待っていろ!!」
「ゆっ!?」

キャリーをその場に置き、れいむの後を追う『おにーさん』。後に残されたありすは暫く呆然としていた。

(……れいむおねーちゃん、なんであんなことを……あんな……あんな、いなかもののために……どうして………)

ありすは混乱していた。れいむの行動に、れいむの言葉に、そしてあのレイパーの言動に。
ありすが分け与えようとしていたのは本当に『とかいは』な愛だったのか?そんなものの為にこの地獄へ二人を連れて来てしまったのか?

(ちがう……ありすは……ありすのあいは………あんなものじゃない………ありすのあいは、もっとたいせつなものなのよ!!)

常にありすの事を考えてくれたれいむ、見知らぬありすを養ってくれた『おにーさん』。
あの二人の行動こそが、本当の『とかいは』な愛なのではないのか?それがありすの求めた愛の姿ではないのか?
ならば、ここで躊躇っている自分の姿は『とかいは』とは言えない、言える筈が無い!!
そう思った次の瞬間には、ありすはキャリーを飛び出して二人の後を追っていた。
怖くない訳じゃない。だけれども、あの二人を、ありすの『家族』を見捨てる方が何倍も怖かった。
ありすは歯を食いしばって、阿鼻叫喚の公園へ飛び込んでいった。



「ゆびぃいいいいいい!!もうやべてぇええええ!!」
「離れろ!!離れてよぉ!!」
「んほぉおおおおおお!!すっき「やめなさい!」りぃいいいいいい!?!?!?」

見知らぬれいむにのしかかっていたレイパーに体当たりして、無理矢理引きはがす。
ぺにぺにから精子餡を吹き出しながら転がっていくレイパーを尻目に、ありすはのしかかられていたれいむと飼い主に叫ぶ。

「はやくにげなさい!!おうちにかえってとじまりすれば、あいつらははいってこれないわ!」
「あ……ありがとう!!」「ありがとう、ありす!!」

そういってれいむを抱きかかえ、公園から逃げ出していく後ろ姿を見送ってからありすはレイパーに相対する。

「どおしてじゃまをするのぉおおお!!このいなかものぉおおおお!!」
「……いなかものは、ありすのほうよ。すっきりーっ!がとかいはだなんて、わらわせるわ!!」
「うるさぁああいいいい!!かわりにありすですっきりーっ!するわぁあああああ!!!」

言うなり襲い掛かってくるレイパーを紙一重で避ける。レイパーは大抵最短コースを取って来るので、軌道が読み易いからこそではあるが。
地面に突っ伏したレイパーの背後を取り、ありすはぺにぺにを突き入れる。

「むほぉおおおおお!!だいたんねぇええ゛え゛え゛!?いだっ゛!?い゛だい゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!!」
「……あたりまえよ。ありすのあいは、とうぶんぜろぱーせんとなのよ?びたーなあいをうけとってね!!」

そのままピストン運動を続けるありす。余りの痛みに暴れ回るレイパーだが、ゆっくりの習性が絶頂の言葉を言わせてしまう。

「ん゛ほ゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛っ゛!!ずっ゛ぎり゛ぃ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!?!?!?!?」
「……すっきりーっ!れいぱーがしんでもっとすっきりーっ!」

レイパーが一際高く吠え、そのまま茎も生やさず黒ずんでいく。
たった一回のすっきりーっ!で、歴戦のレイパーが死ぬ。通常なら有り得ない光景だが、ありすの場合はこれが正解なのだ。
そもそもゆっくりがレイパーに襲われて死ぬ最大の理由は、多重にんっしんっによる餡子の減少だ。
ゆっくりの内容物である餡子と精子餡が混ざり合い、赤ゆの元になる中枢餡が作られる。それは即ち、親の餡子を削り取ると言う事だ。
レイパーが次々と注ぎ込む精子餡によって母体の餡子が生命維持不可能な量まで削り取られ、襲われたゆっくりは死んでしまうのだ。
だが、ありすの中身は完全無糖のブラックコーヒーゼリー。当然、その精子餡も完全無糖どころか、非常に苦い。
そして度を超した苦味はゆっくりにとって猛毒だ。そんなものをレイパーのカスタードクリームに注ぎ込めばどうなるかは一目瞭然。
奇しくもありすはレイパーを迎撃するレイパー、カウンターレイパーとして最高の資質を持っていたのだ。

「これでええと、じゅういっぴきね。……けっこうやっつけたとおもうんだけど、ぜんぜんへってないわね」

公園を見回してみる。先程からこうしてレイパーを倒して居るのだが、一向に数が減っていない。
……れいむや『おにーさん』は無事だろうか?探しては居るがこちらも一向に見つからないままだ。

「このままじゃ、みんなしんじゃうわ。はやくなんとかしないと……」

レイパーにのしかかられているゆっくりはまだ沢山居る。飼い主さんに潰されたレイパーも居るのだが、すぐに別のレイパーが襲い掛かるので終わらないのだ。
そこまで考えて、ありすは気付いた。

(おかしいわ、ここはにんげんさんのまちよ?どうして、れいぱーがこんなにはいってこれるの?)

いくら何でもこの町にこれだけのレイパーが居る訳が無い。何より、先程『おにーさん』はレイパーの集団が近付いている、と言っていなかったか?
人間の町に余所者が近付く事自体命取りだ。レイパーともなれば、最優先で駆除される対象の筈。
なのに、この公園には警察も消防も、加工所さえ来る気配がない。と、言う事は……?

(れいぱーのむれをひきいるやつがいる……?そいつが、にんげんさんをおさえている……?)

そこまで推理が進んだ時、ありすの耳に聞き慣れた声が幽かに聞こえて来た。

「!、これは、れいむおねーちゃん!?」

途端に駆け出すありす。声が聞こえて来た方向へ向かって全速力で向かう。
公園に隣接した林を抜けた先、そこに居たのは、

「お゛……お゛に゛ーざん゛……ごべんね゛ぇ゛……」

ボロボロの姿で横たわるれいむと、

「喋るな!これ位すぐ治る!!ちびも待ってるんだ、すぐ連れてくぞ!!」

れいむを抱え上げようとする『おにーさん』、そして……

「ゆふぅ~、ゆふぅ~、……なかなかしげきてきなれいむだったわぁ……」

途轍も無く大きなレイパーありすであった。
よく見ればレイパーありすのぺにぺには赤いもので汚れており、目のは充餡している上、吐き出したものを無理矢理飲み込んだのか口の端からカスタードを零している。
だが、そんな事は一先ず置き、ありすはれいむの元へ駆けつける。

「なっ!?おいちび!待ってろって言っただろう!?」
「ありすのおかーさんのききに、だまってられるわけないわ!!」

『おにーさん』の怒声に、ありすは大声で返す。
その声に気が付いたのか、瀕死のれいむが震える声でありすを呼んだ。

「ゆ……おちびちゃん……?」
「しっかり、しっかりしてね、おかーさん!!ありすをひとりにしないでね!!」
「ゆ……おちびちゃんが……れいむを…………おかーさんって………よんでくれたよ………ゆわぁい…………」
「!、おい、れいむ!?しっかりしろ、目を開けろ!!」
「お、おかーさん!?しんじゃいやよ!おめめをあけてぇええええ!!」

『おかーさん』。れいむはありすを『おちびちゃん』と呼んだが、ありすはれいむを『おねーちゃん』と呼び続けた。
だが、ありすにとって、れいむは最早『おかーさん』以外の何物でもなかったのだ。ただ、気恥ずかしさでそう呼べなかっただけの事。
れいむとの家族の絆を自覚した今、そんな気恥ずかしさは吹き飛んだ。これで大手を振って母と呼べる。そう安心していた。
なのに、なのに!母と呼べたのが今際の際だなんて!!
『おにーさん』の腕の中で永遠にゆっくりしてしまった『おかーさん』。
そのまむまむがまるで丸太でも尽き入れられたかのように広がり切っていた事に気付いたありすの怒りが燃え上がる。

「ゆふぅ~、くぃーんのぺにぺにをあじわえたのよ、こうえいにおもってね!」

れいむの豆板醤で弱まっておきながら、そんな事をほざく自称クィーンありすの目前に、ありすは立ちはだかった。

「ゆふぅうううっ、こんどはおちびちゃんがあいてなの?くぃーんがとかいはにあいしてあげるわぁああああ!!」
「だまれ!!この、かっぺがぁああああああああ!!!!」

絶叫と共にクィーンに踊り掛かるありす。カウンターレイプは相手の後ろを取り、まむまむにぺにぺにを突き立てる事で成立する。
十一回もの実戦により、カウンターレイプのセオリーを自然に会得したありすが素早く背後に回るが、そこにはあるべきものが無かった。
このクィーンはぺにまむ兼用型、つまりぺにぺにを引っ込めてまむまむにするタイプだったのだ。

「ゆ!?」
「なかなかせっきょくてきなおちびちゃんねぇええええ!!!くぃーんのてくにっくをよおくあじわってねぇえええ!!」

クィーンが激しく体を捩る。ありすは必死でクィーンの髪に噛み付くが、あろう事かクィーンは髪の毛ごとありすを振り落とした。
ありすに迫るクィーンの巨体。だが、その動きが不意に止まる。
クィーンの背後から近付いた『おにーさん』が何処からか調達して来たシャベルで殴り付けたのだ。

「くっ、効いてないのか!?図体がでかいと感覚も鈍いってのは本当だな!!」
「おにーさん!?」「なにするのぉおおお!!じじぃはしんでねぇえええええ!!」

思わぬ援護に驚くありすと、突然殴られた事で激昂するクィーン。直径一メートルを超える巨体に見合わぬ寸敏さで『おにーさん』に体当たりを仕掛ける。

「ぐわっ!?」
「くぃーんにいじわるするじじぃはせいっさいっするわぁあああああ!!」

体当たりをもろに受け、『おにーさん』が地面に転がる。それを見たクィーンが潰れたように平たくなる。
力を込めて高く跳び、『おにーさん』を踏み潰すつもりなのだ。クィーンの意図に気付いたありすの顔が青くなる。

(おかーさんだけじゃなく、おにーさんまで!ありすのかぞくを、みんなうばうつもり!?)

嫌だった。これ以上家族を失うのは、絶対に嫌だった。
だが、カウンターレイプは通用しない。クィーンのぺにぺにはずっと膨張しっ放しで、引っ込む気配すらない。
体つきは一回りどころかサッカーボールと大玉転がしの玉程に違う。ありすの体当たり程度でどうにかなるとは思えなかった。

(どうする、どうすれば……ゆ!?)

必死に打開策を模索するありすの目に、クィーンの背中にあるものが映る。
先程突き立てられたシャベルが開けた、大きな傷口が。

(……そうよ!あそこからありすのこだねさんをながしこめば……!!)

しかしあの激辛れいむでさえ殺し切れなかったクィーンの巨体に、ありすの微々たる精子餡程度では効果は薄いだろう。
そしてこの戦法に気付かれれば、流石にクィーンも警戒する筈だ。チャンスは実質一回きり。
やるならば一撃必殺のダメージを与えなければ………!
そこまで考えたとき、ありすの脳裏に閃きが走った。
出来る。この方法なら、きっとクィーンを殺し切れる筈だ!
でも、その方法を取ればありすの命は無い。永遠にゆっくりする代わりに相手も道連れにする、これはそう言う方法だ。
だけど………!!

『れいむのおとーさんとおかーさんのように、おねーちゃんたちがれいむのためにぎせいになったように』

そうだ、『おかーさん』が命がけで貫いた愛を、娘の自分が躊躇ってどうする!?

(……かくごをきめたよ!!ありすのいのち、おにーさんにあげる!!)

ありすはクィーンの傷口に向かって思いっきり跳び着く。
力を溜める為に扁平になっていたクィーンの体勢も手伝って、どうにかありすが潜り込める程度の大きさに広がっていた傷口に。

「ゆぎぃいいいいいいいいい!!くぃーんのからだのなかにはいってこないでぇえええええ!!」
「何だいきなり?………そうか、ちびが潜り込んだのか!!」

クィーンが突然苦しみ出したのを疑問に思った『おにーさん』だが、ありすの姿が見えない事から事態を把握する。
と同時に、ある事を思い出して顔面蒼白になった。

「おい!やめろ、ちび!お前は甘いものが喰えないんだぞ!?」

れいむと同じく、ありすもまた甘味に対して強烈なアレルギー反応を起こす性質を持っている。
そんなありすが、カスタードと言う甘味を、それも散々痛めつけた所為で甘みを増しているであろうそれを食べてしまったら……!?
結果は火を見るよりも明らかだった。

「やめろ!すぐ出てこい!ちび!出て来るんだ!!」



『やめろ!すぐ出てこい!ちび!出て来るんだ!!』
「……ごめんなさい、おにーさん。でも、ありすはもういいの。とってもゆっくりできたから、おもいのこすことはないもの」

クィーンの分厚い皮と高い糖度の所為でべた付くカスタードクリームを通して響く『おにーさん』の声に、届かないと知りつつもありすは返事をする。
もう、決めた事だ。既に覚悟は決まっている。後は実行するだけだ。
ほんの少しだけ逡巡してから、ありすはクィーンのカスタードを口内に流し込む。
最初に感じたのは違和感。舌先が痺れるような、芳醇な香りもコクのある苦味も全く無い感覚。
一瞬遅れて襲って来たのは、全身を打ち抜く途轍も無い衝撃であった。

「ゆ゛げぇ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛っ゛!!!!!!!!!!!!」

ありすの餡子が吐き出される。明らかに致死量の、糖分を全く含まない芳醇な香りとコクのある苦味を持ったコーヒーゼリーが、クィーンの体の中に打ち撒けられる。
それは一瞬にしてクィーンの体内を犯し尽くし、中枢餡を汚染した。

「ゆ゛ぎぎぎゃ゛げごう゛ぎぐぶぶぶべべら゛ぎゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!」

クィーンが一際甲高い悲鳴を上げる。名状し難きそれは、欲望のままに生きたクィーンのゆん生を締めくくる断末魔の叫びであった。
体の内側から穢されるという生き地獄を一頻り堪能したクィーンは、そのまま末期の言葉すら残さず黒ずんでいく。
クィーンの断末魔を聞いたレイパー達が一斉に引き始める。いっそ鮮やかと言って良いだろう光景を目の当たりにしながらも、『おにーさん』はただ呆然と佇んでいた。






『レイパーには複数の原因がありますが、第一の原因は理性による自制が効かなくなることです。
その理由については諸説有り、未だに特定できておりませんが、最も有効な説として『すっきりーっ!以外の生き甲斐を持たない』、
『ゆん生の目標を持たない』ゆっくりがレイパーになる、と言うのが定説になっています。
以降の事例に置いて、潔癖性を発症したレイパーの子供(いー3)や、レイパーから生まれたのにレイパーにならない子供(ろー2)はその傾向が強く出ています。
ただし、レイパーから生まれた所為で迫害を受けてトラウマになった事例(はー1)や、レイパーの現実を見て幻滅した事例(はー2)も報告されてますので、
全てのレイパーが相当するとは限りません。この付録では可能な限り細かく事例を区別しておりますので、事例に当て嵌める事が容易になるかと思います。
レイパー矯正に必要なのは正しい知識です。是非、ご活用ください』

※編駐:本文内の( )は該当事例の番号を示す。

~新ゆっくりバッジ認定協会監修『ゆっくりの躾け方 バッジ取得マニュアル』巻末付録より抜粋~






会社に辞表を出した翌日。
俺はガランとしたリビングを見渡す。
幼い頃から住んでいる、勝手知ったる自分の家だ。リフォームで昔日の姿を失ったとはいえ、見慣れた自分の城の、筈だった。
寂寥とした我が家を、幻の風が吹き抜ける。背筋に奔った寒気を振り払い、俺は携帯を取り出した。
数回のコール、今や懐かしの黒電話を愛用する相手の姿が目に浮かぶ。

「……あ、母さん?オレオレ。……いや、本物だって」

電話の相手は田舎に隠居した両親だった。
数ヶ月前、突然尋ねてきた俺の素頓狂な頼み事に承諾をくれた父と母に、その後の事を報告するのだ。

「……うん、買い手が付いたよ。これでそこそこの畑と機材位は揃えられると思う。
……まあね、そりゃ寂しいけれども、誰も住まないんじゃ勿体無いし、何より家がかわいそうだしね」

『あの家を売って、ここで農家になりたい』
久しぶりに顔を突き合わせた息子から唐突に繰り出された申し出に、面食らっていたものの両親があっさり同意してくれたおかげで売値も高く付いてくれた。
何しろオール電化の4LDK、小さいとはいえ庭付きともなれば如何に不況とはいえ欲しがる人は結構居る。
思い出の詰まった家を売る事には抵抗もあったが、それ以上にここで起きた悲劇の思い出が重かった。

「……急な話なのは仕方ないよ。急に思い付いたんだしさ。
……でも、俺は本気だよ。本気でやってみたいんだ、百姓を」

来週から暫くはある学者の元で農業の基本を学ぶ事になる。
何分初めてだらけで解らない事ばかりなのだ。基本を疎かにしては何事も立ち行かない。
俺は今後の人生設計を電話の向こうに語り始めた。

「……あ、夕日……」

話し込んでいる内に、いつの間にか辺りはすっかり夕暮れに染まっていた。
通話を打ち切ろうとする俺の機先を制するように、母が『ちょっといいかい?』と話を遮って来た。

「……え?俺がいきなり家を売りたがった理由?」

……それを聞かずに賛成してくれたのか、この人達は。そう言えば誰にも話してなかったな。
俺は庭の片隅に目をやり、そこにあるものを見ながら応えた。

「……そうだな。一人で住むには、この家は広すぎるから、かな……」

一人暮らしの頃には思いもよらなかった事。
短いながらも、あいつらと一緒に過ごした日々がどんなに楽しかった事か、無くした今になってよく解る。
……理解するのが遅かった。遅過ぎたんだ。

「……うん、俺は大丈夫だよ。それじゃ、また連絡するから」

携帯を切り、俺はリビングの中からそれを眺める。
寄り添うように突き立てられた二つの棒切れ、名前すら書かれていない簡素な墓標を。
あの日、この町を襲ったレイパーの群れは姑息な事に幾つもの囮を使い、警察や消防、加工所を混乱させていたらしい。
どうやらそれを指揮していたのがあのクィーンありすだったようだ。
捕獲されたレイパーによると、群れの運営は全てクィーンが決めており、クィーンがやられた為にどうして良いか解らなくなったので退却したのだそうだ。
……何人かの飼い主と、飼いゆからは「危ない所を救われた」とお礼を言われたが、結局あのまりさと飼い主は顔すら見せなかった。
別に礼を強制する訳ではないが、あのまりさにあの飼い主では金バッジなんか無理だろうな……。

庭の片隅で夕日に照らされる墓標を見ながら、俺は思う。
俺の思い付きでゆん生を散々歪められたあいつらは、最後に俺をどう思ったんだろう。
恨んでいたのだろうか?憎んでいたのだろうか?俺にはそれを知る手段はない。

それでも、出来る事なら、あいつらにはこう思っていて欲しかった。

『俺たちは、家族だった』と。





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ゆっくりいじめSS・イラスト ※残虐描写注意!コメント(9)トラックバック(0)|

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コメント

16805:

まあ、いい飼いゆにするならうまく苦しめさせることなんだね・・・
長かったけど無差別虐待派以外なら楽しめる作品だった

2014/06/12 18:28 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
16807:

泣きました、
ゆっくりおくりがいいなぁと思いました、赤髪れいむの謙虚さがよかったです
カウンターレイプで吹きましたがw

家族愛って弱い、泣いちゃう!

2014/06/12 20:49 | 匿名おねえさん #- URL [ 編集 ]
16809:

ウルウルした。
虐待の要素もあって、今までのSSの中で最高だった。

2014/06/12 22:11 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
16818:

懐かしい作品なんだよ!ゆっくりできたよ!!

2014/06/13 20:24 | 名無しさん #0mk/PYHQ URL [ 編集 ]
16833:

面白かったです


2014/06/15 03:52 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
17492:

泣きそう
今までで一番いい作品 b

2014/07/27 03:41 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
17544:最高

Iphoneで読んでたら充電がはんぶんになっちゃいました(笑)
それぐらい熱中して読んでしまいました。
続編が出るなら…期待したいです。
いや、絶対だして欲しいです(笑)

2014/07/30 11:46 | 閃光の人 #- URL [ 編集 ]
18160:

何故殺したし…

2014/10/15 18:01 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]
19015:

ゆっくりたちの無償の愛に涙……

2015/10/04 16:47 | 名無しさん #- URL [ 編集 ]

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